マーケ施策も営業アプローチも増やしているのに、どこで人が離れているのか分からない。
その違和感を抱えたまま、数字だけを追いかけていないでしょうか。
広告やLP、ウェビナー、商談、フォローは点では見えても、ひとつの流れとして整理されていないケースは少なくありません。
個人的には、ファネル分析は難しい分析手法というよりも、
「社内の人たちが同じ絵を見ながら会話するための共通フォーマット」に近いものだと考えています。
だからこそ、マーケだけで閉じず、営業やプロダクト、
カスタマーサクセスと一緒に使ってこそ、手応えが生まれやすいはずです。
このガイドでは、マーケティングとIT、SEOの視点から、
概念の整理だけでなく、指標の組み立て方やツールの活かし方、
改善の考え方までをたどっていきます。読みながら、自社のファネルを頭の中でスケッチしてみてください。
目次 [ 非表示 表示 ]
「問い合わせは増えているのに、売上が思ったほど伸びない」
「広告のクリック数は多いのに、商談につながらない」。
こうしたギャップを前にしたとき、感覚だけで議論しても、なかなか答えにたどり着けないものです。
そこで役に立つのが、ファネルという考え方です。
ファネル分析は、一連のプロセスを
「上から下へだんだん絞られていく流れ」として描き、
各段階で人数や率を追いかける方法です。
最初の接点から成約・継続利用までをひとつのラインに並べることで、
「どの段階で、どれくらい落ちているのか」を冷静に眺められるようになります。
マーケティング、営業、Web担当がそれぞれの数字だけを見ている状態から、
同じ絵を共有できる状態に変える。その土台になるのがファネル分析だと思います。
ファネル(漏斗)の語源と英語表現
そもそも「ファネル」とは、キッチンや実験室で使われる漏斗のことです。
上が広く、下に向かって細くなっていくあの器具ですね。
大量の液体や粒を上から入れて、下側から少しずつ通過させる形が、
見込み客の絞り込みのイメージとよく似ているため、マーケティングの世界でもこの言葉が使われるようになりました。
英語ではそのまま funnel と書き、用途によって以下のような使い方ができます。
・marketing funnel(マーケティングファネル)
・sales funnel(セールスファネル)
・purchase funnel(パーチェスファネル)
・conversion funnel(コンバージョンファネル)
ツールの画面などで funnel analysis という表記を見かけたことがある方も
多いはずです。いずれも、「上流で多くの候補を集め、
段階を経るごとに絞られていく流れ」をイメージした言い回しだと考えてよいと思います。
ファネルとは何か:定義とビジネスにおける役割
ビジネスの文脈でファネルというと、「顧客や見込み客が、段階を踏んで絞られていく様子を段階ごとに区切り、数値として整理したモデル」のことを意味します。
たとえば、BtoBなら「サイト訪問 → 資料請求 → 商談 → 見積 → 受注」、ECなら「商品閲覧 → カート投入 → 配送情報入力 → 決済完了」といった流れを、ひとつずつステップとして並べていきます。
各ステップに対して、以下のような数字を置くことで、どこが細くなりすぎているのかが見えやすくなります。
・その段階に到達した人数
・ひとつ前の段階から進んだ率(到達率)
・途中で離れた人数・割合
マーケティングやITの視点から見ると、ファネルには大きく三つの役割があると思います。
1. 課題の位置をはっきりさせること
2. 部門ごとに散らばった数字を、ひとつの物語としてつなぐこと
3. 「どこから直すか」を決める判断材料をそろえること
個人的には、ファネルは高度な分析というより、「社内の関係者が同じ図を覗き込みながら議論するための共通フォーマット」に近い存在だと感じています。だからこそ、マーケだけの道具にしてしまうのは少しもったいない構造だと思います。
パーチェスファネルやカスタマージャーニーとの違い
ファネルに近い言葉として、パーチェスファネルやカスタマージャーニーがあります。
名前が似ているので混同されがちですが、見ている範囲や視点が少し違います。
パーチェスファネルは、その名の通り「購買までの道のり」に焦点を当てたファネルです。
認知 ⇒ 興味 ⇒ 比較検討 ⇒ 購入といった流れをシンプルな段階に分け、
主にマーケティング文脈で使われてきました。
購買行動にフォーカスしているぶん、比較的ストレートな構造になりやすいのが特徴だと思います。
一方、カスタマージャーニーは、顧客側の体験や気持ちの移り変わりを時間軸で追っていく考え方です。
「どの場面で何を見て、何を感じ、どんな疑問を抱いたか」といった、
定量化しにくい要素まで含めて地図のように整理します。
タッチポイントの数が増えるほど、こちらの重要度も上がっていきます。
ファネル分析は、どちらかというと「数字で見た全体の流れ」、
カスタマージャーニーは「一人ひとりの体験のストーリー」というイメージに近いです。
どちらが正しいという話ではなく、片方で全体像をつかみ、
もう片方で現場の感覚を補う、という組み合わせがしっくりくるケースが多いと感じています。
データはたくさんあるのに、「次にどこを改善すればいいか」が
曖昧なまま会議が終わってしまう。そんなシーンを見かけることが増えた気がします。
広告レポート、アクセス解析、SFA、MA……画面はにぎやかでも、
数字同士がつながっていないと、意思決定がどうしても感覚寄りになりがちです。
ファネルという枠組みを置くと、それぞれの数字を一つの流れとして整理できます。
マーケ、営業、Webの担当者が、同じ図をベースに話せるようになること。
これが、現代のビジネスでファネルが持つ一番の価値だと感じています。
マーケ・営業・Webをつなぐファネル分析の役割【部門横断での可視化】
部門ごとにKPIがバラバラだと、「自分たちの数字は悪くない」
「いや、そもそもリードの質が…」という不毛な押し付け合いになりやすいです。
そこで、接点から受注・継続までを一本の線として描き、各ステップを関係者で共有するのがファネルの役割です。
例えば、こんな問いかけがしやすくなります。
・広告経由の流入とオーガニック流入で、資料請求率はどのくらい差があるのか
・Webフォームの完了率と、その先の商談化率はどんな関係にあるのか
・インサイドセールスのフォロー回数や速度が、案件の進み方にどう影響しているのか
