マーケティングの現場で「ペルソナ」という言葉を耳にする機会は少なくありません。ただ、その意味を問われたとき、即座に答えられる方はどれほどいるでしょうか。
では、ペルソナとは本来どのようなもので、どこまで深く設計するべきなのでしょうか。そして、それがビジネスの成果にどう影響を与えるのか。
この問いの答えは、「使えるペルソナ」と「飾りに終わるペルソナ」の差に目を向けることが重要です。
今回の内容では、基本的な概念から実務への応用、さらに精度を高めるためにはどうすればよいのかを解説させていただきます。
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「ペルソナ」という言葉を聞くと、多くの人がマーケティング用語として捉えがちです。ですが、その背景にはもっと深いルーツがあります。もともとはラテン語に由来し、古代ギリシャの舞台で役者が使っていた仮面を指していたといわれています。つまり、演者が役を演じるために装着していた「人格の象徴」としてのマスクが語源です。
この「仮面」は、ただ顔を隠す道具ではなく、役柄に合わせた“演じる存在”を意味していました。そこから派生して、心理学では人が社会と関わる際に見せる「外的な人格」という意味でも使われています。
マーケティングにおける「ペルソナ」の定義と役割
現代のビジネスシーンでは、「ペルソナ」は単なる顧客の代表例ではありません。もっと具体的にいうなら、「自社の商品やサービスに深く関わる、架空の顧客像を詳細に描いたモデル」と表現した方が近いかもしれません。
年齢や職業、家族構成のような基本情報だけでなく、日常の悩みや行動パターン、価値観、情報収集の手段に至るまで丁寧に設計します。ここで重要なのは、「こういう人が買ってくれるはず」ではなく、「現実に近い、具体的な生活を持った個人像をつくること」です。
なぜそれが必要なのか。それは、企業側の思い込みだけでマーケティング戦略を組み立ててしまうと、ズレたメッセージや商品設計になりやすいためです。ペルソナをつくることで、社内の意思疎通がスムーズになり、チーム全体が“同じ方向”を向いてアプローチできるようになります。
ペルソナとターゲットは何が違うのか?
「ターゲット」と「ペルソナ」はよく混同されます。一見、どちらも誰に向けて売るのかを考えるという点では似ていますが、その精度と目的には大きな違いがあります。
ターゲットは、いわば大まかな属性の枠組みです。たとえば「30代の働く女性」「都市部に住む学生」など、集団としての特徴をとらえたものになります。一方でペルソナは、その枠組みの中にいる“たった一人の人物像”を描くアプローチです。
この違いを意識しないまま設計を進めると、表面的な理解にとどまってしまいます。例えば、30代の女性でも、未婚のフリーランスと二児の母親では、行動や価値観がまるで異なります。ペルソナでは、そこまで細かく踏み込み、“その人の目線で商品を見る”感覚を持つことが求められます。
どちらが優れているという話ではなく、ターゲットは全体の方向性を定めるために使い、ペルソナは具体的なマーケティング施策や提供する情報の精度を上げるために活用するのが自然な使い分けだと思います。
「顧客を知ること」は、マーケティングの基本ともいえます。では、その“知る”のレベルはどこまで深められているでしょうか。データがあふれる現代だからこそ、ただ単に年齢や性別を理解するだけでは、見落としていることが多いのかもしれません。
ここでは、ペルソナ設計が今あらためて注目されている理由について、背景を分解して考えてみましょう。
デジタル時代における顧客理解の重要性
これまでの広告や販促活動は、ある程度マス(大衆)に向けて同じメッセージを届けるという考え方が主流でした。しかし、デジタル化が進んだ現在では、ユーザーが接触する情報や選択肢が無数に広がっています。
誰もがSNSや検索エンジンを使って“自分に合った”サービスを自ら探し出せるようになった今、発信者側の情報の届け方も格段に精度を求められるようになりました。
そうなると、これまで以上に顧客像を深く理解し、「この人はなぜこれを選ぶのか」「どの瞬間に購入を決めるのか」といった行動の文脈に寄り添う視点が必要になります。表面的な属性だけでは届かなくなったからこそ、人格にまで踏み込んだ設計=ペルソナが効果を発揮しやすくなっているのです。
