ECサイトの構築方法は多様化し、クラウド型のプラットフォームを利用すれば、短期間で立ち上げられる時代になりました。それにもかかわらず、フルスクラッチ開発を選ぶ企業も一定数存在します。では、その理由はどこにあるのでしょうか?
多くの企業にとって、スピーディに運用を開始できる既存のプラットフォームは魅力的です。しかし、自社のブランド体験を細部まで表現し、業務フローに最適化したシステムを構築するとなると、既製のサービスでは対応しきれないケースもあります。特に、独自の販売モデルを採用していたり、既存の業務システムとの連携が必要だったりする場合、パッケージやクラウド型のECサービスでは制約を感じることもあります。
もちろん、フルスクラッチ開発にはコストや運用負担といった課題も伴います。しかし、短期的な利便性だけでなく、長期的な成長や競争力を考えたときに、最適な選択肢になることがあるのも事実です。既存のECシステムでは対応しづらい独自の顧客体験を提供したい場合や、成長に応じて柔軟にシステムを拡張していきたい場合には、フルスクラッチが適していることもあります。
今回、フルスクラッチ開発がどのようなケースで選ばれるのか、メリットとリスクを整理しながら、検討時のポイントを解説させていただきます。
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フルスクラッチECサイトとは、既存のECシステムやプラットフォームを利用せず、一からオリジナルのECサイトを構築する方法です。一般的なASPやパッケージ型のECシステムでは、ある程度決まった機能やデザインの枠組みが用意されています。一方、フルスクラッチでは、デザイン・機能・管理システムのすべてを企業のニーズに合わせて設計できるため、自由度が高く、ブランドの世界観を細部まで表現できる点が特徴です。
ただ、その分だけ開発期間やコストがかかるため、誰にでも向いている方法とは言えません。特に、社内に開発リソースがない場合は、外部の開発会社との綿密な連携が不可欠になってきます。
ECサイトを構築する際、フルスクラッチ以外にもいくつかの方法があります。それぞれの特徴を比較しながら、違いを説明させて頂きます。
ASP(アプリケーションサービスプロバイダー)
ECシステムをクラウド上で提供する形態です。事前に用意された機能を利用するため、短期間で立ち上げられ、初期費用も抑えやすいのがメリットです。ただし、カスタマイズには制限があり、独自の機能を追加したい場合は難しくなることがあります。
パッケージ型ECシステム
企業向けに提供されるEC構築用ソフトウェアです。ASPと比べると、機能の拡張やデザインの自由度が高く、大規模なECサイトにも対応しやすいのが特徴。ただし、ライセンス費用やカスタマイズにかかるコストが発生します。
オープンソース型ECシステム
代表的なものに「EC-CUBE」や「WooCommerce」などがあります。基本的なEC機能が揃っており、開発者がカスタマイズできる自由度の高さが魅力ですが、技術的な知識が求められるため、社内にエンジニアがいない場合はハードルが上がるかもしれません。
こうした選択肢と比べると、フルスクラッチは完全に独自の設計ができるという強みがあります。ただし、それに伴う開発負担は相応に大きくなるため、ビジネスの方向性や必要な機能を明確にしたうえで選ぶことが重要です。
フルスクラッチは中小規模のECサイトではあまり選ばれない傾向があります。他方、大企業ではこの方法が積極的に採用されるケースが多いのはなぜでしょうか?
1. ブランディングを重視するため
既存のECプラットフォームを利用すると、ある程度デザインの自由度が制限されます。一方、フルスクラッチなら、ブランド独自の世界観やユーザー体験を細部まで作り込めるため、競争力のあるECサイトを作りたい企業にとって大きなメリットがあります。だから、自社のイメージを重視する傾向の高い大手企業はフルスクラッチを選ぶ傾向にあります。
2. 既存の基幹システムと柔軟に連携できる
大規模な企業では、ECシステムだけでなく、在庫管理・顧客管理・会計システムなど、さまざまな業務システムと連携する必要があります。既存のプラットフォームでは、この連携がスムーズにいかないことが多いため、最初から統合を前提にしたシステム設計を行うフルスクラッチが選ばれることがあります。
3. 大量のトラフィックに耐えられる設計ができる
キャンペーンやセール時に大量のアクセスが発生しても、ECサイトが安定して稼働することは非常に重要です。一般的なECプラットフォームでは、急なアクセス増加に耐えられないこともありますが、フルスクラッチなら、インフラ構成を最適化し、負荷分散を考慮した設計ができます。
4. セキュリティ要件に対応しやすい
企業によっては、ECサイトのセキュリティポリシーを厳格に定めている場合があります。既存のプラットフォームを使うと、セキュリティの仕様が決まっており、柔軟な対応が難しいこともあります。そのため、自社の基準に合わせたセキュリティ対策を取りたい企業は、フルスクラッチを選ぶことが多いです。
ECサイトを構築する方法は多様化し、以前よりも手軽にオンラインビジネスを始められる時代になりました。その中で、「フルスクラッチ開発はもう古い」といった意見を目にすることもあります。たしかに、短期間でリリースできる選択肢が増えたことで、ゼロから開発するハードルは相対的に高くなったと言えるでしょう。しかし、本当にフルスクラッチが時代遅れなのかは、もう少し掘り下げて考える必要があります。
フルスクラッチが古いと言われる背景
このような見解が広まった背景には、いくつかの業界動向が関係しています。近年のECプラットフォームの進化を踏まえると、フルスクラッチの立ち位置も少し違った見え方をするかもしれません。
SaaSやパッケージ型ECシステムの普及
