「ABMを始めたが商談につながらない」。
そんな悩みを抱えるBtoBマーケティング担当者は少なくありません。ターゲット選定やコンテンツ作成に力を注いでも成果が出ない背景には、マーケティングと営業をつなぐ“歯車”——BDR(Business Development Representative)の機能不足があります。
ABMを進める企業の多くは、BDRとの情報共有や役割定義が曖昧なまま動き出し、戦略と現場の間に溝が生まれています。
一方で、成果を上げている企業はマーケとBDRが共通の指標を持ち、どの企業をどう攻めるかを一体で考えています。その結果、ABMが“リード獲得施策”ではなく“商談創出の戦略”として機能しているのです。
今求められているのは、ABMとBDRを一体で設計し、理想顧客像を現場の接点に転換する仕組みです。マーケと営業が対立せず、ひとつのチームとして連動できる組織こそ、これからのBtoB市場で強さを発揮するでしょう。
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ABM(Account-Based Marketing)はアカウント単位で戦略を設計し、優先度やメッセージを定めることが役割です。
他方、BDR(Business Development Representative)は、その戦略をもとに意思決定者・関与者へ個別接点をつくる実務の役割を担います。
現場では、この2つが噛み合って機能する必要があります。ところが役割の境界が曖昧だと、マーケティングが作った戦略を営業が“別の言語”で解釈してしまい、せっかくのターゲティングやデータ分析が空回りすることがあります。
ABM:戦略の設計図を描く
ABMは、マーケティング活動を“量”ではなく“質”で戦う考え方です。
見込み顧客を広く集めるのではなく、自社の理想顧客像(ICP)に最も近い企業や大企業を厳選し、個社ごとに最適なメッセージやコンテンツを設計します。
例えば、Web行動データや過去の取引履歴をもとに「今、検討フェーズに入りつつある企業」を特定し、意思決定者の課題に沿った情報を届けるなどになります。
ただし、どれほど優れた戦略を立てても、それを届ける人がいなければ成果にはつながりません。そこで登場するのがBDRです。
BDR:戦略を現場で動かす実行者
BDRは、営業の最前線で「戦略を人の手で動かす」存在です。
マーケティングから提供されたターゲットリストやシグナルをもとに、企業に直接アプローチし、対話を通じて関心を引き出します。目的は、単なるアポイント獲得ではなく、“営業が動く価値のある商談”を生み出すこと にあります。
彼らは、メールや電話、SNSなど複数のチャネルを駆使して、商談設定を行っていきます。
相互補完の関係:戦略と実行をつなぐ循環
ABMとBDRは、どちらか一方が主導するものではありません。
ABMが戦略を描く頭脳だとすれば、BDRは現場で動かす手足です。
しかし、両者が独立して動いてしまうと、
どんなに優れた戦略も現場に届かず、どんなに努力しても成果が出づらくなります。
実際に成果を上げている組織では、
BDRが現場で得た情報をABMチームへフィードバックし、
そのデータをもとに戦略を再設計する循環が確立されています。
このループが回り始めると、施策の精度が高まり、ターゲットアカウントとの接点が“意図ある商談”へと変わっていきます。
マーケティングと営業を分けて考える時代は、もう終わりに近いのかもしれません。
ABMとBDRは、本来ひとつの仕組みの中で呼吸を合わせる存在。
その相互作用を意識するだけで、戦略の強度は大きく変わります。
戦略を描くだけでは、組織は動きません。
マーケティングが理想を語り、BDRが現場で試行錯誤を続ける、
その両者がかみ合ったとき、初めてABMは“機能する仕組み”へと変わります。
ここでは、ABMとBDRを連携させて成果を出すための、現実的な4つのステップを紹介します。
Step 1. ターゲットアカウントを「一緒に」定義する
最初のステップで最も重要なのは、「誰に対して売るのか」をマーケとBDRが同じ目線で決めることです。
マーケティングがデータ分析だけで優先リストを作っても、
BDRが“現場感覚として違和感を覚える”なら、リストは生きたものになりません。
効果的な方法は、両チームでワークショップ形式の選定会議を行うこと。
過去の商談履歴や失注理由を可視化し、顧客の共通点を抽出します。CRMデータだけでなく、現場の声や商談メモをもとにした定性的な視点も欠かせません。
ABMの設計段階からBDRが関わることで、戦略と実行が自然に一体化します。
Step 2. シグナルを軸にしたアクション設計
ターゲットを決めたあとは、「どのタイミングで、どんな動きをするか」を具体的に決めます。
Webサイトの訪問履歴、ホワイトペーパーのダウンロード、
イベント参加など、顧客の行動データには「購買意欲のシグナル」が隠れています。
その情報をもとに、「どんな行動があったときにBDRがアクションを取るのか」を明確にルール化しておくことが大切です。
例えば、一定期間内に複数回アクセスがあった企業は優先連絡対象とする、という具合です。
BDRが感覚で動くのではなく、データに基づくトリガー設計を行うことで、チーム全体の生産性が大きく変わります。