個別の最適化が求められる現代マーケティングの潮流
AIやマーケティングオートメーションの進化により、「誰に、何を、どのタイミングで伝えるか」をピンポイントに設計できるようになってきました。広告配信やメルマガひとつをとっても、すべての顧客に同じ内容を届けるやり方はむしろ非効率になりつつあります。
こうした状況では、「誰か1人を思い浮かべて設計する」ことの意味がより濃くなります。実際、購買行動や閲覧履歴をもとにセグメントごとに最適化したアプローチをする場合でも、その核になるのはやはり「想定する顧客像のリアリティ」です。
抽象的な「ターゲット」ではマーケティング施策の細部が決まらないというふうに感じる場面は少なくありません。だからこそ、ペルソナは設計のスタート地点として、欠かせない存在になっているのだと思います。
「ペルソナを設定しましょう」と言われても、どこから手をつければいいのかわからないという声は少なくありません。ペルソナは感覚や勘に頼るものではなく、一定のプロセスを経て設計されるものです。ここでは、具体的な設計ステップを5段階に分けて紹介していきます。
① 自社のビジネスモデルと顧客の関係を可視化する
いきなり「顧客像を考えよう」としても、今回販売したい自社の商品についてしらって以内と上手く設計ができません。まずは、自分たちの提供する商品やサービスが、誰のどんな課題を解決しているのかを丁寧に言語化することが第一歩です。
ここで意識したいのは、「誰が買っているか」よりも、「なぜ選ばれているのか」という視点です。価格、ブランド、機能性、サポート体制……購入を後押ししている要素は何なのか、自社のビジネスモデルとの接点を可視化してみてください。
図解やカスタマージャーニーのようなフレームワークを活用することで、抽象的な思考が整理されやすくなると思います。
② 顧客データを収集し整理する
次に取り組むべきは、いろいろな確度から情報を顧客について集めていきます。購買履歴、会員が登録している情報、アンケート結果、カスタマーサポートに寄せられる声など、社内に眠っている情報資源は意外と多いはずです。
定量的なデータ(数値)だけでなく、定性的なデータ(感情や言葉)をも集めてください、この両方の情報をバランスよく組み合わせることで、表面的ではない人物像が見えてきます。
たとえば、「30代・女性・東京在住」という情報に、「仕事と育児の両立に疲れている」「外出が減って通販に頼っている」といった声が加わると、見え方がまったく変わってきます。
ただ単に“属性情報”を収集するだけではなく、背景にある「文脈」を拾うことが重要です。
③ 属性だけでなく「感情」や「行動」を含めて構成する
ペルソナを設計するうえで最も大切なのは、「その人は、なぜその行動をとるのか?」を理解しようとする姿勢です。年齢や職業といった情報は出発点でしかなく、本質はその人の内面や生活習慣にあります。
日々のスケジュール、ストレスを感じている場面、喜びを感じる瞬間、影響を受けるメディアなど、ストーリーとして浮かび上がるような要素を組み込んでみてください。
感情や行動が入ることで、ペルソナは“単なるデータの集合体”ではなく、“そこに実在しそうな人物像”へと変化します。そのリアリティが、マーケティング施策の芯になります。
④ チーム内で共有・ブラッシュアップを行う
ペルソナは個人がひとりで作り上げるものではありません。設計後は、関係者同士で共有し、客観的な視点を取り入れるプロセスが欠かせません。
営業、カスタマーサポート、開発など、それぞれが異なる顧客接点を持っているため、意外な気づきが生まれることがあります。「うちの顧客はそこまでSNSに反応しないよ」といった現場の声が、設計の修正につながることもあります。
ときには、全体会議ではなく、部署ごとに小規模にディスカッションすることで、より深い意見が出やすくなると感じます。
⑤ 作ったペルソナを実際の施策に活かす方法
ペルソナを描いただけで満足してしまうケースは少なくありません。けれど、それを使ってどのように施策に落とし込むかが本当の勝負です。