以前は、ECサイトを運営しようと思えば、ある程度の開発スキルが必要でした。しかし、今ではSaaS型のECサービスが充実し、初期費用を抑えてスピーディに立ち上げられる環境が整っています。たとえば、Shopifyやfutureshopなどのサービスを使えば、基本的な機能を備えたECサイトを短期間で開設できます。
また、パッケージ型のECシステムも高機能化が進み、カスタマイズの自由度が広がっています。以前は「テンプレートに縛られる」と言われがちでしたが、最近では独自のデザインや機能を組み込めるソリューションも増えています。そのため、「フルスクラッチでなくても十分に対応できるのでは?」という意見が強まっているのです。
クラウド環境の発展によるシステム構築の変化
一昔前なら、大規模なECサイトを作るためには、サーバーやデータベースの運用も含めて設計しなければなりませんでした。しかし、クラウド環境の進化により、Amazon Web Services(AWS)やGoogle Cloud Platform(GCP)などを利用すれば、インフラ部分の負担を大幅に軽減できます。これにより、自社で一からシステムを作るメリットが相対的に薄れてきたのも事実でしょう。
スピード重視の開発トレンド
EC業界は競争が激しく、新しい機能やサービスをいち早く市場に投入することが求められます。SaaSやパッケージを活用すれば、ある程度の機能はすでに揃っているため、カスタマイズを加えるだけで短期間で運用を始められます。
一方で、フルスクラッチ開発は要件定義から始まり、設計・開発・テストと、どうしても時間がかかります。半年以上かけて作ったとしても、その間に市場のニーズが変化するリスクもあるでしょう。こうした理由から、スピードを重視する企業にとっては、他の選択肢のほうが魅力的に映ることが増えてきました。
実際にフルスクラッチが求められるシーンとは?
こうした流れを考えると、「フルスクラッチはもう必要ないのでは?」と思うかもしれません。しかし、すべての企業にとって最適な方法がSaaSやパッケージ型とは限りません。むしろ、特定の条件下ではフルスクラッチの方が適しているケースもあります。
独自のビジネスモデルを採用している場合
既存のECプラットフォームは、一般的なECサイトの運用を想定して設計されています。そのため、ユニークな販売形態や特殊な物流・在庫管理が必要な場合、カスタマイズでは対応しきれないことがあります。
たとえば、サブスクリプション型のECサービスや、ユーザーごとにカスタマイズ可能な商品を扱うECサイトでは、既存のシステムに制約を感じる場面が出てくるでしょう。そうしたケースでは、業務に最適化されたシステムをゼロから設計した方が、長期的には運用しやすくなることもあります。
大規模トラフィックや複雑なデータ連携が必要な場合
ECサイトの規模が拡大し、数百万件のユーザーアクセスを処理する必要がある場合、一般的なECプラットフォームでは負荷に耐えきれなくなることがあります。特に、大規模なキャンペーンやセールを頻繁に実施する企業では、アクセス集中によるシステムダウンが大きな機会損失につながるため、インフラ設計から最適化する必要があります。
また、複数のシステムと連携する必要がある場合も、フルスクラッチのほうが適していることがあります。たとえば、POSシステムや基幹業務システムとシームレスにデータをやり取りする場合、既存のECプラットフォームでは連携に制約が出ることも少なくありません。
セキュリティ要件が厳しい企業
ECサイトでは、個人情報や決済データなど、機密性の高い情報を扱います。一般的なECプラットフォームでもセキュリティ対策はされていますが、業界や企業の基準によっては、それでは不十分と判断されることもあります。
たとえば、金融業界や高額商品のECサイトなどでは、より高度なセキュリティ対策が求められます。こうした場合、独自のセキュリティポリシーを反映させやすいフルスクラッチ開発が選ばれることがあります。
フルスクラッチ開発は、時間やコストの面で負担が大きい一方で、柔軟性の高いECサイトを作れるという強みがあります。既存のシステムでは対応しづらいカスタマイズや、ビジネスの成長に合わせた発展性を考慮すると、この方法が選ばれる理由も納得できるのではないでしょうか。ここでは、フルスクラッチならではのメリットについて掘り下げていきます。
どのようなニーズにも対応できる
ECサイトの成長を考えるうえで、ニーズにあったデザインや機能を実装することが不可欠です。テンプレートベースのECプラットフォームでは一定の制約があるため、独自性を打ち出したい企業にとっては、フルスクラッチの魅力が際立ちます。
独自のUI/UX設計ができる
既存のECプラットフォームでは、基本的なレイアウトや操作フローが決まっています。そのため、特定のブランド体験を重視する場合や、ターゲットユーザーの行動に最適化されたUIを構築したい場合には、フルスクラッチの方が適していると感じます。
たとえば、高級ブランドのECサイトでは、視覚的な美しさや洗練されたインタラクションが求められます。一般的なテンプレートでは表現しきれない世界観を作り込める点は、大きなメリットでしょう。
オリジナル機能を自由に追加できる
SaaSやパッケージ型のECシステムは、多くの企業が使うことを前提に設計されています。そのため、業界特有の販売手法や、独自の顧客管理システムと組み合わせた機能を追加しようとすると、思うようにいかないこともあります。
たとえば、「カスタマイズ可能な商品を販売する」「会員ランクごとに特別な購入体験を提供する」といった機能を追加したい場合、既存のECプラットフォームでは柔軟に対応できないことが多いです。こうした独自性を追求できるのは、フルスクラッチの強みだといえます。
高い拡張性とスケーラビリティ
EC事業を成長させるうえで、機能追加やシステムの拡張性を考慮しておくことは非常に重要です。
ビジネスの拡大に合わせて自由に機能追加できる
一般的なECプラットフォームは、提供される機能に制約があります。もちろん拡張機能を追加する方法もありますが、外部サービスとの連携やカスタマイズが複雑になることもあります。
