THE MODEL
THE MODEL(ザ・モデル)は、営業とマーケティングを分業で効率化するためのフレームワークです。属人的な営業から脱却し、仕組みで成果を出す考え方として注目されています。
ここでは、THE MODELの背景や目的、構成フェーズと役割、メリット・注意事項を解説させていただきます。
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THE MODEL(ザ・モデル)の意味や仕組みを基礎から解説し、MQL・SAL・SQLの定義、KPI/SLA設計、MA・SFA・CRM連携、ABM/PLG/RevOpsとの違い、施策とロードマップ、失敗回避と事例、生成AI活用まで網羅。結論:分業とSLAを軸にKPIを逆算し、CAC/LTVと回収期間で意思決定すると再現性の高い収益成長を実現できます。対象企業の向き不向きも明確化します。
THE MODELとは?
THE MODEL(ザ・モデル)とは、B2Bの営業・マーケティング・カスタマーサクセスを「分業」と「連携」で設計し、ファネル(リード→商談→受注)とパイプラインを数値でマネジメントするための統合フレームワークです。
具体的には、マーケティングが需要創出(デマンドジェネレーション)とリード獲得を担い、インサイドセールスがナーチャリングとクオリフィケーション(選別)、フィールドセールスがクライアントへの提案から受注まで、カスタマーサクセスがオンボーディングや活用の定着を担います。各担当チーム間でハレーションが起きないように、各フェーズ間をSLA(サービスレベル合意)で連携する必要があります。
米国のSaaS企業で使われていたビジネスのやり方であり、日本では2019年に福田康隆氏の著書『THE MODEL(マーケティング・インサイドセールス・営業・カスタマーサクセスの共業プロセス)』を契機に広く知られるようになりました。属人的なドブ板営業の限界を越え、再現性と生産性、そして顧客体験(CX)を同時に高めることを狙いとしています。
THE MODELの肝は、各段階のコンバージョン率・リードタイム・案件化率・受注率をKPIとして可視化し、ボトルネックを特定して継続的に改善することです。運用面では、MA(マーケティングオートメーション)でのリードスコアリングやトリガー、SFA/CRMでのステータス管理、インテントシグナルの活用など、データに基づく意思決定が前提になります。これにより、需要創出から案件化、受注、LTV最大化までの一気通貫のマネジメントが可能になります。
MQLとSAL、SQLの違い
THE MODELを正しく機能させるためには、ファネル中間のステータスであるMQL・SAL・SQLの定義を社内で統一することが重要です。一般的な考え方は次のとおりです(呼称や閾値は企業・プロダクト特性によって調整されます)。
| ステータス | 定義(一般的な考え方) | 主担当 | 代表的な判定材料 | 次フェーズへの移行条件 |
|---|---|---|---|---|
| MQL(Marketing Qualified Lead) | マーケティング活動で獲得した見込み客の中で、自社が提供するサービスと親和性が確認され、営業フォローを行うべきと判断されたリード。 | マーケティング(MA運用)/ インサイドセールス | 資料請求やウェビナー参加、デモ申込といった行動、あるいはスコアが一定の閾値に到達した場合、またはターゲットアカウントに該当する場合 |
連絡可能性の確認と優先度の確定ができ、初回コンタクト/アポイント設定に進める状態 |
| SAL(Sales Accepted Lead) | インサイドセールスによって電話やメールなどの初回アプローチが成功し、実際に会話を通じてフォロー対象として正式に受け入れられたリード。 | インサイドセールス | 接触実績があり、ニーズ・時期感を確認でき、キーマン紹介が得られる可能性があること。 | 案件化に向けた要件確認の場(アポ/ミーティング)が設定され、次の検証に進める状態 |
| SQL(Sales Qualified Lead) | 営業が商談可能と判断し、BANT基準を満たして案件化されたリード。 | フィールドセールス(またはアカウントエグゼクティブ) |
BANT(予算・決裁者・ニーズ/課題・導入時期)が十分に確認できているかどうかに加え、導入理由や成功条件、評価プロセスが明確になっていること
|
正式な商談ステージへ進み、評価/提案/見積/合意プロセスに入れる状態 |
一般的な流れは「リード → MQL → SAL → SQL → 受注(Won)」です。なお、SALを設けず「MQL → SQL」とする運用も存在しますが、初回接触と商談化の間で起こりやすい手戻り(連絡不通・情報不足・ペルソナ不一致)を避けるため、SALを明確にしておくとハンドオフの品質が安定します。これらのステータスはMAやSFA/CRM上で一元管理し、誰が・いつ・どの条件でステータスを更新するか(SLA)まで明文化しておくと、コンバージョン率の改善と予実の精度向上につながります。
THE MODELの主なメリット
生産性の最大化
マーケティング、インサイドセールス、フィールドセールス、カスタマーサクセスの役割を分業して明確にすることで、それぞれのチームが本来やらなければいけない業務に集中でき、ムダな切り替えや重複作業を減らすことができます。
標準化と属人化の解消
フェーズごとにプレイブック(スクリプト、トークトラック、テンプレート)やチェックリストを整備し、プロセスを標準化することで、担当者に依存しない再現性の高い営業活動が実現します。SFA/CRM上でのステージ定義と入力必須項目の統一は、データの整合性も高めます。
オンボーディングの短縮
職能ごとに必要なスキル要件とKPIが明確になっているため、研修カリキュラムを効率的に設計でき、新任メンバーの立ち上がり(ランプタイム)を短縮できます。
データドリブン経営と予測可能性の向上
ファネル各段階のコンバージョン率とリードタイムを可視化することで、ボトルネックの特定と改善が循環し、パイプラインの質・量ともに継続的に最適化されます。
ファネルの可視化とボトルネック解消
リード→MQL→SAL→SQL→受注の各ステージで歩留まりと滞留日数をモニタリングし、改善施策(メッセージ修正、ターゲティング見直し、育成シナリオ強化)に直結させます。これにより、投入予算の最適配分も可能になります。
フォーキャスト精度の改善
過去のステージ遷移データに基づく確率加重パイプライン管理により、月次・四半期の売上予測の精度が安定します。営業会議は個別案件の属人的レビューから、ステージ別ヘルスチェックとギャップ対策の場に変わります。
| 対象領域 | 可視化する指標 | 意思決定に活かせること |
|---|---|---|
| トップ・オブ・ファネル | リード数、MQL率、ソース別CPA | チャネル予算の再配分、ナーチャリング強化 |
| ミドル・ファネル | SAL率、接触から初回商談までの時間 | インサイドセールス要員配備、スクリプト改訂 |
| ボトム・ファネル | SQL率、受注率、平均案件規模 | 提案内容の標準化、競合対策、案件優先度見直し |
| 予測と健全性 | フォーキャスト精度、カバレッジ比率 | 目標ギャップの早期検知、打ち手の前倒し |
顧客体験(CX)の一貫性と満足度の向上
引き継ぎ条件とSLAが明確なため、接点の切り替わりでも情報が連続し、顧客は「毎回同じことを説明させられる」ストレスから解放されます。
SLAによる業務の引き継ぎ品質の担保
MQLの定義、SAL承認条件、SQL判定、再育成(リサイクル)ルールを明文化し、リードスコアやノート、ニーズ・決裁プロセス情報を添えて次工程へ引き継ぎます。SLA遵守率をモニタリングすることで、顧客対応の遅延や情報漏れを抑止します。
解約率低減とアップセルの土台づくり
カスタマーサクセスがオンボーディング時点から「期待成果(アウトカム)」を共有できるため、利用定着(アダプション)が進み、サポート起点のクロスセル・アップセル機会も育ちます。フィードバックは上流に還流し、価値訴求やプロダクト改善に活かされます。
マーケ・営業・CSの連携強化と責任分担の明確化
部門最適になりがちなKPIを全体設計でつなぎ、リードの質と量、商談化、受注、継続利用まで一気通貫で責任を持つ体制に変えられます。
KPIアライメントと相互依存の可視化
マーケのMQL数はインサイドセールスのSAL率とセットで、フィールドセールスの受注率は案件の適格性(BANTやフィット判定)とセットで追うなど、因果関係を明文化します。これにより、単発の数字合わせではなく、プロセス全体の最適化が進みます。
定義の統一(MQL・SAL・SQL・スコアリング)
MQL、SAL、SQLの境界やリードスコアの閾値を共通言語にし、迷いなく判断できる状態を作ります。判断のブレがなくなり、パイプライン品質が安定します。
スケールに強い運用と拡張性
役割・KPI・SLA・データ項目が体系的に整理されているため、組織の拡大や多拠点・リモート体制においても品質を維持しやすく、必要に応じて新しいチャネルやプロダクトをオペレーションに追加した場合でも、混乱無く対応することができます。
多拠点・リモートでも機能するプロセス
オンライン(ウェビナー、デジタルセールスルーム、メール)での接触と商談を組み合わせた営業活動においても、成果のばらつきを抑え、安定したパフォーマンスを維持できるようにコントロールできます。
