カスタマーサクセスとは、顧客が製品やサービスを通じて望む成果を得られるように、企業が能動的に支援する取り組みです。契約後の継続利用やアップセルにつなげる戦略的な顧客支援の考え方です。
このような考えが重要になった理由として、顧客が“使って終わり”ではなく、“成果を得て継続する”時代に入ったからです。製品やサービスの機能が優れているだけでは、契約更新やアップセルにはつながりません。
契約後の顧客がこのサービスを使ってどのように成功していくのかについて支援していくという専門領域となります。
今回、カスタマーサクセスの基本的な定義から、KPI設計、業務プロセス、組織構築の方法、導入ステップに至るまでを紹介させていただきます。
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カスタマーサクセスとは、顧客が製品やサービスを通じて望む成果を得られるように、サービス提供企業が能動的に支援する取り組みであり、契約後の継続利用やアップセルにつなげる戦略的な顧客支援の考え方です。
そのため、単なるサポートとは異なり、「顧客が成功すること」を中心に据えたアプローチです。サービス導入後の活用を促し、課題を先回りして解決しながら、継続率やLTVの向上を目指します。サブスクリプション型ビジネスの浸透とともに注目され、SaaS業界を中心に広まりましたが、今では業種を問わず重視されるようになっています。顧客の成功を、自社の成長につなげる考え方とも言えるでしょう。
カスタマーサポート/サービスとの違い
カスタマーサクセスとカスタマーサポートは、混同されがちですが、そもそもの目的とアプローチが大きく異なります。サポートは、顧客からの問い合わせや不具合に対応する「受け身型」の業務です。一方で、カスタマーサクセスは顧客が求める成果を達成できるよう、能動的に伴走していく役割を担います。
たとえば、サポートは「問題が起きたときに解決する」ことが主なミッションです。対応の早さや解決率が評価指標になるため、短期的な満足度に焦点が当たりがちです。
これに対して、カスタマーサクセスは「問題が起こる前に、顧客がスムーズに成果を出せるよう支援する」ことが中心です。プロダクトの活用状況を常にモニタリングし、課題が表面化する前にアクションを起こします。
もう一つの違いは、関わる時間軸です。サポートは“点”の対応であるのに対し、サクセスは“線”として顧客と継続的な関係を築きます。契約期間を通じて価値を提供し、結果的に更新や拡張につなげていくというのが、カスタマーサクセスの特徴です。
つまり、サポートは「困ったら頼る存在」であり、サクセスは「成功を一緒に設計するパートナー」と言えるでしょう。両者は競合する関係ではなく、むしろ補完し合いながら、顧客体験の質を高めていく役割を担っています。
サブスクリプションが隆盛を極め、顧客自身が評価軸を握る現代。なぜ“カスタマーサクセス”が経営テーマとして前面に出ているのでしょうか。ポイントは四つあります。
サブスクリプション経済の拡大
日本ではサブスクリプション市場は2025年に1兆円を突破すると予測され、すでに国民の約半数が何らかのサービスを継続利用しています(参照元:StatistaStatista)。収益が“契約期間の長さ”で決まる構造にシフトした時、顧客満足は単なる1指標ではなく長期的に改善しないといけない重要な指標となります。
単発営業から継続営業への営業モデルのシフト
McKinseyの調査では、既存顧客1名を失う穴を埋めるには、新規顧客3名の獲得が必要と報告されています(参照元:McKinsey & Company)。
加えて、顧客体験を起点に成長した企業は、同業他社より最大で3倍の売上増を遂げた事例も示されています(参照元:McKinsey & Company)。単発売上を追う旧来型の仕組みでは、利益が雪だるま式に削られるのは明らかです。
また、日本の人口は下がってきているということは長期的に考えると顧客数が下がっていることになります。そのため、単発で受注することも重要ですが、それ以上に既存顧客が如何に次ぎも利用してもらうかが重要となってきております。
「売り上げが伸び悩むとき、いちばん効く施策は“新規開拓”でなく“既存顧客との対話”かもしれません」。そう問いかけると、多くの経営者はハッとします。カスタマーサクセスが発揮する4つの効果を整理すると、その理由が見えてきます。
