アクセス解析を始めるとき、多くの方が「何を基準に進めれば良いのだろう?」という迷いを感じるものです。
ただ数字を追いかけるだけでは、膨大なデータに振り回されてしまい、結果として効果的な改善にはつながりません。何となく目についた指標ばかりを追いかけてしまい、「結局、このデータは何を意味しているのだろう?」と疑問を抱えた経験はないでしょうか?
そんな状況を脱するためには、まず「目的」をしっかり定め、それを実現するための目標や指標を明確にする必要があります。
今回、目的と指標を結びつける考え方、アクセス解析を効率よく活用するための方法を共有させていただきます。
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アクセス解析の目的を具体化するためには、KGI(Key Goal Indicator)とKPI(Key Performance Indicator)の考え方をしっかり理解することが大切です。これらは、ビジネスの目標を達成するための「道しるべ」となる指標です。
ここでは、それぞれの定義と具体例を挙げながら、その役割を整理していきます。
KGIは、いわばビジネスの最終的なゴールを測る指標です。企業全体の成功や戦略の達成度を確認するために用いられます。この指標が明確になっていないと、個別の施策がバラバラになり、最終的な成果につながらなくなります。
例えば、あるECサイトのKGIとして「年間売上を1億円にする」という目標が考えられます。この場合、売上という最終的な成果を測る具体的な数字がKGIとなります。KGIは企業全体に影響を与える重要な目標であるため、設定時には経営陣や主要なステークホルダーの意見を取り入れることが多いです。
一方、KPIはKGIを達成するために「途中経過」を測るための指標です。言い換えれば、KGIというゴールに向かうための小さな道筋を示してくれる指標ともいえます。
例えば、先ほどのECサイトの例であれば、「カートへの追加率を20%に引き上げる」「月間の新規顧客数を500人にする」といった具体的な数字がKPIになります。KPIは、より日々の施策やチームレベルの活動に直結しているため、担当者がすぐに行動に移せる内容であることがポイントです。
この「行動につながる指標」を明確にしておくことで、日々の業務に対して数字が目に見える形で進捗を示すことができれば、モチベーション維持にもつながります。
KGIとKPIの設定例
具体的な設定例を見てみましょう。ここでは、仮想のBtoB企業を例に挙げてみます。
【BtoB企業の例】
KGI:年間契約数を120件にする
KPI:
・月間リード獲得数を100件に増やします。
・見込み顧客との商談率を20%に引き上げるウェブサイト経由の資料請求数を月間30件にします。
このように、KGIは最終的な成果を示し、KPIはその成果を達成するためのプロセスを分解して一つづつ設定するイメージです。
KGIとKPIを設定する際、重要なのは「自社のビジネスゴールに合わせて設計する」ことです。業種や事業規模、ターゲット層によって、どの指標を重視すべきかが変わります。
例えば、ECサイトであれば売上や購入率が最優先されますが、BtoB企業の場合は商談化率や顧客育成(リードナーチャリング)が重要になる場合が多いです。また、短期的な施策に偏りすぎず、長期的なビジョンを見据えた指標を含めることも大切です。
設定の際には、以下の3つのポイントを意識してみてください。
1.数値化できる指標を選ぶ
「ユーザーの満足度を上げる」など抽象的な目標ではなく、「月間購入者数を10%増やす」など具体的な数字を設定します。
2.達成状況を定期的に確認できる設計にする
KPIが具体的であればあるほど、進捗を測ることが容易になります。定期的なモニタリングとフィードバックを行う体制があると良いでしょう。
3.チームや施策と連動させる
KGI・KPIは設定して終わりではありません。具体的なアクションプランや施策と連携し、全体で共有することが成功への鍵になります。
アクセス解析を始めると、データの多さに圧倒されることがよくあります。初めて見る専門用語や数値が並ぶと、「結局どの指標が大事なの?」と悩んでしまう方も多いのではないでしょうか。
初めて解析ツールを触ったとき、画面いっぱいのグラフと数字を前すると何を見たら良いのか迷うときもあるかもしれません。しかし、基本となる主要指標を理解するだけで、アクセス解析の全体像がぐっと見えやすくなるものです。
ここでは、アクセス解析を行う上で押さえておくべき主要な指標を、具体的な用途例とともに解説していきます。また、業種によってどの指標を重視すべきかも併せて考えていきましょう。
PV(ページビュー):注目度を測るだけでは不十分