こうした問いを図と数字で並べると、「誰のせいか」ではなく「どこを一緒に直すか」という話に変わっていきます。
マーケティングとITの視点から見ると、ファネルは「ダッシュボード」というより
「共通言語」に近いものだと思います。
定義や数え方をすり合わせるプロセス自体が、
部門間の認識ギャップを埋める作業になり、
その過程を通じて組織が少しずつ前向きな空気に変わるケースもあります。
BtoB・BtoCにおけるファネル分析のメリット
BtoBとBtoCでは、商談の長さや意思決定の関わり方が違うため、
ファネルの形も変わります。ただ、どちらの世界でも役に立つポイントはあります。
BtoBの場合のメリットの例
・リード獲得〜商談〜受注の歩留まりが見えるため、
「リード数を増やすべきか」「商談化率を上げるべきか」が判断しやすい
・マーケティング起点の案件と、紹介・既存経由の案件を並べることで、投資配分の見直しがしやすくなる
・SFAやCRMのデータをファネルに落とすことで、営業プロセスの“詰まり”が見つけやすい
BtoCの場合のメリットの例
・広告から購入までの導線を分解し、どの画面で離脱が多いかをチェックできる
・カート投入後の離脱や、定期購入の継続率など、重要なポイントに絞って改善の優先度を決められる
・アプリや会員施策など、リピート行動も含めて一連の流れとして整理できる
個人的な感覚としては、BtoBでは「社内の合意形成と投資判断」に効きやすく、
BtoCでは「UI/UX改善とキャンペーン設計」に効きやすいと感じています。
同じファネルでも、どの数字を深掘りするかで、得られるインサイトは変わってきます。
古い手法?現代でも効果的な理由とトレンド
「ファネルなんて昔からある考え方で、今の複雑な顧客行動には合わないのでは?」と感じる方もいると思います。
たしかに、スマホ普及前のシンプルな導線だけを前提にした古い図を、そのまま現在のビジネスにあてはめると違和感があります。
それでも、いまでも使う意味があると感じている理由は、大きく三つあります。
1. 全体像をざっくりつかむ“第一歩”としてちょうどいい
どれだけ行動パターンが複雑になっても、「入口が複数あって、
途中で何度か離脱が起こり、最終的にごく一部がゴールに到達する」という構図自体は大きく変わりません。
最初のラフスケッチとしては、今でも有効だと感じます。
2. データが増えるほど、整理する枠組みが必要になる
GA4やMA、プロダクト分析ツールなど、計測できるイベントは年々増えています。
そのまま眺めるだけでは、どこから手を付けるか判断しづらくなります。
ファネルは、溢れたログを絞り込み、「この数ステップに集中して見よう」という踏ん切りをつける役割を持てます。
3. 他の考え方との「掛け算」がしやすい
カスタマージャーニー、LTV、リテンション分析など、
周辺のフレームワークと組み合わせやすいのも、古くからある枠組みならではだと思います。
例えば、「ファネルで落ちている箇所」を起点に、
ジャーニーマップで体験を掘り下げる、といった使い方がしやすいです。
最近は、完全な“漏斗”ではなく、循環やリピートを前提とした図にアレンジするケースも増えています。
昔ながらのモデルをそのまま信じ込むのではなく、
自社のビジネスに合わせて描き直していくこと。
それが、今の時代にフィットしたファネルの使い方だと感じています。
ここからは、「で、実際どう進めればいいのか?」という話に入っていきます。
難しい統計を勉強するというより、次の3つを順に押さえるイメージです。
・どこをゴールにするか(目標・KPIを決める)
・そのために何を集めるか(データと定義を揃える)
・どう見せて判断するか(可視化と指標を整える)
この設計をざっくりのまま始めてしまうと、
あとから数字が合わずに混乱しやすいです。最初のひと手間を
少し丁寧にかけておくと、その後の分析がぐっと楽になります。
目標・KPIの設定と指標の選び方
まず決めたいのは「このファネルを、どのゴールに向かわせるか」です。
売上を伸ばしたいのか、商談数を増やしたいのか、
無料登録を増やしたいのか。狙うゴールによって、途中のステップ(階段)は変わってきます。
例えば、BtoB なら、こんな流れがひとつの例です。
・Web訪問
・資料請求/ホワイトペーパーDL
・インサイドセールスからの初回コンタクト
・商談設定
・受注
ECなら、次のような形がイメージしやすいと思います。
・商品ページ閲覧
・カート投入
・配送先・支払い情報の入力
・購入完了
ここで意識したいのは、以下について一本の線としてつなげておくことです。
・一番上のゴール(KGI:売上金額や受注件数など)
・その手前のKPI(商談数、CV数、登録数など)
・さらにその前の動き(訪問数、クリック数など)
指標を決めるときに迷ったら、次の2つをチェックしてみてください。
・あとから同じ条件で測り直せるか
・誰が見ても同じ意味で解釈できるか
例えば、「リード数」だけだと、何を数えているか人によって解釈が変わります。
「資料請求フォーム送信完了数」のように、
どのタイミング・どのアクションを数えているかがはっきりした指標にしておくと、安全です。
データ抽出と可視化のポイント
ゴールとKPIが決まったら、次はデータを集めます。
ここで「あれもこれも」と欲張ると、
スプレッドシートが一気にごちゃごちゃになるので、
まずはファネルの各ステップに必要な数字だけに絞って集めるのがおすすめです。
よく使うデータ源は、たとえば次のようなものです。
・GA4 などのアクセス解析ツール
・MAツールやメール配信ツールのログ
・SFA・CRMに入っている案件データ
・広告管理画面の数値
これらを「ファネルのステップごとに」「同じ期間で」取りそろえるのがポイントです。
期間がずれていると到達率やCVRが正しく出ないので、
月次なら月次、四半期なら四半期、と単位をそろえておくと安心です。
グラフや図は、凝ったものを作る必要はありません。実務では、例えばこんな形で十分役に立ちます。
・ステップを左から右に並べたシンプルな表
・各ステップごとの人数と割合を並べた表
・必要に応じて、棒グラフやファネル型の図
大事なのは、「一目見て、どこが細くなっているかなんとなく分かること」です。
ここさえ押さえれば、会議の場で話がかみ合いやすくなります。
離脱率・到達率・CVR等の数値計測と分析方法
ステップとデータが揃ったら、いよいよ指標を計算していきます。
ここで使う代表的な数字は次の3つです。