その点、フルスクラッチなら、売上の増加や新しいマーケティング施策に応じて、必要な機能を柔軟に組み込むことができます。たとえば、新しい決済手段を導入したり、サブスクリプション型の販売モデルに変更したりする場合でも、既存のシステムに縛られることなく対応できるでしょう。
負荷の大きいシステムでも安定した運用ができる
ECサイトは、セールやキャンペーンのタイミングでアクセスが急増することがあります。SaaSやパッケージ型のシステムでは、この急激なトラフィックに対応しきれず、サイトが遅延したりダウンしたりするリスクもあります。
フルスクラッチであれば、事前にトラフィックを想定したインフラ設計ができるため、安定したサイト運営が可能です。特に、国内外で大規模なECビジネスを展開している企業にとっては、システムの耐久性を重視することが重要になってきます。
技術的透明性・運用の可視化
自社で開発することで、システムの構造を完全に把握できる点も、フルスクラッチならではのメリットです。
システム内部を詳細まで理解できる
外部のサービスを利用すると、プラットフォームの仕様に合わせて運用する必要があります。そのため、「なぜこの機能がこのような挙動をするのか?」といった細かい部分を把握しづらくなることがあります。
フルスクラッチなら、すべての設計やデータ構造を自社で管理できるため、細かなチューニングが可能です。システムの最適化やトラブル対応のスピードを考えると、この透明性の高さは大きな利点だと思います。
保守・運用コストの内訳が明確
ASPやパッケージ型ECシステムでは、月額料金や追加機能の利用料がかかることが一般的です。しかし、どの部分にどれくらいのコストがかかっているのかが不透明になりがちです。
フルスクラッチなら、開発やサーバー運用のコストが明確になり、長期的な予算計画を立てやすくなります。
高速PDCAを回しやすい
EC事業では、顧客の行動データをもとにサイトを改善していくことが重要です。そのためには、柔軟に変更を加えられる環境が求められます。
内製スキルがあれば、アジャイルな改善が可能
社内に開発リソースがある場合、サイトの改善や機能追加を素早く実行できるのがフルスクラッチの強みです。たとえば、「カートの離脱率が高いので、購入フローを最適化したい」といった課題に対しても、自社のペースで素早く対応できます。
外部のプラットフォームを利用している場合、カスタマイズには開発会社や提供元の対応を待つ必要がありますが、フルスクラッチならその手間がありません。
自社独自の改善サイクルを構築できる
一般的なECプラットフォームでは、他の企業も同じシステムを利用しているため、改善の自由度が限られます。フルスクラッチであれば、データ分析から施策の実装までのスピードを高め、PDCAサイクルを迅速に回すことができます。
また、顧客データを活用したマーケティング施策や、オムニチャネル戦略など、自社のビジネスモデルに沿った最適な改善を進められるのも強みです。
フルスクラッチ開発は自由度が高く、独自性のあるECサイトを作れる一方で、大きなコストを伴うことも事実です。すべてを一から設計するということは、それだけ多くのリソースを必要とし、運用面でも慎重な計画が求められます。ここでは、フルスクラッチ開発における課題について掘り下げていきます。
膨大な開発コストとリソース
フルスクラッチ開発のハードルとして、多くの企業がまず挙げるのがコストの問題です。既存のECプラットフォームを活用すれば、比較的低コストで短期間のうちにサイトを運用できますが、一から作る場合はそうはいきません。
開発期間が長くなりやすい
要件定義から設計、開発、テスト、そして運用開始まで、一連の流れをすべて自社で進めるため、それなりの時間がかかります。特に、開発経験の少ない企業がフルスクラッチに挑戦すると、仕様変更やトラブル対応が増え、想定よりも完成が遅れるケースも少なくありません。
専門スキルを持った人材が必要
ECサイトの開発には、フロントエンド・バックエンド・インフラの知識が求められます。SaaSやパッケージ型のサービスでは、これらの技術を持たなくても運用できますが、フルスクラッチでは話が違います。
以下のようなスキルを持つエンジニアや開発チームの確保が不可欠です。
・UI/UX設計の知識(ユーザーの使いやすさを考慮したデザイン)
・バックエンドの設計・構築スキル(データベースやサーバー管理)
・セキュリティ対策の知識(決済情報や顧客データの保護)
こうしたスキルを持った人材は市場価値が高く、採用競争も激しいため、自社で抱えるのは簡単ではありません。
ブラックボックス化のリスク
フルスクラッチ開発を進めるうえで、もうひとつの大きな課題が「システムの属人化」です。開発初期の段階では問題がなくても、長期的に見たときに「このシステム、誰が設計したのかわからない…」という状況に陥ることもあります。
ドキュメント管理が不十分だと属人化しやすい
開発プロジェクトでは、仕様書や設計ドキュメントの整備が欠かせません。しかし、実際の現場では「とりあえず動けばOK」という考え方になりがちで、十分な記録が残されないこともあります。
担当者の退職や異動が運用リスクにつながる
「このシステムを作ったエンジニアが辞めてしまった…」という事態になったとき、新しく担当する人がスムーズに引き継げるかどうかが重要です。
開発を外部に委託している場合、契約終了後に細かい仕様がわからなくなるケースもあります。必要な情報が整理されていなければ、新しい開発者が対応できず、結果として運用が滞ることになります。
保守・アップデートコストが大きい
フルスクラッチ開発では、運用が始まってからの維持費も考慮する必要があります。初期の開発が完了したら終わりではなく、システムのアップデートや不具合の修正を継続的に行うことが求められます。
システムの刷新が必要になるタイミングが早い
技術の進化は速く、数年経つと「このシステム、もう古いのでは?」と感じることもあります。たとえば、開発時には最新だったフレームワークが廃止されたり、セキュリティの要件が変わったりすることは珍しくありません。