チャーン低減でLTV最大化
Bain & Company の研究では、解約率をわずか5%抑えるだけで利益が 25〜95%増えると報告されています(参照元:ハーバード・ビジネス・レビュー)。数字が示すとおり、継続率は収益のてこです。カスタマーサクセスはヘルススコアや行動ログで“離脱の芽”を早期に把握し、オンボーディング強化やリテンション施策を先手で打ちます。結果として顧客生涯価値(LTV)が底上げされ、投資回収が早まるケースが多いです。
アップセル・クロスセル創出
McKinsey は「体験主導で満足度を 20%以上高めた企業はクロスセル率を 15〜25%上げた」と分析しています(参照元:McKinsey & Company。カスタマーサクセスは利用状況を見ながら「次の一歩」を提案するため、営業の提案タイミングが外れにくくなります。そのため、新規獲得に比べてコストが低く、粗利の改善に直結しやすいのが魅力だと言えます。
ブランドロイヤルティ/NPS向上
NPSを提唱したフレッド・ライクヘルドは「推奨者が増えるほど成長率は加速する」と述べています(参照元:ハーバード・ビジネス・レビュー)。サクセス部門が継続的に利用している企業に対して更なるメリットを提供することができればできるほど、顧客は“取引先”から“仲間”へ感情が変わることがあります。結果としてポジティブなクチコミが拡散し、広告費の抑制と認知拡大を同時に狙えるようになります。
「指標はたくさんあるが、どれを追えば利益につながるのか?」というのは経営会議で必ず出る疑問です。
カスタマーサクセスでは「顧客の健康状態」を定量化し、行動を同期させることが最優先だと考えます。ここでは 基本指標 → ヘルススコア → 中間指標 → 定量・定性のバランス の順に整理します。
1. 基本指標:LTV・NRR・チャーンレート
指標 | 計算式 | 押さえたい観点 |
---|---|---|
LTV(顧客生涯価値) | 1ユーザーあたり平均月額課金 × 粗利率 ÷ 月次チャーン率 | 「いくらまで獲得コストをかけられるか」を示す天秤 |
NRR(ネット売上維持率) | (期首ARR+アップセルARR-ダウングレードARR-解約ARR) ÷ 期首ARR | 既存顧客からの“純増”を見る温度計。SaaS公開企業の最新中央値は111%(参照元:Meritech Capital) |
チャーンレート | 期中に失った顧客数 ÷ 期首顧客数 | 月次と年次の両方を確認し、トレンドを把握 |
目安値
・LTV/CAC 比:3以上が健全とされますが、業界や成長ステージで変動します。
・NRR:120%を超えると「グロース企業」と呼ばれることが多いです。
2. 優先対応すべき顧客を見極める指標「ヘルススコア」の活用
ヘルススコアとは、顧客の「現在の状態」を数値化し、契約継続や解約のリスクを予測するための指標です。カスタマーサクセスにおいては、顧客がどれだけサービスを活用しているか、満足しているか、今後も付き合っていきたいと思っているかを、複数の要素からスコア化します。
具体的には、以下のような項目が組み合わされることが多いです。
・プロダクトの利用頻度や機能活用率
・サポートへの問い合わせ件数・満足度
・ビジネスレビューへの参加率
・CS担当者の主観評価(信頼感や温度感)
・経営層との関係性やエンゲージメントレベル
スコアは通常、緑(良好)・黄(注意)・赤(危険)といった3段階で可視化されることが多く、これによりCSチームは、どの顧客にどのようなアクションを優先してとるべきかを判断できます。
3. オンボーディング達成率・活用率など中間指標
NRRやLTVは結果指標のため、日々の行動に落とし込むには粒度が粗すぎます。そこで 「オンボーディング完了率」「主要機能の採用率」「月次アクティブユーザー比率」 といった中間KPIを挟みます。
中間指標 | 効果測定のヒント |
---|---|
オンボーディング達成率 | 初回ログインから30日以内にセットアップを終えた割合。達成率80%を境にチャーン率が半減した事例もあります。 |
活用率(Feature Adoption) | 重要機能を週1回以上使うユーザー/全ユーザー。機能ごとに閾値を定義すると改善ポイントが浮き彫りになります。 |
定期レビュー完了率 | QBRやEBRの実施比率。経営層との接触が多いほどアップセルが伸びやすい傾向が出ています。 |
