ECサイトを運営するうえで、「売上を伸ばしたい」「顧客を増やしたい」と考えるのは当然のことです。ただ、具体的にどの指標を追いかけるべきかが曖昧だと、日々の施策が場当たり的になってしまいます。
「とりあえずアクセス数を増やそう」「広告を打てば売上は伸びるはず」と考えがちですが、成果につながるかどうかは別の話です。
重要なのは、売上や成長につながる要素を分解し、どこを改善すれば最も効果が出るのかを明確にすることです。その指標として使われるのがKPI(Key Performance Indicator)です。
とはいえ、KPIといってもいろいろな種類があり、「訪問者数」「コンバージョン率」「リピート購入率」など、どれを優先すべきかは業態や戦略によって変わります。むやみに指標を増やしてしまうと、どこに注力すべきかがぼやけてしまうこともあります。
ここでは、ECサイトにおけるKPIの基本から、設定のポイント、運用する際の注意点まで、実践的な視点で解説させていただきます。
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「売上を伸ばすには、何をすればいいのか?」
これはECサイトの運営者なら誰しも考えるテーマです。ただ、売上を追うだけでは、どの施策が効果的なのかが見えにくくなります。そこで重要になるのがKPI(Key Performance Indicator)、つまり業績の進捗を測る指標です。
KPIは、事業のゴールに向かうための道しるべのようなもので、ECサイトを販路として業績を伸ばすのであれば、「訪問者数」「コンバージョン率」「客単価」といった要素が売上に関係してきますが、それらを細かく分解して、適切な指標を設定することができれば、どこを強化すべきかが明確になります。
KPIを設定するうえで意識すべきなのは、「KGI」と「KSF」とのバランスです。
KGI・KSF・KPIの関係とは?
KPIを考える際に、まず押さえておきたいのがKGI(Key Goal Indicator)とKSF(Key Success Factor)という考え方です。
KGI(重要目標達成指標)
→ ECサイト全体として達成すべき最終的なゴールとなります。具体的かつ定量的に設定し、「年間売上100億円を達成する」などの形で示します。
KSF(重要成功要因)
→ 目標を達成するために欠かせない要素となります。例えば「サイトの表示速度を高速化する」「購入手続きを簡単にする」「レビュー機能を充実させる」などが挙げられます。
KPI(重要業績評価指標)
→ KSFが機能しているかどうかを測る指標となります。
たとえば、「年間売上1億円」という目標(KGI)を掲げたとします。売上を伸ばすためには、「新規顧客を増やす」「リピート率を上げる」「客単価を上げる」といった要素(KSF)が必要になります。そして、その進捗を追うために、「月間訪問者数」「リピート購入率」「平均注文額」などのKPIを設定するのです。
このように、KPIはKGIを達成するための「チェックポイント」として機能します。これが明確になっていないと、なんとなくアクセス数を増やしたり、広告を打ったりと、場当たり的な施策になりがちです。
KGI・KPI・KSFの違いと混同しやすい点
KPIを設定する際に、ありがちな間違いが「KGIと混同すること」です。売上や利益といった大きな数値だけを見ていると、「どこを改善すればいいのか」が分かりにくくなります。
例えば、「売上を前年比20%アップさせる」というKGIを掲げた場合、
「月間の購入件数を増やす」「客単価を上げる」といった施策が考えられます。この時、「売上20%アップ」という大目標だけを追うのではなく、「月間訪問者数」「CVR(購入率)」「平均注文額」など、具体的な行動指標(KPI)を設定することが大切です。
一方で、KPIばかりに目を向け、全体の目標を意識しないのも問題です。たとえば、「サイトのPV数を増やす」というKPIを設定したとします。しかし、PVを増やすだけでは売上につながるとは限りません。広告流入が増えても、コンバージョン率が低ければ意味がないからです。
つまり、「KGI → KSF → KPI」という流れを意識しながら、売上につながる本質的な指標を選ぶことが重要だと言えます。
KPIをうまく設計できれば、ECサイトの成長が数字として見えるようになりますし、どの施策が効果的なのかも明確になります。逆に、KGIと混同したり、的外れな指標を設定すると、無駄な施策に時間を割くことになりかねません。
運営の方向性を見誤らないためにも、「KGI」「KSF」「KPI」の役割を正しく理解し、それぞれの関係性を意識して指標を設定していくことが求められます。
ECサイトを運営していると、日々の数字に振り回されがちです。売上が伸びた日はホッとするし、落ち込めば「何かしなければ」と焦る。でも、その「何か」が漠然としていると、結局、何も変わらないまま時間だけが過ぎてしまいます。
そんなときに軸となるのがKPIです。目標を数値化し、現状を可視化することで、どこを改善すべきかが明確になります。ただし、KPIの設定が間違っていると、まったく意味のないデータを追うことになりかねません。では、なぜKPIが重要なのか?具体的に考えていきましょう。
目標管理の指針となる
ECサイトの運営は、一人だけの仕事ではありません。マーケティング担当、商品企画、カスタマーサポートなど、さまざまな部署が関わっています。もし、目指す方向がバラバラなら、どれだけ頑張ってもチームとしての成果は出にくくなります。
KPIを設定することで、すべての関係者が共通の目標を持てるようになります。たとえば「売上を月間1,000万円にする」という目標があった場合、それを達成するために「CVRを○%に上げる」「訪問者数を○人増やす」といった具体的な数値が必要になります。
KPIがあると、それぞれの施策がゴールにどう貢献しているのかが見えてきます。
「SEOで流入を増やす」「広告運用を最適化する」「カート離脱を防ぐ」といった施策も、売上にどのくらい影響を与えているのかをKPIで測ることができるのです。
この共通認識がないと、「頑張っているのに結果が出ない」と感じることが増えてしまいます。むしろ、KPIが正しく設定されていれば、たとえ売上がすぐには伸びなくても、「訪問者数は増えている」「コンバージョン率は改善している」など、前向きな手応えを感じやすくなります。
進捗状況の「見える化」
KPIのもう一つの大きな役割は、現在地を客観的に把握できることです。
ECサイトでは、「なんとなく売上が上がった」「最近アクセスが減ってきた」といった感覚だけでは、次の一手を決められません。数字をしっかり見て、どこに課題があるのかを分析することが必要です。
たとえば、売上が落ち込んでいるとします。
ここで「広告の費用対効果が悪くなっているのか?」「新規顧客の流入が減っているのか?」「リピート購入者が減っているのか?」といった具体的な要因を探ることができます。
また、PDCAサイクルを回す際にも、KPIは重要な指標になります。「施策Aを試した結果、CVRが○%上がった」「施策Bは訪問者数は増えたけど、売上にはつながらなかった」など、データを元に判断すれば、次のアクションも明確になります。