・到達率:ひとつ前のステップから次のステップに進んだ割合
・離脱率:ひとつ前のステップから抜けてしまった割合
・CVR:ある地点からゴールまでたどり着いた割合
「資料請求 → 商談 → 受注」という3段階の例で考えてみましょう。
・資料請求:100件
・商談:40件
・受注:10件
この時、以下の用に計算することができます。
・資料請求 → 商談の到達率:40%
・資料請求 → 商談の離脱率:60%
・商談 → 受注の到達率:25%
・商談 → 受注の離脱率:75%
・資料請求 → 受注までのCVR:10%
そして、分析でやりたいのは、「数字が悪い場所」を探すことだけではありません。
・過去と比べて、急に変化しているステップはないか
・広告、自然検索、紹介などチャネルごとに差が大きいステップはどこか
・営業担当やキャンペーンごとに、明らかな傾向の違いがないか
上記のようなギャップが目立つポイントを探すことが重要です。
そこにボトルネックや改善のヒントが隠れているケースが多いと感じます。
また、単月だけを見て結論を出すのは危険です。
季節性やキャンペーンの影響もあるので、できれば3〜6か月ほどの推移を並べて、トレンドとしてどう動いているかを確認したいところです。
GA4・アクセス解析ツールでのファネル分析のやり方
Webからの流入がからむファネルでは、GA4 のようなアクセス解析ツールが頼りになります。
ユーザーの行動を「イベント」という単位で記録し、その並び方をもとにファネルを組み立てていきます。
大まかな流れは次の通りです。
1. 追いかけたいステップに対応するイベントやページを決める
例:LP閲覧、フォーム表示、フォーム送信完了 な
2. GA4上で、それぞれのイベントが正しく計測されているか確認する
3. 探索レポートなどで、イベントの順番をファネルとして設定する
4. 期間やセグメント(広告経由/自然検索など)を切り替えながら、到達率・離脱率を比較する
ここで意外とつまずきやすいのが、「ツールに出てくる用語」と
「社内で普段使っている言葉」のズレです。
社内では「リード」と呼んでいても、
GA4 上では「lead_submit」というイベント名になっている、というような状態ですね。
この対応関係を一度整理しておくと、認識の食い違いを防げます。
また、アクセス解析だけを見ていると、どうしても「Web上の動き」に視野が寄りがちです。
BtoB であれば、資料請求後の電話やオフラインの商談など、
受注に近い工程のほうがより重要になるので
別のシステムにある情報も含めて一連の流れとして捉える意識が大切です。
Excel・Tableauでのファネル可視化テンプレート実践例
最後に、日々の運用で扱いやすい「見せ方」の例として、
Excel と Tableau を使ったイメージを紹介します。ツールは違っても、考え方はかなり共通しています。
Excel の場合
・列にステップ名(訪問、登録、商談、受注など)を並べる
・行に期間(年月)、チャネル、担当者などを並べる
・各マスに件数を入れ、隣の列で到達率・離脱率を計算する
・条件付き書式で、率が低いセルに色をつける
ここまでやると、「どの期間・どのチャネル・どのステップが弱いのか」がひと目で分かります。
会議で状況を共有するだけなら、このレベルでも十分役に立つ場面は多いです。
Tableau などのBIツールの場合
・GA4 や SFA、CRM から書き出した CSV をデータソースとして接続する
・ステップごとの件数を集計フィールドでつくる
・ファネルチャートや棒グラフで、各ステップの落ち込みを可視化する
・フィルタでチャネルや期間を切り替えられるようにする
BI ツールの強みは、「セグメントを切り替えたときの変化」がすぐ見えることです。
広告メニューごとの差や、営業チームごとの違いを確認したいときに、とても役立ちます。
どのツールを使うにしても、本質はひとつです。
担当者全員が同じファネル図を見ながら、同じ前提で話せるかどうか。
見た目を凝るよりも、「毎月ストレスなく更新できるか」「会議で迷わず使えるフォーマットかどうか」を基準に、自社に合ったスタイルを選んでみてください。
「ファネルって、一種類あれば十分じゃないのか?」と感じる方もいるかもしれません。
実務の現場を見ていると、実際にはひとつの会社の中に、いくつものファネルが同居しています。営業の視点での流れもあれば、マーケの視点での流れもあり、ECサイトやアプリだけの流れもある。
それぞれゴールも関係者も違うので、ひとまとめにすると途端に分かりにくくなってしまうのです。
ここでは、代表的なファネルのタイプを整理しつつ、
プロダクトやツールとの関係、ユーザーの心理との結びつきまで、一度俯瞰してみたいと思います。
営業ファネル、マーケティングファネル、ECサイトのファネルなど主要分類
まずは、現場でよく使われる代表的な3種類から見ていきます。
営業ファネル(セールスファネル)
営業ファネルは、「案件がどの段階まで進んでいるか」を追いかけるための流れです。
たとえば BtoB では、以下のように営業プロセスのステージがそのまま階段になります。
・リード(名刺交換や問い合わせなど)
・初回ヒアリング
・提案・見積
・クロージング
・成約
ここで重視されるのは、以下の点です。
・ステージごとの案件数・金額
・どの段階で止まりやすいか
・担当者や商材によって傾向が違うか
「数字としての売上予測」と「どこにテコ入れするか」の両方に関わるので、
営業マネジメントと相性が良いファネルだと思います。
マーケティングファネル
マーケティングファネルは、認知から見込み客の獲得までを主な守備範囲とする流れです。
例としては、以下のような構成が挙げられます。
・認知(広告接触、検索流入など)
・サイト訪問
・コンテンツ閲覧・セミナー参加
・メール登録・資料請求
・見込み客としてのスコアリング
広告、SEO、コンテンツ、ウェビナーなど、
マーケ施策の効果をまとめて眺めたいときに向いています。
「どのチャネルから入ってきた人が、どこまで進みやすいのか」を比べられるため、予算配分の見直しにも使いやすいです。
ECサイト・Webのコンバージョンファネル
ECサイトやWebサービスの場合、
以下のように画面単位の行動を切り出したファネルもよく使われます。
・トップページまたはランディングページ閲覧
・商品一覧・詳細ページ閲覧
・カート投入
・配送・支払い情報入力
・購入完了