PVは、サイトや特定のページがどれだけ閲覧されたかを表します。しかし、PVが多いからといって、それだけでページの価値が高いとは限りません。例えば、特定の記事がSNSでバズった場合、一時的にPVが急増することがありますが、直帰率が高ければその閲覧数はビジネス目標には結びついていないかもしれません。
活用のヒント
・他の指標との組み合わせ: PVだけでなく、直帰率や平均滞在時間と組み合わせて「質の高いトラフィック」を見極める。
・比較分析: 同じジャンルの記事やキャンペーンページ間でPVを比較し、どのテーマが最も関心を引いているかを特定する。
セッション:ユーザー行動を紐解く出発点
セッションは、1人のユーザーがサイトに訪問してから離脱するまでの一連の行動を指します。この指標は、ユーザーがどの程度アクティブにサイトを利用しているかを知るための基本的な視点を提供します。
さらに、流入元セッションで深掘りするとよいです。
流入元別セッション分析
流入経路(自然検索、広告、SNSなど)ごとにセッションを分析することで、どのチャネルが最も効果的かを把握します。たとえば、広告からの流入が多いがセッション数が少ない場合、広告クリエイティブやターゲティングの改善が必要です。
セッションの長さ
平均セッション時間を確認し、ユーザーがどれだけ深くサイトを利用しているかを測定します。特にコンテンツマーケティングを行う場合、セッション時間が短いとコンテンツの質に問題がある可能性があります。
UU(ユニークユーザー):新規とリピーターの動向を把握
UUは、特定期間内の訪問者数を表しますが、新規ユーザーとリピーターを分けて分析することが重要です。新規訪問者が多ければ認知拡大の成果を測ることができ、コンバージョン率も分かれば、現状実施している施策の成果も測ることができます。他方、リピーターが多ければ顧客ロイヤルティの向上が確認できます。
新規 vs リピーターの活用例
・新規ユーザー
初回訪問のユーザーが、どのページに最も関心を示したのかを確認し、流入経路と合わせて分析する。これにより、効果的な集客チャネルが明確になります。
・リピーター
再訪問者が閲覧するページや行動パターンを分析し、コンテンツ改善や購入促進施策に役立てます。
コンバージョンは、ビジネス目標を直接表す指標です。ただし、CV率の分析においては、プロセスのどこに問題があるのかを明らかにすることが必要です。
改善のためのアプローチ
・ユーザージャーニーの分析
ユーザーがコンバージョンに至るまでのステップ(例: 商品閲覧 → カート追加 → 購入)を可視化し、どの段階で離脱が多いかを特定します。
・A/Bテストの活用
ランディングページやフォームのデザインを複数パターン用意し、どれが最も高いCV率を生むかをテストします。
直帰率は、特定のページがユーザーの期待に応えられているかを測る指標です。広告や検索エンジンからの流入で直帰率が高い場合、ランディングページの内容やターゲティングの適切さに問題があることが考えられます。
具体的な改善方法
・CTAの見直し
ページ内にわかりやすい行動誘導(例: 購入ボタンや問い合わせフォーム)が設置されているかを確認します。
・コンテンツの精査
流入キーワードに合った情報がしっかりと提供されているかを見直し、ユーザーの期待に応えるコンテンツに改善します。
平均ページ滞在時間は、コンテンツの質やユーザーが興味を持ったかどうかを測る重要な指標です。ただし、滞在時間が長ければ必ずしも良い結果とは限りません。例えば、情報を見つけられずにページ内を迷っている場合もあります。
実践的なチェックポイント
・ページ内リンクの配置
関連記事や商品ページへのリンクを適切に配置し、次のアクションを誘導します。
・離脱タイミング
ページのどの部分で離脱が発生しているかをヒートマップツールなどで確認し、改善ポイントを特定します。
指標間の関連性を意識した分析
これらの指標は単独で見るだけでなく、相互の関係性を意識することでさらに深い洞察が得られます。例えば、PVが多いページでも直帰率が高ければ、コンテンツやCTAに問題があるかもしれません。また、UUが増加しているのにCV率が低い場合は、購入プロセスに障害がある可能性があります。
アクセス解析の成果を最大化するためには、自社の業種やビジネスモデルに応じた指標を適切に選択することが必要です。それぞれの業種では、目的やユーザー行動に違いがあるため、注目すべきデータポイントも異なります。ここでは、BtoB、BtoC、ECサイトごとに、より具体的な分析方法や施策を解説させていただきます。
BtoBでは、直接的な売上よりも、見込み顧客(リード)の獲得や育成が重要な目的となることが多いです。意思決定プロセスが長期化しやすい分、継続的な接点を持ちながら信頼を構築する必要があります。
重要指標の具体的な使い方
コンバージョン率(資料請求・問い合わせフォーム送信)