フルスクラッチの場合、これらの変化に対応するためには、定期的な改修が不可欠です。運用しながら少しずつ調整できればよいですが、大規模なリニューアルが必要になると、再び大きなコストと時間をかけることになります。
最新技術への対応を自社で負担する
SaaSやパッケージ型のECプラットフォームであれば、新機能の追加やセキュリティ対策が自動で行われることが多いですが、フルスクラッチではすべて自社で対応しなければなりません。
たとえば、決済システムの仕様が変更された場合、外部サービスを利用している企業なら対応を待つだけですが、フルスクラッチの場合は自分たちで修正を行う必要があります。こうしたメンテナンス作業が負担になることも多いです。
フルスクラッチ開発は自由度の高さが魅力ですが、必ずしもすべての企業にとって最適な選択肢とは限りません。近年では、ASP(クラウド型ECサービス)やオープンソース、パッケージ型ECシステムなど、多様な構築方法が普及しています。それぞれに強みと課題があり、ビジネスの規模や目的に応じた選択が求められます。ここでは、フルスクラッチと他の方法を比較しながら、それぞれの特徴を整理していきます。
ASPとの比較
ECサイトを短期間で立ち上げたい場合、ASP(Application Service Provider)の活用が候補に挙がることが多いです。SaaS型のECサービスも同様のカテゴリーに分類され、Shopifyやfutureshopなどが代表例として挙げられます。
導入・運用コスト
ASPの大きなメリットは、初期費用を抑えながらスムーズにサイト運用を開始できる点です。サーバーの準備やシステム構築が不要なため、契約すればすぐにECサイトを開設できます。
一方、フルスクラッチの場合、開発期間が長くなりがちで、その分のコスト負担も大きくなります。長期的な投資と考えればメリットもありますが、短期間で利益を出したい場合にはASPの方が現実的かもしれません。
カスタマイズ制限の有無
ASPは、提供される機能の範囲内でECサイトを運営することになります。デザインや機能のカスタマイズはできるものの、テンプレートをベースにした制約があるため、独自の仕組みを導入したい場合には不向きです。
その点、フルスクラッチなら、細部まで自社の要望に合わせた設計が可能です。ただし、その自由度の高さが開発の負担につながるため、どの程度カスタマイズが必要なのかを見極めることが重要になります。
オープンソースとの比較
オープンソースのECシステムとしては、「Magento」や「WooCommerce」などがよく知られています。これらは無料で利用でき、ある程度の自由度を確保しつつ、既存の機能を活用できる点が魅力です。
自由度はあるがコミュニティ依存リスクもある
オープンソースの利点は、システムのカスタマイズができることです。自社のブランドに合わせたデザインや機能を追加しやすく、ASPよりも柔軟な運用が可能です。
しかし、オープンソースのECシステムは、基本的に開発コミュニティによって支えられています。そのため、公式サポートが受けられないケースもあり、トラブルが発生した際に自社で解決しなければならない場面が出てきます。
フルスクラッチとの違いは、システムの完全なコントロールが自社にあるかどうかです。オープンソースを利用する場合、提供元の仕様変更やサポート終了のリスクを考慮する必要があります。
セキュリティパッチやアップデート管理
オープンソースのシステムは、定期的なアップデートが提供されますが、それを適用するかどうかは運営者の判断に委ねられます。放置するとセキュリティリスクが高まり、不正アクセスやデータ漏洩の原因となることもあります。
フルスクラッチの場合、セキュリティ対策はすべて自社で管理することになりますが、その分、自社のルールに基づいた運用ができるため、一定の安心感があります。とはいえ、その管理負担が大きいことはデメリットでもあります。
パッケージとの比較
パッケージ型のECシステムは、ASPとフルスクラッチの中間に位置する選択肢といえます。代表的なものに「ecbeing」や「Shopify Plus」などがあり、ある程度のカスタマイズ性を持ちつつ、基本機能が揃った状態で提供されるのが特徴です。
導入スピード・標準機能の豊富さ
パッケージ型ECシステムは、必要な機能があらかじめ組み込まれているため、ゼロから開発する必要がありません。標準機能を活用すれば、短期間でECサイトを立ち上げることができます。
その一方で、フルスクラッチ開発のように完全な自由度はなく、システムの仕様に合わせた運用が求められます。「自社ならではの独自機能を組み込みたい」「特定のシステムと連携したい」といったニーズがある場合、パッケージ型の制約が課題になることもあります。
大幅なカスタマイズには向かない場合もある
パッケージ型は、ある程度のカスタマイズが可能なものの、システムの構造が決まっているため、大きな変更には適していません。基本的なEC機能が充実している一方で、細かい設計を変えることが難しいケースもあります。
フルスクラッチと比較すると、開発コストを抑えつつ、必要な機能を備えたサイトを作れるため、中規模以上のECサイトを運営する企業にとっては有力な選択肢となります。ただし、ビジネスの拡張性を考えた場合、後々のカスタマイズにどこまで対応できるかを事前に確認することが重要です。
ECサイトの構築方法は多岐にわたり、それぞれに特徴があります。フルスクラッチは自由度が高く、ブランドの個性を表現しやすい反面、開発や運用にかかる負担も大きくなります。では、どのような企業がフルスクラッチを選ぶべきなのか?ここでは、判断の基準となる3つの視点について解説します。
予算・リソース・目的のバランス
ECサイトを構築する際に、最も重要なのは「なぜフルスクラッチを選択するのか」という目的を明確にすることです。必要な機能やデザインを具体的にイメージし、事業規模や予算と照らし合わせながら適切な手段を選びましょう。
どこまでカスタマイズが必要か?
