営業組織をこれからインサイドセールスとフィールドセールスの分業型に移行しようと考えている企業にとって、
最初の一歩は決して簡単ではありません。
インサイドセールスとフィールドセールスを分けて立ち上げる際には、
役割の明確化や情報連携の仕組みづくりなど、解決すべき課題が山ほどあります。
本稿では、そんな立ち上げ期の企業がつまずきやすいポイントを踏まえながら、
インサイドセールスとフィールドセールスをどう設計し、どう連携させるかを実践的に解説します。
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営業組織を「分業制」に変えようと考えている企業が増えています。
とはいえ、いざインサイドセールスとフィールドセールスを分けて運用しようとしても、
「何がどう違うのか」「どこから設計すべきか」で迷う方も多いのではないでしょうか。
ここでは、営業体制を整える前に押さえておきたい2つの役割の違いと、
その連携のポイントをわかりやすく整理します。
リモートワークやオンライン商談の普及によって、
営業の現場は「訪問中心」から「非対面中心」へと大きく変わりました。
その中核を担うのがインサイドセールスです。
インサイドセールスは、電話やメール、Web商談ツールを活用し、
顧客と直接会わずに関係を築く営業のスタイルです。
現場への移動に時間を割かず、データをもとに効率よくアプローチできるのが大きな強みとなります。
限られた人員でも、より多くの見込み顧客と接点を持てるのが魅力です。
また、マーケティングオートメーション(MA)や顧客管理ツール(CRM)を活用し、
「どの顧客が、今どんな関心を持っているのか」を把握しながら最適なタイミングで連絡します。
単なる“電話営業”ではなく、顧客の課題を見つけ、商談の入口をつくる専門チームといえるでしょう。
さらに、マーケティングとフィールドセールスの橋渡し役としても重要です。
見込み顧客を育てて(リードナーチャリング)、営業の次のステップへスムーズに引き継ぐ。
数字に強く、人との対話にも長けた、いわば「データと会話の両方を操る司令塔」のような存在です。
これから営業を分業化する企業にとって、最初に整えるべき中核ポジションと言えます。
フィールドセールスは、顧客と直接向き合い、提案から契約までを担当する営業職です。
訪問や商談を通じて、相手の課題や本音を引き出しながら、最適な提案を行います。
顧客の表情や反応を読み取り、その場で関係を築けるのがフィールドセールスの醍醐味です。
ただし、近年のフィールドセールスは、もはや「訪問する人」ではありません。
オンライン商談ツールや電子契約が普及したことで、「対面」と「オンライン」を柔軟に組み合わせるハイブリッド型へと進化しています。
特にBtoBの世界では、導入を決めるまでに複数の担当者が関わるため、
課題を整理し、社内調整をリードする“戦略的な営業力”が求められます。
アウトサイドセールスとの違いと位置づけ
「フィールドセールス」と「アウトサイドセールス」という言葉を混同しやすいですが、実は同義です。
アウトサイドとは、オフィスの外で顧客と接する営業スタイルのことを指します。
一方、“フィールド”という言葉はより広く、「商談現場全体」をイメージさせる言い方として定着しています。
現代では、“どこで営業するか”ではなく、“どんな役割を担うか”で区別されるのが一般的です。
つまり、インサイドセールスが商談を生み出し、フィールドセールスが契約を獲得するという流れが基本になります。
この分業体制がうまく機能すれば、営業プロセスが整理され、成果が見える化されます。
しかし、役割を曖昧にしたまま立ち上げてしまうと、リードの引き継ぎミスや顧客対応の重複など、思わぬロスが発生します。
だからこそ、まずは「どのタイミングで、誰が、何をするのか」という線引きを明確にすることが、成功の第一歩です。
仕組みを整える前に、この“役割設計”を丁寧に描いておくことが、分業体制を長く機能させるカギになります。
営業の分業体制を整えたはずなのに、なぜか思ったほど成果が上がらないというような声をよく耳にします。
その多くは、チーム間の「つながりの弱さ」に原因があります。
デジタル化によって便利なツールが増えた一方で、
営業プロセスがバラバラになってしまうケースも少なくありません。
例えば、インサイドセールスが丁寧に育てたリードが、フィールドセールスに正確に引き継がれない。
あるいは、マーケティングと営業で“見込み顧客”の定義が食い違っている。
そんな小さなズレが積み重なり、商談のチャンスを逃してしまうのです。
連携の本質は、「単なる情報の受け渡し」ではなく、
「見込み顧客に関するニーズなどの情報も一緒に共有すること」にあります。