このタイプのファネルは、UI/UXの改善やA/Bテストと相性が良く、
ボタンの位置やフォームの項目数など、かなり細かいレベルのチューニングにまで踏み込めます。
プロダクト・カスタマーサクセス・MA・CRM・SFAとの関連と違い
ここで一度、「ファネル」と「ツール/組織/プロセス」の関係を整理しておきます。
名前がたくさん出てきて、何がどこまでをカバーしているのか分かりにくく感じることも多い領域です。
プロダクト・カスタマーサクセスのファネル
SaaS やアプリでは、プロダクト内の行動にフォーカスしたファネルも重要です。
以下のように、「契約してからの体験」を追いかける流れです。
・アカウント登録
・初回ログイン
・コア機能の利用
・複数回の利用
・継続利用・アップセル
カスタマーサクセスのチームは、
オンボーディングや利用頻度を見ながら、このファネルをもとにアクションを組み立てることが多いです。
個人的には、マーケ・営業のファネルと、
プロダクト・CSのファネルがうまくつながると、LTVの議論がかなりしやすくなると感じています。
MA・CRM・SFAとの違い
MA(マーケティングオートメーション)
見込み客に対するメール配信やスコアリング、ナーチャリングのシナリオなどを管理する仕組みです。
マーケティングファネルの上〜中盤の動きを細かく扱うことが多い領域と言えます。
CRM(顧客管理)
顧客情報や接点履歴をまとめる器です。
契約後のフォローや、休眠顧客へのアプローチなど、長期的な関係性を扱う視点が強くなります。
SFA(営業支援)
案件・商談の進捗を管理し、営業活動を見える化する仕組みです。
営業ファネルの各ステージに対する入力の多くは、SFAから来ると考えてよいと思います。
ここで押さえておきたいのは、
ファネルは「流れの図」や「考え方」であり、MAやCRM、SFAはその流れを支える道具だという点です。
どんなに高機能なツールを入れても、
「どのようなファネルで状況を見ていくか」が曖昧だと、
ログが溜まるだけで誰も活用しない、という残念な状態になりがちです。
逆に、プロセスの階段と定義が見えてくると、
以下のような設計の議論が、ぐっとやりやすくなります。
・MAでどのタイミングにメールを打つか
・CRMでどんな項目を持っておくべきか
・SFAでどのステージを区切るか
ユーザー行動と消費心理の各フェーズ&段階
最後に、ファネルを「人の気持ちの流れ」として眺めてみます。
数字だけを見ていると忘れがちですが、その裏側には必ずユーザーの感情や迷いが存在しています。
よくある段階を、少し噛み砕いて並べると、次のような流れになることが多いです。
気づく段階(認知)
・「こういうサービスがあるらしい」「なんとなく名前は知っている」
・広告やSNS、口コミなどが入り口になることが多いフェーズです。
気になる段階(興味・関心)
・「自分にも関係がありそう」「もう少し詳しく知りたい」
・サイト訪問や資料ダウンロード、動画視聴などの行動につながりやすくなります。
比べる段階(比較・検討)
・「他社と何が違うのか」「本当に自分の課題に合うのか」
・料金表や導入事例、FAQ などがよく読まれるタイミングです。
決める段階(決定)
・「申し込むかどうか」「どのプランにするか」
・フォーム入力や決済、社内稟議など、最後の一押しを必要とするステージです。
使い続ける段階(利用・継続)
・「思った通りに役立っているか」「他にも使い途がないか」
・ログイン頻度や利用機能の広がり、解約率などが重要になります。
もちろん、ユーザーはいつもきれいな直線で動くわけではありません。
行ったり来たりしたり、しばらく離れてから戻ってきたり、
想定外のルートを通ることも多いです。
それでも、こうした心理フェーズを頭の片隅に置きながらファネルを見ると、
数字だけでは見えない違和感に気づきやすくなります。
例えば、以下のような仮説につながります。
・比較フェーズでの離脱が多いなら、「安心材料」や「他社との違い」の打ち出し方が足りないのかもしれない
・決定フェーズでの離脱が多いなら、フォームの面倒くささや、社内承認のハードルがネックになっている可能性がある
個人的には、ファネルを「心理のチェックポイント」としても扱うと、
施策のアイデアが出やすくなると感じています。
数字としての絞り込みと、ユーザーの気持ちの行ったり来たり。
その両方を意識して眺めることで、単なる図表以上の意味を持つファネルになるはずです。
ファネルを描いてみると、現実はきれいな漏斗というより、
「どこか一段だけ妙に細い階段」のように見えることが多いです。
そこが、いわゆるボトルネックです。
その構成を担当している方にとっては、正直ちょっとつらい瞬間もありますが、
裏を返せば「ここを変えればインパクトが出やすい場所」を見つけたとも言えます。
ここでは、ボトルネックの正体と見つけ方、
その裏にあるユーザーの行動・心理、そして課題を整理するステップをまとめていきます。
ボトルネック現象とは?主な発生原因と見つけ方
ファネルにおけるボトルネックとは、「他の段階と比べて、到達率が不自然に低いステップ」のことです。
単に数字が小さいステップというより、「前後の落差が大きい場所」と考えた方がしっくり来ると思います。
発生しやすい原因をざっくり挙げると、次のようなものがあります。
・情報量・手間が急に増える段階
長いフォーム、複雑な入力項目、分かりづらいボタン配置など。
・ユーザーにとってリスクが高く感じられる段階
クレジットカード情報の入力、社名や電話番号など、身元に関わる情報の提供など。
・社内プロセスの都合が強く出ている段階
承認フローが重い、レスポンスが遅い、担当者によって対応品質のばらつきが大きい、といったケースです。
・ターゲットと訴求のズレ
違うニーズを持った人を集めてしまい、その先のオファーと噛み合っていない状態など。
見つけ方としては、次の観点で数字を眺めるとボトルネックが浮かび上がりやすくなります。
1. ステップごとの到達率を横並びで比較する
他の段階が 40〜60%前後なのに、ある一段だけ 10%台になっているような場所は、真っ先に疑ってよいと思います。
2. 期間ごとの変化を見る
ある月を境に急に落ち込んでいるなら、そのタイミングで導線やオファーに変更が入っていないか確認したいところです。
3. チャネル別・セグメント別に比べる
「広告経由だけ極端に悪い」「モバイルだけ落ち込みが激しい」といった偏りは、改善のヒントになりやすいです。
