ファネルとは、顧客が商品やサービスを知り、興味を持ち、比較・検討し、最終的に購入・継続利用へと進む一連の流れを「漏斗」に例えたフレームワークです。
ビジネスの現場で「ファネル」という言葉を耳にする機会は増えています。
本記事では、初心者の方でも安心して学べるように、ファネルの基本的な仕組みから、マーケティングや営業、カスタマーサクセスにおける種類の違い、実際に成果を出すための構築手順、改善に欠かせない分析方法までを順を追って解説します。
さらにSaaSやEC、BtoBなどの具体的な事例も紹介し、明日から実務に活かせる知識を紹介させていただきます。
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「ファネル」という言葉は、英語で「漏斗(ろうと)」を指します。料理で液体を注ぐときに使う道具を思い浮かべるとイメージしやすいでしょう。入り口は大きく、出口に向かうほど狭くなっていく。この形をヒントにして、ビジネスでも「ファネル」という考え方を使います。
具体的には、あなたのサービスや商品を知った人が、興味を持ち、検討し、そして購入に至るまでの流れを表しています。最初は多くの人が入り口に集まりますが、途中で離脱する人も出てきます。そして最後に残った人が実際に購入する顧客になるのです。これがファネルの基本的な考え方です。
今のビジネス環境では、ただ商品やサービスを用意するだけでは成長できません。なぜなら、お客様はネットやSNSで自由に情報を調べ、他社と比較しながら購入を決めるからです。だからこそ、あなたは「どの段階で、どんな打ち手を行うべきか」を明確に把握する必要があります。
ファネルを使うと、こんなメリットが得られます。
・顧客がどの段階で離脱しているのかを数値でつかめる
・改善すべきポイントがはっきり見える
・営業・マーケティング・カスタマーサクセスの役割分担が整理され、連携しやすくなる
・売上アップのために、どこへ投資すべきかを合理的に判断できる
言い換えれば、ファネルは「勘や経験に頼らず、データをもとに成長戦略を描ける地図」なのです。
ファネルを理解して活用すると、あなたのビジネスに次のような効果をもたらします。
・売上を伸ばせる:ボトルネックを取り除けば、同じ広告費でも成果を大きく高められます。
・顧客体験を良くできる:購買までの流れを最適化することで、お客様の満足度が上がります。
・成長を続けられる基盤を作れる:一度仕組みを整えれば、改善を重ねることで長期的に成果を積み上げられます。
特に中小企業やスタートアップのようにリソースが限られている場合、やみくもに施策を打つのではなく「どの段階に力を入れるか」を見極めることが重要です。ファネルは、その判断を助け、効率よく成果を出すための道しるべになります。
ビジネスで使うファネルにはいくつかの種類があります。目的や顧客が置かれているステージによって形が変わるので、あなたの状況に合ったものを選ぶことが大切です。ここでは代表的な4つを取り上げ、特徴や活用の仕方を詳しく見ていきましょう。
もっとも基本的なのが「マーケティングファネル」です。これは、見込み顧客が「知る」から「買う」までの行動を整理したモデルです。
一般的には購買行動の理論をもとにしており、次のようなステージで構成されます。
・認知:お客様が商品やサービスの存在を知る段階
・興味・関心:詳しく調べたいと思う段階
・比較・検討:他の商品と見比べ、自社の価値を確かめる段階
・購買・契約:実際に申し込む、購入する段階
この流れを理解すると「どの段階で何を提供すればお客様が次に進みやすいのか」が見えてきます。たとえば、認知段階ならSNS広告やブログ記事、比較段階なら導入事例やFAQといったコンテンツが効果的です。
マーケティングファネルについて詳しく知りたい方は、「マーケティングファネル」をご覧になってください。
次に紹介するのが「営業ファネル」です。マーケティングが集めたリード(見込み客)を営業担当が引き継ぎ、商談から成約まで進める流れを見える化するものです。
典型的なステージは以下の通りです。
・リード受け取り:問い合わせや資料請求を獲得していきます
・アプローチ:初回の接触やヒアリングを行い、相手のニーズを少しでも知る努力をします
・提案:課題に応じた提案書や見積を提示する
・交渉:条件を調整し、合意を目指します。
・成約:契約を結び、提供するサービスでクライアントに貢献していきます
営業ファネルを活用すれば「どの商談が順調に進んでいるのか」「どこで停滞しているのか」が一目でわかります。結果として営業効率が上がり、成約率の改善にもつながります。
営業ファネルについて詳しく知りたい方は、「営業ファネル完全攻略!売上を最大化する構築・最適化ガイド」をご覧になってください。
近年特に注目されているのが「カスタマーサクセスファネル」です。契約して終わりではなく、その後の体験を最適化し、継続利用やアップセル、紹介へとつなげる仕組みです。
段階を分けると以下のようになります。