顧客データを中心に据え、インサイドセールスとフィールドセールスが
ひとつのチームのように連携して動くという状態をつくることが、
今の営業組織にとって何より重要です。
インサイドセールスがヒアリングした顧客の課題や関心、要望を、
フィールドセールスにリアルタイムで共有できる仕組みを整える必要があります。
この連携が機能し始めると、営業活動の質は大きく変わります。
顧客とのコミュニケーションが「点」ではなく「線」でつながり、
どの担当者が対応しても一貫した体験を提供できるようになるからです。
例えば、インサイドセールスが得た課題をもとに、フィールドセールスがより深い提案を行う。
その結果、顧客は「自分のことを理解してくれている」と感じ、信頼が自然と生まれます。
これは単にデータを共有しているだけでは得られない、営業組織としての共通理解の成果です。
こうした仕組みが定着すると、営業は“属人戦”から“チーム戦”へと変わります。
一人のスキルや経験に頼らず、チーム全体が同じ顧客像を描ける状態。
それこそが、成果を安定的に生み出す強い営業組織の姿です。
営業組織が拡大するほど、チーム感での連携の質が重要となります。
どちらのチームも実力があるのに、結果が伸び悩むのは、
役割と責任が曖昧になることとチーム間での情報の分断という設計のゆがみが隠れていることが多いものです。
ここでは、両者がそれぞれの強みを発揮できるようにするための分業設計と、
実務の最適化ポイントを整理していきます。
具体的な役割分担とフロー設計
まず大切なのは、「どこからどこまでを誰が担当するか」を明確にして
数値目標や定性目標を設定することです。
インサイドセールスとフィールドセールスの境界が曖昧だと、
リードの温度感が伝わらず、顧客対応の一貫性も失われます。
理想的な流れは次のようなイメージです。
| フェーズ | 主な担当 | 目的・ゴール |
|---|---|---|
| リード獲得 | マーケティング | 資料請求・セミナーなどで潜在顧客を獲得 |
| リード育成 | インサイドセールス | 顧客の関心を高め、課題をヒアリング |
| 商談化(トスアップ) | インサイドセールス ⇒フィールドセールス | 商談化条件(BANTやFIT)を確認 |
| 提案・クロージング | フィールドセールス | 提案書作成・見積・契約締結 |
こうして営業プロセスを区切ることで、「どこで成果が止まっているのか」が見えやすくなります。
また、定期的にKPIを振り返り、営業結果によっては境界線を見直すことも重要です。
営業の仕組みは一度作って終わりではなく、顧客や市場の変化に合わせて進化させるものだからです。
リード獲得からトスアップ・商談への流れ
リードが商談に進むまでのプロセスは「トスアップフロー」と呼ばれます。
この設計次第で、商談化率や受注率は大きく変わります。
一般的な流れを整理すると、次の通りです。
1. リード獲得(マーケティング)
Web広告やSEO、セミナー、ホワイトペーパーなどで見込み顧客を集める。
2. スコアリング・優先順位付け(MAツール)
開封率やサイト滞在時間などの行動データをもとに、今アプローチすべき顧客を抽出。
3. 初回アプローチ(インサイドセールス)
メールや電話でヒアリングを行い、課題や温度感を確認。
4.トスアップ条件の判断
「決裁権があるか」「導入時期はいつか」など、BANTやCHAMP基準で評価。
5. 商談アサイン(フィールドセールスへ)
SFA上で引き継ぎ、日程や目的を明確にした上で商談へ移行。
このプロセスで特に大事なのは、トスアップの基準をチーム全体で共有することです。
判断基準が曖昧だと、確度が低いアポが増え過ぎて受注率が下がる可能性が出てきます。
逆に厳しすぎるとチャンスを逃すこともあるため、データを基に適宜見直す柔軟さが求められます。
MA/SFA/CRMによる分業の効率化
インサイドセールスとフィールドセールスの連携を支えるのは、データとツールとなります。
現在では、MA(マーケティングオートメーション)・SFA(営業支援)・CRM(顧客管理)を
連携させて運用するのが主流になっています。
・MAツール(例:HubSpot、Marketo)
見込み顧客の行動をスコアリングし、アプローチ優先度を自動的に判定させます。
・SFA(例:Salesforce)
商談進行を可視化し、トスアップ後の対応履歴を共有していきます。
・CRM(例:Kintone、Zendeskなど)
顧客との接点情報を一元管理し、再提案やリピートの土台を作らせます。
これらを連動させることで、「リード→商談→契約」までの情報がシームレスにつながります。
ツール導入が目的になりがちな企業もありますが、
真に重要なのは、どの情報を意思決定に活かすかという設計思想です。
顧客情報の共有・引き継ぎのポイント
