EC物流とは、EC(電子商取引)で販売された商品を消費者のもとへ迅速かつ正確に届けるための物流システムのことです。倉庫への入荷から在庫管理、注文処理、ピッキング・梱包、配送、さらには返品対応まで、幅広い業務が含まれます。
近年、EC市場は急成長を遂げています。それに伴い、物流への要求も高まり、「注文したら翌日、あるいは当日に届くのが当たり前」という流れが生まれています。消費者にとって「早く届く」ことは非常に魅力的です。しかし、その一方で、物流業界では人手不足が深刻化しており、スピードと安定した運営の両立が大きな課題となっています。
では、EC物流は今後どのように進化していくのでしょうか?課題を克服し、よりスムーズな運営を目指すにはどんな方法があるのでしょう?
今回、EC物流の基本から抱える問題、そして解決策や最新トレンドまで解説させていただきます。
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「商品を注文したら、翌日には手元に届く。」
ECを利用する多くの人にとって、これは当たり前のことかもしれません。しかし、その裏では、膨大な量の商品が行き交い、倉庫では目まぐるしい作業が行われています。スムーズな配送が成り立つのは、EC物流というシステムが機能しているからです。では、そもそもEC物流とは何なのか?一般的な物流とは何が違うのか?まずはその基本から考えてみましょう。
EC物流とは、オンラインショップで販売された商品を消費者のもとへ届けるための物流システムのことです。倉庫に届いた商品の管理から、注文に応じたピッキング・梱包、配送、そして返品対応まで、ECの流通を支えるさまざまな工程が含まれます。
この流れだけを見れば、通常の物流と大きな違いはなさそうに感じるかもしれません。しかし、EC物流にはECならではの特徴があり、従来の物流とは異なる難しさを抱えています。
従来の物流は、大量の在庫をまとめて卸売業者や小売店に配送することが中心でした。一方でEC物流は、「個人のお客様に対して、少量の商品をピンポイントで届ける」という点が大きな違いです。
具体的な違いを挙げると、次のような点が挙げられます。
1. 出荷単位が「小口」になる
EC物流では、大量の商品を一括で出荷するのではなく、「個人の注文ごと」に商品を準備する必要があります。そのため、倉庫の作業工程は複雑になり、効率的な仕組みが求められます。
2. 返品対応が前提になる
実店舗での買い物と比べ、ECでは「返品」が発生しやすいです。サイズが合わなかった、イメージと違ったなど、さまざまな理由で返品されることを想定しなければなりません。そのため、返品・交換をスムーズに処理するための仕組みが不可欠です。
3. 配送先の分散
一般的な物流は、決まった取引先へまとまった量を送ることが多いですが、EC物流では、配送先が全国に分散しています。そのため、配送業者との連携や、地域ごとの最適な配送手段の選定が重要になってきます。
4. 「速さ」と「柔軟性」が求められる
大手ECサイトでは、当日配送や翌日配送が標準化しつつあります。これにより、EC物流の現場でも「いかに迅速に処理するか」が大きな課題となっています。また、購入時のギフト包装やメッセージカードの同梱といった個別対応も求められ、作業の多様化が進んでいます。
EC物流は、単に商品を届けるだけではありません。顧客満足度を左右し、企業の成長に大きな影響を与える重要な要素です。
1. 顧客満足度(CS)の向上
ネット通販において、顧客が最も期待するのは「早く、正確に、丁寧に届くこと」です。注文した商品が予定通りに届くかどうかは、顧客満足度だけでなくマーケティングにも大きな影響を与えます。
例えば、同じ商品でも「A社では2日後に届くが、B社なら翌日に届く」となれば、多くの消費者はB社を選ぶでしょう。さらに、梱包が丁寧で、開封したときの印象が良ければ、リピート購入につながることもあります。つまり、EC物流の品質は、「またここで買おう」と思わせるかどうかの分岐点にもなるわけです。
2. 企業の売上拡大やブランドイメージへの影響