チャネルを一元管理し柔軟に最適化できる仕組み
インバウンド(SEO、広告、コンテンツ)とアウトバウンド(ABM、ターゲットリスト、リードリサイクル)を同じファネル上で一元管理できるため、投資対効果を見ながら優先順位を柔軟かつ迅速に入れ替えられます。
投資対効果(ROI)の最大化
施策ごとの効果をファネル指標と結びつけて検証できるため、効果の薄い施策や非効率なチャネルへの投資を早期に止め、限られた予算と人員で成果を最大化できます。
コストと成果のトレーサビリティ
チャネル別CPA、ステージ別コンバージョン、案件単位のコストの数値を追いかけることで、CACを抑えつつ収益性を改善できます。営業リソースも勝ち筋のあるセグメントに集中しやすくなります。
領域毎に参考例を記載しておきます。参考にしてくださいませ。
| メリット領域 | 代表KPI/運用指標 | 意思決定のポイント |
|---|---|---|
| 生産性向上 | 商談化率、接触から商談までの時間、担当者稼働配分 | ボトルネック工程の特定と要員再配備 |
| 予測可能性 | 受注率、確率加重パイプライン、カバレッジ比率 | 目標達成に必要な追加パイプライン量の逆算 |
| CX・継続 | NPS/CSAT、解約率、オンボーディング完了率 | 顧客課題の早期解決と定着施策の強化 |
| 連携・責任 | SLA遵守率、ハンドオフ不備率、定義逸脱件数 | 定義の見直し・教育・仕組み改善の優先度付け |
| ROI | チャネル別CPA、CAC、LTV/CAC | 投資配分の変更と不採算施策の停止判断 |
向いている企業と向いていない企業
THE MODELは、分業とプロセス管理で成長を加速させるフレームワークです。ただし、すべての企業や商材に万能に適合するわけではありません。ここでは、適合/非適合を見極める観点を整理し、自社の状況に応じた判断材料を提示します。
THE MODELの適合度は「商材・市場の複雑性」「意思決定プロセスの長さ」「組織規模と分業の採算」「データとSLA運用の成熟度」のかけ算で決まります。 これらの条件が揃うほど、分業・定量管理・継続的な最適化が効果を発揮します。一方、購買が単純で迅速、もしくは組織が極小である場合は、分業コストがメリットを上回ることがあります。
向いている企業の特徴
商材・市場の条件
カスタマイズ性が高く、提案の幅が広い法人営業(B2B)で特に効果を発揮します。意思決定者が複数にわたるケースや、検討期間が中長期に及ぶ商材に向いています。また、導入後のオンボーディングや拡張が価値の源泉となるサブスクリプション型サービスとも相性が良いです。
組織・運用の条件
マーケティング、インサイドセールス、フィールドセールス、カスタマーサクセスの役割を分担できる人員や予算があり、SLAに基づいたハンドオフ運用ができる企業に適しています。さらに、運用ルールを標準化し、オンボーディングを通じて迅速に立ち上げたい成長フェーズの会社にも向いています。
データ・KPIの条件
MAやSFA/CRMを活用し、リード獲得から受注・継続までファネルKPIを一元管理できる環境がある企業、もしくは短期間でその体制を整える意思がある企業に適しています。また、MQL/SAL/SQLの定義を明文化し、定期的に見直す文化を持つことが成功の確率を高めます。
向かない(導入効果が限定的な)企業の特徴
商材・市場の条件
購入が衝動的・即座に決定しやすい商材や、店舗・ECで販売されている商品や、単価が極めて安い商談を分業してもコスト回収が難しいので、THE MODELの分業効果は出にくい傾向があります。
組織・運用の条件
創業初期の少人数体制で、一人がマーケティングから受注・サポートまで担当したほうが早い場合や、KPIやSLAの運用基盤が整っておらず、データ入力や引き継ぎするための情報や体制が整っていない場合は、分業の管理コストがむしろ負担になります。
文化・ガバナンスの条件
「個人の裁量」を優先する文化が強く、プロセス標準化や定量管理に合意が得られない組織では、THE MODELのメリットが活かしにくくなります。また、役割間の信頼関係が弱く、引き継ぎの責任範囲が曖昧な場合も失敗につながりやすいです。
適合度マトリクス(比較表)
下の表は、代表的な評価視点ごとに「向いている/向かない」の典型をまとめたものです。自社の現状と照らし合わせて判断の参考にしてください。
| 評価視点 | 向いている企業の傾向 | 向かない企業の傾向 |
|---|---|---|
| 商材の複雑性 | 導入設計・比較検討が複雑で、提案内容が多岐にわたる | 即決・単純比較で購入が完結する |
| 意思決定プロセス | 関与者が複数、合意形成に段階がある | 担当者単独で即時決裁される |
| 営業サイクル | 中長期の検討が一般的 | 短期で回転、頻度重視 |
| 収益モデル | サブスク/継続収益でLTVが重要、拡張余地が大きい | ワンショット売切り、継続・拡張が限定的 |
| 組織規模 | 分業に必要な最小チームを確保できる | 極小人数で分業の固定費が重い |
| データ基盤 | MA・SFA/CRMがあり、入力・可視化が運用されている | ツール未整備、またはデータ入力が定着していない |
| 運用文化 | KPI・SLAを定義し、継続的に改善できる | 属人スキル依存で標準化に抵抗が強い |
導入前に確認すべき前提条件
THE MODELを運用する最低条件は、「誰に・何を・どの順番で・どの基準で渡すか」をSLAと定義で明確に可視化することです。
具体的には、MQL/SQLの判断基準、引き継ぎ時に必要な情報、再育成(リサイクル)の条件、失注・保留の理由コードなどを事前に合意し、文書化しておく必要があります。
さらに、MAやSFA/CRMで扱うトラッキング項目を統一し、重複リードの扱いや名寄せルール、商談ステージの定義をそろえることが重要です。これにより、ファネルKPIが部門をまたいでつながり、ボトルネックの特定や改善が可能になります。
迅速に見極めるためのチェックリスト
次の質問に「はい」が多いほど、THE MODELの適合可能性が高いと考えられます。
| 評価項目 | 判断基準 | 目安・補足 |
|---|---|---|
| 複数関与者の存在 | 購買に2名以上の関与者がいる | 法務・情報システム・現場責任者など |
| 検討期間 | 平均リードタイムが短期即決ではない | ナーチャリングの余地がある |
| LTV重視 | 継続・拡張で収益最大化を狙う | オンボーディング/成功支援が重要 |
| 役割分担の準備 | マーケ/IS/FS/CSの責任範囲を定義できる | SLAとKPIを設定し合意可能 |
| データ運用 | MA・SFA/CRMで活動ログを一元化できる | 入力ルールとレポートが運用される |
「向かない」場合の現実的な進め方
現時点で分業の固定費や運用負荷が見合わない場合は、段階的導入がおすすめです。
例としては、マーケティングと営業の二段階から始め、SLAとMQL/SQL定義を試行・改善したうえで、インサイドセールスとカスタマーサクセスを後ほど専任の人員を設置する知性を築いていきます。
チャネルも、まずは既存の反響リードや紹介中心でプロセスを固め、その後にアウトバウンドやABMへ広げると定着しやすくなります。
フェーズ構築と担当領域
THE MODELの中核は、顧客獲得から継続・拡張までを「マーケティング → インサイドセールス → フィールドセールス → カスタマーサクセス」というプロセスに分解し、SLAと責任範囲を明確にしてつなぐことです。
各フェーズは個別の成果だけを追うのではなく、前工程から受け取るリードの品質と、次工程に引き渡す成果の両方に責任を持ちます。これにより、ファネル全体の転換率と顧客体験を同時に最大化できます。
| フェーズ | 主目的 | インプット | アウトプット | KPI例 | 主なツール |
|---|---|---|---|---|---|
| マーケティング | 需要をつくり、質の高いリードを営業に渡す |
ターゲット定義、ペルソナ、コンテンツ、チャネル | MQL(営業に渡せる確度の高いリード) | リード数、MQL率、獲得単価、チャネル別ROI | MA(Marketo Engage、HubSpot)、CMS、広告、SEO |
| インサイドセールス | リードを選別し、商談につなげる | MQL、行動ログ、属性データ | SAL/SQL(合意済み商談) | 架電接続率、アポイント率、SQL化率、リード応答速度 | SFA/CRM(Salesforce)、電話/CTI、メール/セールスエンゲージメント |
| フィールドセールス | 提案を行い、受注につなげる | SAL/SQL、課題仮説、競合情報 | 受注、契約金額、受注率 | 案件ステージ転換率、平均商談期間、受注単価、フォーキャスト精度 | SFA/CRM(Salesforce)、見積/電子契約、会議/提案管理 |
| カスタマーサクセス | 定着・成果創出・拡張 | 導入要件、契約内容、ハンドオフ情報 | 継続、アップセル/クロスセル、リファレンス | ヘルススコア、オンボーディング完了率、解約率、NPS、拡張ARR | CSプラットフォーム、プロダクト利用ログ、サポート/ナレッジ基盤 |
