シングルオーダーピッキング
近年、ECや通販の需要拡大により、小口注文が急増しています。こうした市場の変化に対応するため、多くの物流施設や倉庫で注目されるのが「シングルオーダーピッキング」です。
ここでは、その定義やメリットや課題、導入ステップ、さらにDXとの関係を解説させていただきます。
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シングルオーダーピッキングとは?
シングルオーダーピッキングとは、一件の注文ごとに商品を集荷(ピッキング)する方式を指します。倉庫内の担当者やロボットが、ひとつの注文に紐づく商品をまとめてピッキングする仕組みです。これにより、一度の作業で完結するメリットがありますが、複数の注文を同時に処理するマルチオーダーピッキング(バッチピッキング)と比較すると、人が動く距離が長くなりやすい側面があります。
日本におけるEC市場や通販業界では、少量注文や単品注文が多く発生する傾向があります。そのため、商品を大量に在庫している倉庫や物流センターが、効率的に正確かつ迅速にピッキングを行うための施策として、シングルオーダーピッキングが重要視されています。本記事では、シングルオーダーピッキングの概要と、DX(デジタルトランスフォーメーション)の文脈でどのように活用されるか、そのメリットと課題を含めて解説します。
シングルオーダーピッキングの概要
1. 受注単位で作業
シングルオーダーピッキングの最大の特徴は、ある一つの注文(オーダー)に含まれる商品をまとめてピッキングすることです。注文ごとに在庫棚や保管エリアを巡回して必要な数量をピッキングし、ひとつのオーダーを完了してから次のオーダーに取り掛かります。
2. 作業手順の簡易化
作業手順が単純化されやすく、作業者が慣れるまでの時間が比較的短いのが特長です。多品種少量のオーダーに向いている場合もあり、初心者でもピッキングミスを減らしやすいといえます。
3. 複数注文の同時作業と比較した場合の効率
マルチオーダーピッキングの場合は、複数のオーダーを一気にピッキングして、後工程で仕分けるか、ピッキング時に仕分ける必要があります。仕分けステージが発生するため、作業の段取りやツールが複雑化しがちです。一方、シングルオーダーピッキングは仕分け工程がほとんど必要ないか、簡略化される利点があります。ただし、一件ずつピッキングするため、人が歩き回る距離が増えやすく、移動にかかる時間が長くなることがデメリットです。
DXの文脈におけるシングルオーダーピッキング
DX(デジタルトランスフォーメーション)を推進する物流や倉庫オペレーションでは、シングルオーダーピッキングにもITシステムや自動化機器の活用が進んでいます。具体的には、以下のような取り組みが挙げられます。
ウェアラブル端末やハンズフリー機器の活用
ピッキング作業者がスマートグラスや音声認識システムを利用することで、両手を使った作業がしやすくなり、作業効率を向上させることが期待できます。音声指示に従い、指定の在庫棚から商品を取り出すため、ピッキングリストの確認やバーコードスキャンをスムーズに行えます。
自律走行ロボット(AGV, AMR)の導入
倉庫内で作業者が商品を探して歩くのではなく、自律走行ロボットが商品棚やカートを作業者のもとに運んでくる「モノが人に寄ってくる」方式を導入することで、移動の無駄を省き、**シングルオーダーピッキングの弱点である“移動距離の長さ”**を緩和できます。
WMS(倉庫管理システム)との連携
シングルオーダーピッキングに限らず、ピッキング精度向上のためにはWMSの導入が有効です。WMSを活用することで、リアルタイムの在庫管理やピッキング指示が可能になります。ピッキングリストの自動生成や、作業状況の可視化も行いやすく、ミスやロスを削減できます。
データ分析による最適化
DXを進める現場では、ピッキング履歴データの蓄積と分析がポイントとなります。注文頻度が高い商品をまとめて配置したり、通路の幅や棚のレイアウトを最適化したりすることで、シングルオーダーピッキングの効率をさらに向上させることが可能です。
シングルオーダーピッキングのメリット
ヒューマンエラーの低減
注文ごとに作業を行うため、誤って他のオーダーの商品を混入させるリスクが低減します。シングルオーダーピッキングは「1件の注文は1件の注文として完了させる」という明快な流れになっており、仕分けや追加確認作業が少なくて済むのです。
教育コストの低さ
ピッキングの手順がシンプルであるため、新人スタッフの研修期間が短縮しやすい利点があります。マルチオーダーピッキングに比べて作業フローが分かりやすいため、作業を覚えやすいのです。
柔軟性
大口注文が少なく、小口注文が多い現場や、取り扱い商品の点数が多い倉庫では、シングルオーダーピッキングが臨機応変に対応しやすい場合があります。作業の途中で注文変更があった際にも、対応が単純で混乱を招きにくいです。
シングルオーダーピッキングの課題
移動コストの増加
注文ごとに倉庫内を巡回するため、作業者の移動距離が増えます。DXの取り組みとしてロボットや自動化機器を導入していない場合、作業スタッフの負担が大きくなりがちです。
ピッキング効率の低下
一度に大量の注文を処理するバッチピッキングと比較すると、作業効率は劣る場合があります。出荷量が多い倉庫では、マルチオーダーピッキングを導入した方が総合的には効率が高くなることもあります。
システムとの整合性
WMSやERPなどと連携してピッキングを最適化する際、シングルオーダーピッキングだけでは十分な成果が得られない場合があります。特に、注文数が膨大な大型倉庫においては、複数のピッキング方式を組み合わせて運用する必要があるでしょう。
シングルオーダーピッキングの導入ステップ
現場分析とデータ収集
まずは現状のオーダー数や出荷量、SKU(在庫アイテムの種類)数、作業スタッフの動線などをデータ化し、課題を洗い出します。DXの視点からは、手作業での記録よりもデジタルツールを導入して正確にデータを計測することが重要です。
適切なピッキング方式の選定
シングルオーダーピッキングが最適なケースもあれば、マルチオーダーピッキングやゾーンピッキングとの組み合わせが望ましい場合もあります。自社の在庫構成や注文特性を分析し、最適解を考えましょう。
システム・機器の導入
シングルオーダーピッキングの効率を高めるには、自動倉庫やAMR(Autonomous Mobile Robot)、音声ピッキングシステム、ハンズフリー端末などの導入が有効です。同時に、WMSの連携によってピッキング指示を自動化し、在庫情報をリアルタイムで管理します。
スタッフ教育とPDCAサイクル
新しいピッキング方式を導入した後は、作業手順のマニュアル化、スタッフの継続的な教育、定期的な改善サイクル(PDCA)を回すことで、ミスやロスの発生を減少させます。DX推進の要となるデータ分析結果を活用し、倉庫内レイアウトやスタッフ配置の最適化を図ることが大切です。
まとめ
シングルオーダーピッキングは、1件の注文ごとに商品をまとめてピッキングする方式であり、作業工程の単純化やミスの軽減などのメリットがあります。対照的に、人の移動距離が増えやすいという課題を持ちますが、DXの取り組みによってロボットやシステムを導入することで、これらの課題を補完することができます。
倉庫オペレーションの効率化を目指すうえで、ピッキング方式の選択は非常に重要です。自社の受注形態や在庫特性に応じて、シングルオーダーピッキングを軸に、マルチオーダーピッキングや他のピッキング手法と組み合わせることも検討しながら、柔軟に運用していきましょう。