物流は「裏方の仕事」と思われがちですが、実はブランド価値の向上にも直結しています。たとえば、高級ブランドのECサイトでは、商品が届いたときの「体験」を重視し、美しい梱包や特別感のある演出を取り入れることがよくあります。
また、サステナブルな取り組みが重視される中で、環境に配慮した梱包材やエコ配送を導入する企業も増えています。単に「物を送る」だけでなく、物流のあり方が企業の理念やブランディングにも影響を与える時代になっているのです。
EC物流の裏側では、ひとつの注文を処理するために、いくつもの工程が動いています。倉庫に届いた商品が適切に管理され、必要なタイミングでピッキングされ、梱包されて出荷される——これらの一連の流れがスムーズでなければ、配送の遅延や誤配送といったトラブルが発生しやすくなります。
ここでは、EC物流の基本的な業務フローについて、それぞれのステップでどのような作業が行われるのかを見ていきます。
最初の物流工程は入荷になります。商品が倉庫に到着したら、まず最初に行うのが検品作業です。これは単なる数合わせではなく、品質チェックを含む重要な工程です。
商品の受け取りと検品の流れ
1. 入荷確認:メーカーや仕入れ元から商品が届き、伝票と照合して数量を確認します。
2. 品質チェック:破損や汚れがないか、指定のスペックどおりかをチェックしていきます。
3. バーコード・RFIDスキャン:システムに登録し、在庫として反映させます。
大量の商品を扱うECでは、手作業に頼るだけではヒューマンエラーが発生しやすいため、バーコードスキャンやRFID(ICタグ)を活用した自動検品が導入されるケースも増えています。
ここでミスが起こると、その後のすべての工程に影響を与えかねません。例えば、発注データと実際の入荷数が合わなければ、倉庫内の在庫管理が狂い、欠品や誤配送の原因になります。検品を徹底することは、物流の安定運営にとって欠かせないポイントとなってきます。
入荷した商品は、適切な方法で保管し、必要なときにスムーズに取り出せる状態にしておく必要があります。
倉庫内レイアウトと管理の工夫
倉庫の配置次第で、ピッキングの効率は大きく変わります。よく売れる商品は出荷口に近い場所へ、動きが少ない商品は奥へ配置するなど、「在庫回転率」を意識した棚割りが重要です。
また、WMS(倉庫管理システム)を活用すれば、どの商品がどこにあるのかを即座に把握できるため、ピッキング作業の効率も向上します。
在庫管理の精度が低いと、「あるはずの商品がない」、「在庫がダブってしまった」といった問題が発生し、ビジネスの信用にも影響します。適切なシステムと管理手法を導入することで、こうしたトラブルを防ぐことができます。
注文が入ると、いよいよ商品を出荷の準備に移します。その最初のステップが「ピッキング」です。
ピッキングの種類と特徴
ピッキング方法にはいくつかの種類があります。
・シングルピッキング:1件ごとに商品をピックアップする方法となり、小規模なECサイトではこの方式が多いです。
・ゾーンピッキング:倉庫内をエリアごとに分け、それぞれの担当者が決まった範囲の商品を集める方法で、大量の注文をさばくEC倉庫で採用されることが多いです。
・バッチピッキング:複数の注文をまとめて処理する方式です。作業の効率化につながるが、管理が複雑になることもありがとうございます。
ピッキングのスピードと正確性が物流全体の効率を左右するため、作業員の動線を最適化することが求められます。
また、最近では「流通加工」と呼ばれる付加価値をつける作業も増えています。たとえば、ラベル貼り、セット組み、ギフト包装など、出荷前に個別のカスタマイズが行われることが一般的になっています。EC物流においては、こうした細かい対応がブランドイメージの向上にもつながるため、重要な役割を担っています。
梱包は単なる「箱詰め作業」ではありません。ブランドの印象を左右する重要な要素のひとつです。
ブランド価値を高める梱包
梱包の工夫次第で、お客様の印象は大きく変わります。たとえば、高級感のあるパッケージや、手書きのメッセージカードが添えられていると、それだけで特別感が増します。こうした細やかな配慮は、リピート購入のきっかけにもなるでしょう。