4. 定量+定性データのバランス
数字は客観的ですが、人の声が示す兆しは早いものです。
・定量面:ログデータ、課金履歴、チケット件数などシステムで自動取得できる情報となります。
・定性面:CSMのメモ、NPSコメント、コミュニティ投稿、ワークショップでの発言となります。
顧客が契約した直後は、どの企業でも期待感がピークに達しています。ただし、ここからが分かれ道です。「ユーザーが本当に価値を感じる瞬間」まで導く業務が、カスタマーサクセスの本質だと感じます。実際のタスクを4つに分類し、それぞれ見てみましょう。
オンボーディングを「機能説明の場」と誤解している企業もありますが、それでは成功から遠ざかります。オンボーディングの真の目的は、「ユーザーが早く成果を体験できるよう、使い方を設計すること」です。
具体的には、初回ログイン後の30日以内に「これをやれば成功」となるアクションを明確に示します。動画、ガイドブック、個別のセッションなど、顧客タイプごとに組み合わせるのが良いでしょう。スピーディーかつスムーズに使いこなせるかで、契約更新の可能性が大きく変わります。
プロダクトを活用してもらうには、顧客との定期的な振り返りが欠かせません。新機能リリース時に一方的に知らせるのではなく、「顧客が本当に必要とする機能や利用方法」を見抜いて提案する場です。
例えば、「この機能を使うと業務効率が20%向上します」といった数値ベースの提案をします。顧客も人間ですから、ただ「便利です」だけの案内よりも、具体的な成果が見えるほうが意欲が湧くはずです。顧客が使う理由を見つけられるかが、長期継続につながります。
ユーザーコミュニティは、「声なき声を拾う」重要な場です。顧客は満足でも不満足でも意外と直接は伝えません。そこで、オンライン上で「自由に話せる場」を設けることが推奨されます。
コミュニティ内での交流を通じてユーザー同士の関係性が深まると、企業側には見えていなかった使い方や改善アイデアが自然と湧いてきます。特に、「感情の伴った意見」はアンケートや数値データだけでは把握しきれない貴重な資源になります。
問題は必ず起きるものですが、対応を誤ると、たった一つの不満が解約に直結するケースも珍しくありません。そこで、顧客のトラブルが発生した時点で速やかに担当者から上位層へと情報を流す仕組み(エスカレーション)が重要です。
問題への迅速な対応とともに、「問題を解決する過程」そのものが信頼につながることもあります。顧客に「大切にされている」と感じてもらえれば、むしろトラブルがあった後のほうが関係が強化される可能性さえあると思います。
カスタマーサクセスの日常は、地味で骨が折れることも多いでしょう。しかし、「顧客の成功がそのまま自社の利益になる」という実感があるため、やりがいを感じる人が多いはずです。丁寧に取り組むことで、事業全体を支える土台になります。
カスタマーサクセスに取り組むとき、「顧客全員に同じ対応をしていませんか?」と尋ねると、多くの企業担当者は一瞬戸惑います。全ての顧客に手厚く対応するのは理想ですが、コストや効果を考えると現実的ではありません。顧客の規模や性質によってサポート方法を分ける必要があります。ここでは、主要なタッチモデルとその切り替えのポイントについて見ていきます。
ハイタッチモデルは、大企業や売上規模の大きい顧客に対して専属チームが密にコミュニケーションを取りながらサポートする方式です。例えば、定期的な訪問、個別のオンボーディングプラン策定、役員レベルの会議への参加など、徹底的に顧客に寄り添った支援をします。
このモデルの最大のメリットは、顧客との信頼関係が深まり、解約リスクを極めて低く抑えられる点です。ただし、手間とコストがかかるため、限られた重要顧客に絞り込む必要があります。
ロータッチモデルでは、複数の顧客を少人数の担当者が支援するため、ウェビナーやグループセッションなどを活用します。この方法の利点は、一定の品質を保ちつつ、多数の顧客を効率的にカバーできるところです。
ただし、顧客に「個別のニーズに応えきれていない」と感じさせてしまうこともあるでしょう。そのため、顧客満足度を定期的に計測し、不満が大きくなりそうな顧客に対しては個別対応に切り替えることも必要です。