ECサイトに求める機能は、業種やビジネスモデルによって大きく異なります。
・基本的なEC機能があれば十分な場合 → ASPやパッケージ型ECで対応可能
・独自の購買フローや会員管理機能が必要な場合 → パッケージ型ECのカスタマイズで対応可能
・競合にはない独自機能を開発したい場合 → フルスクラッチを検討
「業界標準の機能だけでは不十分」「独自のUXを作りたい」といった明確な理由がある場合にのみ、フルスクラッチが選択肢に入ります。
事業規模と予算の整合性は?
フルスクラッチ開発には多額のコストがかかります。一般的なASPなら月額数万円で運用できるのに対し、フルスクラッチは数千万~億単位の開発費が発生することもあります。
開発が長期化することで初期投資が膨らみ、リリース前に資金が尽きてしまうケースも珍しくありません。短期間で利益を回収できるか、長期的な投資として捉えられるかを考えることが重要です。
社内に必要なスキル・体制があるか
ECサイトの構築・運用には、さまざまな専門知識が求められます。フルスクラッチを選ぶ場合は、それを支える社内体制が整っているかどうかを見極める必要があります。
エンジニア・PM・デザイナーなどの確保
フルスクラッチ開発を進めるには、以下のような専門スキルを持った人材が必要です。
・フロントエンドエンジニア(UI/UXを設計・開発)
・バックエンドエンジニア(データベースや決済システムの開発)
・デザイナー(ブランドのビジュアル設計を担当)
・プロジェクトマネージャー(PM)(開発スケジュールや仕様を管理)
これらの役割をすべて自社で担うのは難しく、外部パートナーと協力するのが一般的です。しかし、すべてを外注すると、仕様変更やトラブル対応のたびに費用がかかり、運用の自由度が下がるという課題もあります。
外注 vs 内製:どちらが最適か?
「すべて自社で開発するのは難しいが、完全に外注するのもリスクがある」というケースでは、重要な部分は内製し、専門的な領域だけ外部に委託するのが現実的な選択肢になります。
例えば、デザインや基本的なシステム設計は自社で行い、決済システムやセキュリティ対策などの技術的に高度な部分だけを外注することで、コストを抑えつつ柔軟な運用が可能になります。
導入後の運用ポリシー・長期的戦略
ECサイトは、一度作ったら終わりではありません。定期的な機能追加やセキュリティ対策を行いながら、長く運用していく必要があります。フルスクラッチを選ぶ場合は、開発後のメンテナンスやリニューアルの計画を立てることが不可欠です。
サイトリニューアルのタイミングと頻度
テクノロジーの進化や消費者のニーズの変化に対応するため、ECサイトは定期的にリニューアルが必要になります。
・ASP・パッケージ型EC → 提供元が機能アップデートを行うため、基本的にはその流れに従う
・フルスクラッチ → 自社の判断で改修が必要になり、そのたびに開発コストが発生する
モバイル最適化や決済手段の多様化など、ユーザーの利便性を高める施策は頻繁に求められます。システム刷新のタイミングを見極め、適切なタイミングでリニューアルを計画できる体制が求められます。
DX(デジタルトランスフォーメーション)施策との連動
ECサイトは、単なる販売チャネルではなく、企業全体のデジタル戦略と密接に関わっています。たとえば、以下のような施策と連動させることで、ECの価値を最大限に引き出すことができます。
・顧客データを活用したパーソナライズ施策(CRMとの連携)
・実店舗との統合(オムニチャネル戦略)
・AIを活用したレコメンドエンジンの導入
フルスクラッチ開発なら、これらの施策を自社に最適な形で組み込めるというメリットがありますが、その分、計画的な運用が求められます。
フルスクラッチ開発は、柔軟なシステム構築ができるという魅力がある一方で、失敗のリスクも高くなりがちです。開発にかかるコストや期間が想定以上に膨らんだり、運用が滞ったりするケースは決して珍しくありません。ここでは、フルスクラッチ開発で陥りやすい失敗例を紹介しながら、どのように回避すればよいのかを考えていきます。
要件定義があいまいなまま開発が進行
フルスクラッチ開発において、最も多い失敗のひとつが「要件定義の不備」です。最初にシステムの仕様を明確に決めずに開発を進めると、後になって「こんな機能が必要だった」「ここは別の設計にすべきだった」といった問題が次々と発生し、開発コストが膨らんでしまうことがあります。
開発の途中で仕様変更が起きるのは避けられませんが、最初の段階で詳細な要件を決めておけば、大幅な変更を防ぐことができます。要件定義を丁寧に行い、開発の優先度を明確にしておくことが重要です。
対策:MVP(最小限の機能)で段階的に開発する
すべての機能を一度に開発しようとすると、どうしても途中で仕様変更が発生しがちです。そこで、最小限の機能を実装したバージョン(MVP:Minimum Viable Product)を先にリリースし、運用しながら必要な機能を追加していく方法を採ると、柔軟に対応しやすくなります。
キーマン退職・異動により運用停止
フルスクラッチで開発したシステムは、自社独自の仕様で作られているため、開発担当者がいなくなると引き継ぎが難しくなります。特に、システムの詳細を把握しているキーマンが退職したり、異動したりすると、運用が行き詰まることがあります。
ノウハウの継承体制が構築されていなかった
過去に見た事例では、「システムの全体像を理解しているのが1人だけ」というケースがありました。そのエンジニアが退職した途端、新しい機能追加ができなくなり、ちょっとしたバグ修正にも時間がかかるようになってしまいました。