個人的には、「一番数字が悪い場所」よりも「他と比べて変な動きをしている場所」のほうが、ボトルネックとして有望だと感じています。
各段階におけるユーザー離脱の行動・心理を把握する
数字だけ追っていると、「ここで 60%離脱している」という表現で終わってしまいがちです。
ただ、その裏側ではユーザーが具体的に何かしらの行動を取り、「やめる理由」を感じています。そのイメージを持てるかどうかで、打ち手の質が変わってきます。
例えば、こんな捉え方があります。
上流:認知〜興味の段階での離脱
行動の例
・広告を見たが、すぐスクロールしてしまう
・検索結果から入ったが、数秒で戻る
心理の例
・「自分に関係なさそう」「いま知りたい内容と少しズレている」
・「なんとなく信用できない雰囲気がある」
この段階では、「誰に・何を・どの表現で伝えるか」が主な論点になります。
ターゲットの期待と、最初のメッセージがかみ合っていないと、そもそも次のステップに進んでもらえません。
中流:比較・検討の段階での離脱
行動の例
・料金表やプランページをじっくり見るが、問い合わせまでは進まない
・事例ページを数件見たあと、別のサービス名で検索し直す
心理の例
・「悪くはなさそうだが、決め手に欠ける」
・「他社との違いが曖昧で、選ぶ理由が弱い」
ここでの離脱が多い場合、訴求内容や比較情報、
リスクへの配慮が不足していることが多いと感じます。
保証やサポート、具体的な活用シーンなど、
「選ぶための材料」を増やす方向の打ち手が効きやすいです。
下流:申込・購入の段階での離脱
行動の例
・フォーム画面までは進むが、途中で閉じてしまう
・カートに入れたまま放置される
心理の例
・「入力項目が多くて面倒」「この情報を渡しても大丈夫か不安」
・ 「あとで家族や上司に相談してからにしよう」
この段階の離脱には、UIの負荷、情報の信頼性、
社内調整のハードルなど、現実的な壁が絡みます。
技術的な改善(フォーム短縮やエラー表示の改善)と、
心理的な不安を和らげる表現(セキュリティや解約条件の説明)を両方検討したいエリアです。
ファネル分析の良さは、「どの段階で、
どんな心理状態の人を落としているか」を想像しやすくなることだと思います。
数字を見たあとに、「この数字の裏で、
ユーザーはどんな行動をとっているのか」と一度立ち止まる習慣があると、
課題の輪郭がだいぶ変わって見えてきます。
データに基づく課題抽出の進め方
最後に、ボトルネックを見つけたあと、どう課題を整理していくかのステップをまとめます。
勢いで施策アイデアから入るより、一度「課題の棚卸し」を挟んだほうが、結果的に早道になることが多いです。
ステップ1:気になるポイントをメモレベルで洗い出す
まずは、ファネル図を眺めながら、「違和感のある場所」を素直に書き出します。
・広告経由だけ、資料請求までの到達率が低い
・商談までは進むのに、受注率が他チャネルよりも低い
・ある月だけ、フォーム完了率が急に落ちている
この段階では、数値が荒くてもかまいません。「ここが気になる」という印を付ける感覚で十分だと思います。
ステップ2:切り口を変えて数字を確かめる
次に、その違和感が勘違いではないかを、別の切り口で確かめます。
・期間を変えても同じ傾向が出ているか
・チャネル別・デバイス別で見ても差が続いているか
・担当者やキャンペーンごとに分けても同じ山が見えるか
ここで「どの切り口でも目立つ山」があれば、それはかなり有望な課題候補だと考えてよいと思います。
ステップ3:定量と定性を組み合わせてストーリー化する
数値だけで課題を定義しようとすると、「フォーム完了率が低い」といった抽象的な言い方で止まってしまいがちです。
そこで、ログやユーザーの声、営業メンバーの感覚なども集めて、
「なぜそうなっているのか」の仮説をストーリーとして描きます。
例としては、以下のような組み立て方になります。
スマホからのフォーム完了率が低い
⇒ スマホで見ると入力欄が小さく、途中でエラー表示も分かりにくい
⇒その結果、「途中まで入力したが面倒になって離脱」が起こっている
ここまで言語化できると、デザイナーや開発担当と話すときも、
一枚の紙で理解を共有しやすくなります。
ステップ4:課題の優先順位を決める
最後に、見つかった課題を以下のような軸で並べて、
どこから着手するかを決めます。
・インパクト(数字に与える影響の大きさ)
・実行のしやすさ(コストや関係者の数)
全部に手を出そうとすると、
どれも中途半端に終わってしまうので、「まずはここを一段だけ太らせる」と割り切るのがおすすめです。
個人的には、「インパクトは中くらいだが、
すぐ試せる改善」をいくつか混ぜておくと、
チームが前向きな空気を保ちやすいと感じています。
小さな改善でも、ファネル図が少しずつ太っていく様子が見えると、
「次はここも直してみよう」というポジティブな流れが生まれやすくなるからです。
ファネル分析は、弱点をあぶり出す作業なので、最初は気が重い瞬間もあると思います。
それでも、ボトルネックが見えたとき、
「やっと本当に手を入れるべき場所に辿り着いた」と感じられることも多いはずです。
数字と向き合いつつ、チームで小さな前進を積み上げていく。
そのサイクルこそが、ファネル分析の大きな価値だと考えています。
ボトルネックが見えたあと、
つい「とりあえず全部テコ入れしよう」となりがちですが、
それでは工数ばかり増えて、成果とのつながりがぼやけてしまいます。
本来やりたいのは、「どの離脱ポイントに、どんな一手を打つと、一番効きそうか」を見極めることです。
ここでは、代表的な離脱ポイントごとの改善例と、
BtoBで使うことが多いCRM・MA・SFAとの組み合わせ方、そしてKPIを回し続けるための工夫を整理していきます。
離脱ポイントごとの改善事例と打ち手
離脱が多いステップごとに、効きやすい打ち手のパターンがあります。
すべてを網羅する必要はありませんが、「よくある詰まり方」と
「それに対する動き方」のセットを持っておくと、検討がかなり楽になります。
① 流入〜初回訪問での離脱が多いケース
よくある症状
・広告のクリック数は出ているのに、ページの滞在時間が極端に短い
・検索流入はあるが、直帰率が高い
打ち手の例
・クリエイティブとLPのメッセージを揃え、「クリックした人が期待した内容」とズレないようにする
・ファーストビューで“誰向けか”“何が得られるのか”を明確に言い切る
・スマホでの読みやすさや表示速度を見直す