テックタッチは、完全に自動化されたプロセスを中心に、顧客が自ら情報を取得・解決できるよう設計された仕組みです。FAQページ、チャットボット、チュートリアル動画などを整備することで、顧客自身のペースで問題解決を促します。
効率性に優れている一方で、「放置されている」と顧客に誤解されることがあります。顧客が孤立しないように、自動化した中にも適切なタイミングで人間のサポートが介入できるように仕組みを整えておくことが重要です。
現実的には、これらのモデルを単体で適用するのは難しいかもしれません。そこで多くの企業は「ハイブリッド型」を採用しています。具体的には、顧客の契約額、利用度、成長性など複数の要素で判断し、ハイタッチとロータッチ、テックタッチを柔軟に組み合わせています。
例えば、新規顧客の初期段階ではロータッチまたはハイタッチで手厚く支援し、定着後はテックタッチに移行するケースが一般的です。その際、「契約更新前の半年間」や「主要機能利用率の急低下」などを切り替えの判断基準として設定するとよいでしょう。
カスタマーサクセスを導入するとき、最初に迷うのは「そもそもどんな人材をどこから集めるべきか?」かもしれません。意外に感じる人もいますが、適切な人材が揃うだけでチームの成果は驚くほど違ってきます。ここでは、組織を機能させるポイントと、人材育成について整理します。
1. 営業・マーケ・プロダクトとの協働体制
カスタマーサクセスは独立した部門ではなく、むしろ全社的な連携の中核になるべき部署だと思います。例えば、営業チームが契約直後に顧客情報をしっかり引き継ぐことで、オンボーディングが円滑に進みます。マーケティングとの連携では、顧客の声(VoC)を集めてコンテンツに反映すると、説得力ある施策に繋がります。プロダクトチームと密接にコミュニケーションを取れば、機能改善も迅速化します。
つまり、協働体制の本質は、顧客情報を「社内で循環させる」仕組みづくりです。ここが崩れると、顧客対応が後手に回ったり、施策が場当たり的になったりしてしまいます。
2. CSチームの役職・スキルセットマップ
カスタマーサクセスチームには多様な役割が存在します。代表的な役職を挙げると次のようになります。
カスタマーサクセスマネージャー(CSM)
顧客との日々のコミュニケーションを主導し、解約防止や利用促進を担当します。コミュニケーション能力や課題解決力、共感力が重要です。
オンボーディングスペシャリスト
導入段階に特化したポジションで、技術的な知識と教育スキルが求められます。
カスタマーオペレーションズ(CS Ops)
データ分析を行い、チームが最適なアクションを取れるようサポートします。分析力とプロセス改善力が鍵です。
3. キャリアパス/資格・研修ロードマップ
カスタマーサクセスは新しい職種であり、キャリアパスが不明瞭になりやすいという課題があります。組織としては、「ジュニアCSM → シニアCSM → CSリーダー(管理職)」といった明確な道筋を示すと、メンバーの意欲が高まります。
また、業界標準となる資格として「Certified Customer Success Manager(CCSM)」などが海外では認知されています。国内ではまだ一般的とは言えませんが、独自の認定制度や、定期的なワークショップ、外部トレーニングを組み合わせて継続的にスキルを磨く場を提供すると、離職率の低下にもつながるはずです。
自社のカスタマーサクセスに対する取り組みを「成功している」とどうやって判断していますか? 多くの企業が指標選定に迷います。企業がどのような指標を設定し、どのように改善したのかを想定される事例ごとに整理してみましょう。
1. SaaSスタートアップ:ARR成長率+120%
スタートアップの最も重要な指標の一つはARR(年間経常収益)の成長率です。例えば、SaaS企業では、ARRを前年比120%増加させることを目標とします。この場合、この企業が重視したポイントは、カスタマーサクセス部門による「利用頻度の向上」と「契約更新率の改善」です。
そのため、まずはオンボーディングを徹底的に強化する必要があります。顧客ごとに最初の1ヶ月間での利用目標を設定し、進捗を毎週確認していきます。目標未達のユーザーには即座に追加支援を実施します。そうすることで、利用率が大幅に上昇し、顧客からの追加契約(アップセル)も自然に増えてくるでしょう。
このケースでの学びは、初期段階のユーザー体験を改善することで長期的な収益に直結するということです。