しかし、ブランドイメージを意識するあまり、過剰な包装をしてしまうと、コストや環境負荷の面でデメリットが生じます。最近では、エコ素材を使った簡易梱包を採用する企業も増え、シンプルだけど美しい梱包が求められる時代になっています。
最後のステップが「出荷」です。ここでは、運送会社の選定や配送のスピード、コスト管理が重要になります。
運送会社の選定とコストのバランス
配送スピードを優先するなら、宅配便が適していますが、コストを抑えたいならメール便やコンパクト便を利用する方法もあります。配送手段を適切に組み合わせることで、コストとサービスのバランスをとることができます。
リードタイム短縮への取り組み
大手ECサイトの影響もあり、配送スピードの競争が激しくなっています。そのため、当日出荷や翌日配送を実現するための仕組みづくりが求められています。出荷のタイミングを最適化し、配送網を見直すことで、よりスムーズな流れをつくることができるでしょう。
ECビジネスは、顧客がスマートフォンやパソコンから簡単に商品を注文できる便利な仕組みですが、その裏側では複雑な物流オペレーションが動いています。実店舗のように「まとめて陳列して終わり」ではなく、注文ごとに個別対応が求められるため、物流の負担は想像以上に大きいのが現実です。
さらに、大手ECサイトの影響もあり、消費者の期待はどんどん高まっています。「注文したらすぐに届く」「丁寧な梱包」「簡単な返品手続き」といった要素は、もはや当たり前と思われる時代になりました。
ここでは、EC物流が持つ特徴と、現場でよく直面する課題について掘り下げていきます。
少量多品種出荷:SKU数増加による作業複雑化
ECでは、1回の注文でバラバラの商品が組み合わさるケースが多くなります。そのため、「SKU(Stock Keeping Unit)」と呼ばれる管理単位が細分化され、在庫管理が難しくなりがちです。
例えば、アパレルECの場合、Tシャツひとつをとっても「サイズ×カラー」の組み合わせが増え、倉庫内での配置やピッキング作業の負担が大きくなります。シンプルな1種類の商品を大量に出荷する通常の物流とは異なり、EC物流では多品種を効率よく扱う仕組みが必要になるわけです。
個別対応:ラッピング・同梱物・熨斗などのカスタマイズ
ECでは「ただ商品を届けるだけ」ではなく、ギフト用のラッピング、メッセージカードの同梱、熨斗(のし)の対応など、注文ごとに異なる要望が入ることが一般的です。
D2C(Direct to Consumer)ブランドでは、開封した瞬間の体験を大切にする企業が増えています。商品が届いたときの印象が良ければ、SNSでシェアされることも多く、マーケティングの一環として物流にこだわる企業も少なくありません。
ただし、こうした個別対応が増えるほど、倉庫のオペレーションは煩雑になり、ミスのリスクも高まります。一定の品質を維持しつつ、効率的に対応できる仕組みが求められます。
返品・交換:他チャネルよりも返品率が高い傾向
ECでは、商品を手に取って確認できないため、返品や交換が発生しやすい傾向があります。アパレルやシューズなどのサイズが関係する商品では特にその傾向が強いです。
返品が増えると、次のような問題が発生します。
・倉庫での再検品や再販の手間がかかります。
・返品処理のコストが増加します。
・返品された商品が傷んでいる場合、再販売できずに廃棄が発生します。
返品を減らすためには、商品ページでサイズ感や素材の質感を正しく伝える工夫が必要です。また、返品された商品をスムーズに再販するためのリバースロジスティクス(返品物流)も整えていくことが課題となります。
顧客対応の迅速化:問い合わせや配送状況確認の体制構築
注文後、配送状況を気にするお客様は少なくありません。特に高額商品やギフト用途の場合、「いつ届くのか?」という問い合わせが増える傾向にあります。
また、「届いた商品に不具合がある」「返品をしたい」といった問い合わせも発生するため、顧客対応の体制を整えることが重要です。問い合わせが遅れると、SNSや口コミサイトで悪い評判が広まり、ブランドイメージの低下にもつながるため、できる限りスピーディーに対応する仕組みを作ることが求められます。
作業員の確保と育成:季節変動や繁忙期対策