ただし、データだけに頼りすぎると、相手の“温度”を見誤ることもあります。
数字を指標にしつつも、メールの返信文面や会話のトーンなど、
BDRが感じ取った生の感触をマーケにフィードバックする。
この「データと現場感覚の往復」が、ABMを活用した営業成功率を決定づけます。
Step 3. メッセージとコンテンツの整合性を取る
ABMでは、ターゲット企業ごとにカスタマイズされたメッセージが求められます。
しかし、マーケが配信するメールとBDRのトークがちぐはぐだと、相手に違和感を与えてしまう。
そこで重要なのが、「コンテンツと会話の共通言語化」です。
例えば、マーケティングメールで使うキーメッセージを、
BDRが初回接触時のトークに自然に組み込めるように設計しておく。
「コンテンツ→対話→商談」という流れを一貫したストーリーとして設計できれば、
顧客体験は滑らかになります。
そのためには、定期的に両チームでコンテンツレビュー会を行い、実際の反応をもとに言葉を磨くプロセスが有効です。
Step 4. フィードバックループを仕組み化する
最後のステップは、ABMとBDRを結ぶ“改善の循環させる仕組み”を作ることです。
どれだけ入念に戦略を立てても、初回から完璧にハマることはありません。
むしろ、最初の1~2ヶ月は「うまくいかない前提」でデータを集める期間と考えた方が現実的です。
成果の出ているアプローチや、ターゲット企業の反応を定期的にマーケが分析し、ABMの設計を更新します。
BDR側も、営業現場で感じた課題や成功パターンを共有し、ABMチームと議論を重ねていきます。
このサイクルを週次や月次で継続することで、組織全体がひとつの「学習システム」として成長していきます。
ABMとBDRの連携は、単なるプロセス設計ではありません。
戦略を現場が信頼できる形に落とし込み、現場の声が戦略を磨いていきます。
その双方向の関係性が生まれた瞬間、組織の中に“成果の兆し”が見え始めます。
ABMとBDRを結びつける取り組みは、決して難解な理論ではありません。
けれども、うまく進める企業とそうでない企業の差は、驚くほど明確です。
表面的な仕組みづくりではなく、「どんな姿勢でこの連携に向き合うか」によって結果が変わります。
成功のポイント
1. ABMは「戦略」、BDRは「戦術」—両輪で動かしてこそ成果が出る
ABMが市場を俯瞰して「どこを攻めるか」を定める一方で、BDRは現場で「どう攻めるか」を体現します。
この二つを別々に考えると、どんなに正しい戦略でも現場に届かず、どんなに努力しても方向が定まりません。
理想は、ABMが描く地図の上でBDRが動き、実際の反応をマーケに返す形です。
その結果、マーケティングは戦略を現実的にアップデートし、BDRはより精度の高い行動に集中できます。
いわば、「戦略が現場を導き、現場が戦略を磨く」 循環が生まれるわけです。
2. 「双方向フィードバック」が組織の血流になる
成功している組織ほど、BDRの声を丁寧に拾っています。
電話やメールで得た反応、会話の中で感じた「温度」や「違和感」——それらは、どんなマーケティングデータよりも貴重です。
マーケティングが数字で仮説を立て、BDRが実際に接触して確かめます。
そしてその結果を再びABMに戻す。この繰り返しが、組織に“学習”という筋肉をつけていきます。
うまくいくチームほど、データと感情の両方を大切に扱っています。
数字だけを信じない、けれど感覚だけにも頼らない。そのバランス感覚が鍵です。
よくある失敗
1. リストのズレが生む「机上のABM」
マーケティングが作ったターゲットリストが、
BDRの現場感と乖離している状態では、どんなに立派な戦略も空回りしてしまいます。
実際には、リストの中に“本当の見込み企業”が少ないまま、架電件数だけが増えて結果がでないことも多々ありえます。
最初の設計段階で現場の声を取り入れないと、ABMは「動かない計画」になってしまいます。
2. KPIが別々に設定され、連携が形骸化する
マーケティングが「リード数」、BDRが「商談数」を追っているというように、
指標が分かれていると、双方の目的がすれ違います。
マーケは「数」を、BDRは「質」を求めるため、どちらの成果も正当に評価されにくいのです。
連携を本質的に進めるには、共通KPIの設定が不可欠です。
例えば、「ターゲットアカウントの商談化率」など、両チームが同じゴールを見られる指標に置き換えるだけで、会話の質が劇的に変わります。
3. テクノロジー導入に頼りすぎて運用が追いつかない
MAやCRMを入れた瞬間に連携が進む、というようなことは中々起こりえません。
システムはあくまで仕組みを支える“道具”であって、人の理解や運用設計がなければ機能しないのです。
多くの企業がここでつまずくのは、ツール導入を目的化してしまうからです。
本来の目的は「チーム全体で顧客との接点を最適化すること」。
テクノロジーはその手段にすぎません。使いこなすためには、現場の運用ルールやデータ更新の習慣まで含めて整える必要があります。
ABMは狙う相手と価値の伝え方を設計する戦略、BDRはその設計を現場で動かす実働です。
両者が同じ指標を見て、ターゲット定義・シグナル起点の行動・メッセージ整合・定例の振り返りを回すことで商談創出は加速します。
マーケと営業が一体で動くことが、関係の深さと成果の質を高めることができます。