例えば、広告コピーを考えるとき、「このペルソナなら、どの言葉に引っかかるか?」という視点を加えるだけで表現が変わります。コンテンツマーケティングでも、「その人がどの時間帯に、どんな悩みを抱えながら検索するか」を意識することで、記事の切り口や構成に厚みが出ます。
ペルソナを作る目的は、“考えるための視点をチームに与える”ことです。活用の場面ごとに常に立ち返り、必要に応じて更新していくことで、最新のペルソナ像を活用して施策を打つことができるようになります。
「ペルソナを設計する」と聞くと、年齢や職業などの属性情報を思い浮かべる方が多いかもしれません。けれど、本当に伝わるマーケティングを展開したいなら、それだけでは足りません。
現代のユーザーは、単なる属性でくくれるほど単純ではなく、日常の選択や行動はその人の価値観や感情に深く根ざしています。ここでは、ペルソナを立体的に設計するために押さえておきたい要素を、5つの視点から見ていきます。
基本属性(年齢・性別・住んでいる場所、仕事内容など)
ペルソナ作りに役に立つ情報としては、基本的な属性情報が重要となります。ただし、この段階では深く考えすぎず、事実ベースでシンプルに設計することがポイントです。
年齢や性別、どんな地域に住んでいるか、どのような仕事をしているか、そして家庭構成などが主な項目です。たとえば「都心で働く28歳の独身女性」や「地方在住の40代・子育て中の会社員男性」など、社会的な立ち位置や生活環境が想像できるように設計することが重要です。
ここではあくまで“輪郭”を捉えることが目的で、後述する情報と組み合わせて、リアルな人物像を形づくっていきます。
生活様式や価値観
同じ年代、同じ職業であっても、日々の生活スタイルや大切にしているものはまったく異なります。
たとえば、趣味にお金をかける人と、家計を優先する人とでは、購買行動の傾向が大きく変わります。
ここで見るべきは、「その人は何に時間を使い、何に価値を感じているのか」という部分です。
例えば、以下のようなことを見ていきます。
・平日は仕事に追われ、週末に癒しを求める
・環境への配慮を重視し、選ぶ商品はエシカルかどうかが決め手になる
・ブランドよりも実生活での利便性を重視するなど
価値観は行動の背景にあり、マーケティングに関する具体的なプランを考えてるときの重要な視点になります。
表面的な情報だけでなく、「その人がなぜそう考えるか」に触れるような視点があると、設計の精度が増すはずです。
日常の悩みや課題、購買動機
このパートでは、「その人がなぜその商品やサービスに関心を持つのか」を深掘りします。
ペルソナが持つ課題やストレス、理想の状態、情報収集時の葛藤などが見えてくると、マーケティングの表現は一気に現実味を帯びてきます。
たとえば、「毎朝のメイクに時間がかかることがストレスで、時短アイテムを探している」
あるいは「健康診断で数値が悪化し、今さらだけど生活改善を考え始めた」など。
こうした悩みは、そのまま検索キーワードやSNS投稿の中に表れます。だからこそ、実際のユーザーの声や体験談をヒントにすると、更に精度が高いペルソナを定めることができるようになります。
感情に紐づいた課題こそが、購買やアクションのきっかけになるという点は、いつも意識しておきたいところです。
メディア接触・SNS利用傾向
情報収集やコミュニケーションの手段は、ペルソナの行動を知るうえで欠かせない要素です。
特に、どのプラットフォームに日常的に触れているかは、配信チャネルやコンテンツの形を決めるヒントになります。
例えば、以下のようなことを知ることが重要です。
・X(旧Twitter)でリアルタイムの意見を追っている
・Instagramで新しい商品との出会いが多い
・YouTubeでレビュー動画をよく視聴している
・LINEのニュースをなんとなく流し見している
このように、どんなメディアにどのタイミングで触れているかを把握することで、アプローチ方法の解像度が高まります。
接触メディアだけでなく、「どんなコンテンツに反応しやすいか」まで見ていくと、施策設計に活かしやすいと感じます。
ブランドとの関係性や期待
最後に見ておきたいのが、自社ブランドや業界全体に対してペルソナが抱く印象です。
この項目は意外と軽視されがちですが、「今どんな立ち位置にあるのか」を捉えることはとても重要です。