資料請求フォームが複雑すぎたり、入力項目が多すぎると、コンバージョン率が低下する傾向があります。A/Bテストを実施してフォームの最適化を図ることが有効です。たとえば、入力項目を減らすことで、コンバージョン率が大幅に改善したケースもあります。
セッションあたりのページ閲覧数
この指標が高い場合、ユーザーが複数の情報を興味深く閲覧している可能性があります。逆に、特定ページで離脱が多い場合、そのページのナビゲーションやCTA(行動喚起)の見直しが必要です。
特定コンテンツのPV(ホワイトペーパーや導入事例)
ホワイトペーパーやケーススタディは、BtoBユーザーにとって購入意思決定を後押しする重要な情報です。そのため、これらのコンテンツのPVやダウンロード数を追うことで、潜在顧客の関心度を把握できます。
さらなるヒント
・アカウントベースドマーケティング(ABM)を活用し、特定企業の訪問データを追跡することで、ターゲット企業への効果的なアプローチが可能です。
・メールやWebセミナーを通じて、育成ステップに応じたコンテンツを提供することが成功の鍵になります。
BtoCは、比較的短期間で消費者は購入するかどうかを決める傾向があるため、その場で行動(コンバージョン)を起こしてもらう仕組みが必要となってきます。
重要指標の具体的な使い方
コンバージョン率(購入完了やカート追加)
広告や検索エンジン経由で流入したユーザーが購入に至る割合を測定します。コンバージョン率が低い場合、コンテンツ内容、ページデザイン、購入フォームの入力項目の削減やデザイン変更などを検討する必要があります。
直帰率(ランディングページの効果測定)
広告キャンペーンや検索キーワードに基づいて設計したランディングページが、ユーザーの期待に応えていない場合、直帰率が上昇します。直帰率を下げるための一つの策として、広告のメッセージとランディングページの内容を一致させる必要があります。
平均セッション時間
サイト全体のコンテンツがユーザーの興味を引いているかを把握できます。ブログや製品紹介ページが主要なトラフィック源である場合、この指標の向上はリピーターの増加に貢献します。
ECサイトでは、売上や購入行動に関わる指標が最優先されます。ただし、短期的な売上増加だけでなく、長期的な顧客ロイヤルティの向上にも目を向ける必要があります。
重要指標の具体的な使い方
売上高や平均購入単価
どのカテゴリや商品が最も利益を生み出しているかを特定し、在庫や広告予算配分の最適化に活かします。
カート放棄率
購入プロセスの途中で離脱するユーザーを防ぐため、カート放棄の原因を特定します。入力項目数の見直し、送料の表示、カートボタンのデザインと文言の見直し、カート内の商品画像の変更などさまあまな要素で改善するかどうかを検討する必要があります。
リピート率
再購入率を高めるために、購入後のフォローアップメールやポイントキャンペーンを実施します。特にリピーター向けの割引コードや特典が効果的です。
商品ページの閲覧数
キャンペーン商品のページビューや、関連商品のクリック数を測定することで、需要の高い商品を特定できます。
デバイス別指標:
モバイルユーザーの割合が増加する中で、デバイスごとのCV率や直帰率を分析し、デバイスごとに最適化された体験を提供することが重要です。
エンゲージメント率
ソーシャルメディアのシェア数やコメント数も、顧客との関係を深める上で有用なデータになります。
アクセス解析の指標は業種や目的に応じて柔軟に選ぶべきです。それぞれのビジネスモデルに最適な指標を定め、定期的に見直すことで、施策の精度を高めていくことができます。
KGIやKPIを設定するのは重要だとわかっていても、「どうやって具体的に設定すればいいのか?」という部分が一番のハードルですよね。頭では理解していても、いざ自分のビジネスに落とし込もうとすると途端に難しく感じることがあります。そこで、仮想のECサイトを例に、KGIやKPIをどのように設定していくのか、具体的な流れをステップごとに解説していきます。
実務に活かしやすい形で進めますので、「自分の業務に置き換えるならどうだろう?」と考えながら読んでみてください。
仮想企業の背景:ECサイトの事例
今回のケーススタディでは、仮想のECサイトをモデルにします。このサイトは、主にファッションアイテムを取り扱っており、目標は年間の売上向上です。以下の基本情報をもとに、KGIとKPIを設定していきます。
現状の課題
売上が前年と比較して停滞しており、特に新規顧客の獲得に苦戦している。
ビジネス目標
新規顧客の購入を増やしながら、リピーターを増やして売上の安定を図りたい。
KGI(年間目標)
年間売上を1.5億円に引き上げる。
最初に、年間売上1.5億円という目標を達成するために必要な条件を分解していきます。この際、以下のような問いかけをすると目標が明確になります。
・売上のうち、新規顧客とリピーターの比率をどう設定するか?