曖昧な感覚で施策を進めると、改善の手がかりがつかめず、同じ失敗を繰り返してしまうことが少なくありません。KPIがあることで、やるべきことと不要なことが整理され、運営の精度が上がっていきます。
課題の優先順位付け
ECサイトの運営では、やるべきことが山ほどあります。商品ページの改善、広告の最適化、SEO施策、メルマガ配信、リピーター施策…。すべてを完璧にこなすのは難しいですし、リソースも限られています。
だからこそ、KPIをもとに「優先すべき課題」を見極めることが重要です。
たとえば、売上を伸ばすには「訪問者数を増やす」のか、それとも「CVRを改善する」のかによって、取るべき施策は大きく変わります。
・訪問者数が足りないなら? → SEO対策、広告出稿、SNS施策
・訪問者数は多いのに購入につながらないなら? → 商品ページの改善、カート離脱対策、決済のスムーズ化
・リピーターが増えないなら? → メールマーケティング、ポイントプログラム、定期購入の提案
KPIを正しく設定していれば、「いま本当に注力すべき課題は何か?」が一目で分かるようになります。逆に、KPIが曖昧だと、「とりあえず全部やる」という無駄の多い戦略になり、成果が出るまでに時間がかかってしまいます。
KPIを設定することは、すべての施策に優先順位をつけることでもあります。
「いま改善すべき課題」を明確にして、効率よく成果につなげていくためにも、KPIの活用は欠かせません。
ECサイトの運営では、「売上を伸ばす」とひとことで言っても、その内訳を細かく見ていく必要があります。なぜなら、売上の変動はさまざまな要素が絡み合って生まれるものだからです。
たとえば、「売上が落ちた」と感じたときに、何が原因なのかを正しく突き止めるには、売上の構成要素を分解して考える必要があります。「訪問者が減ったのか?」「コンバージョン率が下がったのか?」「客単価が落ちたのか?」、それぞれの数値を確認することで、打つべき施策が見えてきます。
では、ECサイトにおいて重要とされるKPIにはどんなものがあるのか。ここでは代表的な指標をカテゴリーごとに整理してみます。
売上関連のKPI
売上はECサイトにとって最も分かりやすい指標ですが、ただ「売上を上げる」というだけでは、どこに手を加えるべきかが見えてきません。そのため、売上に影響を与える要素を分解し、細かく指標を設定していきます。
新規顧客獲得件数
新しく商品を購入した顧客の数を指します。ECサイトの成長には、新しい顧客の流入が欠かせません。この指標を増やすためには、広告、SEO、SNS施策、キャンペーンなどのマーケティング戦略を最適化することが求められます。また、獲得した顧客のLTV(顧客生涯価値)を高める施策と組み合わせることで、売上の安定化につながります。
既存顧客の維持率
リピーターの割合を示す指標で、過去に購入した顧客が一定期間内に再び購入しているかを測定します。新規顧客を獲得するにはコストがかかるため、ロイヤルティプログラム、ポイント制度、会員限定セールなどを活用し、既存顧客の継続利用を促すことが重要です。維持率が高いほど、安定した売上基盤を築くことができます。
リピート購入回数
一人の顧客が特定の期間内に何回購入したかを示す指標です。ECサイトでは、初回購入で終わるのではなく、複数回の購入につなげることが売上拡大の鍵になります。定期購入モデルやサブスクリプション、レコメンド機能、フォローアップメールなどを活用することで、購入頻度を上げる施策が有効です。
売上を伸ばすためには、「顧客単価を上げるのか」「購入回数を増やすのか」「新規顧客を増やすのか」など、異なる施策が考えられます。KPIを使って、それぞれの影響度を測ることが大切です。
集客(トラフィック)関連のKPI
どれだけ良い商品を扱っていても、ECサイトに訪問者がいなければ売上にはつながりません。集客の状況を把握するためのKPIとして、以下の指標が使われます。
・UU(ユニークユーザー数):一定期間内にサイトを訪れたユーザーの数となり、同じ人が何度訪問しても1でカウントされます。
・セッション数:ユーザーがサイトを訪れた回数となります。
・直帰率:最初のページだけを見てサイトを離脱した割合となります。高すぎると、訪問者がすぐに興味を失っている可能性があるので、改善が必要となります。
・離脱率:各ページでの離脱の割合となります。カートページや商品詳細ページでの離脱が多い場合、購入を妨げる要因があるかもしれない。
集客は単純に「訪問者数が多い=成功」とは言い切れません。アクセス数は多いのに売上につながらない場合は、ターゲットがズレている可能性もあります。流入経路やユーザーの行動も合わせて分析することが重要です。
コンバージョン関連のKPI
訪問者が増えても、購入につながらなければ意味がありません。コンバージョンに関わる指標は、売上に直結するため、細かくチェックする必要があります。
・CV数(コンバージョン数):購入、問い合わせ、会員登録など、ECサイトの目的に対して完了した件数のことです。
・CVR(コンバージョン率):訪問者のうち、どれくらいが購入に至ったかを示す割合。サイトの使いやすさや価格設定などの要因が影響を及ぼします。
・CTR(クリック率):広告やバナーのクリック率のことで、広告がどれだけ効果的に機能しているかを測る指標のひとつです。
・カート放棄率:カートに商品を入れたものの、購入まで至らなかった割合となり、UIや決済方法、送料などに問題がある場合が多いです。
ECサイトでは「アクセス数を増やす」ことに意識が向きがちですが、CVRを改善するほうが効率的に売上を伸ばせる場合もあります。 たとえば、訪問者数が同じでもCVRが2%から3%に上がれば、売上は1.5倍になります。
顧客育成・リピーター関連のKPI
新規顧客を増やすことも大切ですが、リピーターを増やすこともECサイトの成長には欠かせません。特に、リピーターの割合が低い場合、どこかに問題があるかもしれません。
・リピート購入率:一度購入した顧客のうち、再び購入した割合のことです。リピーター施策の効果を測る指標となります。
・購入回数・購入頻度:顧客がどのくらいのペースで購入しているかを示します。LTVを考える際に参考になります。
・LTV(顧客生涯価値):一人の顧客が生涯でどれくらいの売上をもたらすかを示す。リピーターの重要性を測る指標となります。
・解約率(チャーンレート):サブスクリプション型ECでは、解約率が高いと利益が安定しづらい。どのタイミングで解約が多いのか分析が必要です。
新規獲得ばかりに注力すると、広告費がかさみ、利益が出にくくなります。リピーターの割合を増やすことで、コストを抑えながら売上を安定させることができます。
コスト関連のKPI
売上が伸びても、利益が出なければ事業は続けられません。コストを適切に管理するために、以下のKPIをチェックすることが重要です。
・ROAS(広告費用対効果):広告費に対して、どれだけの売上を生み出したかを示す指標。
・CPA(1件あたりの獲得コスト):新規顧客1人を獲得するのにかかったコスト。広告やプロモーション施策の効率を測る。
・在庫回転率:在庫がどれくらいのペースで消化されているかを示す。回転率が低すぎると、キャッシュフローが悪化するリスクがある。