たとえば、すでに何度も商品を購入している「愛着あるユーザー」と、比較検討中の「初期接点層」とでは、必要なメッセージやトーンがまったく異なります。
また、「自社を信頼してくれている」のか、「なんとなく不安を感じている」のかによっても、伝え方の工夫が求められます。
理想をいえば、ペルソナがブランドにどんな期待をしているのか、どこにギャップを感じているのかを言語化できると、施策の方向性が見えやすくなると思います。
ペルソナ設計は、単に資料をつくる作業ではありません。
現場で活かされて初めて意味を持ちます。けれど実際には、形式的に作って満足してしまったり、思い込みに引きずられて方向を見誤ったりと、落とし穴も多い工程です。
ここでは、ペルソナを使える”形に仕上げるために意識したい視点や、つまずきやすいポイントを整理してみましょう。
「理想的な」ではなく「なるべく実際の現状に沿った」の顧客像を描くこと
ペルソナを設計する場面でありがちなのが、「こういう人に来てほしい」「この層に刺されば売れそう」といった希望をそのまま投影してしまうことです。確かに理想的な顧客像を描くことはモチベーションにもつながりますが、それだけで構成すると、現実とのギャップが大きくなります。
重要なのは、「すでに自社に接触している人たちは、どんな行動をしているか」「どこでつまずき、何に価値を感じているか」という実態を観察することです。
そこから見えてくるのは、意外と理想とは違う、地に足のついた“リアルな声”だったりします。
夢を描くより、まずは現実を直視すること。その地味な作業が、のちの成果を支える土台になります。
関係者の主観を排除するための工夫
マーケティング部門だけでなく、営業や商品開発など複数のチームが関わる場合、それぞれが「顧客を一番よく知っている」と考えていることも珍しくありません。そのため、ペルソナ設計が部門ごとの思い込みのぶつけ合いになってしまうケースもあります。
ここでのポイントは、あくまでデータと顧客の声を軸に議論を進めることです。誰かの印象論ではなく、行動ログ、アンケート結果、実際の商談メモなど、できる限りファクトを根拠にして設計することで、感情に引っ張られにくくなります。
加えて、社内ワークショップ形式で複数人が意見を出し合いながら、その場で壁打ち・修正していくようなスタイルは、視野の偏りを防ぐうえでも効果的です。
複数ペルソナを設定する必要があるケースとその対応方法
扱う商品やサービスの対象が広い場合、「1人のペルソナだけでは全体をカバーしきれない」と感じることが出てきます。たとえば、同じオンライン学習サービスでも、受講者が高校生、社会人、シニア層まで広がっていれば、ニーズも接点もまったく異なります。
こうしたときは、複数のペルソナを設定すること自体は自然な流れです。ただし、それぞれのシナリオや価値基準が交錯してしまうと、施策がぼやけてしまうおそれがあります。
対処法としては、「ペルソナごとに分けて施策を整理する」「メインのペルソナと押さえておきたいペルソナを明確にする」など、重心を明確にしておくことが鍵になります。むやみに数を増やすのではなく、必要最小限でメリハリのある構成を意識しておくと、運用もしやすくなります。
実践とともに進化させるペルソナ設計
ペルソナは、一度作って終わりの固定化された存在ではありません。市場の変化、顧客の行動変容、新たな商品ラインの追加など、時間とともに前提条件は変わっていきます。
それに対して、いつまでも初期に作ったままのペルソナを使い続けると、マーケティング全体が時代遅れになってしまう恐れがあります。
ここで意識したいのが、「リビングペルソナ」という考え方です。つまり、“常に動いているもの”として扱うという発想です。
たとえば、年1回ごとにユーザー調査を実施したり、CSチームから定期的にフィードバックを吸い上げたりすることで、ペルソナに少しずつ変化を加えていきます。無理に全体を作り直す必要はなく、現場の感覚に沿った小さな修正を重ねることが、結果的にズレのない施策につながっていきます。
「ペルソナをつくるのは面倒」「時間がかかるわりに活かし方がよくわからない」