どんなに優れたツールを使っていても、情報共有が形だけになってしまえば分業は機能しません。
特に商談の引き継ぎでは、数字に表れない顧客の“温度感や背景をしっかり伝えることが欠かせません。
おすすめの実践方法は次の通りです。
SFAに引き継ぎテンプレートを設ける
顧客課題・興味関心・意思決定者・懸念事項をフォーマット化して漏れがないようにします。
週次の商談レビューを実施
インサイドとフィールド双方が参加し、成功・失敗事例を共有していきます。
商談ログの音声や録画を共有
細かなニュアンスや顧客の反応もきっちり共有していきます。
引き継ぎは事務作業ではなく、顧客体験をつなぐリレーだと捉えることが大切です。
互いの営業スタイルを理解し合い、同じ方向を向いて動く。
その積み重ねが、組織全体の信頼感と成果を確実に高めていきます。
成果を出す営業組織には、ある共通点があります。
それは、「チームとしての連携がうまい」ということです。
どれだけ優秀なインサイドセールスが質の高いリードを作っても、
フィールドセールスがそれをうまく活かせなければ、数字には結びつきません。
逆に、フィールド側が独自に顧客を開拓しても、情報が共有されなければ組織の資産にはならない。
つまり、営業成果を左右するのは個人の腕前ではなく、全体の最適化なのです。
ここでは、両者が同じ方向を向いて動けるようにするための実践的な連携ステップを、
「情報共有」「KPI設計」「コミュニケーション」「課題改善」の4つの観点から解説していきます。
情報共有とデータ活用──“ためる”より“流す”設計へ
まず最初に整えたいのが、情報の透明化です。
どんなにデータを集めても、それが個人メモで止まってしまえば意味がありません。
大切なのは、情報を“ためる”のではなく、“流れる”ように設計すること。
CRMやSFAなどのシステムに登録したデータは、定期的に整理してチーム全体で見える化しましょう。
例えば、次のような仕組みが効果的です。
MAツールのスコアをSFAに自動連携
インサイドが「今すぐ対応すべきリード」をリアルタイムで把握できるようにします。
商談メモをテンプレート化しタグで管理
フィールドが過去案件を簡単に検索できようにします。
共通ダッシュボードを運用
チーム全体のKPIや進捗を一目で確認できるようにします。
こうした情報の流れを仕組み化できると、「どの顧客が今どんな状況か」が明確になります。
そして、メンバー全員が同じ情報をもとに判断できるようになり、アプローチの精度が一気に上がります。
ツールに頼るだけでなく、情報を活かす文化を育てることが、最終的な成果を左右します。
KPI設計──数字を“つなげて”見る視点を持つ
次に重要なのが、チーム全体で数字をどう見るかという視点です。
ありがちな失敗は、インサイドとフィールドがそれぞれ別のKPIで動いてしまうケース。
これでは、どちらかが結果を出しても組織全体の成長にはつながりません。
代表的なKPIを整理すると、以下のようになります。
| 役割 | 主なKPI | サブ指標 |
|---|---|---|
| インサイドセールス | トスアップ数・商談化率・架電数 | リード対応時間・顧客満足度 |
| フィールドセールス | 受注率・案件単価・提案件数 | 商談進行率・失注理由の分析率 |
| チーム全体 | 商談創出から受注までのリードタイム | CAC・LTVなどの経営指標 |
ポイントは、KPIを“縦割り”ではなく“連動型”に設計することです。
例えば、インサイドの商談化率が落ちた場合、
「営業力の問題」と単純に決めつけず、マーケティングのリード質や引き継ぎ条件まで遡って分析する。
数字を点ではなく線で捉える習慣が、チーム全体の精度を高めます。
信頼を生むコミュニケーション──意見交換の“場”を設計する
どんなに優れた仕組みがあっても、最終的にチームを動かすのは人と信頼関係です。
インサイドとフィールドの間では、
「せっかく温めたリードを軽視された」「商談化の基準が厳しすぎる」
といった小さな不満が生まれがちです。
こうした摩擦を防ぐには、以下のような意見交換の場を定期的・仕組み化して設ける必要があります。
週次のトスアップレビュー
基準や成功事例を共有し、判断基準をすり合わせる。
商談同席・フィードバック制度
インサイドが成約商談に立ち会い、顧客理解を深める。
チーム間アンケート
“連携の満足度”や“信頼度”を数値化し、温度感を可視化する。
こうした小さな仕組みの積み重ねが一体感を生み出します。
実際のところ、この心理的な信頼感こそが営業の成果を長く支える資産だと感じます。
よくある課題と改善のヒント
分業が進むほど、連携には摩擦が生まれます。
よく見られる課題とその改善策を、以下に整理しました。
| 課題 | 背景 | 改善策 |