ここは「誰を連れてきているか」と「最初の一言」がほぼすべてなので、ファネルの中でもマーケ側の見直しが効きやすい領域です。
② ページ閲覧〜CV(資料請求・登録)までで落ちるケース
よくある症状
・製品ページは見られているのに、
フォームで離脱しまったり、CTAボタンがクリックされていない
・料金ページを見たあとに離脱する人が多い
打ち手の例
・CTAボタンを設置する位置やボタン内の文言を見直し、
「次に何をしてほしいか」を一つに絞る
・料金だけでなく、料金に見合った価値を提供できるという情報、
例えば「何が解決されるのか」「どんな企業に向いているか」といったことを追加する
・比較表・導入事例・FAQを充実させ、「迷っている人向けの検討材料」を増やす
この段階は、「興味はあるが、まだ踏み切れない人」が多いゾーンです。
押し売り感を強めるのではなく、判断材料と安心感を整理してあげるイメージに近いです。
③ フォーム・カートなど最終入力での離脱が多いケース
よくある症状
・フォーム表示までは進むのに、完了率が低い
・カート投入数と購入数の差が大きい
打ち手の例
・入力項目の削減(本当に必要な情報だけにする)
・ステップの分割(1ページに詰め込みすぎず、「あと少し」であることを見せる)
・エラー表示の改善(なぜエラーなのか、どう直せばよいかを分かりやすく見せる)
・セキュリティ・返品・解約条件など、不安を和らげる情報の表示
ここはUI/UXの影響がストレートに出る部分です。
数字を見るだけでなく、実際に自分で触ってみると、新しい気づきが出やすいと感じます。
④ リード獲得後〜商談・受注までの離脱が多いケース(BtoB)
よくある症状
・資料請求は増えているのに、商談数が増えない
・商談数はあるが、受注率が低い
打ち手の例
・インサイドセールスのフォロータイミング・回数を見直す
・MAでスコアリングを導入し、「温度の高いリード」から優先的にアプローチする
・商談前に送るコンテンツ(事例動画、導入までの流れなど)を用意し、意思決定者の不安を減らす
・商談ステージの定義を揃え、SFA上のステータスと現場の感覚にギャップがないか確認する
この辺りは、マーケ・インサイドセールス・フィールドセールスの連携次第で
結果が変わるところです。
「どの温度感のリードに、誰が、いつ、何をするか」を
具体的な運用に落としていくと、ファネル全体が少しずつ太っていきます。
CRM・MA・SFAと連携したBtoBファネル運用の効率化
BtoBのファネルは、どうしてもプロセスが長くなりがちです。
人力だけで追いかけようとすると、抜け漏れや属人化がすぐに顔を出します。
そこで頼りになるのが、CRM・MA・SFAといったツール群です。
ただ、ツールを増やすことが目的になってしまうと、本末転倒になってしまいます。
大事なのは、「ファネルの設計図 → データの入り口 → アクション」の順で組み立てることだと感じています。
ファネルを前提にしたツール連携の考え方
1. 共通のファネル図を先に描く
「どの段階を CRM で持つか」「どこまでを MA のシナリオでカバーするか」など、役割分担を紙の上で決めておきます。
2. 最小限の項目から始める
始めから項目を作り込みすぎると入力されなくなります。
まずは「リードの状態」「流入経路」「担当者」のような、
ファネル分析に直結する項目だけに絞るほうが運用しやすいです。
3. トリガーとタスクを自動化する
例えば、以下のようなといった形で、
「うっかり忘れてしまうこと」を自動化によって補うイメージです。
・MAで「資料請求後3日間アクションがないリードに、自動でフォローメールを送る」
・SFAで「商談ステージが一定期間更新されていない案件を、マネージャーにアラートする」
4. 営業とマーケの“見える化ボード”を一つにする
・マーケはMAの画面、営業はSFAの画面、
経営は別のレポート…と分かれていると、結局会話がかみ合いません。
・主要なステップだけでもよいので、
共通のダッシュボード(スプレッドシートでもBIでも)を一つ持っておくと、会議の質が変わりやすいです。
個人的には、ツール導入自体よりも、
「数か月後に誰がどの画面を見ながら会話しているか」をイメージしてから設計するほうが、失敗しにくいと感じています。
KPI管理・指標運用を継続するコツ
ファネル分析は、一度やって終わりではなく、
「測る ⇒ 気づく ⇒ 試す ⇒ また測る」という地味なループです。
ここを回し続けられるかどうかで、数年後の差がじわじわ広がっていきます。
とはいえ、日々の業務の中で継続するのは簡単ではありません。
そこで、現場で続けやすいと感じたコツをいくつか挙げてみます。
① 見る数字を絞る
指標を増やしすぎると、誰も覚えられません。
そのため、以下のように絞り、「この数値がどう変わったか」を中心に会話するほうが続きやすいです。
・ファネル全体の中で「最重要の1〜2指標」
・各チームが持つ「担当部分の1指標」
② 定義をコロコロ変えない
途中で「リードの定義」を変えたり、「CVのカウント方法」を変えたりすると、過去との比較が難しくなります。
やむを得ず変更する場合は、以下のような手当てをしておくと、後から検証するときに助かります。
・変更前後の数値を並べた資料を一度つくる
・いつ・なぜ変えたのかをドキュメントに残しておく
③ 定例の場にファネルを組み込む
週次・月次の会議で、「最初の5分はファネルの確認に使う」と決めてしまうのも一つの方法です。
その際、以下のようなルールにしておくと、自然と仮説思考が鍛えられていきます。
・「増えた/減った」の報告だけで終わらせない
・「なぜそうなったと思うか」「次にどこを触るか」を一言でもいいので言語化する
④ 小さな成功をきちんと共有する
ファネルを眺めていると、どうしても「ここが弱い」「まだ足りない」といった話が中心になりがちです。
ただ、チームのモチベーションを考えると、
「どのステップが太くなったか」「どの施策が効いたか」を定期的に称えることも大事だと感じています。
フォームの文言を少し変えただけで完了率が数%良くなった、
メールの件名を工夫したら開封率が上がったというような小さな変化でも、
ファネル図に反映してみると、意外とインパクトが大きく見えることがあります。
ファネル分析は、完璧な設計を目指すほど身動きが取りづらくなります。
ざっくりとした図から始めて、ボトルネックを見つけ、
小さな改善を積み重ねていく。その過程で、ファネル自体の形も少しずつ洗練されていきます。