そんな声を現場で聞くことは少なくありません。けれど、きちんと設計されたペルソナは、マーケティングだけにとどまらず、商品開発やチーム運営にまで大きな変化をもたらすことがあります。ここでは、現場で感じられる“効き目”にフォーカスして、ペルソナ設定がもたらす実務的なメリットを見ていきましょう。
ユーザー視点から商品の開発やサービスの修正ができる
新しい機能を加えるかどうか、価格帯をどう設計するか。そうした判断の場面で、社内視点だけで意思決定すると、どうしても偏りが出ます。
ペルソナがあると、「この人なら、どこに不便を感じるだろう」「どうすれば選びやすくなるだろう」という視点で考えることができるようになります。
たとえば、「仕事と子育てに追われているペルソナ」なら、機能が豊富なことより時短で使えるかのほうが優先されるかもしれません。あるいは、「情報を比較検討してから購入するタイプ」なら、口コミやレビューを見やすくする工夫が効果的かもしれません。
このように、ユーザーの立場で設計や改善に向き合えるようになることが、ペルソナを活用する大きなメリットになります。
広告や提供する情報の方向性が定まりやすくなる
「誰対し、どのような言葉を投げかければ良いのか」が曖昧なままだと、コンテンツも広告もぼやけた表現になりがちです。
一方で、ペルソナが具体的に決まっていると、文章のトーンやビジュアルの選定にもブレがなくなります。
たとえば、「SNSに普段利用していない人」に対しては、短縮表現や専門用語を避けるだけでも伝わりやすさが変わってきます。
広告であれば、「夜、スマホで情報収集する人」を想定すれば、配信時間やキャッチコピーの工夫にまでつながっていくはずです。
「どのような情報を作成していくのか」や「どのチャンネルで情報を提供していくのか」というマーケティングプランに迷ったとき、「その人ならどう感じるか?」という問いに立ち返れるのは、大きな支えになります。
チーム内の認識が統一され、意思決定が迅速に
プロジェクトに関わるメンバーが多くなるほど、「誰に何を提供するのか」や「どうやって提供するのか」に対する認識のズレが生まれやすくなります。
そのズレが積み重なると、議論がかみ合わなかったり、アウトプットされたクリエイティブやコピーに対してバラバラな状態になったりすることもあります。
ペルソナがベースにあると共通認識として機能するするので、
「このペルソナの目線で考えよう」と言えば、チーム全員が同じ方向を向いて意見を出しやすくなります。
しかも、誰かの主観ではなく「決められたペルソナ」を基準にすることで、感情的なぶつかり合いを避けられるという副次的なメリットもあります。
議論の土台が共通であるだけで、意思決定のスピードも驚くほど変わってくると感じます。
CS(カスタマーサポート)や営業活動の質も向上
ペルソナを活用するシーンとしてマーケティングや開発だけに使われているケースは多いですが、本来は顧客対する接点の全てに利用される方が更に意味のあるものとなります。
例えば、カスタマーサポートや営業現場では、「このお客様が、どういう考え方で問い合わせているのか」を理解できるかどうかが、対応の質に直結します。具体的には、サポート担当者がペルソナがどのようなことに価値をおいているのかを把握していれば、対応の言葉づかいや、説明の順序にも配慮が生まれます。
営業であれば、提案資料の構成や伝えるべき訴求ポイントが絞りやすくなり、話の展開もスムーズになります。
ペルソナ設計は、多くのメリットがある一方で、現場で進める中で感じる“やっかいさ”も存在します。見落としがちな落とし穴に気づかず進めてしまうと、どれだけ時間をかけても、施策に反映されず終わってしまうことも少なくありません。
ここでは、ペルソナに関するよくある課題と、その解決に向けた現実的なアプローチを紹介します。
ペルソナ作成に手を出せずにいる企業の多くが抱えているのは、「やりたいけれど、時間が取れない」という課題です。細かいヒアリング、データの収集、チーム間の意見調整……やるべきことが多く、日々の業務に追われる中では後回しにされがちです。
そこで有効なのは、「完璧を目指さない」スタンスで始めることです。たとえば、まずは営業チームやカスタマーサポートなど顧客と近い部門から、簡易的なインタビューを集めるだけでも、見えてくるものはあります。