EC物流では、年末年始やセール期間に急激に注文が増加します。例えば、Amazonのブラックフライデーや楽天スーパーセールの時期は、通常時の数倍の出荷量になることも珍しくありません。
そのため、繁忙期に対応できる人員を確保し、短期間で即戦力になる教育プログラムを用意することが求められます。特に、経験の浅いアルバイトや派遣スタッフでもスムーズに作業できる仕組みがあると、効率よく業務を回せるようになります。
在庫管理の不備による欠品・過剰在庫
ECでは、販売のタイミングを誤ると「売り切れ」や「在庫過多」といったトラブルが発生しやすくなります。
・欠品が発生すると? → 機会損失につながり、顧客の信頼を失ってしうかもしれません。
・過剰在庫が発生すると? → 倉庫の保管コストがかかり、キャッシュフローを圧迫してしまう可能性がでてきます。
適切な在庫管理を行うためには、AIを活用した需要予測やWMS(倉庫管理システム)の導入が有効です。売れ筋商品とそうでない商品をしっかり分類し、最適な発注・補充のルールを作ることが重要になります。
作業ミス防止と品質向上
ピッキングミスや誤配送は、EC物流の大きな課題のひとつです。間違った商品が届いたり、数量が異なっていたりすると、返品・交換の手続きが発生し、物流コストが増えてしまいます。
この問題を解決するためには、バーコードスキャンの徹底や、ピッキングリストの電子化など、作業の精度を上げる仕組みが必要です。また、ミスが発生しにくい作業環境を整えることで、品質向上にもつながります。
コスト増大と収益圧迫:送料高騰、倉庫費用の上昇
物流費の高騰は、多くのEC事業者にとって深刻な問題です。特に、配送業者の値上げや倉庫スペースの確保にかかるコストは、利益を圧迫しやすいポイントです。
対策としては、複数の配送業者と契約してコストを分散したり、地域ごとの最適な配送網を構築することが考えられます。また、商品ごとに最適な梱包方法を選び、無駄なスペースを減らすことも、配送コスト削減につながるでしょう。
EC物流の運営には、多くの課題がつきものです。誤配送や遅延のリスク、作業効率の低下、人手不足など、どの企業も何かしらの壁に直面しています。とはいえ、物流の改善に取り組むことで、顧客満足度を高め、事業の成長につなげることができます。
ここでは、課題を解決するための具体的な方法を4つの視点から紹介していきます。
EC物流の課題の多くは、「人の手に頼りすぎていること」に起因しています。作業の属人化やミスを減らし、全体の流れをスムーズにするには、システムを活用した仕組みづくりが欠かせません。
WMS(倉庫管理システム)とECカートの連携
倉庫管理システム(WMS)を導入すると、在庫の正確な把握や出荷ミスの削減が期待できます。特に、ECカートと連携することで、次のようなメリットが生まれます。
・在庫情報のリアルタイム更新
→ 商品の売れ行きを即時反映し、欠品や二重販売を防ぐ。
・注文データと倉庫の連携
→ 受注が入ると自動でピッキングリストを生成し、作業効率を向上させる。
・ヒューマンエラーの軽減
→ スキャン方式で検品することで、誤出荷のリスクを抑えられる。
EC事業の規模が大きくなるほど、手作業での管理には限界があります。物流の効率化を考えるなら、WMSの導入は避けて通れない選択肢でしょう。
WMSについて更に知りたい方は、この記事「WMSとは?基幹システム・TMSとの違い、機能や特徴を解説し、WMS20ツール徹底比較」を読んでみてください。
需要予測システムやAIの活用(受注予測・在庫最適化)
AIを活用した需要予測システムを導入する企業も増えてきました。過去の販売データや季節ごとの傾向を分析し、次の入荷計画を立てることで、在庫切れや余剰在庫を防ぐことができます。
特に、以下のようなケースでは、AIを活用することで精度の高い在庫管理が可能になります。
・イベント・セール前の需要予測
→ 「どの商品がどのくらい売れるのか」をデータ分析し、適切な量を確保する。
・返品率の高い商品の管理
→ 返品されやすい商品を把握し、仕入れ量や価格調整を最適化する。
AIによる在庫管理の活用は、今後さらに進化していく分野です。
倉庫内の作業は、一つひとつの動作を見直すだけでも生産性が大きく向上します。
ピッキング動線の最適化