ECサイトの運営は、「売上を上げる」だけではなく、「利益を残す」ことも大切です。特に、広告費の比率が大きい場合、ROASやCPAを適切に管理しないと、売上が伸びても利益が残らないケースもあります。
KPIを設定するとき、なんとなく数値を決めてしまうと、結局「目標は立てたものの、どう評価すればいいのか分からない」という状況に陥りがちです。
例えば、「ECサイトの売上を伸ばしたい」という目標を掲げたとします。でも、「どうやって?」「どのくらい伸ばす?」「どれくらいの期間で?」といった具体的な基準がないと、方向性があいまいになり、成果を測るのが難しくなります。
こうした課題を防ぐために、KPIを設定する際には「SMART」の原則を意識することが重要です。このフレームワークを活用すれば、目標をより明確にし、効果的に進捗を管理できるようになります。
Specific(具体的であること)
KPIを設定する際、まず重要なのが「何を測定するのか」を明確にすることです。
「売上を伸ばす」や「サイトを成長させる」といった表現では、目標があいまいすぎて、チーム全体で共通認識を持つことができません。どの指標を改善すべきなのかを具体的に定める必要があります。
よくあるNG例
「売上を伸ばす」
「集客を増やす」
「ECサイトを改善する」
SMARTに基づいたKPIの設定例
「月間売上を20%増加させる」
「新規訪問者数を月間50,000人にする」
「カート離脱率を5%改善する」
どの数値をどのように変化させるのかを具体的に決めることで、チーム内での認識のズレを防ぎ、効果的な施策を立てやすくなります。
Measurable(計測できること)
目標が具体的であっても、それを数値で測れなければ、達成したのかどうか判断できません。「なんとなく売上が増えた」「たぶん訪問者が増えた」では、成果を正しく評価できないため、施策の改善も難しくなります。
MeasurableなKPIの設定例
「直帰率を40%から35%に改善する」
「メールの開封率を20%から25%に上げる」
「広告のCTRを1.5%から2.0%に引き上げる」
このように、数値を使って進捗を確認できる形にしておくと、定期的に成果を振り返る際に役立ちます。
Achievable(達成できる範囲であること)
意欲的な目標を掲げることは大切ですが、あまりにも非現実的な数値を設定すると、かえってモチベーションが下がってしまいます。目標が高すぎると、達成できずに「何をやってもダメだった」と感じることになりかねません。
例えば、「1ヶ月で売上を3倍にする」といった目標は、多くのケースで難しいでしょう。一方で、過去のデータや市場の動向を考慮しながら、「前年比20%増」といった具体的な数値を設定すれば、より現実的なKPIになります。
達成しやすいKPIの設定例
「ECサイトのCVRを0.5ポイント上げる(2.0% → 2.5%)」
「月間のリピート購入率を15%から18%に引き上げる」
「半年以内に平均客単価を5%向上させる」
KPIを設定する際は、過去のデータや業界の平均値と比較しながら、無理のない範囲で目標を設定することが大切です。
Relevant(最終目標と関連していること)
KPIが本当にビジネスの成長に寄与するかを考えることも重要です。
例えば、ECサイトの売上を伸ばすことが目的なのに、「SNSのフォロワー数を増やす」というKPIを設定した場合、それが直接売上につながるのかどうかが曖昧になります。もちろん、ブランド認知を高める目的なら有効ですが、最終的な目標と直結していなければ意味がありません。
RelevantなKPIの設定例
「新規顧客の獲得数を増やし、売上を20%向上させる」
「カート離脱率を改善し、コンバージョン率を1.5%から2.0%に上げる」
「リピート購入率を向上させ、LTVを30%増やす」
設定するKPIが、最終的な目標(KGI)と結びついているかを意識することが大切です。
Time-bounded(期限が明確であること)
目標には、達成までの期限を設定することも欠かせません。「いつまでにこの数値を達成するのか?」が決まっていないと、施策のスケジュールがあいまいになり、結果として改善が遅れることがあります。
期限を明確にしたKPIの設定例
「3ヶ月以内に新規顧客のCVRを2.0%に上げる」
「半年以内に平均注文額を5,000円から5,500円に引き上げる」
「1年間でリピーター比率を20%から30%に増やす」
期限が決まっていることで、「あと1ヶ月でどれくらい伸ばさなければならないか?」といった進捗の確認がしやすくなります。
ECサイトの運営では、売上やコンバージョン率を改善しようとしても、「どこをどうすればよいのか」が分かりにくいことがあります。例えば、売上が伸び悩んでいるときに、「訪問者数を増やせばいいのか」「購入率を改善すべきなのか」など、優先すべき施策の判断に迷うことも少なくありません。
このようなときに役立つのがKPIツリーです。KPIツリーは、目標を分解し、細かい指標をツリー状に整理することで、どこに課題があるのかを視覚的に捉えやすくする手法です。適切に活用すれば、施策の優先順位を明確にし、チーム全体で効率的に改善を進めることができます。
課題を体系的に整理する
KPIツリーの最大のメリットは、目標を細かく分解し、どの指標がボトルネックになっているのかを把握しやすくなることです。
例えば、「ECサイトの月間売上を1,000万円にする」という目標を設定したとします。この目標に対して、売上を構成する要素を分解していくと、次のようなツリーが作れます。
KPIツリーの例
KGI(最終目標):月間売上 1,000万円
├── 訪問者数(トラフィック)
│ ├── SEO流入
│ ├── 広告流入
│ └── SNS流入
├── コンバージョン率(CVR)
│ ├── 商品ページの改善
│ ├── カート離脱防止施策
│ └── UI/UX改善
└── 平均注文単価(客単価)
├── クロスセル・アップセル
├── クーポン施策
└── セット販売
このようにツリー状に整理することで、売上を伸ばすためにどの要素が影響しているのかが一目で分かります。「売上が低い」という漠然とした問題ではなく、「トラフィックが不足している」「カート離脱率が高い」など、具体的な課題が明確になります。
課題が明らかになれば、どこを改善すべきかが分かり、無駄な施策を減らすことができます。
優先順位を可視化する
KPIツリーを作成すると、どの施策が売上やCVRにより大きな影響を与えるのかを整理しやすくなります。
例えば、売上が目標に届かない場合、訪問者数を増やすべきなのか、それともコンバージョン率を改善すべきなのかを判断しなければなりません。もし、訪問者数が十分にあるのにCVRが低いのであれば、トラフィックを増やす施策ではなく、カート離脱対策やページ改善に注力すべきでしょう。
また、施策の影響度を考えることも大切です。例えば、「広告を増やして訪問者数を2倍にする」のと、「購入率を0.5%改善する」のでは、後者のほうがコストをかけずに売上を伸ばせる可能性があります。
このように、KPIツリーを活用すれば、施策の影響度を比較しながら、優先順位を明確にすることができます。
優先順位を決めるポイント
・影響が大きい施策から手をつける(売上に直結するか?)