また、社内に保存戯れている既存ユーザーのデータやFAQ、問い合わせ履歴を活用すれば、ゼロからのスタートでなくても精度の高い仮説が立てられます。
最初から細かく作り込もうとするより、“使いながら育てていく”意識の方が、かえってスムーズに進むのではないかと思います。
作成したペルソナが形骸化してしまうリスク
一度はしっかり設計したのに、気づけば誰も見ていない。そんな“飾り資料”と化したペルソナを、何度も見てきました。背景にあるのは、共有・更新・活用のどれかが滞っているケースがほとんどです。
このリスクを避けるためには、「作ったあとに、どう使うか」をあらかじめ設計しておくことが大切です。
例えば、どのような情報を提供するかを考える時にペルソナを意識しながら作ります。また広告出稿時のターゲット設計に紐づけるなど、「活用の場」を先に決めておくと活用する場も増えていきます。
また、定期的にペルソナを見直す日をチームで設定するなど、メンテナンスの習慣を組み込んでおくと、情報の鮮度も保ちやすくなります。
「作っただけで終わらせない仕組み」を組み込めるかどうかが、長く活きるかどうかの分かれ道です。
幅広い層に対応する必要がある商品への適用法
商品の性質によっては、顧客層があまりに多岐にわたり、「1人のペルソナでは収まりきらない」という悩みに直面することがあります。
たとえば、ECモールやSNSアプリなど、年齢・性別・ライフスタイルがバラバラなユーザーが使うサービスでは、ひとつのペルソナでは抽象的になりすぎてしまうこともあります。
このような場合は、複数のペルソナを使い分けるだけでなく、「主軸」となる代表像と、「周辺」にいるサブ的な人物像を整理する方法が有効です。
たとえば、もっとも利益を生み出している層を「メインペルソナ」とし、それ以外に接触機会の多いタイプをいくつか軽めに描いておく。これだけでも施策の優先順位は格段に立てやすくなります。
すべてのユーザーを細かく定義しようとするより、影響の大きい層を絞って深掘りする方が、マーケティングの方向を決めやすくなります。
「どう設計すれば良いのか、何を盛り込むべきなのかがわからない」ということはないでしょうか?
ペルソナの必要性を理解していても、実際の構築フェーズで手が止まってしまうケースは多いです。ペルソナ設計は慣れるまでは抽象的に感じやすいですが、ひとつの型を参考にすることで、構築スピードと精度の両立がしやすくなります。
ここでは、すぐに活用できるテンプレートと、BtoB/BtoCそれぞれの具体例を紹介しつつ、自社に合わせたカスタマイズのコツまで解説します。
テンプレート
まずは、設計のたたき台となるテンプレートをご紹介します。テンプレートは、「情報が抜け落ちにくいこと」「他部署と共有しやすい構成になっていること」が重要です。以下のような項目をベースに、ひとつのペルソナを組み立てていきます。
ペルソナ作成テンプレート:構成項目例
項目 | 内容例 |
---|---|
名前(仮名) | 佐藤 美咲(32歳) |
居住地 | 東京都内・1人暮らし |
職業 | Web系企業の人事担当 |
年収 | 約500万円 |
家族構成 | 独身、地方に高齢の両親あり |
性格・価値観 | 効率重視、感情に流されにくい、コスパを気にする |
日常の課題 | 人手不足で業務が属人化している/採用業務が煩雑 |
情報収集手段 | Google検索、X、社内勉強会 |
使用メディア | note、LinkedIn、Voicy |
購入・利用動機 | 手間を減らしたい、ミスを減らしたい、自分の時間を確保したい |
商品・ブランドへの期待 | 自動化・効率化+安心感のあるサポート体制 |
このように、ライフスタイル・思考・感情・デジタル接点まで含めて組み立てることで、単なる属性情報では見えない部分が浮き彫りになります。
BtoB向けとBtoC向けのサンプル例を紹介
テンプレートの項目は共通ですが、BtoBとBtoCでは「ペルソナとして必要な項目」に違いがあります。ここでは、それぞれの特性に応じた設計例を簡単にご紹介します。
例:SaaSツール導入の意思決定者
・名前:田中 翔太(38歳)
・役職:中堅メーカー・情報システム部マネージャー
・目的:離職率を下げるために業務負担を減らす業務効率化。各部署で勝手にツールを導入されて乱立することを防ぎたい