各チームは「自フェーズのKPI」だけでなく「次フェーズの成功指標」を共通指標として持ち、SLA(合意済みの品質・数量・リードタイム)でバトンを渡すことが、分業の弱点である顧客体験の断絶を未然に防ぐ鍵です。
マーケティング
マーケティングの担当領域は、ターゲット市場の特定から需要創出(デマンドジェネレーション)、コンテンツ設計、チャネル運用、リードナーチャリングまで幅広く及びます。SEOやウェビナー、ホワイトペーパー、イベント、広告などを統合的に運用し、スコアリングとセグメンテーションで「営業がアプローチすべきMQL」を継続的に供給します。
役割・担当範囲
理想顧客像(ICP)とペルソナを定義し、バイヤージャーニーに沿ったコンテンツを計画します。キャンペーンを複数チャネルでオーケストレーションし、MAで行動データをトラッキング。スコアリングルールを設計し、しきい値を超えたリードをMQLとしてインサイドセールスにハンドオフします。
主要KPIと定量目標
| 指標 | 狙い | 補足 |
|---|---|---|
| リード獲得数 | 母数拡大 | チャネル別に獲得単価・質を可視化 |
| MQL率/数 | 質の担保 | スコアと属性の両面で基準化 |
| 獲得単価(CPL) | コスト最適化 | チャネル/キャンペーン単位で比較 |
| チャネルROI | 投資配分 | リードから受注までの貢献で評価 |
主要タッチポイントとチャネル
・オウンドメディア(SEO記事)
・ウェビナー/セミナー
・ホワイトペーパー
・比較サイト
・展示会
・SNS
・検索広告・ディスプレイ広告・リターゲティング
・メールマーケティング
・リードフォーム最適化
・ナーチャリングシナリオ設計
引き継ぎ条件とSLA境界
引き継ぎは、スコア(行動×属性)と意向シグナル(資料請求、デモ希望、ウェビナー高関与など)を満たした時点で実施します。SLAには、MQLの定義、リード数の週次/月次目標、データの必須項目(氏名・会社名・役職・連絡先・同意取得)、インバウンドリードへの初回応答時間の上限などを含めます。
MQLの「数」とSQLへの「転換率」の両方をKPIに設定し、バランスよく管理することが大切です。これにより、短期的に数だけを追いかける偏りを防ぐことができます。
ありがちな課題と対処
短期獲得に寄りすぎて低品質リードが増える問題には、チャネル別SQL化率・受注寄与で評価する「価値ベースのアトリビューション」を導入します。Cookie規制下では、ファーストパーティデータ基盤の強化、フォーム最適化、コンテンツの価値向上でカバレッジを維持します。
インサイドセールス
インサイドセールスは、電話・メール・オンラインミーティング等を活用してディスカバリーを行い、潜在課題・導入時期・意思決定者(DMU)などを特定します。目的は「誰に・何を・いつ提案すべきか」を明確化し、フィールドセールスにとって営業効率の高いSQLを創出することです。
役割・担当範囲
MQLに対する迅速な初回接触、要件の深掘り(課題、現行運用、予算感、導入タイムライン、関係者)、仮説提示、アポイント調整、案件化の合意形成を担います。ABMではターゲットアカウントへのアウトバウンド(リサーチ、パーソナライズドメール、コールシーケンス)も実施します。
主要KPIと定量目標
| 指標 | 狙い | 補足 |
|---|---|---|
| 初回応答速度 | 機会損失低減 | インバウンドは分単位で管理 |
| 接続率/有効接触率 | スループット向上 | チャネル別で改善アクション設計 |
| アポイント率 | 会話の質向上 | スクリプトとトークトラックを標準化 |
| SQL化率 | 案件化の確度担保 | 合意条件を明文化(評価基準) |
引き継ぎ条件とSLA境界
SQLの定義は以下を満たすことを基準とします。
・意思決定プロセスを把握できている
・主要課題と成功条件に合意できている
・次回商談の日程が確定している
・フィールドセールス側が受け入れを承認している
SLAで規定すべき内容
・MQLから初回接触までの対応時間
・最大追跡回数と期間
・商談化に必要な記録項目(関係者、導入目的、想定ユースケースなど)
さらに、「量の追跡」だけでなく「会話の質」も重視します。コーチングや通話分析で改善を続け、失注・保留の理由をマーケティングにフィードバックすることで、ターゲティング精度を高めます。
ありがちな課題と対処
アポイントの質が低い場合は、SQL定義の厳格化とスクリプトの再設計を行います。追跡工数が過大な場合は、セグメント別にシーケンス(回数・間隔・チャネル)を最適化し、優先度スコアに基づく配分に切り替えます。
フィールドセールス
フィールドセールスは、ディスカバリーから提案、稟議・契約締結までのプロセスで価値検証(デモ、PoC、トライアル)を設計し、競合差別化と社内意思決定の支援を行います。案件ステージごとの「次に起こすべき行動(Next Step)」を明確にし、パイプラインの健全性とフォーキャスト精度を担保します。
役割・担当範囲
課題の経営的インパクトを定量化し、ユースケース/導入スコープ/ROI仮説を提案書に落とし込みます。意思決定者・利用部門・IT・法務/購買を巻き込み、稟議資料や比較表、見積・契約条件を整備して合意形成を支援します。
主要KPIと定量目標
| 指標 | 狙い | 補足 |
|---|---|---|
| ステージ転換率 | 各段階のボトルネック把握 | ディスカバリー→提案→稟議→受注 |
| 受注率/失注率 | 価値訴求と競合対策 | 失注理由をタグで標準化 |
| 平均商談期間 | サイクル短縮 | 案件規模・セグメント別に管理 |
| フォーキャスト精度 | 着地見立ての信頼性 | 確度定義(Commit/Best Case等)を統一 |
引き継ぎ条件とSLA境界
インサイドセールスからの受け入れ条件は、課題仮説、関係者、評価観点、次回アクションがCRMに記録されていることです。受注後は、導入目的、成功指標(サクセスKPI)、スコープ、リスク、移行計画、重要なステークホルダー情報をカスタマーサクセスへ引き継ぎます。
また、「提案の標準化(テンプレート化)」と「案件ごとのパーソナライズ」を両立させ、社内稟議を通しやすいドキュメントや関係者マップを日常的に整備することが重要です。
ありがちな課題と対処
価格競争に陥る場合は、ビジネスインパクトの定量化(時間短縮、ミス削減、売上寄与)と導入リスク低減策(段階導入、PoC)で価値訴求を強化します。停滞案件は「決裁者アクセス」「明確な期限」「相互アクション」の3点で再定義し、進まない場合は健全なクローズドロスト判断でパイプラインを浄化します。
カスタマーサクセス
カスタマーサクセスは、契約後のオンボーディング、活用定着、成果創出、アップセル/クロスセル、リファレンス化までを担います。プロダクト利用データとヘルススコアを用いて先回りで課題を検知し、解約(チャーン)を予防します。
役割・担当範囲
オンボーディング計画(マイルストーン、役割、スケジュール)を合意し、トレーニングと初期ユースケースの立ち上げを支援します。定例(QBR/EBR)で成果・課題・ロードマップをレビューし、活用拡大や契約更新、追加契約の機会を創出します。サポート/プロダクト/営業と連携し、顧客の声を改善サイクル(RevOps/CS Ops)へ還元します。
主要KPIと定量目標
| 指標 | 狙い | 補足 |
|---|---|---|
| オンボーディング完了率/期間 | 早期立ち上げ | 合意済みマイルストーンで管理 |
| ヘルススコア | リスク検知 | 利用量、満足度、サポート履歴を統合 |
| 解約率/継続率 | 収益維持 | コホートで追跡し要因を分解 |
| 拡張ARR/NRR | 成長ドライバー化 | アップセル/クロスセル/価格改定を含む |
| NPS/リファレンス数 | 推奨度と証拠創出 | 導入事例化・紹介の創出 |
引き継ぎ条件とSLA境界
受注時の引き継ぎには、合意済みの成功指標、利用部門/管理者、導入スコープ、重要な制約/リスク、サポート計画、期限、必要な初期データを含めます。SLAには、キックオフまでのリードタイム、オンボーディング期間の目標、エスカレーション経路、更新交渉の開始時期を定義します。
「機能をどれだけ使ったか」ではなく「業務で成果が出ているか」をゴールとし、サクセスマイルストーンと活用シナリオをもとに、顧客が成功体験を得られるよう設計します。
ありがちな課題と対処
活用が進まない場合は、ユースケースの難易度を下げた再設計とロールベースの教育を実施します。チャーン兆候(利用減少、担当変更、サポート不満)が見られるときは、リカバリープランの共同作成と経営層を含むQBRでの再合意により早期に手を打ちます。
KPI設計と主な指標
この章では、THE MODELにおけるKPI(重要業績評価指標)の設計方法を体系的に解説します。主要な指標ごとに「定義」「算出式」「運用の考え方」を整理し、マーケティング・インサイドセールス・フィールドセールス・カスタマーサクセスといった各フェーズを横断して統一します。
具体的には、分母・分子・計測頻度・データソースをそろえることで、再現性の高いパイプライン運用を実現します。
KPI設計の原則は次の4つです。
・定義の明文化
・分母の一貫性
・期間基準の統一
・手動入力の最小化
数値を追う前にまず定義を揃えることで、ダッシュボードの解釈のズレや誤った意思決定を防げます。