倉庫レイアウトを見直すことで、ピッキング作業のスピードが劇的に変わります。例えば、次のような工夫が考えられます。
売れ筋商品は出荷口の近くに配置する
→ 何度もピッキングされる商品を動線の短い場所に置くことで、作業の効率が上がる。
ゾーンピッキングを導入する
→ 倉庫をエリアごとに分け、担当者が決められた範囲の商品のみをピッキングすることで、作業の混雑を防ぐ。
動線を最適化し、無駄な移動を減らす
→ 倉庫内で歩く距離が減るだけで、作業時間が短縮される。
小さな改善の積み重ねが、全体の業務効率に大きく影響します。
作業マニュアルの標準化と定期的な教育
EC物流の現場では、短期間でスタッフが入れ替わることも多いため、作業マニュアルの整備は不可欠です。特に、繁忙期に向けて短期スタッフを採用する場合でも、誰が作業しても一定の品質を保てる仕組みが求められます。
具体的には、次のような工夫が有効です。
・業務フローをマニュアル化し、動画や図解を活用します。
・定期的に作業品質のチェックを行い、フィードバックを実施します。
作業の属人化を防ぐことで、全体の業務が安定し、ミスの削減にもつながります。
近年、EC物流の現場ではロボットの活用が進んでいます。
自動搬送ロボット(AGV)やピッキングロボットの事例
倉庫内での移動やピッキングを自動化することで、作業効率を向上させることができます。
・AGV(無人搬送車)
→ 倉庫内で商品を自動搬送し、作業員の移動を減らす。
・ピッキングロボット
→ AIを活用して、商品を自動でピックアップし、作業の正確性を向上させる。
大手EC倉庫では、すでにロボットを導入している企業も多く、今後さらに普及していくと考えられます。
先行投資コストと長期的なリターン
ロボット導入には高額な初期費用がかかりますが、人件費削減や作業の安定化を考えると、長期的なメリットは大きいといえます。
自社で物流をすべて管理するのが難しい場合、3PL(サードパーティ・ロジスティクス)を活用するという選択肢もあります。
自社で抱える場合との比較
自社運営
・自社のブランド管理がしやすいです。
・物流コストのコントロールが可能となります。
・初期投資が必要で、運用の手間がかかります・
3PLを活用する場合
・物流の専門家に任せることで、業務効率が向上する可能性が高いです。
・繁忙期などの需要変動にも柔軟に対応できる 外部委託費用が発生します。
倉庫・配送のプロに任せるメリットとデメリット
3PLを活用することで、物流のプロフェッショナルが適切な倉庫管理や配送を担ってくれるため、
EC事業者は本業に集中できます。ただし、委託先の品質管理やコスト面のバランスを見極めることが重要になります。
ECの成長に伴い、物流の負担が増えてきたと感じる事業者は少なくないでしょう。最初は自社で倉庫を運営し、梱包や発送まで一括管理していたとしても、注文数が増えるにつれて対応が追いつかなくなることもあります。
このような状況を打開する方法の一つが、物流のアウトソーシング(3PLの活用)です。外部の専門業者に委託することで、業務の効率化や品質向上を図ることができます。しかし、すべての企業にとって最適な選択とは限りません。アウトソーシングには、メリットとデメリットの両面があるため、慎重に判断する必要があります。
専門知識や設備を利用できる
物流を専門とする企業は、業務の効率化や品質向上のために高度なノウハウを持っています。例えば、倉庫管理システム(WMS)やロボットを活用したピッキングなど、自社では導入が難しい最新の仕組みを利用できるのは大きな利点です。
また、EC物流は「SKU(品目数)が多く、少量ずつ出荷する」という特性があり、従来の物流とは異なるノウハウが求められます。その点、EC向けの3PL事業者であれば、この特性に最適化された仕組みをすでに持っているため、自社で一から体制を構築するよりもスムーズに運営できる可能性が高いです。
人員確保と教育コストの削減
繁忙期のスタッフ確保や、作業員の教育に悩まされることはありませんか?自社で物流を運営する場合、セール時期や年末年始などの繁忙期に合わせて人員を増やす必要があり、その調整はなかなか大変です。