このような事態を防ぐには、システムの仕様を明文化し、複数の担当者で運用できる体制を整えることが不可欠です。
対策:ドキュメントを整備し、チーム運用を意識する
属人化を防ぐためには、システムの設計や運用フローをドキュメント化し、定期的に更新することが大切です。具体的には、以下のような情報を整理しておくとよいでしょう。
・システム全体のアーキテクチャ図(どの部分がどの機能を担当しているか)
・データベースの設計仕様(どのデータがどこに保存されているか)
・運用マニュアル(トラブル対応の手順、更新作業の流れなど)
また、1人のエンジニアだけに依存するのではなく、チームで開発・運用を行う体制を作ることで、リスクを分散できます。
リニューアル時期を見誤り、陳腐化
フルスクラッチで開発したECサイトは、長期間使い続けることを前提に設計されますが、テクノロジーの進化やユーザーの行動変化に対応しなければ、すぐに陳腐化してしまいます。
数年後に機能追加が難しくなり、再構築が必要に
例えば、ある企業では5年前にフルスクラッチでECサイトを構築しましたが、モバイル最適化が十分に考慮されておらず、スマホからの購入率が伸び悩んでいました。さらに、新しい決済手段を導入しようとした際に、システムが古すぎて対応が難しく、大規模な改修が必要になってしまいました。
こうしたケースでは、「せっかくフルスクラッチで作ったのに、短期間で作り直さなければならない」という状況に陥ります。
対策:継続的なアップデート計画を立てる
フルスクラッチ開発をする場合は、長期的な視点でアップデート計画を考えておくことが重要です。たとえば、以下のようなルールを設けることで、システムの陳腐化を防ぐことができます。
・年に1回、システムのアップデート計画を見直す
・新しい技術や市場の変化に対応できる設計を意識する(マイクロサービス化など)
・定期的にUI/UXを改善し、ユーザーの行動変化に適応する
また、技術的負債(古くなったシステムが足かせになる状態)を回避するために、柔軟に機能を追加・変更できる仕組みを整えておくことも大切です。
フルスクラッチ開発を検討するうえで、費用の目安は重要な判断材料になります。既存のECプラットフォームを利用する場合と異なり、ゼロから構築するため、開発費や運用費が比較的高額になる傾向があります。どのくらいの費用を想定すればよいのか、そしてコストを抑える方法について考えていきましょう。
初期構築費用の目安
フルスクラッチでECサイトを開発する際、プロジェクトの規模によって費用は大きく変わります。以下は一般的な目安ですが、設計や開発の進め方によっては、これよりも高額になることもあります。
小規模ECサイト(1,000万円~3,000万円)
シンプルな構成で、基本的なEC機能(商品登録、カート、決済、注文管理)を備えたサイトの場合、1,000万円台から開発が可能といわれています。ただし、デザインにこだわったり、会員機能やマーケティングツールを組み込んだりすると、コストが上がることが多いです。
中規模ECサイト(3,000万円~7,000万円)
複数のカテゴリを持つECサイトや、オリジナルの会員システム、独自の検索機能などを備えた場合、3,000万円以上の費用がかかることが一般的です。社内システムとの連携や、複数の決済手段を導入する場合も、この範囲に収まることが多いでしょう。
大規模ECサイト(7,000万円~1億円以上)
大規模なECプラットフォームや、BtoB向けの複雑な注文フローを持つサイト、AIを活用したレコメンド機能などを含める場合、7,000万円以上の予算が必要になります。特に、インフラのスケールアップを前提とした開発では、1億円以上の投資が求められることもあります。
保守・アップデート費用の目安
開発が完了した後も、ECサイトは継続的に運用・改善していく必要があります。特にフルスクラッチの場合、機能追加やバグ修正、セキュリティ対策をすべて自社で管理するため、運用費用を見積もっておかないと後々負担が大きくなります。
運用体制による費用の違い
・社内に開発チームを持つ場合:毎月のエンジニア人件費が主なコスト
・外部の開発会社に委託する場合:年間契約で1,000万円~3,000万円程度の運用費が発生することもある
ECサイトの運営では「機能追加の頻度」が費用に大きく影響します。たとえば、新しい決済手段の導入、レイアウトの変更、キャンペーン機能の追加など、定期的な改善が求められるため、その都度費用がかかることを考慮しておくべきでしょう。
セキュリティ対策とインフラ管理
ECサイトは、個人情報や決済データを扱うため、セキュリティ対策が欠かせません。
・サーバー管理費用(月額10万円~50万円)
・SSL証明書やWAF(Web Application Firewall)導入(年額数十万円)
・システム監視・運用保守(年額500万円~1,000万円程度)
こうした維持費が継続的にかかることを想定し、開発費だけでなく、運用費も含めた予算計画を立てることが重要です。
コストを抑えるコツ
フルスクラッチ開発の魅力は、自由にカスタマイズできることですが、その分費用がかさむのも事実です。コストを抑えるためには、開発の進め方を工夫することがポイントになります。
MVP開発で段階的にリリースする
すべての機能を一度に開発しようとすると、期間が長引き、コストも増加します。そのため、まずは「MVP(Minimum Viable Product)」と呼ばれる、最低限の機能を備えたバージョンをリリースし、運用しながら追加開発していく方法がおすすめです。
