NRR(Net Revenue Retention、ネット売上維持率)
NRR(ネット売上維持率)とは既存顧客からの収益成長を測る重要指標のことです。
今回、NRR(ネット売上維持率)の定義、重視される理由、計算式、改善案、解釈ポイント、NRRとGRRの違いなどを紹介させていただきます。
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NRR(ネット売上維持率)とは?
NRR(Net Revenue Retention、ネット売上維持率)とは、既存の顧客がもたらす売上を「減った分」と「増えた分」の両方で捉え、最終的にどれだけ維持・成長できたかを示す指標です。
たとえば動画配信サービスを想像してください。ある月に解約やプランのダウングレードで売上が減った一方で、他の顧客が上位プランに移行したり追加チャンネルを購入したりすれば、その分売上は増えます。
NRRは、この「減収」と「増収」をまとめて計算し、既存顧客からの売上が結果的に伸びているのか、それとも縮んでいるのかを数字で表すものです。日本語では「ネット売上維持率」や「純売上維持率」と呼ばれています。
サブスクリプション型のビジネスでは「顧客数が増えたか減ったか」だけでなく、既存顧客からの売上がどのくらい伸びているかを測ることがとても重要です。そのためNRRは、投資家や経営層が必ずチェックする主要KPIのひとつになっています。
NRRが重視される理由
NRRが注目されるのは、「既存顧客の価値が伸びているかどうか」を数字で確認できるからです。
売上の安定性が分かる
新規顧客を獲得するにはコストも時間もかかりますが、既存顧客が長く継続してくれると、事業の基盤はぐっと安定します。
投資家が信頼する指標
SaaS企業の評価はLTVやARRだけでなく、NRRによって「既存収益の成長力」が見られます。
NRRが高ければ「今後も成長する企業」と判断され、資金調達や上場準備でも有利になります。
成長施策の成果が見える
新機能の追加、プラン改定、アップセル戦略などの取り組みが実際に効いているかどうかは、NRRを見れば一目で分かります。
NRRの計算式
NRRは次の計算式で求めます。
NRR(%)=(期首MRR − 解約MRR − ダウングレードMRR + アップセルMRR + クロスセルMRR) ÷ 期首MRR × 100
ここで使っている用語を簡単に説明させて頂きます。
・期首MRR:月初時点の継続売上(Monthly Recurring Revenue)
・解約MRR:解約によって失われた売上
・ダウングレードMRR:プラン変更や席数削減で減った売上
・アップセルMRR:顧客が上位プランに移行して増えた売上
・クロスセルMRR:追加機能や別サービス購入で増えた売上
具体例で理解するNRR
数字だけだと分かりにくいので、動画配信サービスを例に考えてみましょう。
・期首MRR:1,000万円
・解約による減収:100万円
・ダウングレードによる減収:50万円
・アップセルによる増収:120万円
・クロスセルによる増収:30万円
計算すると、以下になります。
NRR =(1,000 − 100 − 50 + 120 + 30) ÷ 1,000 × 100
= 1,000 ÷ 1,000 × 100 = 100%
つまりこの場合、減収と増収がちょうど釣り合い、売上を維持できたということです。もし増収が減収を上回れば、NRRは100%を超え、既存顧客からの売上が純増していることになります。
NRRの解釈ポイント
・NRR < 100%:既存顧客からの売上が減っている。改善が必要。
・NRR = 100%:売上を維持できている。安定状態。
・NRR > 100%:理想的。既存顧客だけで売上が成長している。
投資家は特に120%以上を高水準と見なす傾向があります。特にエンタープライズ向けSaaSでは、契約単価が大きいため、アップセルの効果が表れやすいのです。
NRRとGRRの違い
似た指標にGRR(Gross Revenue Retention:総売上維持率)があります。
・GRRは「解約や縮小による減収」だけを計算対象にします。
・NRRは「減収」に加えて「アップセルやクロスセルによる増収」も含めます。
つまりGRRは守りを測る指標、NRRは守りと攻めを合わせた総合指標といえます。
NRRを改善する具体策
NRRを高めるには、「減らさない工夫」と「増やす仕組み」を同時に進めることが欠かせません。
解約・縮小を防ぐ
・オンボーディングを工夫する:導入初期に顧客が「このサービスは役立つ」と実感できる体験を提供。
・利用状況を見える化する:ログイン頻度や機能利用をモニタリングし、離脱の兆しを早期に検知。
・顧客サクセス体制を整える:定期的にサポートや相談を行い、不満を放置しない。
アップセル・クロスセルを促す
・利用度に応じたプラン提案:よく利用している顧客には上位プランを提案。
・関連機能の提案:動画配信サービスなら「追加チャンネル」や「家族アカウント」を紹介。
・成果を根拠に営業:顧客が得た成果を見える化し、「次のステップに進む理由」を提示する。
NRRが経営に与える影響
NRRは現場KPIにとどまらず、経営判断にも直結します。
・資金調達に有利:NRRが高ければ「安定した成長基盤」と見なされ、投資家から資金を集めやすくなる。
・企業価値の向上:IPOやM&Aでは、NRRがバリュエーションを大きく左右する。
・戦略の方向性を決める:NRRをKPIに組み込めば、自然と「顧客基盤を拡張する施策」に組織全体がフォーカスする。
業界別NRRの目安
NRRの水準は、提供するサービスの対象や規模によって大きく変わります。
・SMB(中小企業)向けSaaS:おおよそ100〜110%が目安。
たとえば、会計ソフトのように中小企業が日常的に使うサービスでは、既存顧客の維持と少しの拡張でこの水準を目指します。
・ミッドマーケットSaaS:110〜120%が目安。
人材管理システムなど、成長中の企業が利用するサービスでは、利用席数の増加によって売上が伸びやすくなります。
・エンタープライズSaaS:120〜140%以上が理想。
大企業向けのクラウド基盤やセキュリティサービスなどは、一度導入されると追加機能や部署拡張が頻発し、NRRが大きく伸びる傾向があります。
あくまで目安であり、自社のサービス特性や顧客構造に合わせてベンチマークを設定することが大切です。
まとめ
NRR(ネット売上維持率)は、既存顧客からの売上がどれだけ成長しているかを示す重要な指標です。
・100%以上なら理想的:既存顧客だけで売上が増えている状態を意味します。
・会社の健康診断:投資家や経営陣にとっては、事業が健全に成長しているかを測る目安になります。
・改善のカギは二つ:「解約を減らすこと」と「アップセル・クロスセルなどで売上を広げること」。
NRRをしっかり理解してKPIに組み込めば、目先の売上だけに頼らず、事業を長く強く育てるための土台づくりができます。