アウトソーシングを活用すれば、そうした人員の管理を外部に任せることができます。さらに、作業員の教育も3PL事業者が行うため、研修コストや採用の手間を削減できるという点もメリットの一つです。
業務効率化に伴う納期短縮
物流の専門家に委託することで、出荷スピードの向上が期待できるのも大きなポイントです。
例えば、倉庫業務の最適化が進んでいる3PL企業では、ピッキングの自動化や在庫管理の精度向上により、当日出荷や翌日配送にも対応しやすくなっています。自社でこれを行おうとすると、相応の投資が必要になりますが、アウトソーシングであれば初期投資なしで対応できるケースもあります。
また、大手物流会社と提携している3PL事業者であれば、より良い配送条件を確保できる可能性もあるため、結果的に配送コストの削減につながることもあります。
委託費用が自社運営よりも高くなることがある
当然ながら、3PLを利用するためには委託費用が発生します。特に、オーダーメイドの物流対応が求められる場合や、特殊な商品を扱う場合は、コストが割高になることもあります。
自社で運営する場合、人件費や倉庫賃料などの固定費がかかりますが、一定の規模に達すれば、外部委託よりもコストを抑えられるケースもあります。アウトソーシングが本当にコストメリットにつながるのか、自社の事業規模や成長戦略と照らし合わせながら判断することが重要です。
品質管理やブランドイメージのコントロールが難しくなる
物流を外部に委託すると、自社で直接作業を管理できなくなるため、梱包のクオリティや配送時の対応などがブランドイメージに影響することがあります。
例えば、以下のようなトラブルがブランドイメージに影響を及ぼします。
・ギフト包装の仕上がりが期待どおりでなかった
・破損した商品がそのまま発送されてしまった
・配送時の対応に問題があった
こうしたトラブルが発生すると、顧客の満足度が低下し、リピーターを逃してしまうこともあります。そのため、委託先の品質管理がどれだけしっかりしているのか、事前にチェックすることが不可欠です。
コミュニケーションコストの発生
自社で物流を管理している場合、以下のようなトラブルが起こった際にもすぐに対応できますが、外部に委託すると、一つの対応に時間がかかることもあります。
・在庫数が合わないです。
・返品処理に問題があります。
・出荷遅延が発生しています。
このようなトラブルが発生した場合、3PL事業者とのやり取りを挟むことで、解決までのスピードが落ちることがあります。迅速な対応が求められるビジネスでは、コミュニケーションのスムーズさが重要なポイントになるでしょう。
どのタイミングで物流を外部委託すべきなのでしょうか?
1. 受注件数が増加し、内製では対応しきれなくなったとき
事業の成長に伴い、受注数が増えてくると、「これまでのやり方では間に合わない」という状況に直面します。
・「出荷作業が増えて、スタッフの負担が大きくなっている」
・「倉庫のスペースが足りず、在庫管理が難しくなっている」
・「繁忙期になると、作業が追いつかずに発送が遅れることがある」
こうした問題が頻繁に発生するようなら、アウトソーシングを検討するタイミングかもしれません。
2. 高度な物流ノウハウが求められる商品を扱う場合
例えば、温度管理が必要な商品や、破損リスクの高い精密機器など、特別な保管・輸送が求められる商品を扱う場合、専門の物流事業者に委託する方がスムーズです。
また、海外販売を展開する場合も、国際物流の専門知識が必要になるため、アウトソーシングを検討する価値があります。
EC物流は、単なる「商品を届ける仕組み」ではなく、ビジネスの成長に直結する重要な要素です。スムーズな物流が顧客満足度を高め、売上の向上にもつながります。しかし、SKUの増加や個別対応の負担、返品処理の煩雑さなど、独自の課題も多く、適切な管理が求められます。
これらの課題を解決するには、WMSやAIを活用した在庫管理、ピッキングの最適化、ロボット導入による自動化など、テクノロジーの活用が欠かせません。また、業務が拡大し、内製対応が難しくなった場合は、3PLの活用も有効な選択肢です。
物流の効率化は、競争力強化につながります。課題を整理し、自社に最適な方法を選ぶことで、EC事業の成長をさらに加速させることができるでしょう。