マーケ、営業、Web、プロダクト。関わる人の目線を少しずつ揃えながら、「どの階段を、どの順番で広げていくか」を対話していく。そのベースとして、ここでの考え方をうまく使ってもらえたらうれしいです。
ここまで、考え方や手順を一通り整理してきました。
とはいえ、「実際の現場でどう効いてくるのか」が見えないと、自社に落とし込みづらいですよね。
この章では、以下のように実際に起こりうるケースを想定して、
SaaS、EC、営業組織という3つのパターンで、ファネル分析がどう成果につながったかを追っていきます。
自社の状況に近いケースを思い浮かべながら読んでみてください。
SaaS・ECサイト・営業部門など代表的な事例
事例① BtoB SaaS:資料請求は増えたのに受注が伸びない
課題
毎月の資料請求は順調に増えているのに、受注は頭打ち。
営業メンバーからは「数はあるけど、商談にならないリードが多い」という不満が出ていました。
ファネルで見たこと
「資料請求 ⇒ インサイドセールスによる初回接触 ⇒ 商談設定 ⇒ 受注」という流れを数字で追うと、
例えば、以下のように「接触したあと商談まで進められていない」部分が極端に細くなっていると分かりました。
・資料請求 ⇒ 初回接触:到達率 80%
・初回接触 ⇒ 商談設定:到達率 25%
・商談設定 ⇒ 受注:到達率 35%
取ったアクション
・マーケティングオートメーション(MA)でスコアリングを設定し、温度の高いリードから優先的に架電
・フォームの項目に「検討フェーズ」をさりげなく追加し、明らかに今は合わない層はメールでの育成に回す
・商談前に送る資料セット(導入ステップや利用イメージをまとめたPDFなど)を用意
結果
資料請求の数は変えずに、商談数だけが増えていきました。
営業側からも「最初から話が噛み合うリードが増えた」とポジティブな声が上がるように。
ファネルが、“量を増やすべきか・質を上げるべきか”という議論を落ち着かせる土台になったケースと言えます。
事例② ECサイト:カートまでは順調だが売上が伸びない
課題
商品ページもよく見られ、カート投入率も高い。
それなのに売上が伸びない。広告費だけがかさんでいく、という状態でした。
ファネルで見たこと
「商品ページ閲覧 ⇒ カート投入 ⇒ 配送情報入力 ⇒ 決済完了」で追うと、
以下のような事実が見えてきました。
カート投入 → 配送情報入力のところで、約半分が離脱している
取ったアクション
・ゲスト購入を許可し、会員登録は購入後にまわす設計に変更
・配送料や手数料を、早い段階で表示し、「最後の画面で突然金額が増える」状況を避ける
・カートに入れたままのユーザーへ、メールやアプリ通知でリマインド
結果
決済完了率が上がり、1円あたりの広告投資から得られる売上が改善しました。
「ユーザーがどこでストレスを感じているか」を、ファネルがはっきり示してくれた例だと言えます。
事例③ 営業部門:案件数は多いのに、予測どおりに着地しない
課題
営業管理ツール(SFA)上では案件パイプラインが豊富に見えるのに、四半期の着地がいつも予測を下回る状態が続いていました。
ファネルで見たこと
「案件登録 ⇒ ヒアリング完了 ⇒ 提案 ⇒ クロージング ⇒ 受注」というステップで数字を追い、
担当者ごとに比較すると、以下の両方に大きな個人差が出ていることが分かりました。
・「提案まで進む割合」
・「提案から受注までの割合」
取ったアクション
・営業ステージの条件を細かく言語化し、誰が見ても同じ基準になるようルール化
・ヒアリングのチェックリストを共通で作り、「提案まで進めてよい案件」の条件を揃える
・早い段階で成約の見込みが高い案件を見極めるためのコーチングを導入
結果
案件の総数は一時的に減りましたが、売上予測と実績の差は小さくなりました。
「数が多く見える安心感」ではなく、
「見えている数字への信頼感」に切り替わったことで、
マネジメント側のストレスも軽くなったケースです。
資料請求・無料登録・商談獲得までの実践フロー
次に、BtoBでよくある「資料請求から商談獲得まで」の流れを、もう少し具体的なステップに落としてみます。
ステップ1:入口の設計(誰に、何を約束するのか)
まず、SEO・広告・SNSなど、どのルートから人が入ってくるかをイメージします。
そのうえで、以下の一文で言い切ってみてください。
・どんな悩みを持った人に
・どんな価値を提供したいのか
そのメッセージが、LP・ブログ・広告文で一貫しているかも確認します。
ここがぶれていると、ファネルの最初の段階で大きくこぼれ落ちてしまいます。
ステップ2:資料請求/無料登録のハードルを整える
フォームの項目は、以下のように絞った方が成果につながりやすいです。
・営業が初回コンタクトで本当に使う情報
途中離脱が多い入力項目(電話番号や年商など)は、
以下のポイントで一度見直してみてください。
・本当にこのタイミングで必要なのか
・別のステップで聞けないか
また、完了画面では、以下のような内容をはっきり書いておくと、ユーザーの不安を減らせます。
・このあと何が起きるのか
・いつ連絡があるのか
・どんな資料が届くのか
このステップのKPIとしては、資料請求率や登録率に加えて、
以下もチェックしておくと改善ポイントが見つかりやすくなります。
・「フォームを開いてから完了までの到達率」
ステップ3:インサイドセールス・ナーチャリングの設計
資料請求や登録のあとは、「すぐアプローチする人」と「育成しながら様子を見る人」を分けます。
・MAのスコアリングや属性情報を使って、優先度を決める
・1〜3通目くらいまでのメールで、事例やよくある質問、導入ステップなど、判断材料になる情報を順番に届ける
・架電のタイミング・回数を営業側と事前にすり合わせておく
この段階では、以下のような流れをファネルとして追っていきます。
・資料請求 → 架電接続
・架電接続 → アポイント取得
・アポイント取得 → 商談設定
数字だけでなく、「なぜここで止まっているのか」という担当者の感覚も一緒に聞いていくと、打ち手が考えやすくなります。
ステップ4:商談〜受注への橋渡し
商談に進んだあとは、「話をスムーズに進めるための準備」を整えます。
・導入ステップ
・料金のイメージ
・成功事例
上記など、「事前に知っておいてもらえると話が早くなる情報」を
事前に共有しておくと、商談の場での説明時間を短くでき、議論の質も上がります。