ファネル各段階のKPI(リード、MQL、SAL、SQL、受注)
ファネル各段階のKPIは、上流から下流へとバトンが渡るたびに「量(件数)」「質(コンバージョン率)」「速度(リードタイム)」の3軸で管理します。以下は運用時に迷いやすい定義と、代表的なKPIのひな型です。
| フェーズ | 主なKPI | 定義の要点 | 管理サイクル | データソース |
|---|---|---|---|---|
| マーケティング | 新規リード数(件)/リード獲得単価(CPL)/MQL率(%)/流入チャネル別構成比(%)/リード到達率(フォーム完了率) | 「新規リード」は期間内に初回獲得した有効な個人またはアカウント。重複・不達・不正は除外。 | 日次・週次 | MA(例:Marketo、Pardot)、Web解析(例:Google Analytics 4) |
| インサイドセールス | 接触率(架電/メール到達→会話発生)/有効商談化率(MQL→SAL/SQL)/アポイント数(件)/初回接触までの速度(分・時) | SLAに沿った「有効接触」「商談化」の基準を明記。自動ステータス更新を優先。 | 日次・週次 | SFA/CRM(例:Salesforce)、CTI/コールログ、MA |
| フィールドセールス | SQL数(件)/ステージ別CVR(例:見積→受注)/平均案件規模(円)/パイプライン金額(円)/受注率(%)/平均リードタイム(日) | 「SQL」は予算・決裁・課題・導入時期などの受注可能性基準を満たした案件。 | 週次・月次 | SFA/CRM(例:Salesforce) |
| カスタマーサクセス | オンボーディング完了率(%)/利用活性指標(DAU/WAU/機能採用数)/解約率(ロゴ/金額)/拡張売上(円)/NRR/GRR(%) | 契約後の成果で将来のLTVを左右。オンボード完了の定義をユースケースで明文化。 | 月次・四半期 | プロダクト利用ログ、CSツール、SFA/CRM、請求データ |
ファネル横断で観測する共通KPIとして「パイプラインカバレッジ(目標売上に対する有効商談総額の倍率)」「平均販売サイクル」「チャネル別貢献比」などを持つと、投資配分と人員計画の意思決定が容易になります。
用語の定義と計測上の注意
リード(Lead)は「接触可能な連絡先(個人またはアカウント)」、MQLは「行動・属性スコアが基準に到達したマーケ起点の有望見込み」、SALは「営業が受領し対応開始と合意した状態」、SQLは「事実上、提案可否を判断する商談基準を満たした案件」、受注は「締結済みの売上計上対象」を指すように、社内で定義文を一文で固定します。
同じ指標でも、分母がそろっていないと数値を正しく比較できません。
例えば、MQL率 = MQL数 ÷ 新規リード数(同じ期間・同じチャネル) と定義を明示してください。
また、集計単位(人単位かアカウント単位か)も必ず統一してください。
BtoB / BtoC におけるKPIの考え方
BtoB(特にSaaSやエンタープライズ)
アカウント単位でのステージ管理や、複数の意思決定者(DMU)の合意形成プロセスを見える化することが重要です。
BtoCやD2C、小額サブスク
取引量が多いため、CV件数・CPO・リピート率・コホート継続率などの「数値管理」と、ファネルの自動計測が有効です。
共通の視点
どちらの場合も「LTVへの貢献」を軸にしてKPIを設計・接続することがポイントです。
目標逆算の計算式とベンチマーク
目標達成のための必要件数・必要金額は、ゴールから逆算して各段階にブレイクダウンします。まずは自社の実績コンバージョンを用い、四半期ごとに検証して更新します。
逆算の基本式(量・率・単価・速度)
営業目標を達成するためには、売上から逆算して必要な件数や金額を算出します。
基本的な考え方は以下の通りです。
受注件数の算出
目標売上(新規) ÷ 平均受注単価
SQL必要件数
受注件数 ÷ (SQL→受注の成約率)
SAL必要件数
SQL件数 ÷ (SAL→SQLの進捗率)
MQL必要件数
SAL件数 ÷ (MQL→SALの進捗率)
リード必要件数
MQL件数 ÷ (リード→MQLの進捗率)
必要パイプライン金額
目標売上 ÷ (見込み確度加重率の平均)
必要トラフィック
リード件数 ÷ (訪問→リード転換率)
所要期間の検討
各ステージの平均リードタイムを合算し、目標期日内に収まるか確認。
不足がある場合は「リード数」「成約率」「単価」のいずれを改善するかを判断。
サンプル設計(例示)
| 項目 | 計算式 | 例(解釈用) |
|---|---|---|
| 受注必要件数 | 1億円 ÷ 200万円 | 50件 |
| SQL必要件数 | 50件 ÷ 成約率25% | 200件 |
| MQL必要件数 | 200件 ÷ MQL→SQL 20% | 1,000件 |
| リード必要件数 | 1,000件 ÷ リード→MQL 10% | 10,000件 |
上記は逆算手順の「例」であり、率は自社の直近実績またはチャネル別の実測値を用いてください。チャネルミックス(SEO、展示会、紹介、ABMなど)ごとにコンバージョンが異なるため、チャネル別に逆算し合算するのが現実的です。
ベンチマークの集め方と使い方
ベンチマークは「自社の過去12カ月移動平均」を一次指標とし、二次指標として公的・業界レポートやベンダー公開情報を参照します。
ベンチマークは目安であり、目標値の根拠は「自社の実績分布と改善余地」に置くこと。到達困難な一律目標は、現場の活動品質をむしろ低下させます。
投資効率と成長余地を判断するKPI(CAC / LTV / 回収期間 / ユニットエコノミクス)
事業の成長が健全かどうかは 顧客獲得コスト(CAC)と顧客生涯価値(LTV)のバランスで判断します。
特にSaaSやサブスク型ビジネスでは、以下の指標によって投資の妥当性や拡大余地を評価します。
定義と算出式(サブスク / リカーリングモデルの基本)
| 指標 | 定義 | 算出式(例) | 補足 |
|---|---|---|---|
| CAC(Customer Acquisition Cost) | 新規顧客1社あたりの獲得コスト | (マーケ費+営業人件費+外注費+媒体費+ツール費のうち当期新規獲得に配賦した金額) ÷ 当期新規顧客数 | 採用コストやカスタマーオンボーディング工数を含めるかはポリシー化する |
| LTV(Life Time Value) | 顧客の生涯にわたる粗利貢献 | 平均月次売上(ARPA / ARPU) × 平均継続月数 × 粗利率 | 拡張売上やクロスセルを含めるかを明記する |
| 回収期間(Payback Period) | CACを回収するまでの期間 | CAC ÷ 月次粗利(ARPA × 粗利率 − 月次サポート可変費) | 年間契約の前払いなど、入金条件はキャッシュフローで別途管理する |
| ユニットエコノミクス | 顧客単位での経済性 | LTV ÷ CAC | 1を下回る期間が続けば不健全。コホート別に分析することが望ましい |
上記はサブスクの代表式です。ECなど単発取引が主体のモデルでは、購入頻度・平均購入額・リピート率からコホートLTVを組み立てます。
収益悪化を見抜くための指標の解釈とアラート設計
ユニットエコノミクス悪化の兆候
次のような変化が見られた場合、収益性の低下リスクがあります。
・CPL・CPQLの上昇
・SQL→受注率の低下
・オンボーディングの遅延によるチャーン(解約)の増加
ダッシュボードでのアラート設計
単なる比率表示だけでなく、「異常検知のしきい値」を設定する
例:前週比・前月比の変化率、移動平均からの乖離
こうした設定により、異常を早期に発見して対応できるようにする
投資判断の視点
・評価は「比率(効率)」だけでなく「速度(回収スピード)」も加味する
・短期的に回収できるチャネルを維持しつつ、SEOやコンテンツなど中長期で効くオーガニック獲得にも投資を続ける
・短期と中長期を組み合わせたポートフォリオ型の投資思考 重要
改善のための主要な切り口
量の強化ポイント
インプレッション・訪問数・リスト数を増やす、既存チャネルを拡大する、紹介やパートナー開拓を広げる。
質の強化ポイント
ターゲティングを精緻化する、メッセージやオファーのABテストを実施する、BANT情報の精度を高める、案件ステージ定義を見直す。
速度の強化ポイント
初回応答時間を短縮する、ワークフローを自動化する、ボトルネック工程のリードタイムを改善する。
単価・粗利の強化ポイント
プライシングやパッケージを改定する、アップセル・クロスセルの仕組みを設計する、コストを最適化する
レポーティング運用(頻度・可視化・責任)
・日次:実績速報(リード、アポ、SQL、受注)、アラート(異常値・予兆)。
・週次:ファネルKPIの着地予測、パイプラインレビュー、重点案件/重点チャネルの仮説検証。
・月次/四半期:ユニットエコノミクス、チャネル別ROI、SLA達成率、次期の投資配分と採用計画。
ダッシュボードと運用ルール
データ統合
SFA/CRMを基点とし、MAやプロダクトデータを統合して「単一の真実(Single Source of Truth)」を維持する。
責任体制
運用責任者は定例の意思決定フォーマットを固定し、数値の定義変更があった場合は版管理を行い、全社に周知する。
リード定義とSLAの作り方