2. BtoB製造業:チャーン半減シナリオ
製造業の課題は、顧客が一度離れると再契約までのハードルが高いことだと思います。例えば、BtoB企業では、チャーン率を2年間で約半分に減少させるという目標を立てるとします。
この企業の特徴的な取り組みは、「トラブル時の迅速なエスカレーション」と「定期的な活用診断」だとします。顧客が問題に気づく前に自社側から改善点を指摘し、積極的に顧客とコミュニケーションを取ることを重視していきます。例えば、納品後の定期点検や定例ミーティングを通じて問題を先回りして解決するということです。
顧客はトラブルがないことよりも、「トラブルが起きても安心できる」と感じることにより、結果として顧客離れが大幅に減ったと言えるでしょう。
3. BtoCサービス:コミュニティ施策でNPS向上
BtoC企業では「顧客が友人にすすめるか?」というNPS(ネットプロモータースコア)が成長の鍵となります。あるサービス企業では、オンラインコミュニティを積極的に運営して、NPSが半年間で+20ポイント上昇させるという目標を持ったとします。
コミュニティ施策のポイントは、単なる情報提供ではなく、ユーザー同士の交流を活性化させることとなります。コミュニティ内で「ユーザーが主役」になるようなイベントや話題を設定していく必要があります。こうすることにより、自然とユーザーがファン化し、ブランドへの愛着が深まっていく可能性が高いです。
顧客同士のつながりが強化されると、満足度だけでなく、プロダクトへの愛着も増し、結果として推奨者(プロモーター)が増えるという好循環が生まれていくでしょう。
新しい取り組みをスタートさせるとき、「どこから手を付ければいいのか?」という悩みは避けられません。ただ、一気に全社展開しようとすると、どれほど素晴らしいアイデアでも途中で失速することがあります。ここでは、カスタマーサクセスを着実に導入し定着させるための、具体的な90日間のロードマップを提案します。
【Day 1〜15】現状診断:「今どこにいるのか?」
スタート地点を知らずに走り出すと、目的地に辿り着くのは困難です。まずは現状を把握します。
・顧客の離脱率や満足度はどのくらいか?
・営業・サポート・プロダクトの連携は取れているか?
・データや顧客の声がうまく活用されているか?
このように「良い点・悪い点」を洗い出します。現状診断は時として「耳が痛い」指摘を受ける場面もあるでしょうが、正確なスタート地点を把握することが今後の成功を左右します。
【Day 16〜30】ゴール設定:「どこへ向かうべきか?」
次に、ゴールを設定します。ゴールとは、単なる数値目標だけでなく、「どうありたいか」というビジョンも含まれます。
・「契約更新率を90%以上にする」
・「解約理由の分析結果をプロダクト改善に毎月反映する」
・「顧客からの問い合わせを1週間以内に完全に解決できる仕組みを作る」
など、具体的で分かりやすい目標を設定します。ここで重要なのは、関係者全員がゴールを納得して共有することです。
【Day 31〜60】小規模PoC:「小さな成功を生み出す」
多くの企業が導入でつまずくのは、いきなり全社展開を目指してしまうからかもしれません。おすすめしたいのは、小規模で実験的に取り組み(PoC:Proof of Concept)を実施することです。
例えば、「特定の製品や顧客セグメントに限定してオンボーディング施策を実行する」といった小さな範囲から取り組み、成功事例をまず作ることです。成功例が見えると周囲の理解や協力も得やすく、展開がスムーズになります。
【Day 61〜85】全社展開:「広げて定着させる」
PoCで得られた成功や課題を踏まえ、本格的な展開へと移行します。PoCの結果を示して、「これだけ効果が出ています」と具体的に伝えることで、抵抗感も減らせます。各部署が連携しながら顧客に接することが日常になれば、取り組みが徐々に定着していきます。
ただ、この段階でも「全員に無理強い」ではなく、少しずつ協力者を増やしながら進めるのが現実的でしょう。
【Day 86〜90】振り返り:「進んでいる方向は正しいか?」
最後の5日間は、振り返りの時間に充てます。導入した仕組みやプロセスがきちんと機能しているのかを点検しましょう。
・当初の目標に近づいているか?
・顧客からのフィードバックは改善されているか?
・社内の連携体制に不備はないか?