営業管理ツール上では、ステージを更新するタイミングを明確にし、
以下をセットで登録する運用にしておくと、ファネル上の数字が生きたものになっていきます。
・案件の見込み度
・次のアクション(いつ、誰が、何をするのか)
ファネルとしては、「アポイント ⇒ 初回商談 ⇒ 追加提案 ⇒
クロージング ⇒ 受注」というラインで追いかけるイメージです。
個人的には、この数字を見ながら、
マーケ・インサイド・フィールド営業が一緒に話す場を持てると、一体感がかなり変わると感じています。
成果向上に導くコミュニティ活用・配信施策
最近のBtoB・BtoCでは、「一度コンバージョンしたら終わり」ではなく、
そのあとも情報提供やコミュニティで関係を育てていく動きが目立ちます。
ファネルで見ると、「下まで行った人を、横の流れでまた戻してくるイメージ」に近いかもしれません。
メール・ニュースレターで“ゆるい接点”を保つ
資料請求や会員登録をきっかけに、
以下のような情報を届け続けることで、「なんとなく覚えてもらう状態」を維持できます。
・定期的なニュースレター
・コラムやお役立ち記事
内容の例としては、以下などが挙げられます。
・導入事例の深掘り
・プロダクトの具体的な使い方
・業界トレンドの解説
売り込み一辺倒にならないよう、
「読んで得をした」と感じてもらえる情報とのバランスを取りたいところです。
ファネルの視点で言えば、以下のようなイメージをつくることです。
一度離れたように見える人が、メール経由で再訪問し、再び資料請求や問い合わせにつながる流れ
コミュニティ・勉強会の場づくり
オンラインコミュニティ、ユーザー会、勉強会などの場も、ファネルと相性が良い施策です。
以下のようなことを行うことで、
単なる情報発信では得られないインサイトが集まってきます。
・顧客同士、見込み客同士がつながる
・現場の課題や生の声が集まる
例えば、
「導入前より、社内説得のプロセスがいちばん大変だった」
という声が多いなら、その段階をファネルの一ステップとしてしっかり設計し、
サポートコンテンツを用意する、という発想もありえます。
配信・コミュニティをファネルとどう結びつけるか
メールやコミュニティ施策は、「なんとなく良さそうだけど、貢献度が分かりにくい」と扱われがちです。
そこで、次のような見方をすると、評価しやすくなります。
・コミュニティ参加者の商談化率・受注率を、全体と比較する
・セミナー・ウェビナー視聴者が、「再訪問 → 資料請求」まで進む割合を見る
・ニュースレターのリンクから生まれた問い合わせを、ファネル上で別チャネルとして扱う
こうして数字に落としてみると、コミュニケーション施策が
「単発のPR」ではなく、「ファネルを太くするルートの一つ」として見えてきます。
個人的には、コミュニティや配信は、短期の数字だけを見ると効果が見えづらい施策だと感じています。
だからこそ、ファネルと組み合わせて中長期で追いかけると、「じわじわ効いている」様子が分かりやすくなります。
一度つながった相手と、どうやって細く長く関係を続けていくか。
その工夫こそが、これからのファネル設計における大事なテーマになっていくはずです。
ファネル分析の話をすると、よく同じような質問が返ってきます。
ここでは、その中でも現場でよく聞く「5つのモヤモヤ」に絞ってお答えします。
Q1. ファネル分析って、もう古い考え方じゃないですか?
たしかに、昔のような「認知⇒興味⇒比較⇒購入」の
一直線モデルだけを前提にすると、今の顧客行動とは合いません。
ただ、ファネルそのものは“古い理論”というより、
「人が減っているポイントをざっくり把握するための見取り図」に近い道具です。
ループ型にしたり、契約後の利用・継続まで入れたり、
自社用に描き替える前提で使うと、今でも十分戦力になると感じます。
Q2. うちのビジネスみたいに導線が複雑でも、ファネルは役に立ちますか?
導線が複雑なほど、「どこから手をつけるか」が見えづらくなりますよね。
そんなときは、全部を一枚に詰め込むのではなく、
以下のように、目的ごとに3つくらいに分けて描くほうがうまくいきやすいです。
「一発で完璧な全体図」ではなく、
「テーマ別の地図を何枚か持つ」くらいの感覚で考えてみてください。
・「マーケ〜リード獲得のファネル」
・「商談〜受注のファネル」
・「利用〜継続のファネル」
Q3. ステップをどこまで細かく分ければいいか分かりません
「分ければ分けるほど精度が上がる」と考えがちですが、
細かくしすぎると誰も追えなくなります。
目安としては、以下の2つで判断してみてください。
・そのステップごとに担当者や打ち手が変わるか
・そのステップだけの数値を見て、会議で話題にする価値があるか
迷ったら、最初はやや大づかみにしておき、
議論の中で「ここは分けたほうがいいね」となった段階で
段差を増やすくらいがちょうど良いと思います。
Q4. ツールがバラバラで、データがきれいに揃いません
よくあるお悩みです。GA4、MA、SFA、CRM…とシステムが増えるほど、
「完璧に統合してから動こう」と考えて止まってしまいがちです。
おすすめは、最初から全部つなごうとせず、
以下を決めて、まずはスプレッドシートレベルでざっくりつなぐことです。
・「最重要なファネル1本」
・「その1本に必要な数字だけ」
それで会話が回り始めてから、「どの連携をシステム化するか」を
考えていくほうが、現実的でストレスも少ないはずです。
Q5. 一度作っても、結局ファネルを誰も見なくなります
これは本当に多いです。立派な図を作ったのに、そのまま社内の資料フォルダで眠ってしまうパターンですね。
ポイントは、「ファネルを見る専門の会議」を新しく作るのではなく、
以下のように、毎回、同じ場所・同じメンバーでファネルをチラ見する」習慣さえ作れれば、
図は少しずつアップデートされていきます。
・既存の週次・月次会議の冒頭5分を「ファネルタイム」にする
・毎回見る指標を“1〜2個だけ”に絞る
ファネル分析は、マーケ・営業・Webがばらばらに追ってきた数字を
一枚の流れとしてつなぎ、どこで人が抜けているかを整理するための共通フォーマットです。
ゴールとKPIを決め、データを揃え、ボトルネックを特定し、
離脱ポイントごとに改善を積み重ねることで、BtoBでもBtoCでも売上までの道筋がクリアになります。
個人的には、完璧な図を求めるより、チームで対話しながら少しずつ描き替えていく姿勢がいちばん力を発揮すると感じています。