リード定義とSLAの整備は、THE MODEL型の分業体制をスムーズにつなぎ、漏れ・重複・属人化を最小限に抑える基盤 となります。
マーケティング、インサイドセールス、フィールドセールス、カスタマーサクセスの各チームが同じ言葉でやり取りできるよう、以下をドキュメント化して明確にします。
| 用語 | 定義(定性) | 必須データ | 主担当 | 次工程 |
|---|---|---|---|---|
| リード(有望見込み) | ICP(理想顧客像)に概ね合致し、識別可能な連絡先情報を持つ状態 | 氏名、会社名、メール、役職、チャネル(流入元) | マーケティング | スコアリングとナーチャリング |
| MQL | 属性と行動が許容閾値を超え、営業接点の価値が合理的に見込める状態 | 属性スコア、行動スコア、同意(オプトイン) | マーケティング→インサイドセールス | SLAに基づく初動コール/メール |
| SAL | インサイドセールスが接触し、商談化の見込みが妥当と判断した合意済み案件 | 接触ログ、課題仮説、BANTの一部確認 | インサイドセールス | フィールドセールスへの引き継ぎ |
| SQL | 意思決定者・予算・導入時期・評価プロセスが確認され、提案段階に進む案件 | BANT(Budget/Authority/Need/Timeline)、案件メモ | フィールドセールス | 提案・見積・クロージング |
| 受注/失注 | 契約締結/不成立(理由分類あり) | 契約情報、失注理由、再アプローチ可否 | フィールドセールス | CSオンボーディング/再育成 |
MQLとSQLの基準の明文化
MQLとSQLは、マーケティングと営業の間で期待値を正しく揃えるための重要な区切り です。
その判定は「属性(フィット)×行動(インテント)×データの完全性」を基準に行い、SMB・ミッドマーケット・エンタープライズといったセグメントごとに基準値を調整するのが現実的です。
また、従来のBANTをそのまま使うのではなく、現代の購買プロセスに即して、「問題の緊急度」「導入プロジェクトの成熟度」といった観点も組み込むことが有効です。
| 判定指標 | 代表的な基準例 | 測定ソース | 初期しきい値の例 |
|---|---|---|---|
| 属性フィット | 業種/従業員規模/日本国内拠点/役職がICPに合致 | フォーム、名刺、外部データ連携 | 合致率70%以上でMQL候補 |
| 行動スコア | ホワイトペーパーDL、価格ページ閲覧、ウェビナー参加、メルマガクリック | MA(HubSpot、Marketoなど) | 合計50点以上でMQL、80点以上で優先MQL |
| インテント強度 | 比較/導入キーワード流入、資料請求、デモ予約 | ウェブ解析、広告、予約フォーム | デモ予約=即SAL審査対象 |
| データ完全性 | メール到達性、電話番号の妥当性、所属確認 | CRM検証、メールバリデーション | 欠落がある場合はMQL保留 |
| BANT/GPCT | 予算、決裁関与、課題の具体性、導入時期、プロジェクト体制 | 初回接触ヒアリング | B+AN確定でSQL候補、Tが3か月以内で優先SQL |
しきい値は固定せず、四半期ごとに「精度(SQL化率)」「速度(初動対応時間)」「量(MQL数)」のバランスを見ながら微調整します。
特にエンタープライズ企業では、意思決定の権限構造が複雑です。そのため、BANTの「Authority(決裁権)」を細分化し、推進者、実行責任者、意思決定者といった役割に分けて評価することが有効です。
スコアリング設計の手順
はじめに、過去12〜24か月の受注案件を分析し、成約に寄与した行動と属性を抽出します。次に、ノイズの大きい指標(単発のブログ閲覧など)には低スコア、購買直結シグナル(価格ページ、デモ予約、比較資料DL)には高スコアを付与します。減点も導入し、長期非反応や競合ドメインでの流入はスコアを下げます。最後に、営業からの現場フィードバックを反映し、モデルを運用しながらA/Bで継続改善します。
データ品質とガバナンス
重複名寄せ、ドメイン正規化、部署/役職の表記ゆれ統一、同意管理(オプトイン)を月次の定常業務に組み込みます。SFA/CRM(Salesforceなど)とMA(HubSpotなど)のキーは「会社ドメイン+メール」で統一し、同期方向(どちらをマスターにするか)をSOP化します。データ完全性が担保されない限り、MQL判定は保留とし、マーケ側で補完・クレンジングしてから再評価します。
引き継ぎ条件と再育成ルール
SLAは「いつ・何を・誰が・どの品質で」対応するかを約束する部門間契約です。最低限、初動速度、試行回数、チャネル、情報項目、受領/差戻し基準、エスカレーション、レポート頻度を定めます。以下は導入時に使えるテンプレートです
| 引き継ぎ条件 | マーケ→インサイドセールス | インサイドセールス→フィールドセールス | フィールドセールス→カスタマーサクセス |
|---|---|---|---|
| 初動時間 | MQL発生から1営業日以内に初回接触 | SAL承認から2営業日以内に初回商談設定 | 受注から3営業日以内にキックオフ案内 |
| 試行回数/チャネル | 5営業日で合計5タッチ(電話/メール/LinkedInの組合せ) | 3営業日で合計3タッチ(電話/メール) | メール+カレンダー招待+電話確認の3点 |
| 必須情報 | 属性・行動スコア、流入元、同意ステータス、過去接点 | 課題仮説、意思決定体制、次回ToDoと日程 | 契約内容、期待成果、KPI、ステークホルダー一覧 |
| 受領基準 | データ完全性90%以上、重複なし | BANTのAN確認、商談日程確定 | 開始日・体制・導入範囲の確定 |
| 差戻し基準 | 連絡先不達/同意なし/ICP外 | 決裁不在/時期未定で課題が抽象的 | 契約の前提不一致(プラン、期日、利用想定) |
| エスカレーション | 初動未達は日次でマネージャーに自動通知 | 商談設定未達は週次パイプライン会議で報告 | 着手遅延はCSリーダーと営業マネージャーに共有 |
| レポート頻度 | 週次:MQL数/接触率/重複率 | 週次:SAL率/No-show率 | 月次:オンボーディング完了率/初期価値達成率 |
部門間の信頼コストを最小限に抑えるためには、「受け入れる基準」と「差し戻す基準」を明確にすることが最も効果的です。
また、差し戻しが発生した場合は必ず理由をログに残します。その際、「不達」「権限不足」「時期未定」「競合対応中」などの分類をコード化して記録します。
ルーティングとアサインのロジック
リードの配分は、エリア、業種、規模、既存アカウントの関係、チャネル(インバウンド/アウトバウンド)でルール化します。公平性と速度を両立するため、ラウンドロビンと優先キュー(例:デモ予約)を併用します。
| 条件 | 担当アサイン | 対応期限 | 備考 |
|---|---|---|---|
| デモ予約(全セグメント) | 即時:専用高速対応キュー | 2営業時間以内に確定連絡 | 優先度A |
| エンタープライズ(従業員1,000名以上) | シニアISR/FSチーム | 1営業日以内に初回接触 | ABMアカウントは専任 |
| 既存顧客ドメインからの新規問合せ | アカウント担当CS→FS連携 | 当日中に担当引き当て | クロスセル/アップセル優先 |
| 教育機関・公共 | 業種専任チーム | 2営業日以内 | 購買プロセス差異に留意 |
再育成(リサイクル)ルール
SAL/SQLに至らなかった案件や失注リードは、原因別に再度営業していきます。時間が経過すればするほど相手も状況が変わります。既に他社で決められている可能性もありますが、4半期毎に再営業すると効果が出ることが多いです。
理由として、会社の方針などが変わって再検討していることも多いからです
| トリガー | 再育成アクション | 再評価タイミング | 責任部門 |
|---|---|---|---|
| 時期未定で保留 | 業界ユースケース連載、比較ガイド、セミナー招待 | 90日後にMQL再判定 | マーケティング |
| 権限不足(推進者止まり) | 意思決定プロセスの指南コンテンツ、上位者向け資料同梱 | 45日後に組織図確認 | インサイドセールス |
| 競合選定で失注 | 導入チェックリスト、運用TCO比較、機能アップデート配信 | 6か月後に再接触 | マーケ×営業合同 |
| 価格障壁 | ROI電卓、スモールスタート提案、助成金情報 | 四半期切替時に再提案 | フィールドセールス |
運用と改善のサイクル
日次でSLA逸脱(初動遅延、差戻し増加)をダッシュボード監視し、週次でケースレビュー、月次でKPIレビュー(MQL→SAL→SQLの転換率、初動時間中央値、受領/差戻し比)を実施します。四半期ごとにしきい値とルーティングルールを見直し、SOPを更新します。変更は必ず版管理し、トレーニング(イベント駆動のロールプレイ含む)をセットで展開します。
最後に、SLAは「締結して終わり」ではありません。組織の規模、提供価値、獲得チャネルのポートフォリオが変わるたびに、定義と運用を迅速に再設計できること自体が競争優位になります。
テックスタックとデータ基盤
THE MODELを長期的に機能させるためには、部門をまたいで顧客データが一貫して流れる仕組みが欠かせません。そのためには、複数のツールを組み合わせたテックスタックと、測定可能性・拡張性・ガバナンスを満たした堅牢なデータ基盤が必要になります。