課題や改善点を明らかにして、「次の90日間」で修正を繰り返します。カスタマーサクセスは一度で完璧に整うものではなく、何度も微調整を行うことで徐々に洗練されます。
カスタマーサクセスを導入する企業は増えていますが、「うまくいかない」と感じる企業も決して少なくありません。「成功する企業」と「つまずく企業」には、共通する課題とそれへの対応策があります。ここでは頻繁に現れる課題を3つ取り上げ、具体的な対処法を考えていきます。
1. データサイロ/部門サイロ:「情報が断絶していませんか?」
ある部署では顧客情報を詳細に把握していても、他の部署ではほとんど知られていないことはよくあります。こうした「データの孤立」が起きると、顧客体験は分断され、顧客自身が不満を感じやすくなります。
打ち手としては、部署横断型の顧客ダッシュボードを作ることをおすすめします。CRMツールに全ての顧客接点データを集約し、誰もがアクセスできる仕組みにすれば、情報の透明性が高まります。「全社共通の顧客理解」が根付けば、部署間のコミュニケーションも自然に活発になるでしょう。
2. ツール導入失敗:「本当にそのツールが必要でしたか?」
最新のツールを導入したものの、「現場ではほとんど使われていない」という状況に陥ったことはありませんか?
よくある失敗のパターンなのですが、導入時の目的が曖昧だと、ツールはただのコスト増加要因になってしまいます。
ここでの対策は、まず「現場の課題から逆算する」ということです。「何を解決したいのか」を明確にした上で、トライアル利用やPoCを経てから本格的に導入を決めるべきでしょう。ツールは課題解決の手段であり、目的ではないという認識が重要です。
3. 人材不足・カルチャーギャップ:「メンバーは同じ方向を向いていますか?」
「人が足りない」「カルチャーが根付かない」という悩みを持つ企業は多いです。特にカスタマーサクセスは比較的新しい職種なので、経験豊富な人材が見つからないこともよくあります。また、営業主導の文化が強い会社だと、顧客支援のマインドセットがなかなか浸透しません。
対応策としては、社内人材の再教育(リスキリング)を重視することです。外部からの採用ももちろん大切ですが、まずは社内で「顧客志向のマインドセット」を育てることが現実的だと思います。定期的な社内ワークショップや成功事例共有会を行い、カルチャーの浸透を進めるのがおすすめです。
新しい概念に取り組むと、シンプルな疑問が次々と湧いてくるものです。ここでは、よくある質問を4つピックアップして整理しました。皆さんがカスタマーサクセスを実際に始める際の参考になるでしょう。
Q1:カスタマーサクセスとアカウントマネージャの違いは?
よく混同されますが、両者は目的も役割も異なります。アカウントマネージャは売上目標が中心で、主に追加販売や契約更新が任務です。一方、カスタマーサクセスは顧客が価値を感じ、サービスを継続利用することを第一目標としています。売上は結果的に後からついてくるもの、と考える点が大きな違いだと思います。
Q2:KPIは何から設定すべき?
最初は「チャーンレート」や「利用頻度」といった、比較的シンプルな指標からスタートすることをおすすめします。いきなり複雑な数値を追いかけると、現場が混乱して挫折してしまうかもしれません。まずは「顧客が離れていないか?」を明確に把握できる指標を設定し、その後に徐々にヘルススコアなどの詳細な指標を追加するとよいでしょう。
Q3:小規模企業がまずやるべきことは?
最初の一歩として最も効果的なのは、「顧客の声をとにかく集める」ことです。例えば、直接の電話インタビューや簡単なアンケートなどを活用するとよいでしょう。「顧客がどこでつまずいているか」「何を望んでいるか」をしっかり理解することから始めれば、改善点が見つかりやすくなります。大規模なツールやシステムがなくても、顧客視点を持つだけで違いが出てくると思います。
Q4:SaaS以外の業界にも有効?
はい、業界は関係ありません。カスタマーサクセスは「継続的な関係が価値を生むビジネス」であれば、どんな業種にも当てはまります。例えば製造業では導入後のフォローで継続利用を促進できますし、小売業ならリピート購入を促す工夫につながります。重要なのは業種よりも、「顧客がどのように成功を感じているか」を理解することです。
カスタマーサクセスは、顧客の成功体験を起点に企業の成長を支える戦略的アプローチです。定義やKPI、タッチモデル別対応、組織設計に至るまで、各章で具体的に解説してきました。業界や企業規模に関係なく、顧客との関係を深めたいすべてのビジネスにとって、導入する価値は大きいといえます。小さく始めて学びながら育てていくことが、成功への近道です。