チャーンレート
チャーンレート(Churn Rate)は、ある一定の期間にて離脱した既存顧客の割合のことです。サブスクや会員制はもちろん、解約手続きがないビジネスでも、継続購入や継続利用が止まった状態を「離脱」として計測します。
今回、チャーンレートについて分かりやすく解説させていただきます。
目次 [ 非表示 表示 ]
チャーンレートとは?
チャーンレート(Churn Rate)は、ある一定期間に自社から離れていった顧客の割合を示す指標です。たとえば、あなたが毎月課金される動画配信サービスを運営していると仮定します。100社が契約していたのに、その月に10社が解約したとすれば、チャーンレートは10%になります。このように、数字で顧客の離脱状況を把握できるのがチャーンレートです。
日本語では「解約率」「顧客離脱率」「退会率」などと言い換えられます。実務では、人数で見る指標と売上で見る指標の2つに分けて考えると整理しやすくなります。
2種類のチャーンレート
1. カスタマーチャーン(顧客数ベース)
期間中に何人(何社)が去ったかを割合で捉えます。
たとえば「有料から無料へ切り替え」「席数(ID)の削減」など、実質的に関係が弱まった動きも離脱として扱うケースが一般的です。新規獲得の効率やオンボーディングの出来を直撃するため、現場KPIとして最もよく使われます。
計算式
期間中の離脱顧客数 ÷ 期首の有効顧客数
分母として選ぶ数値は、期中新規の影響で数字がぶれないよう、期首の有効顧客数を分母にするのが扱いやすい方法です。
途中加入者も分母に入れたい場合は、在籍日数で重みづけ(加重在籍)して補正します。
2. レベニューチャーン(売上ベース)
顧客数ではなく、売上(特にサブスクでの毎月の反復収益:MRR)に注目するチャーン率です。
つまり解約やダウングレード、割引の拡大などで反復収益(MRR/ARR)がどれだけ減ったかを割合で見ます。プランが複数ある、席数課金があるといったSaaSでは、失った金額の重みを自然に反映できるため、経営の視点での評価に向いています。計測では、「拡張売上を相殺する前(Gross)と相殺した後(Net)」を分けて使います。
・Gross Revenue Churn:
純粋に「どれだけ売上が減ったか」を測ります。
解約やダウングレードによって消えた期間中に失った反復収益(解約+ダウングレード) ÷ 期首MRR
・Net Revenue Churn:
(失った反復収益 − 期間中のアップセル/クロスセルによる拡張MRR) ÷ 期首MRR
※ 「減った金額」から「増えた金額(アップセルやクロスセルで拡張した分)」を差し引いて見ます。
Netがマイナスなら、拡張によって全体が増えている(NDR>100%)健全な状態です。拡張余地が大きいプロダクトなら、「解約・縮小を減らす」施策と「拡張を増やす」施策を同時に走らせると効果が高まります。
※期間”の切り方
チャーンは日次・週次・月次・四半期などで運用します。動きを素早く捉えたいチームは日次でも監視し、ダッシュボードでコホート(獲得月などで区切った集団)ごとに可視化して改善点を探ります。
よくある誤解と落とし穴
・「無料化は解約に含めない」問題
有料から無料へ切り替えるのは、関係が弱まったサインです。席数(ID)を減らす場合も同様で、契約数(ロゴ)だけを見ると、売上の目減りを見落とします。
・プロモーション期の歪み
大きな割引で一時的に離脱が減っても、終了月に反動が出ることがあります。割引の有無や期間ごとにコホートで追跡して実態を把握しましょう。
・分母の不整合
期中新規を分母に入れると見かけ上の改善が起きがちです。分母・分子の定義は、KPI設計書に明文化してブレを防ぎます。
・シーズナリティ(季節要因)
教育・会計・小売などは期末や繁忙期に山ができます。季節調整や移動平均でノイズをならし、本当の変化点を見極めましょう。
実務に効く分析5ステップ
顧客の離脱を防ぐには、「どこで」「なぜ」やめているのかを整理し、打ち手を試して改善していく流れが重要です。ここでは、身近な動画配信サービスを例に5つのステップを紹介します。
セグメント化
まず顧客を分けて考えます。プランの種類(ベーシック/プレミアム)、利用規模(1人/家族)、業種や契約経路などで分け、どの層で解約が目立つかを見ます。たとえば「無料体験後に有料へ移行したユーザーの解約率が高い」といった発見につながります。
コホート分析
次に、契約開始月ごとにグループを作り、どの月に始めた人が長く残っているかを比べます。例えば「4月に始めたユーザーは早期解約が多い」なら、春キャンペーンのオンボーディングに問題がある可能性があります。
行動シグナルの可視化
解約の予兆を数値化します。ログイン頻度が減っている、人気の機能に到達していない、家族アカウントの利用が急に減った、サポートに不満を伝えた――こうした動きをヘルススコアとしてまとめます。
原因の仮説化