・すぐに改善できるものを優先する(短期間で結果が出るか?)
・費用対効果を考慮する(広告費などのコストを抑えられるか?)
無計画にすべての施策を試すのではなく、どれが最も影響を与えるのかを判断することで、効率的に成果を上げることができます。
チーム共有・コミュニケーションが円滑に
ECサイトの運営は、マーケティング、デザイン、開発、カスタマーサポートなど、多くの部署が関わるため、施策の方向性を統一することが重要です。KPIツリーを導入すると、各チームの役割や責任が明確になり、コミュニケーションがスムーズになります。
KPIツリーを活用したチームの動き方
・マーケティング担当:訪問者数の増加施策を検討(広告、SEO、SNS)
・UI/UXデザイナー:コンバージョン率向上のためのサイト改善を担当
・開発チーム:カート離脱を減らすためのシステム改修を進める
・カスタマーサポート:リピート率向上のための施策を提案
KPIツリーがあれば、「どの施策が何の目標に影響するのか」が整理されるため、それぞれのチームが独立して動くのではなく、全体の戦略に沿って連携しやすくなります。
また、定期的な会議でKPIツリーをもとに進捗を確認することで、「今どの段階にいるのか」「何がボトルネックになっているのか」が明確になります。感覚的な判断ではなく、データに基づいて議論できるため、チーム全体で意思決定をしやすくなるのもメリットの一つです。
KPIツリーを使えば、目標に向けてどの指標を改善すべきかを整理しやすくなります。とはいえ、ただ闇雲に指標を並べても意味がありません。売上に直接影響するもの、間接的に関わるものを適切に分類し、優先順位をつけることで、施策の方向性が明確になります。
では、どのようにKPIツリーを設計すればよいのでしょうか?ここでは、具体的な手順を紹介していきます。
まずはKGIを設定する
KPIツリーを作成する前に、最終的な目標(KGI)を決める必要があります。ECサイトの場合、一般的には売上や利益がKGIとして設定されることが多いですが、事業フェーズや戦略によっては、異なる指標を採用することもあります。
KGIの例
・売上高を年間1億円にする
・月間の新規顧客獲得数を5,000人に増やす
・リピーター比率を30%に引き上げる
KGIを設定する際のポイントは、「数値で測れるものにすること」と「達成期限を決めること」です。例えば「売上を伸ばす」ではなく、「3ヶ月以内に売上を10%増やす」といった具体的な形にすることで、進捗の確認がしやすくなります。
KGI達成につながるKPIを洗い出す
KGIを決めたら、それを達成するために重要なKPIを洗い出します。ここでは、KGIに直結する指標と、間接的に貢献する指標の両方を考えることが大切です。
KPIの種類
KPIには大きく分けて2種類あります。
売上に直結する指標(直接的な影響があるもの)
・客単価(1回の注文あたりの平均購入額)
・CVR(コンバージョン率)(訪問者のうち、購入に至った割合)
・購入回数(リピート率を含む)
間接的に貢献する指標(売上には影響するが、直接的ではないもの)
・訪問者数(UU・PV)(サイトに流入する人の数)
・カート放棄率(カートに商品を入れたが購入しなかった割合)
・広告のクリック率(CTR)(広告がどれくらい効果的に機能しているか)
例えば、KGIが「売上1億円」だとすると、それに貢献するKPIとして「客単価」「CVR」「訪問者数」などが挙げられます。さらに、これらを細かく分解すると「カート離脱率」「商品ページの滞在時間」など、より具体的なKPIが見えてきます。
このように、KGIを達成するために何が影響しているのかを整理し、具体的な指標を設定することが重要です。
因果関係をツリー状に整理する
ここまでで、KGIとKPIの関係が明確になったら、次にそれをツリー状に整理していきます。KPIツリーを作成することで、どの指標がどのように関連しているのかを視覚的に捉えやすくなります。
KPIツリーの例
以下のような形で、売上を構成する要素を細かく分解していきます。
KGI(最終目標):年間売上1億円
├── 訪問者数の増加(流入施策)
│ ├── SEO流入(検索順位の向上)
│ ├── 広告流入(リスティング・SNS広告)
│ └── 口コミ・SNSシェアの増加
├── CVRの向上(コンバージョン施策)
│ ├── 商品ページの改善(説明文・画像・レビューの充実)
│ ├── カート離脱率の低下(決済手順の簡略化・送料明示)
│ └── UI/UX改善(モバイル最適化・ナビゲーション改善)
└── 客単価の増加(単価向上施策)
├── クロスセル・アップセル(関連商品の提案)
├── クーポン施策(まとめ買い・期間限定割引)
└── 定期購入モデルの導入
このようにツリーを作ることで、売上に対してどのKPIがどのように影響しているのかを明確にできます。
KPIツリーを設計する際のポイント
KPIツリーを作成するときには、いくつか意識しておくべきポイントがあります。
指標が適切に分解されているか
売上に影響を与える要素を「訪問者数」「CVR」「客単価」などに分解できているか?