マーケティング、インサイドセールス、フィールドセールス、カスタマーサクセスといった各フェーズの担当者が、同じ顧客情報を「単一の真実(Single Source of Truth)」として参照できるように、MA(マーケティングオートメーション)、SFA/CRM(営業支援・顧客管理)、CDP(顧客データプラットフォーム)、DWH(データウェアハウス)、BI(分析ツール)を中核とするアーキテクチャを設計します。
ベストプラクティスは、CDPやDWHをハブ(中心)に据え、MAとSFA/CRMは日々の業務トランザクションを担い、BIで意思決定を行う「ハブ&スポーク型」の構成です。この形であればデータが一元化され、効率的に活用できます。逆に、ツール同士を個別にポイントツーポイントでつなぐ方法は、将来的に改修コストが膨らみやすいため避けるべきです。
MA、SFAとCRM、CDPの連携
MA(マーケティングオートメーション)はリード獲得・育成、SFA/CRMは商談・顧客管理、CDPは分散データの統合・活用を担います。フォームや広告、ウェビナーなどで収集した一次データはMAに蓄積し、MQL化の後にSFA/CRMへ連携。成約後やプロダクト利用ログ、サポート履歴はCDP/DWHで集約し、スコアリングやパーソナライズ、LTV分析へ還元します。
基本アーキテクチャ
全体像は「収集(Collect)→統合(Unify)→活用(Activate)→分析(Analyze)」の流れで設計します。リアルタイム連携(API/ウェブフック)とバッチ連携(ETL/ELT)を使い分け、マスターデータ(取引先・担当者・商談・プロダクト・契約)のスキーマを部門共通で定義します。
| レイヤー | 主な役割 | 代表的な製品例(日本で普及) |
|---|---|---|
| データ収集 | タグ・SDK・イベント収集、フォーム投稿、オフライン取込 | Google Tag Manager、Google Analytics 4、Mixpanel、Amplitude |
| MA | リード育成、スコアリング、キャンペーン自動化 | HubSpot、Adobe Marketo Engage、Account Engagement(Salesforce) |
| SFA/CRM | 商談・活動管理、パイプライン、レポート | Salesforce Sales Cloud、Microsoft Dynamics 365、Senses、kintone |
| CDP | ID統合、属性/行動の顧客プロファイル化、配信連携 | Treasure Data CDP、Adobe Real-Time CDP、Twilio Segment |
| DWH/データ基盤 | スキーマ管理、集計、履歴保持、モデリング | BigQuery、Snowflake、Amazon Redshift |
| BI/可視化 | KPIモニタリング、ドリルダウン分析、ダッシュボード | Looker、Tableau、Power BI |
| 連携/自動化 | ワークフロー、iPaaS、Reverse ETL | Workato、Zapier、Hightouch、Census |
データ連携パターン
ツール間の接続方式は、変更容易性・運用負荷・リアルタイム性の観点で選定します。
| パターン | 概要 | 適合する用途 | 注意点 |
|---|---|---|---|
| ポイントツーポイント | ツール同士を個別APIで接続 | 少数ツール、限定ユースケース | 接続が雪だるま式に増え保守が困難 |
| iPaaS集中 | ワークフローで接続・変換を一元化 | 部門横断の運用自動化 | 複雑化するとデバッグが難しい |
| CDPハブ | 収集→統合→配信をCDPで中心管理 | ID統合、パーソナライズ配信 | スキーマ設計と権限設計が必須 |
| Reverse ETL | DWHの顧客モデルを業務SaaSへ配信 | LTV/スコアの実運用反映 | DWHの鮮度と品質がボトルネック |
ID設計と名寄せ(リード/取引先/担当者の統合)
最重要はID戦略です。第一キーは「取引先ID・担当者ID・商談ID」をSFA/CRM基準で採番し、メールアドレスや電話番号、ドメイン、広告クリックID、プロダクトのユーザーIDを補助キーとして「確定マッチ(厳格一致)→推定マッチ(条件一致)」の順で名寄せします。
リードから取引先・担当者へ昇格する「リード-アカウントマッチング(L2A)」のルールを明文化し、重複作成の防止と履歴の可観測性を担保します。
運用ガバナンス(スキーマ・品質・変更管理)
データ辞書とSLA(更新頻度、レイテンシ)を定義し、スキーマ変更は申請→レビュー→デプロイのフローで管理します。品質は「完全性・一意性・整合性・鮮度・正確性」の観点で定期点検し、異常検知(欠損率、ゼロトラフィック、外れ値)を自動通知します。BIダッシュボードにはデータ品質インジケーターを常設し、現場が品質状況を自律的に把握できるようにします。
トラッキング設計とCookie規制への対応
広告計測・クロスデバイス分析・アトリビューションは、ブラウザのトラッキング制限やサードパーティCookieの段階的廃止により設計の再考が必要です。ChromeのプライバシーサンドボックスやSafariのITPなど、技術的制約を前提に「同意管理」「ファーストパーティ化」「サーバーサイド化」を組み合わせます。
ファーストパーティデータと同意管理(CMP)
フォーム、ウェビナー登録、ログイン、購入などで収集する一次データを基軸にし、目的と範囲を明示した同意管理を実装します。
CMPで同意の取得・更新・撤回を記録し、タグの発火や広告API送信は同意状態に連動させます。日本法(個人情報保護法)のガイドラインに沿い、第三者提供やオプトアウトの運用を整備します。
サーバーサイド計測とイベント設計
GTMサーバーサイドなどのサーバータグ環境を導入し、第一者ドメインで計測をファーストパーティ化します。イベントは「動詞_目的語(例:submit_form、view_pricing、start_trial)」で命名し、必須パラメータ(ユーザーID、セッションID、タイムスタンプ、同意フラグ、ソース/メディア/キャンペーン、コンテンツID)を標準化します。
匿名→認証の切替時にイベントを遡及リンクできるよう、プロファイル結合キー(例:匿名IDとログインIDのブリッジ)を保持します。
広告・計測の最新動向への実務対応
アトリビューションは、プラットフォーム計測+モデルベース推定(媒体内モデル、DWHでのポストバック集計、MMM/簡易ベイズ)を併用します。
ChromeのAttribution Reporting API等の活用可能性を検討しつつ、リダイレクトや3rdパーティCookie前提の実装は段階的に解消します。SafariのITP制約下では、リンク先第一者Cookie、短寿命IDのローテーション、サーバーポストバックの整備でロバスト性を確保します。
監査・セキュリティと権限設計
個人データは保存期間・利用目的を明確化し、暗号化(保存/転送)、マスキング(BI・検証環境)、RBAC(役割ベース権限)、操作ログ(監査証跡)を標準装備します。
データ連携の認証情報はシークレットマネージャーで集中管理し、APIスコープは最小権限で付与します。退職・異動時の権限棚卸しを月次で自動実行し、アクセス権のドリフトを防止します。
「計測できない」を前提に、同意と一次データ、サーバーサイド、ID設計、ガバナンスの“5点セット”を先に整えることが、THE MODEL運用の成否を分けます。
施策列とチャネル戦略
THE MODELを活かすチャネル戦略では、マーケティング、インサイドセールス、フィールドセールス、カスタマーサクセスが連携し、「需要の獲得」と「需要の創出」を両輪で進めます。
ターゲット市場や購買プロセスに合わせてチャネルごとの目的や役割、KPIを明確にし、部門間の連携ルール(SLA)に沿って引き継ぐことで、商談化率や受注率を最大化していきます。
各チャネルは単独で動かすのではなく、バイヤージャーニー全体を見据えて「つながりのある流れ」として設計することが成果のカギになります。
| チャネル | 主目的 | 主要KPI | 代表施策 | 連携ツール |
|---|---|---|---|---|
| SEO | 顕在需要の獲得と信頼醸成 | 自然検索流入、非指名比率、CVR | ピillarページ、比較・代替記事、FAQ、構造化データ | CMS、MA、Search Console、アナリティクス |
| ウェビナー | 教育・検討フェーズの前進 | 登録数、参加率、アンケート回収率、商談化率 | 定期型ウェビナー、共催、製品ライブデモ | MA、ウェビナーツール、CRM/SFA |
| コンテンツ | リード獲得とナーチャリング | CPL、読了率、CTAクリック、MQL数 | ホワイトペーパー、導入事例、導入チェックリスト | MA、CMS、LPO、CDP |
| メール/ナーチャリング | 態度変容と温度感の可視化 | 開封/クリック、到達率、スコア上昇、MQL化 | スコアリング、セグメント配信、ドリップ施策 | MA、メール配信、CRM |