・オンボーディング:導入初期のサポートをしてスムーズに使えるよう支援します
・定着化:お客様が日常的にサービスを利用する状態を作っていきます
・成果実感:少しづつサービスの価値を実感し、満足度が高まります
・ロイヤル化:長期利用や追加購入につながる
・紹介・口コミ:周囲にすすめ、新しい顧客を連れてきてもらえるようにします
特にサブスクリプション型やSaaSビジネスでは、この流れを整えることが顧客生涯価値(LTV)の向上に直結します。あなたのサービスでも「契約後の体験」を設計できているか、ぜひ見直してみてください。
カスタマーサクセスファネルについて詳しく知りたい方は、「カスタマーサクセスファネルで顧客ロイヤルティを最大化する基本から応用までを解説」をご覧になってください。
スタートアップや新規事業の世界でよく使われるのが「AARRRモデル」です。別名「海賊ファネル」と呼ばれるこの考え方は、限られた資源で効率よく成長するために役立ちます。
5つの指標は次の通りです。
・Acquisition(獲得):どうやって新規ユーザーを集めるか
・Activation(活性化):最初に価値を体感してもらえるか
・Retention(継続):長く使い続けてもらえるか
・Referral(紹介):既存ユーザーが新しい顧客を紹介してくれるか
・Revenue(収益):どうやって売上につなげるか
このモデルを使うと「成長のどこに注力すべきか」がはっきりします。たとえば、ユーザーが集まっているのに継続利用が低いならRetentionを強化すべき、というように優先順位をつけやすくなるのです。
AARRRモデルを詳しく知りたい方は、「AARRRモデルで事業成長を最大化!ユーザー獲得から収益化までの全プロセスを解説」をご覧になってください。
まずは「お客様がどんな流れで購入に至るのか」を整理しましょう。業種や商材によって違いはありますが、多くの場合は次のステップをたどります。
1.認知:商品やサービスを知ってもらう
2.興味・関心:もっと詳しく知りたいと思ってもらう
3.比較・検討:他社と比べて価値を確認してもらう
4.購入・契約:購入してもらう
5.継続利用・ファン化:繰り返し使い、ファンになって頂き紹介してもらう
ここで重要なのは「お客様の気持ちに沿って整理すること」です。単なる社内目線のプロセス管理にならないよう、カスタマージャーニーマップを作ると全体像をつかみやすくなります。
次に、それぞれのステージで「何をゴールとするのか」を決めます。目標を明確にすることで、どの施策が有効か判断できるようになります。
例えば、以下のように設定します。
・認知:広告の表示回数やサイト訪問数
・興味・関心:資料ダウンロード数やメルマガ登録数
・比較・検討:商談化率やトライアル利用数
・購入・契約:成約率や売上金額
・継続利用:解約率、アップセル率、顧客満足度
「数値化できる指標」を設定すると、感覚ではなく事実に基づいて改善を進められます。
ファネルの核は「お客様の心理に合わせた行動設計」です。どの段階にいるかで求める情報やサポートは変わります。
・認知段階:SNS広告やブログ記事で存在を知ってもらう
・興味・関心段階:無料セミナーやEブックでより詳しい情報を提供する
・比較・検討段階:導入事例や比較表で安心感を与える
・購入段階:限定キャンペーンや返金保証で決断を後押しする
・継続段階:コミュニティや定期フォローで利用体験を強化する
「今このお客様は何を知りたがっているか」を考えながら、適切なコンテンツやサポートを用意しましょう。
最後に、作ったファネルをチームで共有し、数字として見える形に整えます。
ツールの選択肢はいくつかあります。
・CRM(顧客管理):顧客データや商談状況を一元管理できる
・MA(マーケティング自動化):見込み客に最適なメールや広告を自動配信できる
・分析ツール:Google AnalyticsやBIツールで流入経路やコンバージョンを追える
最初から大規模なシステムを入れる必要はありません。Excelやスプレッドシートでも十分始められます。大切なのは「数値を追い、改善に活かす仕組みを作ること」です。
ファネルは作って終わりではなく、運用しながら分析と改善を繰り返すことで成果が出ます。ここでは、分析の流れと改善の考え方を整理し、さらに身近な例を加えて具体的にイメージできるようにしました。
ファネルを分析するときは、次のステップで進めると効果的です。
1. データを集める:Web解析ツールや顧客管理システムから数値を取得する
2. 現状を把握する:各ステージごとの数字を確認する
3. 離脱ポイントを特定する:どこで顧客が減っているかを見極める
4. 原因を考える:なぜそこで止まってしまうのか仮説を立てる
5. 改善策を実行する:ABテストや新しい施策を試す
6. 再度測定する:効果を検証し、次の改善につなげる
この流れを一度回せば終わりではなく、何度も繰り返すことが大切です。