ツリーが複雑になりすぎていないか
指標を細かくしすぎると、何を重視すべきか分からなくなることも。適度な粒度を意識をする必要があります。
実際のデータと照らし合わせながら作成する
机上の空論にならないよう、達成したい目標(KGI)を意識しながら過去のデータをもとにKPIを選定していきます。
KPIツリーがあると、どこに課題があるのかが視覚的に分かりやすくなり、改善施策の優先順位をつけやすくなります。売上が伸び悩んでいるときに、どの要素に原因があるのかを特定するのにも役立ちます。
KPIを設定したものの、数値が思うように伸びないことはよくあります。売上が伸び悩む原因はさまざまですが、訪問者数が不足しているのか、コンバージョン率が低いのか、それとも客単価が思ったほど上がっていないのか——どこに課題があるのかを正しく把握し、それぞれに合った改善策を講じることが重要です。
ここでは、ECサイトの成長を加速させるための具体的な施策について紹介していきます。
トラフィック増加施策
ECサイトの売上を伸ばすためには、まず訪問者を増やす必要があります。どれだけ優れた商品を扱っていても、サイトに来る人が少なければ売上にはつながりません。そのため、検索エンジンや広告、SNSなどを活用し、サイトへの流入を増やすことが重要です。
SEO対策
・キーワード戦略を最適化する
適切な検索キーワードを設定し、タイトルやメタディスクリプション、見出しタグに反映させます。
・コンテンツを充実させる
商品ページの情報を充実させるだけでなく、ブログ記事などを活用し、検索流入を増やします。
・内部リンクを適切に配置する
関連する商品ページやカテゴリページをつなぎ、サイト全体のSEO効果を高めます。
広告とSNSの活用
・リスティング広告のチューニング
ターゲット層を細かく設定し、無駄な広告費を削減します。
・SNS経由の流入を増やす
InstagramやX(旧Twitter)などを活用し、ブランドの認知度を高めます。
・LINE公式アカウントの活用
友だち追加を促進し、定期的なキャンペーン情報を発信することでリピート訪問を促します。
検索エンジンや広告、SNSなど、複数のチャネルを組み合わせながら、最も効果的な流入経路を見極めることが大切です。
CVR(コンバージョン率)向上施策
訪問者が多くても、購入につながらなければ意味がありません。CVR(コンバージョン率)を上げることで、同じ訪問者数でも売上を大きく伸ばすことができます。
UX/UIの改善
・サイトの読み込み速度を向上させる
ページの表示速度が遅いと、途中で離脱してしまうユーザーが増えてしまいます。そのため、画像の最適化やサーバーの強化を行ない、表示速度をあげていきます。
・スマホ対応を強化する
購入の多くがスマホ経由になっているため、モバイルファーストでの設計を意識していきます。
カート離脱防止
・購入プロセスを簡単にする
会員登録を必須にしない、決済画面をシンプルにするなど、ストレスなく購入できる環境を整えていきます。
・送料や支払い方法を分かりやすく表示する
購入直前で「思ったより送料が高かった」と感じると、離脱の原因になりやすいです。
A/Bテストとパーソナライズ施策
・ボタンのデザインや配置を最適化する
購入ボタンの色やサイズを変えるだけで、CVRが向上するケースも多々あります。
・レコメンド機能を活用する
過去の閲覧履歴や購入履歴に基づいて、個別に最適な商品を表示していきます。
購入のハードルをできるだけ低くし、「買いやすい」サイト設計を意識することが、CVR向上の鍵となります。
平均客単価アップ施策
売上を伸ばすには、新規顧客を増やすだけでなく、「1人あたりの購入額を増やす」ことも重要です。そのためには、セット販売や会員制度を活用し、顧客に「より多く買いたい」と思わせる仕組みが必要です。
セット販売・アップセル
・関連商品のセット販売を導入する
「この商品を買った人は、こちらも購入しています」といったレコメンドを表示し、まとめ買いを促進する。
・上位商品へのアップセル
より高機能な商品や、長期間使える大容量タイプの商品を提案する。
会員制度・クーポン施策
・ランク制を導入する
購入額に応じてランクを分け、上位ランクの顧客には特典を用意することで、客単価アップにつなげる。
・期間限定クーポンを配布する
「あと○○円でクーポンが適用されます」といった表示をすることで、追加購入を促す。
「ついで買い」を誘導し、1回の注文あたりの単価を上げる施策を取り入れることで、売上の底上げが期待できます。
リピーター獲得施策
新規顧客を獲得するには広告費がかかりますが、リピーターを増やせば、同じ顧客から何度も購入してもらえるため、売上が安定しやすくなります。
特別感のあるサービス
・会員限定セールを実施する
「会員限定価格」や「先行販売」を活用し、特別感を演出する。
・誕生日クーポンを配布する
「お誕生日おめでとうございます!」といったメッセージとともにクーポンを配信する。
定期購入モデルの検討
・消耗品ならサブスク型を導入する
食品や化粧品などのリピート率が高い商材なら、定期購入プランを用意すると継続率が上がる。
リピーター施策は、単なる販促ではなく、「このサイトで買う理由」を提供することが大切です。
在庫管理・商品展開施策
売れる商品を効率的に管理し、適切な在庫数を確保することも、ECサイトの成長には欠かせません。
データ分析を活用した在庫管理
・需要予測を基に発注を調整する
売れ筋・死に筋の商品を分析し、在庫の偏りを防いでいきます。
・ABC分析を活用する
売上貢献度に応じて商品を分類し、優先的に在庫を確保する商品と、仕入れを抑える商品を見極めていきます。
在庫管理を適切に行うことで、キャッシュフローの改善にもつながります。
KPIを設定し、施策を実行したら終わりではありません。ECサイトの運営では、「何がうまくいっているのか」「どこに課題があるのか」を定期的に見直し、改善し続けることが求められます。
たとえば、広告を出稿した結果、一時的に訪問者数が増えたとしても、コンバージョン率が下がっていたら売上にはつながりません。その場合、広告のターゲティングを見直すのか、それともサイトの導線を改善するのか——正しい意思決定をするためには、データをもとに仮説を立て、素早く検証することが重要です。
ここでは、KPIを継続的に改善していくためのフレームワークについて解説していきます。
PDCA(Plan-Do-Check-Act)の具体的な回し方
KPIを改善するためには、PDCA(計画・実行・評価・改善)のサイクルを定期的に回していくことが大切です。これは単なる理論ではなく、日々の施策を効果的に管理するための基本的な流れになります。
PDCAの流れ
Plan(計画)
売上目標を設定し、そこから逆算してKPIを決めていきます。 どの指標を改善すれば目標に近づくのかを明確にすることができます。
Do(実行)
設定したKPIをもとに施策を実行していきます。(例:広告運用、SEO対策、メルマガ配信)。
施策ごとに期待される効果をあらかじめ数値で予測しておくと、結果の評価がしやすくなります。
Check(評価)
実施した施策のデータを集め、KPIの達成度を確認していきます。たとえば、「メルマガの開封率は上がったが、コンバージョンにはつながっていない」といった分析を行っていきます。
Act(改善)
施策の効果を検証し、うまくいかなかったものは見直し、成功したものはブラッシュアップしていきます。 例えば、広告のCTRは高かったがCVRが低かった場合、ランディングページの内容を変更するといった調整を行います。
PDCAを回すときのポイントは、「完璧を求めず、小さく試して素早く改善すること」です。時間をかけて準備した施策が、期待通りの結果にならないことも多いため、「とりあえず試してみる→データを見る→改善する」というスピード感を意識することが重要です。
仮説検証をスピーディーに行う方法
施策を改善するには、仮説を立て、素早く検証することが不可欠です。時間をかけすぎると、市場の変化に対応できなくなり、競争力を失ってしまいます。
スモールスタートで試す
「すべてを一気に変える」のではなく、「少しずつ試して結果を確認する」という考え方が重要です。
例えば、以下のように実施することを小さく試してデータを確認しながら進めることで、失敗のリスクを最小限に抑えつつ、改善の精度を高めることができます。
・サイト全体を大幅にリニューアルするのではなく、一部のページでA/Bテストを行う
・全顧客に向けた施策ではなく、特定のセグメント(リピーター、新規顧客など)を対象にテストを実施する
・大規模な広告予算を投下する前に、少額の広告を試し、CTRやCVRを確認する
データドリブンマーケティングの導入
ECサイトの運営では、データをもとに意思決定をすることが非常に重要です。
例えば、「なんとなく売上が伸び悩んでいる」と感じたとき、
・訪問者数は増えているのか?