|---|---|---|
| トスアップ条件のズレ | KPI・評価基準の不一致 | 定義を文書化し、定期的に見直す |
| 情報共有の遅延 | ツール入力が後回しになる | 自動連携・簡易入力の仕組み化 |
| 顧客対応の重複 | 担当範囲が不明確 | CRM上でステージごとに担当を明示 |
| 成果認識のズレ | 個人主義的な評価文化 | チーム単位の成果評価に変更 |
連携を機能させるポイントは、「仕組み」ではなく「習慣」として根づかせることです。
「報告しなければならない」ではなく、「共有したほうが成果が上がる」と実感できる環境をつくる。
そのためには、定期的な振り返りやミーティングで、チームの空気感を見える化することが欠かせません
どんなに綿密な営業設計を描いても、現場で機能しなければ意味がありません。
特にインサイドセールスとフィールドセールスの連携は、
制度も重要ですが、日々の運用で成否が決まります。
ここでは、成果を上げている営業チームが実践している運用設計と体制構築のコツを、順を追って見ていきましょう。
効率的な営業活動を生み出す運用フロー
営業の効率化で最も重要なのは、誰がやっても同じ結果を出せる仕組みを整えることです。
経験や勘に頼ったやり方のままでは、成果は安定しません。
おすすめのフローは以下になります。
① リードの一次仕分け
マーケティングから送られたリードをスコアリングし、温度感で分類します。
「今すぐ対応」「フォロー継続」「長期育成」の3区分が基本です。
② 優先順位に応じたアクション設定
ホットリードはインサイドがすぐに連絡し、コールドリードはMAで自動フォローへ。
この切り替えの明確さが、時間の使い方を大きく変えます。
③ トスアップ時の基準を明文化
商談化条件(BANTなど)をチェックリストに落とし込み、誰が見ても判断できる状態に。
「この条件を満たしたら渡す」という線引きが連携の要です。
④ フィードバックループの構築
商談後はフィールドから結果をインサイドへ共有し、どのリードが成約に至ったのかを分析します。
このフィードバックが、次のアプローチ精度を高めます。
この流れが整うと、営業は属人的な動きから脱し、成果が再現できるチームへと進化します。
教育・セミナーで育てる“成長する組織”
どんなに仕組みが整っていても、現場の理解とスキルが追いつかなければ形だけの分業になります。
特にインサイドセールスは新しい職種だけに、育成が後回しになりがちです。
成長企業では、教育を「研修」ではなく「文化」として定着させています。
効果的な取り組みは次の3つです。
スキルアップセミナー
顧客理解やヒアリング力など、実務に直結するテーマで継続開催。
外部講師を招くと、現場に新しい視点が入ります。
ロールプレイと録画レビュー
商談や電話対応を録音し、チームで振り返り。
成功例だけでなく失敗事例も共有することで、学びが深まります。
キャリアパスの明確化
「インサイド→フィールド→マネジメント」などの成長ルートを見える化し、
単なる“通過点”ではなく“専門職”としての誇りを持たせる。
教育が文化として根づいたチームは離職率が低く、部門間の信頼関係も自然に強まります。
よくある失敗と成功の分かれ道
分業体制を導入したばかりの企業でよく見られるのは、
仕組みの設計よりも“運用の意識”が整っていないケースです。
典型的な失敗と、そこから抜け出すヒントを整理してみましょう。
よくある失敗パターン
・成果の定義があいまいなまま分業を導入
ゴール認識がずれ、チーム間で責任の押し付け合いに。
・ツール導入で解決しようとする
データは溜まるが、誰も使わず“宝の持ち腐れ”状態に。
・KPIが個人ごとに最適化されている
部門ごとに数字を競い合い、協働意識が薄れる。
・リードの質を見ずに量を追う
商談が増えても成約率が下がり、現場が疲弊。
成功企業に共通する意識
・顧客体験の一貫性を最優先に考える
・KPIや評価をチーム単位で共有する
・ツールの目的を明確にし、担当を固定しない
・失敗をオープンに話せる文化を育てる
“やめとけ”といわれる分業の失敗は、構造の問題ではなく、使う人の意識と文化の問題です。
分業とは、単なる体制改革ではなく、組織を成熟させるための文化づくりのプロセスでもあるのです。
インサイドセールスとフィールドセールスの分業は、単なる効率化の手段ではなく、
顧客体験を起点にした営業の再構築です。
両者が役割を理解し、データと信頼を共有することで、組織は再現性ある成果を生み出せます。
成功の鍵は、ツールやKPIの整備だけでなく、「人と人が情報をつなぐ文化」を育てることです。
分業の目的は分断ではなく連携であり、
チーム全体が一つのリズムで顧客を支える体制を築くことが、
これからの営業組織の成長を決定づけます。