ファネルを細かく見ると「どこでつまずいているか」が見えてきます。たとえば次のような数字が役立ちます。
・認知→興味:広告のクリック率、サイト訪問者数
・興味→検討:資料ダウンロード後の商談化率、メール開封率
・検討→購入:見積依頼数、成約率
・購入→継続:解約率、利用頻度、満足度調査
数字で把握すると、感覚的に「なんとなく悪い」ではなく「どの段階で何%が減っているか」が明確になります。
改善策はステージごとに違います。
・認知段階:広告ターゲティングを見直す、検索からの流入を増やす
・興味段階:魅力的な資料や特典を用意する
・検討段階:導入事例やFAQを整備し、安心感を与える
・購入段階:決済を簡単にする、保証制度を設ける
・継続段階:定期フォローや新機能の案内をする
小さな改善を重ねることで、最終的に売上が大きく変わります。
例えば、オンラインで服を販売しているとしましょう。よくある例は以下になります。
・広告で多くの人がサイトに来ているのに、商品ページからカートに入れる人が少ない場合、写真の質や説明文を改善する。
・カートに入れる人は多いのに、購入完了が少ない場合、送料表示をわかりやすくしたり、決済画面をシンプルにする。
このように、数字を見ながら改善点を特定していくと、漠然とした「売上が伸びない」という悩みが、具体的な行動に変わります。
実際の成果が見えると、「自社ならどこを直せば効くのか」が一気に明確になります。ここでは、SaaS/EC/B2B の3ケースを紹介させていただきます。
SaaSのケース:オンボーディングを磨いて有料化を一気に伸ばす
動画配信SaaSの Wistia は、無料トライアルからの有料転換が頭打ちでした。ログイン直後の体験に焦点を当て、オンボーディングメール8通の中身を全面改稿。
ユーザーが最初に価値を体感できるよう、手順を具体化し、迷いをなくす導線に組み替えた結果、有料転換が約3.5倍(+350%) まで跳ね上がりました。初期体験の設計とメッセージだけで、ファネル下流(転換)を大きく押し上げた好例です。
参照元:SaaSオンボーディングメールシーケンスにこれら7つのことを実行し、有料コンバージョンを3倍にしました
ECのケース:送料の“見える化”で購入完了率を押し上げる
家具系ECでは、「カートに入るのに最後で離脱」が課題でした。原因は送料情報が埋もれていたこと。サイト全体の上部バーだけで伝えていた「送料無料・返品無料」の訴求を、商品ページの主要エリアに再配置したところ、コンバージョン率が19%改善。
買う直前の不安(追加費用の不確実性)を取り除くと、ファネル終盤がスムーズに進むことが分かります。併せて、送料や配送スピードが離脱要因になりやすいという調査結果も複数報告されています
参照元:Eコマースの送料無料のケーススタディ: コンバージョン率はどのくらい向上するか?
BtoBのケース:リード対応の“速さ”で商談化を加速
BtoBでは、問い合わせからの初回接触の速さ(Speed to Lead) がファネルを大きく左右します。複数企業の大規模データ分析では、5分以内の対応で成約関連指標が大幅に向上。
Velocifyの研究では、1分以内の架電でコンバージョンが+391% という結果も示されています。さらに McKinsey の事例では、生成AIで優先度付けと次アクション提案を行い、コンバージョン+40%、リード処理のスピード+30% を実現。展示会やウェブ問い合わせ後の“初動”を仕組み化するだけで、商談化が目に見えて進みます。
参照元:(THE)究極のコンタクト戦略:つながり率とコンバージョンを高めるための、電話とメールの最適な活用法
ファネルを導入してもうまく成果が出ない企業には、いくつか共通した落とし穴があります。代表的なものを3つご紹介しましょう。
数字ばかりに目を向ける
KPIを達成していても、実際にはお客様の体験が悪化していることがあります。数字を追うことは大切ですが、「満足して使い続けてもらえているか」という視点を忘れてはいけません。
全部の段階を一度に改善しようとする
認知から購入、継続利用まで一気に見直そうとすると、リソースが分散して中途半端になります。まずは最も効果が大きい段階に絞って取り組むことが成果への近道です。
自社に合わないモデルをそのまま取り入れる
他社の成功事例を真似しても、自社の業界や商材に合わなければ効果は出ません。大事なのは「自分たちの顧客はどんな行動をするのか」を理解し、それに合わせて設計することです。
ファネルを「認知→興味→検討→購入→継続」の流れとして整理し、マーケ・営業・カスタマーサクセス、AARRRの4種類を解説させていただきました。
初心者でも実践できる構築手順(ステージ定義/KPI設定/施策設計/可視化)と、分析サイクル(計測→仮説→改善→再測定)を提示します。
SaaS・EC・BtoBの実例では、オンボーディングの強化、送料の見える化、リード即時対応が転換率を押し上げることを示し、ありがちな失敗(数字偏重・同時着手・他社の丸のみ)への対策も紹介したので、ご参照くださいませ。