・直帰率が高くなっていないか?
・カート放棄率が上がっていないか?
こうしたデータをもとに分析を行うことで、「広告のターゲットを見直すべきなのか」「サイトのUIを改善すべきなのか」といった具体的なアクションにつなげることができます。
活用すべきツール
・Google Analytics(アクセス解析)
訪問者数、流入元、直帰率、コンバージョン率などを確認する。
・BIツール(Looker Studio、Tableauなど)
KPIの推移を可視化し、データをもとに意思決定する。
・ヒートマップツール
ユーザーがどこで離脱しているのかを視覚的に確認できる。
感覚ではなく、データをもとに施策を考えることで、より確実な改善ができるようになります。
コホート分析・セグメント分析の活用
ECサイトの運営では、「ユーザー全体の傾向」だけを見ていると、本当に重要な課題を見逃してしまうことがあります。そこで、特定のユーザー群(セグメント)ごとに分析を行うことが大切です。
コホート分析とは?
「特定のタイミングで購入したユーザーが、その後どれくらいリピートしているか」を時系列で追う分析手法です。
例えば、以下のようなデータをもとに、「どの施策が長期的な売上につながるのか」を判断することができます。
・「初回購入後30日以内にリピートした割合」
・「メルマガを受け取ったユーザーが90日後にどのくらい再訪しているか」
カゴ落ちユーザーの再アプローチ
カートに商品を入れたものの、購入せずに離脱したユーザーに対して、
・クーポン付きのリマインドメールを送る
・リマーケティング広告を配信する
といった施策を行うことで、コンバージョン率の向上が期待できます。
ECサイトの運営では、売上やコンバージョン率など数値で把握しやすい指標だけでなく、顧客満足度やブランド認知度のように測定しにくいものも重要になります。
例えば、「サイトの使いやすさを改善したい」と思っても、それをどのように評価すればよいのか悩むことがあります。ユーザーの感想は曖昧な表現になりがちで、「なんとなく良い」「少し不便」といった言葉では、具体的にどこを改善すべきなのかが見えてきません。
こうした「数値化しにくい要素」をKPIとして管理するためには、データを定量化する工夫が必要です。ここでは、具体的な方法を紹介していきます。
アンケート結果を定量化する方法
顧客満足度やブランドの好感度を数値化するには、NPS(ネットプロモータースコア)が有効です。NPSは、「このブランド(または商品)を友人や知人にどの程度すすめたいですか?」という質問に対し、0〜10のスコアで評価してもらう手法です。
NPSの計算方法
・0〜6点をつけた人(批判者):ブランドに不満を持っている可能性が高い
・7〜8点をつけた人(中立者):特に不満はないが、積極的に推奨するわけでもない
・9〜10点をつけた人(推奨者):ブランドを高く評価し、他者にすすめる意向が強い
NPSのスコアは、以下の数式で算出できます。
(推奨者の割合 - 批判者の割合)
例えば、100人中、30人が推奨者(9〜10点)、50人が中立者(7〜8点)、20人が批判者(0〜6点)だった場合、NPSは「30%-20%=+10」となります。
NPSのスコアが低い場合は、ユーザーがどのような点に不満を感じているのかを深掘りし、改善策を検討することができます。「何が良かったのか? 何が足りなかったのか?」といった自由記述の回答と組み合わせて分析すると、より実践的な改善策につなげやすくなります。
行動結果に着目して数値化する
顧客の満足度やブランドの影響力は、直接数値で測るのが難しい場合がありますが、ユーザーの行動データを指標として活用することで、間接的に評価することができます。
具体的な行動データ
・レビューや口コミの件数
「この商品には〇〇件のレビューがついている」という形で、満足度を定量化できる。
・SNSのシェア数
X(旧Twitter)やInstagramでの言及数をチェックすることで、ブランド認知度を測れる。
・お問い合わせ件数の変化
新機能を導入したあとに「問い合わせが増えた」といった変化は、ユーザーの関心度を測る指標になる。
例えば、「サイトの使いやすさ」を評価したい場合、単なるアンケートではなく、ページの滞在時間、離脱率、スクロール率などを分析することで、実際のユーザー行動から快適さを測ることができます。
また、商品レビューの平均評価が低い場合、「説明が分かりにくいのか」「品質に問題があるのか」を詳しく分析し、該当するポイントを改善することで、ECサイト全体の信頼度を高めることができます。
目的達成のためのアクションを指標化する
直接的な売上やコンバージョン数だけでなく、「購入につながる可能性のある行動」もKPIとして管理することが重要です。
購入前のアクションをKPIにする
・問い合わせ数
ECサイトの商品ページを改善した結果、問い合わせが増えた場合、それは購買意欲の向上を示している可能性がある。
・資料請求数
BtoB向けのECサイトでは、「資料請求→商談→成約」という流れになることが多いため、資料請求の数をKPIとして管理することで、成約につながる流れを可視化できる。
・カート追加率
「カートに入れたが購入に至らなかったユーザー」が多い場合、決済手順の改善やクーポン配布が有効な施策になり得る。
例えば、「売上が伸び悩んでいる」と感じたときに、購入前の行動データを分析することで、「サイトの訪問者は増えているが、問い合わせが少ない=情報が足りていない」「カートに入れるユーザーは多いが、離脱率が高い=決済画面のUXに問題がある」といった具体的な課題を見つけることができます。
ECサイトの運営では、KPIを分析・改善するためにデータを活用することが欠かせません。しかし、「何を基準に改善すべきかが分からない」「どの施策が効果的なのか判断しづらい」と感じることも多いのではないでしょうか。
そんなときに頼りになるのが、アクセス解析やマーケティングオートメーション(MA)などのツールです。これらを適切に活用することで、ユーザーの行動を可視化し、KPIの変動をリアルタイムで把握できるようになります。
ここでは、KPIの改善に役立つツールと、その活用方法について紹介します。
アクセス解析ツール(Google Analytics 4など)の活用
ECサイトのパフォーマンスを評価するうえで、**Google Analytics 4(GA4)**は欠かせないツールです。従来のユニバーサルアナリティクス(UA)と異なり、イベントベースのデータ計測が強化されているため、より詳細なユーザー行動を把握できます。
GA4の活用ポイント
・イベントトラッキングの設定
購入完了、カート追加、ページ遷移、スクロール率など、ECサイト内での具体的なアクションを計測する。
・コンバージョンファネルの分析
「商品ページ → カート → 購入」といった流れのどこで離脱が発生しているのかを確認し、ボトルネックを特定する。
・ユーザー属性の把握
訪問者のデバイス、地域、流入経路を分析し、マーケティング施策の最適化に役立てる。