「使いたい作品が少なかったのでは?」「担当者が変わってプロモーションの質が落ちた?」「競合の方が安かった?」など、離脱の理由を仮説として立て、どれが一番影響しているかを検証します。
介入 → 検証のサイクル
最後に打ち手を実行します。たとえば「解約画面で割引クーポンを提示する」「年契プランを提案する」「機能を段階的に開放して継続利用を促す」などです。その後、指標で効果を確認し、再び原因分析に戻ります。原因の把握 → 対策 → 維持率改善を繰り返すのがポイントです。
改善アクションのチェックリスト
・オンボーディング:初期30〜60日で「最初の成功体験」を一緒に作る。到達すべきポイントを明確にし、タイムラインと担当者を決める。
・支援体制:対人(CSM/サポート/教育)と、製品内ガイド・ツアー・テンプレ・推奨設定を両輪で整える。
・料金・プラン:価格の基準(アンカー)を設計し、年契割引や席数下振れに耐える仕組み(ミニマム・フロア)を検討する。
・プロダクト改善:UXの摩擦、速度、SLAやセキュリティなど利用の障害を外し、よく使われる機能を磨き上げる。
・エンゲージメント:QBR/EBRの定期接点、ヘルス悪化の早期警告プレイブック、機能達成に合わせたメールやアプリ内メッセージを用意。
・アップセル/クロスセル:Netチャーンを下げる強力な打ち手。利用行動に合わせて、相性の良い拡張を提案する。
・解約抑止運用:解約動線で理由を取得し、ダウングレード・一時停止などの代替案を提示。休眠顧客には復帰施策を走らせる。
・経営の視点:GrossとNetの両面で見て、**NDR>100%**を中期目標に据える。
他の指標との合わせ技による数値の見方
・リテンション(維持率)/コホート曲線:初月の落ち込み方でオンボーディングの質を判断します。
・CAC・LTV:チャーンが高いと回収期間が延びます。上限CPAは、将来のNDRの見通しと連動させましょう。
・拡張MRR(Expansion):機能追加や席数増、上位プラン移行など。Grossが悪化しても、拡張でNetを相殺できる場合があります。
・ロゴチャーン:契約単位の喪失。1社の売上比率が大きいエンタープライズでは特に重要。
・ボラティリティ:母集団が小さいと数値が振れやすくなります。移動平均やベイズ的な平滑化で安定させましょう。
現場で使える算出例
たとえば、ある月初に1,000人が契約していた動画配信サービスを考えてみましょう。
・今月のうちに35人が解約しました。
・一方で、新たに120人が新規契約しました。
・さらに、一部の利用者が「家族プランから個人プランへ切り替え」などで席数を減らしたため、90万円分の売上が減少しました。
・逆に「ベーシックからプレミアムへ」「追加チャンネルを購入」などで、120万円分の売上が拡張しました。
この状況を数値化すると、以下のようになります。
カスタマーチャーン(解約率)
35 ÷ 1,000 = 3.5%
→ 顧客数ベースでは、全体の3.5%が離れた。
Grossレベニューチャーン(売上の減少率)
90 ÷ 期首MRR(仮に5,000万円) = 1.8%
→ 解約や縮小による売上の減少は1.8%。
Netレベニューチャーン(売上の純減少率)
(90 − 120) ÷ 5,000 = −0.6%
→ 減った90万円よりも、拡張の120万円が上回ったため、結果的に売上は増加。
つまり NDR(Net Dollar Retention)が100.6% となり、健全な成長状態にあると分かります。
ベンチマークの見方
業界、価格帯、導入の難易度、契約年数、顧客規模によって、平均値というのは見方が変わってきます。まずは自社のプラン別・規模別コホートを作って、改善余地の大きい谷を定量的に見つけてください。そこに資源を集中させるのが最短ルートです。
チャーンレートに関するFAQ
Q1. チャーンレートの良し悪しは?
A. 「良い・悪い」は一概には言えません。業界ごとに基準が異なるからです。大事なのは、自社の過去データ(コホート)と同業他社の水準を比べて、自分たちにとっての適正値を見極めることです。
Q2. 改善の第一歩は?
A. いきなり全部に手をつけるのではなく、順番を意識するとスムーズです。まずはオンボーディングの強化から入り、その後に利用状況の早期モニタリング、続いてプランや価格の見直し、そして最後にアップセル・クロスセルの設計へと進めるのがおすすめです。
Q3. 有料→無料への変更はチャーンに含める?
A. 含めるべきです。有料から無料に切り替わった時点で実際の収益は減っているので、見かけ上は顧客が残っていても「離脱」として指標に反映する必要があります。
Q4. 日次トラッキングはやりすぎ?
A. むしろ有効です。小さな変化も早めにキャッチできるので、SaaS企業の中には日次でチャーンをモニタリングしているチームもあります。リアルタイム性が求められるビジネスほど効果的です。