・行動傾向:調査段階でベンダーの実績・セキュリティ体制を重視。失敗したときの社内責任を懸念しており、担当者目線の「安心材料」が刺さりやすい
・情報源:業界イベント、他社事例セミナー、日経クロステック、口コミ
例:時短系家電の購入検討者
・名前:中村 亜希(34歳)
・ライフスタイル:2児の母。時短・効率重視のワーキングマザー
・行動背景:子どもの送り迎えと仕事の両立で毎日がバタバタ。料理・洗濯などの「ながら家事」を減らしたい
・商品を選ぶ基準:口コミで失敗したくない。アフターサポートがあるかも重要視
・SNSとの関わり:YouTubeやInstagramで主婦インフルエンサーをチェック。レビュー動画は一度は見る
BtoBではロジックと責任、BtoCでは感情と共感がキーポイントになりやすいため、描写の比重も少し変えると、より実態に近づけやすくなります。
自社用にカスタマイズするポイントを解説
テンプレートはあくまで出発点となり、自社のビジネス特性や顧客構造に応じて必要な項目を取捨選択していく必要があります。
例えば、以下のような観点で行います。
・toC商材(美容・食品など):感情にまつわる記述(悩み・願望・理想の姿など)をやや厚めに
・toB商材(業務改善系など):導入検討プロセスや社内調整の実情など、組織目線を加える
・定期購入やリピートを前提としたビジネス:継続理由や離脱の要因を入れておくと改善に役立つ
また、運用を前提とした場合には、「社内で誰が使うのか」「どの施策に使っていくのか」を最初にイメージしておくと、設計後の使い勝手が大きく変わってきます。
ここまで設計してきたペルソナを、更に上手く実際のマーケティング活動の中でどのように使っていくかについて、戦略設計から実行フェーズまで、上級者目線での活用ポイントを整理させていただきます。
カスタマージャーニーと連動した設計
どれだけ緻密にペルソナを描いても、「その人がいつ・どこで・何を考えているか」という流れが見えていなければ、施策は断片的になりがちです。
そこで欠かせないのが、カスタマージャーニーとの連動です。
ペルソナが「誰か」を具体的に考える物で有り、カスタマージャーニーは「いつ・どのように接触するか」を描く地図のようなものだと考えることができます。以下のような思考と行動の揺らぎを時系列で把握しておくことで、ペルソナはより動的な存在になります。
・興味段階では、どんな検索ワードで調べるのか
・比較検討中には、どの情報源を重視するのか
・購入直前には、どんな一言が背中を押すのか
個人的に感じているのは、ペルソナ設計がジャーニーとセットになったとき、コンテンツの順番・広告の配信タイミング・LPの構成など、すべての粒度が一段階上がります。
静的な人物像にストーリーが通った瞬間、マーケティングが急に生きた施策へと変わる感覚があります。
広告運用(SNS広告・検索連動型広告)での活用方法
広告運用においてペルソナが力を発揮するのは、「表現のチューニング」に留まりません。むしろ、媒体選定からセグメントの切り方まで、根底の設計に直結する部分が大きいです。
たとえばSNS広告。
ざっくり30代の女性というターゲティングではなく、
「フルタイム勤務で子育て中、インスタでは夜の時間に自分時間を楽しむ層」
といった具体的なペルソナが見えていれば、出稿の曜日・時間帯・クリエイティブのトーンまで、かなり絞り込めます。
検索広告でも同様です。ペルソナの行動や悩みを踏まえて、「症状ベースで検索する傾向が強い」「比較キーワードを多用する」といった傾向が見えていれば、広告文の構成も変わってきます。
効果の出やすい広告運用は、PDCAの早さもさることながら、「誰に」「なぜ届けたいのか」がぶれていない。そこにペルソナが貢献できる余地は、思っている以上に大きいはずです。
SEOコンテンツやメルマガ設計での応用例
SEOやメールマーケティングの分野でも、ペルソナはどのような内容を伝えるのかということを考えるための武器として使えます。
SEOにおいては、検索キーワードの意図を深く読み解くために、ペルソナの存在が欠かせません。
たとえば「在宅勤務 ストレス」というキーワードがあった場合、
・検索しているのは誰か?