たとえば、広告流入のユーザーがカートに商品を入れたものの、購入まで至っていない場合、「送料が分かりにくい」「決済方法の選択肢が少ない」など、購入ハードルを下げる施策を考えるきっかけになります。
ヒートマップツール・A/Bテストツール
サイトの訪問者が「どのページで迷っているのか」「どこで離脱しているのか」を視覚的に把握するには、ヒートマップツールが有効です。また、A/Bテストを組み合わせることで、CVR向上につながる改善施策を効率的に試すことができます。
ヒートマップツールの活用
・クリックの分布を可視化
ユーザーがどこをクリックしているのかを把握し、適切な導線を設計する。
・スクロール率の分析
ページのどこまで読まれているかを確認し、離脱が多いポイントを改善する。
A/Bテストツールの活用
・購入ボタンの色や文言を変更し、どちらのパターンがCVRを向上させるか比較する
・商品ページのレイアウトを変え、購入率にどのような影響があるか検証する
例えば、A/Bテストで「青い購入ボタン」と「赤い購入ボタン」を比較し、どちらのクリック率が高いかを調べると、ユーザーの行動パターンがより明確になります。
マーケティングオートメーション(MA)ツール
ECサイトでは、すべての顧客に同じ施策を展開するのではなく、個々の行動に応じたアプローチが求められます。マーケティングオートメーション(MA)ツールを導入すると、ユーザーごとに最適なコンテンツやキャンペーンを配信できるようになります。
MAツールの活用方法
・カート放棄ユーザーへのリマインドメールを自動送信
一定時間経過後に「カートに残っている商品があります」といったメールを送ることで、CVRの向上が期待できます。
・顧客の行動履歴をもとに、パーソナライズしたメール配信を行う
「過去にこの商品を購入した人は、こちらもチェックしています」など、レコメンドを活用します。
・LTV向上のためのナーチャリング施策を展開
新規顧客にはウェルカムメール、リピーターには限定クーポンを送るなど、徐々に関係性を構築していきます。
例えば、一度購入したユーザーが90日以上サイトを訪れていない場合、「再来訪促進のメール」を自動で配信することで、リピーター獲得につながることがあります。
CRM・DMPとの連携
ECサイトの売上を伸ばすためには、新規顧客の獲得だけでなく、**「いかにリピーターを増やすか」**が重要になります。そのためには、**CRM(顧客関係管理)やDMP(データマネジメントプラットフォーム)**を活用し、購買データと行動履歴を統合することが効果的です。
CRM・DMPの活用方法
・過去の購入履歴をもとに、リピーター向けの特別オファーを配信
高頻度で購入しているユーザーに「VIP割引」などを提供し、LTV(顧客生涯価値)を向上させることができます。
・休眠顧客へのリテンション施策
半年以上購入がない顧客に対して「久しぶりのご利用で10%オフ」といった特典を送ることによって、再度購入してくれる可能性が上がります。
・サイト内の行動データを活用し、セグメントごとに施策を最適化
「サイトに訪問はしているが購入していない層」「購入頻度が高いVIP顧客」など、ターゲットを細かく分けてアプローチすることができます。
例えば、過去に「化粧水」を購入したユーザーに対し、「同じブランドの乳液」をおすすめするメールを送ることで、クロスセルの成功率を高めることができます。
ECサイトの運営は、施策を実行したら終わりではなく、その効果を定期的に確認しながら、適切な軌道修正を行うことが不可欠です。どれだけ良い戦略を立てても、現状を把握できていなければ、課題を見逃し、チャンスを逃してしまうことがあります。
たとえば、「先月の売上が好調だった」と喜んでいても、その理由を正確に把握していなければ、再現性のある施策にはなりません。また、逆に売上が落ち込んだときに「なんとなく広告の効果が下がったかも」と推測するだけでは、正しい対策を打つことは難しいでしょう。
そこで重要なのが、定期的なモニタリングとレポーティングの仕組みを整え、チーム全体でデータをもとに意思決定できる環境をつくることです。ここでは、その具体的な方法について紹介します。
適切なレポートの作成頻度
データを分析し、KPIの変化を把握するためには、どのタイミングでレポートを作成するかを明確にすることが重要です。頻度が多すぎると、作業負担が増えてしまいますし、少なすぎると変化に気づくのが遅れてしまいます。
レポートは「日次・週次・月次」の3つのスパンで管理するのが基本です。
日次レポート(毎日確認する指標)
・売上・注文数の推移
前日と比較し、異常値がないかをチェック。
・カート放棄率・直帰率
突然の変動がないか確認し、早期の対応につなげる。
・広告のパフォーマンス
特に運用型広告は、日々の変化が激しいため、費用対効果を確認する。
目的:異常値をいち早く察知し、緊急対応が必要かどうかを判断する。
週次レポート(1週間単位での変動を確認)
・訪問者数・CVR・客単価の変化
施策ごとの影響を把握し、改善点を見つける。
・SNSやメルマガの効果測定
キャンペーンの反応を分析し、次回の施策に活かす。
・在庫状況のチェック
売れ行きが良い商品や滞留している商品を特定し、在庫戦略を調整する。
目的:施策の短期的な効果を確認し、必要に応じて細かな調整を行う。
月次レポート(全体のパフォーマンスを総括)
・売上・利益の推移
前年同月比や前月比で成長率を評価する。
・チャネルごとの売上分析
広告、SEO、SNSなど、それぞれの集客施策の効果を比較する。
・LTV(顧客生涯価値)の動向
新規顧客とリピーターの割合を確認し、CRM戦略の見直しを行う。
目的:長期的なトレンドを把握し、次の施策の方向性を決める。
チーム内共有でエラーを最小化する
データを集めても、それを関係者全員が理解し、適切な意思決定に活かせなければ意味がありません。KPIの変動をチーム全体で共有することで、エラーを最小限に抑え、素早い対応が可能になります。
共有のポイント
データの解釈を統一する
同じKPIを見ても、解釈が異なると施策の方向性がずれてしまいます。たとえば、「CVRが低下した」といっても、「サイトのUIが問題なのか」「広告のターゲティングがずれているのか」など、見方によって原因は変わります。そのため、指標の定義や評価基準を明確にしておくことが大切です。
定例会議でKPIの進捗を確認する
週次または月次でKPIレビューを行い、改善すべきポイントを洗い出す。例えば、「先週のメルマガの開封率が前回より10%下がっているが、何が原因か?」といった具体的な問いを立てることで、問題の本質に迫ることができます。
エラーの早期発見と対策を徹底する
たとえば、サイトの表示速度が急に低下している場合、それが一時的なサーバー負荷によるものなのか、それともシステムの不具合なのかを調べ、迅速に対応する必要があります。リアルタイムでのモニタリングを行い、小さな変化も見逃さない仕組みを整えておくと安心です。