・月間売上はいくら必要か?
・平均購入単価や購入頻度をどの程度にするか?
例えば、売上目標を達成するための計算は次のように行います。
平均購入単価:5,000円
購入頻度(リピーター):年間2回
必要な購入数:30,000件
このように、年間売上目標を具体的な数字に落とし込むことで、より現実的なアプローチが可能になります。
次に、KGIを達成するための具体的なアクション指標(KPI)を設定します。ここでは、「新規顧客獲得」と「リピーター増加」の2つに分けて考えます。
新規顧客獲得に関連するKPI
月間の新規顧客数: 1,000人
広告キャンペーンのクリック率: 5%
ランディングページのコンバージョン率: 2%
リピーター増加に関連するKPI
購入者のリピート率: 30%
メルマガ開封率: 20%
リピート購入者の購入頻度: 年間2回
これらのKPIを設定する際には、達成可能な範囲で数値を設定することがポイントです。とはいえ、少し高めの目標を掲げることで、チーム全体のモチベーションが向上することもあるので、そのバランスを見極めることが大切です。
KGIやKPIを設定したら、それで終わりではありません。実際のデータをもとに、定期的に目標を見直すことが必要です。
例えば、広告キャンペーンのクリック率が目標を下回っている場合は、広告クリエイティブの変更やターゲティングの見直しを行うといった具体的な施策を検討します。また、リピーター率が低い場合は、購入後のフォローアップメールやポイント制度の改善が有効かもしれません。
KGIやKPIの設定はシンプルに見えますが、実際にはいくつかの落とし穴があります。ここでは、よくある失敗とその対策を紹介します。
目標が曖昧すぎる
「売上を増やす」「新規顧客を増やす」といった漠然とした目標では、具体的な行動計画につなげにくいです。具体的な数値と期限を必ず設定しましょう。
データの整合性が取れていない
KPIを設定しても、計測ツールの設定ミスやデータの精度不足によって、信頼性の低い数値が出ることがあります。Google Analyticsやヒートマップツールを使う場合は、計測設定を二重チェックすることが重要です。
KGIとKPIの関連性が薄い
KGIとKPIが適切に結びついていないと、チーム全体が混乱します。たとえば、「新規顧客獲得」が最優先課題なのに、「直帰率」の改善ばかりに注力してしまうケースはよくあります。KGIを常に念頭に置き、優先順位を明確にしておきましょう。
数値目標が現実離れしている
あまりにも高すぎる目標を設定すると、チーム全体が疲弊し、やる気を失ってしまうことがあります。現実的かつやや挑戦的な目標を目指すのが理想です。
アクセス解析は膨大なデータの中から、どの指標を追うべきかを明確にすることが大切です。PVやセッション、コンバージョン率などの基本指標を正しく理解し、業種や目的に応じた優先度を設定することで、データの価値を最大化できます。
BtoBではリード獲得と育成、BtoCでは購買促進、ECでは売上向上が重視され、それぞれ異なる指標が重要となります。また、LTVやエンゲージメント率、デバイス別指標などのトレンドを押さえ改善することで、ビジネスを成長させることができます。重要なのは、データを「改善のヒント」として活用する視点です。この記事を参考に、自社のビジネスに合った解析方法を見つけていただければ幸いです。