| 広告(検索/ディスプレイ) | 需要捕捉と再訪促進 | CAC、ROAS、CVR、リタゲ貢献 | 指名/非指名検索、リターゲティング、類似拡張 | Google 広告、Yahoo!広告、タグマネージャー |
| アウトバウンド(コール/メール) | パイプライン創出 | 接続率、返信率、アポ率、SAL/SQL率 | テレアポ、コールドメール、イベント招待 | SFA、コールツール、セールスEngツール |
| ABM | 重点アカウントの攻略 | アカウント到達率、エンゲージメント、商談化率 | Tier設計、1:1/1:fewパーソナライズ、広告同期 | ABMツール、MA、CRM、広告 |
| パートナー/アライアンス | リファラルと共同創出 | 紹介件数、商談化率、共同売上 | 共催セミナー、共同記事、リファラルプログラム | PRM、CRM、MA |
| カスタマーサクセス(拡張) | アップセル/クロスセル | 拡張率、更新率、NRR | オンボーディング、QBR、事例化/紹介 | CSツール、プロダクト分析、CRM |
インバウンド(SEO、ウェビナー、コンテンツ)
インバウンドは、検索や情報収集から自然に訪れた見込み顧客に対し、教育・比較検討・意思決定のステップをコンテンツで支援する活動です。マーケティングがニーズを見える化し、インサイドセールスが関心を高め、最後にフィールドセールスが提案につなげる。この一連の流れを前提に設計します。
SEO
SEOの役割は「検索意図を理解すること」と「信頼を築くこと」です。顧客が課題や解決策を探す初期段階から、比較や価格検討といった後期段階まで、関連するテーマを体系的にまとめ、内部リンクで自然な回遊を促します。さらに、サイトの表示速度やモバイル対応などの技術面を整え、検索エンジンで正しく評価される状態を維持します。
指名検索に頼りすぎず、「比較」「代替」「口コミ」「導入手順」といった非指名検索からの導線を強化することで、新しい顧客獲得につながります。
ウェビナー
ウェビナーは、製品のデモと業界課題の知見提供を組み合わせると効果的です。毎週や隔週で定期的に開催し、共催で新しいオーディエンスにもリーチします。
申込から参加、アフターフォローまでの流れを標準化し、参加態度(滞在時間や質問数、アンケート回答)をスコア化してインサイドセールスに引き渡します。
特に重要なのは「次の行動」を設計することです。デモ予約や資料ダウンロードといったCTAを明示し、開催後24〜48時間以内にフォローすれば商談化率は大きく変わります。
コンテンツマーケティング
ホワイトペーパーやテンプレート、導入事例、診断コンテンツ、ROIシミュレーターなど、顧客が意思決定に必要とする情報を体系的に揃えます。フォーム入力を求めるかどうかは目的や段階に応じて使い分け、入力が必要な場合でも顧客の負担を最小限に抑える工夫が大切です。
「事例」と「比較情報」の充実は営業の信頼を高めます。導入前に顧客が抱えやすい懸念点(費用対効果、社内承認、移行リスク)を事前に解消できるコンテンツを整備しましょう。
メールとナーチャリング
業種や役職、関心ごとでセグメント分けし、自動配信と一斉配信を組み合わせます。行動データ(閲覧やクリック)と属性情報を合わせてスコア化し、一定の基準を超えた段階でMQLとして営業に引き渡します。トラッキングはUTMで統一し、マーケティングツールから営業支援システムへタイムリーに連携することが重要です。国内法令に基づいた配信ルールも徹底しましょう。
ソーシャルとコミュニティ
X(旧Twitter)、YouTube、LinkedIn、noteなどを活用して認知度を高め、指名検索につなげます。コミュニティ(Slackやユーザー会)は、導入前後の不安を解消し、エバンジェリスト育成に有効です。SNSの成果は短期的なコンバージョンではなく、指名検索やウェビナー参加といった間接的な効果で評価する方が適しています。
各チャネルは単体最適ではなく、バイヤージャーニーとSLAに沿った「連鎖」で設計することが成果のカギです。
アウトバウンド(ABM、ターゲットリスト、商談創出)
アウトバウンドは、こちらから重点アカウントに働きかけて、新しい商談のパイプラインを積極的に作り出すアプローチです。広告やコンテンツといったマーケティングの接点と、インサイドセールスによる複数チャネルでの接触(メール・電話・SNSなど)を組み合わせ、最終的にフィールドセールスの提案へとつなげていきます。
ABM(アカウントベースドマーケティング)
まず、理想的な顧客像(ICP)を明確にし、Tier1(戦略的アカウント)からTier3(拡張対象)まで優先度をつけます。アカウントごとの課題や組織体制、意思決定プロセスを把握したうえで、以下のようにアプローチを使い分けます。
・1:1の場合、個別提案のパーソナライズ
・1:少人数の場合、業界別のウェビナーや専用LP
・1:多数の場合、広告や一般的なコンテンツ配信
ABMは「誰に、何を、なぜ今届けるのか」を明確にした仮説ベースで設計することが肝心です。決裁者、現場担当者、IT、購買といった複数の関係者ごとに、役割に合わせたメッセージを準備しましょう。
コールドメール/コールとシーケンス
最初のメールは「共通点 → 洞察 → 提供価値 → 負担の少ない次アクション」を1画面で収めると効果的です。その後は7〜12営業日を目安に、メール、電話、LinkedInを組み合わせたマルチタッチでフォローします。
電話対応では、要件の確認、合意形成、次のアクションを明確にすることが欠かせません。コールリストも役職や業種、時間帯で優先度をつけましょう。全ての接点は営業支援システムに記録し、対応結果に応じて次アクションを自動的に割り当てます。
成果を最大化するカギは「誰に × いつ × どんなメッセージを届けるか」の組み合わせです。件名や送信者、CTA、送信時間などをA/Bテストで検証し、素早く改善を回す体制を整えてください。
広告とアウトバウンドの連携
検索広告やディスプレイ広告を活用して、アウトバウンド接触の前後で想起を促し、再訪を引き出します。対象オーディエンスは、ABMリストと連携したもの、サイト訪問者へのリターゲティング、類似拡張などを組み合わせ、訴求内容やクリエイティブはペルソナごとに最適化します。成果はUTMで計測し、マーケティングオートメーションのアトリビューション機能で、チャネルを横断した貢献を可視化します。
パートナーセールス/アライアンス
パートナーとの協業は大きく4つの型に分けられます。紹介(リファラル)、再販(コマーシャル)、代理販売やコンサルティング、共同マーケティングです。共同ウェビナーや共著記事を通じて新しい見込み顧客にアプローチし、案件創出後はリードや商談の帰属ルールを明確にしておきましょう。
レスポンスのスピードや情報共有の形式もSLAで取り決めるとスムーズです。パートナーポータルを活用して案件登録や進捗を見える化し、インセンティブ設計を明確にすると成果につながります。
契約後のオンボーディングと拡張
契約が成立した後は、顧客ができるだけ早く価値を感じられるようにサポートすることが収益を伸ばす鍵になります。オンボーディングで成果までの道筋を設計し、ヘルススコアでリスクを早期に察知しながら、アップセルやクロスセル、リファレンスへとつなげていきましょう。
オンボーディング設計
スタート時にゴール(成功の基準)、役割分担、30・60・90日のマイルストーンを合意します。技術設定や権限付与、データ移行、定例会の開催などをチェックリスト化し、遅延時には修正プランを用意しておきます。初期段階での成果を顧客と共有し、営業と連携して事例化することで信頼関係を強められます。
ヘルススコアとアラート
利用頻度や機能の活用度、ライセンス消化率、サポート履歴、満足度調査(NPS)、請求関連の情報をスコア化し、基準を超えたら自動的にアラートを出します。必要に応じてトレーニングや設定代行、経営層を交えたレビューなどを実施します。利用が広がる兆しがあれば、CSQL(Customer Success Qualified Lead)として営業に渡し、拡張提案につなげましょう。
アップセル/クロスセルの機会創出
契約更新の180日前から健全性をチェックし、90日、60日と段階的にレビューを行いながら、上位プランや追加モジュール、席数増といった提案を行います。新しい部署の利用や機能活用の拡大、成果指標の達成といったシグナルをトリガーに、提案のテンプレートやROIストーリーを用意すると効果的です。
リファレンスとコミュニティ
顧客の成功体験を事例化し、セミナー登壇やレビューサイトでの発信につなげましょう。紹介プログラムを整備することで、新しい見込み顧客獲得にも直結します。さらに、ユーザー会やコミュニティを運営することで、顧客からのフィードバックを製品改善に生かす好循環を作れます。
導入ステップとロードマップ
THE MODELは、思いつきの施策を積み重ねても安定した成果にはつながりません。まずは現状を数字(定量)と現場の声(定性)の両面で診断し、組織の体制や役割を設計します。そのうえで、KPIとSLAを合意して小さく試し、うまくいったやり方を標準化し、最後に自動化へと段階的に移していきます。
| フェーズ | 期間目安 | 主なゴール/成果物 | 関与部門 | 主要KPI | リスク/留意点 |
|---|---|---|---|---|---|