ダッシュボードを用いたリアルタイムモニタリング
データを活用するには、「見やすさ」も重要です。スプレッドシートや手動のレポート作成では、リアルタイム性に欠け、必要な情報を瞬時に把握しづらいこともあります。そこで、BIツールを活用し、視覚的に分かりやすいダッシュボードを構築することで、日々のモニタリングを効率化できます。
活用すべきツール
・Google Data Studio(Looker Studio)
GA4や広告データを連携し、リアルタイムでKPIを可視化できることができます。
・Tableau / Power BI
複雑なデータをグラフ化し、深い分析を行うことができるようになります。
・Google Sheets + App Script
API連携を活用して、自動でデータを取得し、レポートを更新します。
ダッシュボードを使うメリット
・リアルタイムでKPIの変動を把握できます
・手作業でのレポート作成を減らし、分析に時間を割けます
・チームメンバーが直感的にデータを理解できるようになります
例えば、「広告の費用対効果が悪化している」と感じたとき、ダッシュボードを見れば「どの広告チャネルが影響しているのか」「どのターゲット層で成果が出ていないのか」がすぐに分かるため、迅速に対策を打つことができます。
ECサイトのKPIを伸ばし続けるには、データを収集するだけでなく、そこから適切な仮説を立て、具体的な改善策を試すことが欠かせません。
たとえば、「直帰率が高い」といったデータが出たとき、その理由を仮説なしに考えるのは難しいでしょう。ユーザーの心理を推測しながら「サイトの読み込みが遅いのでは?」「商品の魅力が伝わっていない?」といった仮説を立て、その検証を繰り返すことが、改善につながります。
ここでは、データをもとにした仮説づくりから、改善策の優先順位の決め方まで、効果的な改善サイクルの進め方を解説します。
KPIが伸び悩んだときの仮説づくり
KPIが思うように伸びないときは、「なぜその数値になっているのか?」を探ることが重要です。「なんとなくCVRが低い」ではなく、「なぜコンバージョンにつながらないのか」を具体的に考え、それを検証することで、正しい改善策が見えてきます。
仮説を立てる3つの視点
① 競合分析からの仮説
・競合サイトと比較し、価格やサービス内容に差があるのかを確認します。
・競合のサイトデザインや購入導線と比較し、ユーザーの利便性を考察することができます。
・商品説明の充実度や、レビューの掲載数など、細かな違いを分析することができます。
② ユーザーアンケートからの仮説
・「購入をやめた理由」を直接聞くことで、サイト運営者が気づいていない問題が見えてきます
・「何が決め手になったか?」という視点で調査し、強みを伸ばすヒントを得ることができます。
③ ログ解析による仮説
・Google Analyticsのデータを見て、どのページで離脱が多いのかを特定することができます。
・ヒートマップを活用し、ユーザーがどのポイントで迷っているのかを把握することができます。
たとえば、「カート放棄率が高い」という問題があった場合、以下のような仮説を立て、対策を検討することが改善の第一歩となります。
・「送料が想定より高く、購入をためらったのでは?」
・「決済ページの入力項目が多すぎて、途中で離脱したのでは?」
定量・定性データを掛け合わせる
データ分析には、数値として表れる「定量データ」と、ユーザーの感想や行動をもとにした「定性データ」の2種類があります。この両方を組み合わせることで、より精度の高い改善が可能になります。
定量データ(数値で測れるデータ)
・アクセス数・直帰率・CVRなどの数値分析(Google Analytics など)
・ヒートマップを使ったクリック率・スクロール率の解析
・カート放棄率や購入完了率などのKPIデータ
定性データ(ユーザーの声や行動データ)
・アンケート結果やレビュー分析(「使いにくい」「分かりにくい」といった意見を定量化)
・サイト内のユーザー行動を観察(どこで迷っているのかをヒートマップで可視化)
・ユーザーインタビュー(実際に購入した人に「なぜこの商品を選んだのか?」を聞く)
たとえば、「直帰率が高い」という課題に対し、Google Analyticsで確認すると「商品ページでの滞在時間が短い」という定量データが得られたとします。
しかし、それだけでは原因は分かりません。ユーザーのレビューを調べたところ、「商品の写真が少なく、サイズ感が分からない」という声が多かった場合、画像の改善が有効な施策になると判断できます。
このように、数値とユーザーの声を掛け合わせることで、より具体的な課題を特定することができます。
改善策の優先順位と効果検証
課題が明確になったら、次に重要なのは「どの施策から取り組むか」です。リソースが限られている以上、すべての改善を一度に進めるのは難しいため、「影響が大きく、少ない労力で実行できる施策」を優先することが重要です。
High Impact, Low Effort原則
改善策を選ぶときは、「どれくらいの効果が期待できるか(Impact)」と、「どれだけ手間がかかるか(Effort)」の2軸で考えます。
優先度 | 施策の特徴 | 例 |
---|---|---|
高:High Impact, Low Effort | 効果が大きく、工数が少ない | 購入ボタンの色や配置を変える、送料を明確に表示する |
中:High Impact, High Effort | 効果は高いが、工数がかかる | 商品ページのリニューアル、決済フローの改善 |
低:Low Impact, Low Effort | 効果は小さいが、すぐにできる | フォントの変更、軽微な文言修正 |
最優先すべきでない:Low Impact, High Effort | 労力のわりに効果が小さい | サイト全体の大規模なデザイン変更 |
たとえば、「カートページのボタンが目立ちにくい」という課題があるなら、まずはボタンの色や文言を変えてA/Bテストを実施するといった、小さな変更から試すのが有効です。
大きな変更(決済フローの大幅な見直しなど)はリスクが伴うため、まずは**「簡単に試せて効果が出やすい施策」**から進めることが、スムーズな改善につながります。
ECサイトの運営では、KPIを適切に設定し、継続的に改善していくことが欠かせません。KPIツリーを活用し、売上やCVRに影響する要素を明確にすることで、優先すべき施策が見えてきます。また、Google Analyticsやヒートマップ、MAツールを駆使し、定量・定性データを組み合わせることで、より精度の高い分析が可能になります。
さらに、定期的なモニタリングとレポーティングを行い、仮説と検証を繰り返すことで、課題を迅速に特定し、効果的な施策を実施できます。重要なのは、「最小限の労力で最大の成果を出す施策」を優先し、改善サイクルを回し続けること。データに基づいた運用を徹底することで、ECサイトの成長を加速させることができます。