例えば、最初は基本的な「商品登録・購入・決済」だけを実装し、その後に「会員機能」「レビュー機能」「ポイントシステム」などを追加していくことで、コストを分散できます。
必要最低限の機能からスタートする
開発時には「あれもこれも必要」と考えがちですが、本当に必要な機能だけを選別することが重要です。
・優先度が高い機能:カート機能、決済システム、在庫管理
・後から追加できる機能:レビュー機能、ポイントプログラム、AIレコメンド
このように、初期段階で導入すべき機能と、後から追加しても問題ない機能を分けることで、開発コストを抑えながら、スムーズにECサイトを運営できます。
ECサイトを立ち上げる方法はいくつかありますが、自社にとって最適な選択肢を見極めることが重要です。フルスクラッチ、パッケージ型、オープンソース、ASPといった手法があり、それぞれにメリットと課題があります。
「最新のECプラットフォームを活用した方がいいのか?」「自社独自の仕組みを持つべきなのか?」——こうした疑問を抱えている企業も多いと思います。そこで、各手法の特徴を比較しながら、どのような基準で選択すればよいのかを整理していきます。
フルスクラッチ vs パッケージ vs オープンソース vs ASP
ECサイトの構築方法を選ぶ際は、コスト・運用負担・カスタマイズ性など、複数の視点から比較することが大切です。それぞれの特徴を見ていきましょう。
フルスクラッチ(完全自社開発)
メリット
・独自のブランド体験を設計できる
・他のシステムと柔軟に連携できる
・カスタマイズの自由度が高い
課題
・開発コストが高額になる(数千万円~1億円超)
・開発期間が長くなる(半年~1年以上)
・運用・保守の負担が大きい
こんな企業に向いている
・競争優位性のある独自機能を持つECサイトを作りたい
・既存のプラットフォームでは対応できない特殊な販売形態がある
・長期的な運用を前提に、ブランド独自のユーザー体験を作り込みたい
パッケージ型ECシステム(カスタマイズ前提の既製品)
メリット
・フルスクラッチよりも短期間で開発できる
・主要なEC機能が揃っているため、一から作る必要がない
・一定のカスタマイズが可能
課題
・パッケージの仕様に依存するため、完全な自由設計はできない
・追加開発には別途コストがかかることがある
・専門的な知識が必要な場合も
こんな企業に向いている
・ある程度のカスタマイズ性を求めつつ、開発期間を短縮したい
・パッケージの標準機能でカバーできる範囲が広い
・将来的に機能を追加しながら運用していきたい
オープンソースEC(カスタマイズ可能な無料プラットフォーム)
メリット
・自由にカスタマイズできる
・コミュニティの開発支援を活用できる
・基本的なEC機能が揃っている
課題
・自社でのメンテナンスが必要
・セキュリティ対策やアップデート管理が求められる
・日本語対応やサポート体制が不十分なことがある
こんな企業に向いている
・技術力のあるエンジニアを社内に抱えている
・コストを抑えつつ、ある程度のカスタマイズ性を確保したい
・オープンソースのコミュニティサポートを活用できる体制がある
ASP(クラウド型ECサービス)
メリット
・すぐに運用を開始できる(数日~数週間で立ち上げ可能)
・システム運用をサービス提供会社に任せられる
・コストが比較的安く、月額課金で利用できる
課題
・カスタマイズの自由度が低い(独自の機能を追加しにくい)
・外部サービスに依存するため、仕様変更の影響を受けやすい
・大規模なECサイトには向かない場合がある
こんな企業に向いている
・初期費用を抑えて、スピーディにECサイトを立ち上げたい
・標準機能で十分に運用できるビジネスモデル
・システム管理の負担を減らし、運営に集中したい
事業規模・ビジネスモデル・ブランド戦略などから総合判断
ECサイトの構築方法を選ぶ際は、単にコストだけでなく、ビジネス全体の方向性を考慮することが大切です。
事業規模 | 適したEC構築方法 |
---|---|
個人・小規模 | ASP、オープンソース |
中規模 | パッケージ型、オープンソース |
大規模・ブランド重視 | フルスクラッチ、パッケージ型 |
例えば、「初期投資を抑えて、スピーディに市場に参入したい」ならASPやオープンソースが適しています。一方、「ブランド独自のユーザー体験を追求したい」「大規模なトラフィックに対応できるEC基盤を作りたい」のであれば、フルスクラッチが視野に入ります。
ビジネスモデルとの相性
・定期購入・サブスクリプション型 → カスタマイズしやすいフルスクラッチやパッケージ型
・BtoB向けEC(企業間取引) → 柔軟なデータ連携が求められるため、パッケージ型やフルスクラッチが有利
・D2C(Direct to Consumer) → ブランド体験を重視するならフルスクラッチ、コストを抑えたいならASP
将来の拡張性、継続的運用体制を見越した選択が重要
ECサイトは、立ち上げたら終わりではなく、運用しながら改善を続けていくものです。そのため、「今だけでなく、数年先を見据えてどの方法を選ぶか」が非常に重要になります。
拡張性を考慮する
・最初はASPで始め、成長に合わせてパッケージ型やフルスクラッチに移行する
・パッケージ型を選ぶ場合は、後からカスタマイズしやすいものを選ぶ
・データ移行やシステム連携のしやすさも事前にチェックする
運用負担を考える
開発時には「こんな機能があったらいいな」と考えがちですが、実際に運用するのは開発チームではなく、マーケティング担当者やEC運営スタッフです。そのため、日々の運用がしやすいシステムかどうかも重要なポイントになります。