・何に困っていて、何を知りたいのか?
・読んだあとに、どう行動してほしいか?
この一連の流れを考えるうえで、ペルソナの設計が行間の設計図になります。
また、メルマガでも効果を感じやすいです。全員に同じ内容を配信するよりも、ペルソナごとに課題や関心を絞った配信を行ったほうが、CTRや開封率に明確な差が出るケースは多いです。
たとえば、「価格に敏感な層」にはキャンペーン中心、「比較中の層」には口コミや事例を、「新規登録直後の層」には安心感を与えるサポート情報を送る、といった使い分けが、ペルソナの理解があるからこそ成立します。
ペルソナ設計は「なんとなく」で済ませてしまうと、あとで確実に迷いが生じます。そんなときに役立つのが、他者の知見やフレームワークを体系立てて学べるリソースです。情報が氾濫する中で、どこから学べばよいか迷う方も多いのではないでしょうか。
ここでは、初めてペルソナに触れる人から、実務で活用したい中級者・上級者まで、それぞれの立場で使えるツールをピックアップしてみました。
ペルソナ作成に使える無料・有料ツール(ChatGPTも含む)
ツールの力を借りることで、設計プロセスが格段にラクになることがあります。特にスピード感を求められる実務では、ゼロから手作業で進めるのではなく、土台づくりをツールで補助しておくと効率が上がります。
1. ChatGPT(OpenAI)
アイデア出しや初期構成のラフ作成に便利です。たとえば、「30代の女性会社員で、業務効率化に関心がある人のペルソナを作って」と入力するだけで、基本項目のひな型がすぐに提示されます。あくまで仮説ベースの出力ですが、チームでの壁打ちや、項目の見落としチェックにはかなり有効だと感じます。
ChatGPT:https://openai.com/ja-JP/chatgpt/overview/
2. Make My Persona(HubSpot/無料)
質問に答えていくだけで、ペルソナの基本設計を進められるツール。英語表記ですが、操作はシンプルで、完成後にはPDFで保存できる点も便利です。初心者が手軽に「型」を体感するにはちょうどいい入り口になります。
Make My Persona:https://www.hubspot.com/make-my-persona
3. UXPressia(有料プランあり)
ペルソナ設計とカスタマージャーニーを一元的に可視化できるツール。社内プレゼン用のビジュアル資料としても活用しやすく、UIも直感的です。複数の人物像を比較したい場合や、部署間で共有することを前提にしている場合におすすめです。
UXPressia:https://uxpressia.com/
4. miro(コラボレーションホワイトボード)
テンプレートを使って、チームでリアルタイムにペルソナ設計を行うときに活躍するツール。付箋ベースで自由度が高く、デザインチームや商品企画チームと連携しながら進めるプロジェクトに向いています。
miro:https://miro.com/ja/online-whiteboard/
ペルソナとは、顧客を深く理解し、マーケティング施策の精度を高めるための架空の人物像です。基本情報だけでなく、価値観や行動傾向、情報接触の習慣まで含めて描くことで、商品開発や広告運用、チームの意思決定にまで良い影響を与えます。
今回、ペルソナの基礎知識から具体的な設計手順、運用時の課題、実務での活用法、さらには書籍やツールまで網羅的に解説しました。形だけの設計に終わらせず、「誰に向けて届けるか」を軸にマーケティングを構築する視点が、これからの成果を大きく左右していきます。