ECサイトの構築は、単に開発を進めるだけではなく、事業の成長や運用のしやすさを考慮した上で進めることが大切です。そのためには、どのパートナーと組むかが成功の鍵を握ります。フルスクラッチを検討する際、開発会社やコンサルティング会社の選び方ひとつで、結果が大きく変わることもあります。では、どのようなポイントを見極めながら相談先を選べばよいのでしょうか。
フルスクラッチの実績や事例をチェックする
フルスクラッチ開発を依頼する場合、過去にどのようなECサイトを手がけたのかを確認することが重要です。
開発実績のある業界をチェック
ECサイトと一口にいっても、アパレル、食品、BtoB、サブスクリプション型ECなど、それぞれの業界で求められる機能は異なります。たとえば、BtoB向けのECサイトであれば、法人ごとに価格設定を変えたり、大量発注がしやすい設計が求められます。一方で、D2Cブランドの場合は、ビジュアルやブランディングが重視されることが多いです。
そのため、依頼する企業が「自社の業界に特化した経験を持っているかどうか」は、最初に確認しておくべきポイントになります。
過去のプロジェクトでどこまでカスタマイズしているか
「フルスクラッチ開発の経験があります」と言われても、実際にどこまで自由度の高い開発ができるのかは、事例を見ないとわかりません。カート機能や決済連携のカスタマイズレベル、既存システムとの統合など、技術的な対応力を具体的に確認しましょう。
たとえば、以下のような事例があれば、柔軟な対応が期待できます。
・マーケティングツールと連携したECサイトを開発
・物流システムとリアルタイムで連携し、在庫管理を自動化
・サブスクリプション機能を独自に設計し、ユーザーごとのプラン変更を可能に
事例が公開されていない場合でも、「どういった案件に携わってきたか」を直接質問してみると、相手の技術力や経験が見えてくるはずです。
フェーズに応じた柔軟なサポート体制
ECサイトの開発は、要件定義 → 設計 → 開発 → 運用という流れで進んでいきます。この中で、どのフェーズにどのくらい関与してもらえるのかを確認することが大切です。
企画段階から相談できるか?
開発会社によっては、「すでに決まった仕様をもとに開発だけを担当する」というスタンスのところもあれば、「事業戦略から一緒に考える」というところもあります。
フルスクラッチ開発では、「どんな機能が必要か」「カスタマイズがどこまで必要か」といった議論が事前に十分に行われないと、後になって「思ったよりコストがかかった」「もっとシンプルな方法があったのでは」といった問題が発生することがあります。
そのため、以下のような相談ができるかどうかをチェックしておくとよいでしょう。
・ECサイトのビジネスモデル設計から一緒に考えてくれるか
・フェーズごとに柔軟な仕様変更に対応できるか
・リリース後の運用支援や改善提案も含めて対応してもらえるか
運用フェーズのサポートも考慮する
ECサイトは、リリース後が本番です。運用を続ける中で、新しい機能を追加したい、デザインをリニューアルしたい、決済手段を増やしたいといった要望が出てくることはよくあります。
しかし、開発会社によっては、リリース後の運用はサポート外で、「改修のたびに別途見積もりを取る必要がある」というケースもあります。継続的な運用を考えるなら、どのくらいの頻度でサポートを受けられるか、定額の保守プランがあるかどうかを確認しておきましょう。
契約形態(準委任契約、受託契約など)の把握
開発を依頼する際には、契約形態によって進め方や費用の考え方が変わります。どの契約形態が適しているのかを理解したうえで選ぶことが大切です。
受託契約(成果物ベースの契約)
受託契約は、あらかじめ決めた仕様に基づいて開発を進め、納品時点で契約が完了する形式です。
メリット
・開発費用が明確になりやすい
・一定の期間内で納品される
課題
・仕様変更が発生すると、追加費用がかかる
・リリース後の改善・運用は別契約になるケースが多い
短期間で開発を終えたい場合や、仕様がしっかり固まっている場合には向いていますが、フルスクラッチ開発では、途中で仕様変更が入ることも多いため、固定仕様の契約が足かせになることもあります。
委任契約(エンジニアのリソースを確保する契約)
準委任契約は、開発会社のエンジニアを一定期間アサインし、仕様変更にも柔軟に対応できる形態です。
メリット
・開発中に仕様変更が発生しても対応しやすい
・社内のエンジニアと共同で開発を進められる
課題
・開発期間が長くなるとコストが膨らむ
・納期や成果物が明確になりにくい
フルスクラッチ開発では、最初から全機能を完璧に設計するのは難しいため、ある程度柔軟に開発を進められる準委任契約を選ぶ企業も多いです。ただし、開発が長引くとコストが増えるため、進捗管理をしっかり行う必要があります。
ECサイトの構築方法には、フルスクラッチ、パッケージ型、オープンソース、ASPなどがあり、事業規模や目的に応じた選択が求められます。フルスクラッチは自由度が高いものの、開発コストや運用負担が大きく、慎重な判断が必要です。
要件定義の不備やキーマンの退職、システムの陳腐化などのリスクを回避するには、計画的な開発と運用体制の整備が不可欠。また、相談先を選ぶ際は実績やサポート体制、契約形態を確認し、長期的な視点でパートナーを選ぶことが成功の鍵となります。
ECサイト構築は一度きりの開発ではなく、継続的な改善が求められるプロジェクトです。自社の成長に合わせた最適な手法を選び、柔軟に運用できる環境を整えましょう。