| 現状診断と課題特定 | 2〜6週間 | ファネル診断、データ品質監査、課題バックログ、初期仮説 | マーケ、IS、FS、CS、経営、RevOps | リード→MQL→SQLの歩留まり、受注率、回収期間 | データ欠損・定義不一致。関係者の認識ギャップ |
| 体制設計とジョブディスクリプション | 2〜4週間 | RACI、JD、営業プロセス(ステージ・定義)、会議体と運用ルール | 人事、各部門責任者、RevOps | 対応SLA、商談進行率、フォーキャスト精度 | 分業による断絶。採用・育成計画の遅延 |
| KPIとSLAの合意形成 | 2〜3週間 | 指標体系、目標逆算表、SLA(ハンドオフ条件/応答時間) | 全Go-to-Market部門、経営 | CAC、LTV、SQL数、受注金額、チャーン率 | KPI分断。局所最適のインセンティブ |
| 試行(PoC/パイロット) | 4〜8週間 | 限定ドメインでの運用検証、学習ログ、改善案 | 関係部門+RevOps | コンバージョン改善率、SLA遵守率、タッチ数あたり成果 | 過剰自動化。ツール依存による現場負担 |
| 標準化(Playbook化) | 4〜8週間 | Playbook、チェックリスト、テンプレート、教育コンテンツ | Enablement、各部門 | 新人立上げ期間、プロセス遵守率 | 属人ノウハウの形式知化不足 |
| 自動化とスケール | 8〜12週間 | ワークフロー、スコアリング、レポート自動化、ダッシュボード | RevOps、情報システム、各部門 | 運用コスト、リードタイム、予測精度 | 過度な複雑化。変更管理と権限管理 |
現状診断と課題特定
最初に、ファネル全体の現状とボトルネックを可視化します。SFA/CRMのデータ品質、ステージ定義、SLAの実効性、チャネル別の獲得効率、受注後のオンボーディングまでを横断的に確認します。
アセスメントの進め方
定量では「リード→MQL→SAL→SQL→受注」各段階の件数・歩留まり・リードタイムを測定し、コホート分析で季節性やチャネル差を把握します。定性では、現場インタビューや商談録画のレビューで、ハンドオフ時の情報欠落や顧客体験の断絶を洗い出します。
診断観点とチェックリスト
| 診断観点 | 主なチェック項目 | 代表KPI/メトリクス |
|---|---|---|
| ファネル定義 | MQL/SAL/SQLの基準は明文化されているか。再育成ルールはあるか。 | 各段階の歩留まり、再育成率、ステージ滞留日数 |
| データ品質 | 必須項目の網羅率、重複/名寄せ、タグ・業種・従業員規模の一貫性 | データ欠損率、重複率、更新鮮度(日数) |
| チャネル生産性 | SEO/広告/ウェビナー/ABMのコスト対効果とスケール性 | CPL、CPSQL、CAC、LTV/CAC |
| 営業プロセス | ディスカバリーと提案の再現性、サクセスクライテリアの合意 | 勝率、平均単価、セールスサイクル |
| 契約後 | オンボーディング計画、活用状況の可視化、アップセルの仕組み | TTV、NRR、チャーン率、拡張率 |
診断の成果物は「課題バックログ」と「改善インパクト×実行容易性」で優先度付けされたロードマップ候補です。ここで全社の合意を得ると後工程のブレを抑制できます。
体制設計とジョブディスクリプション
分業の利点を活かしつつ、顧客体験の一貫性を担保する組織設計を行います。RACI(Responsible/Accountable/Consulted/Informed)で責任範囲を明確化し、部門横断のRevOps(Revenue Operations)機能を中枢に据えると運用が安定します。
役割と主要責務(例)
| ロール | 主要責務 | 成果指標 |
|---|---|---|
| マーケティング | リード獲得、コンテンツ、リードスコアリング、チャネル最適化 | リード数、MQL数、CPL、オーガニック比率 |
| インサイドセールス(SDR/BDR) | 初期接点、要件確認、BANT確認、SAL創出 | SLA遵守率、SAL数、アポ実施率 |
| フィールドセールス | 課題仮説検証、提案、見積、交渉、クロージング | SQL→受注率、平均単価、セールスサイクル |
| カスタマーサクセス | オンボーディング、活用促進、ヘルススコア運用、拡張 | NRR、チャーン率、TTTV(Time to First Value) |
| RevOps/営業企画 | プロセス設計、データ基盤、レポート、SLA運用、教育 | 予測精度、データ品質、プロセス遵守率 |
ジョブディスクリプションと会議体
JDにはミッション、成果責任、行動要件、必要スキルを明記します。会議体は週次のパイプラインレビュー、隔週のマーケ×IS×FSのSLAレビュー、月次の経営ステアリングコミッティを設定し、意思決定のエスカレーションを定義します。
「役割分担(分業)」と「共通責任(共業)」を併記したJD・RACIを整備することで、KPI達成と顧客体験を両立できます。
KPIとSLAの合意形成
目標はトップライン(売上/受注金額)から逆算し、ファネル各段階の必要件数と歩留まりを算出します。SLAはハンドオフ条件と応答時間、再育成ルールを明文化し、ダッシュボードで遵守状況を可視化します。
目標逆算の基本フレーム(例)
| 段階 | 定義(例) | 必須入力/根拠 | KPI(例) |
|---|---|---|---|
| リード | フォーム送信・資料DL・イベント参加等 | 流入チャネル、企業属性、連絡先 | リード数、CPL |
| MQL | 属性×行動が閾値を超過(スコア基準) | スコア、意図シグナル、名寄せ完了 | MQL数、MQL→SAL率 |
| SAL | ISが接触し、営業接続に値すると判断 | BANT一部確認、アポイント化 | SAL数、SLA遵守率 |
| SQL | 課題・予算・決裁構造が確認され商談化 | 課題仮説、案件金額、予算時期 | SQL数、SQL→受注率 |
| 受注 | 契約締結、請求開始 | 契約タイプ、金額、回収条件 | 受注金額、CAC回収期間、LTV/CAC |
SLAの雛形
たとえば、MQLからインサイドセールス(IS)への引き渡しはリアルタイムで行います。ISは初回接触を「営業時間内なら15分以内」「営業時間外なら翌営業日の1時間以内」に実施します。
3回連続でつながらなければ、そのリードは「再育成(ナーチャリング)」に戻します。
また、SALからフィールドセールス(FS)へ引き継ぐ際には、「商談の要約」「検証済みの仮説」「次回の合意アクション」の3点を必ずそろえることをルールとします。
SLAは「顧客への応対スピード」と「情報の正確さ・完全さ」の両面で規定することが重要です。さらに、遵守率を評価や表彰に反映させると、組織への定着が一層早まります。
試行、標準化、自動化の順序
THE MODELを組織に根づかせるには、いきなり仕組み化するのではなく、まずは小さく試して早く学ぶことが大切です。仮説を立てて実行し、結果を検証して学びを得る。このサイクルを短期間で回し、再現性が確認できた段階で自動化へと進めます。
試行(PoC/パイロット)
まずは業界やペルソナ、地域など対象を絞り込み、メッセージや接点、SLAの効果を検証します。実施前に「期間」と「評価基準」を合意しておきましょう。たとえば「SQL創出率を15%改善」「SLA遵守率95%達成」といった形です。あわせて、どの状態を「失敗」とみなすかも明確にしておきます。
標準化(Playbook化)
うまくいくパターンが見えてきたら、それをチーム全体に展開します。具体的には、コールスクリプトや質問集、提案用テンプレート、失注理由の分類、再育成ルールなどを整備します。また、オンボーディング手順やロールプレイ、先輩同行(シャドーイング)を仕組み化すれば、新人の立ち上がりを大きく短縮できます。
自動化とスケール
次のステップは自動化です。ワークフローやリードスコアリング、アラート、ダッシュボードを導入して業務を効率化します。その際は、事前にデータの定義や命名ルール、権限設計、変更管理の手順(リクエスト → Sandbox検証 → UAT → 本番反映)を固めておくことが安全です。
THE MODELの導入でつまづく3つの落とし穴
THE MODELを導入しても思うように成果が出ない場合、多くは次の3つに行きつきます。
1. KPIが部門ごとにバラバラで全体最適になっていない
2. 分業の副作用で顧客体験が途切れてしまう
3. 形だけ導入して文化が変わらない
それぞれの兆候と原因を整理し、どう回避すべきかを実務目線で解説します。
部門ごとに分断されたKPI分断
マーケティング、インサイドセールス、フィールドセールス、カスタマーサクセスが、それぞれの数字だけで評価されると、全体の収益や顧客価値を犠牲にしてしまいます。
典型的には「MQLをとにかく増やすこと」が先行し、その結果、SALやSQLの質が落ちて商談の歩留まりが下がり、リードがぐるぐる再循環する状況が起こります。
よくある兆候
・MQLは増えているのにSALにほとんどつながらない → 無駄な架電やメールが増え、CAC(顧客獲得コスト)が悪化
・SQLは一定数生まれるのに受注率が上がらない → パイプラインの質が低く、予実のブレが大きくなる
・新規獲得は順調でも解約が増える → LTV/CACが悪化し、長期収益を削る
原因
部門の目標が「件数や作業量」に偏り、最終的な収益や顧客価値と結びついていないことです。さらに、MQL・SAL・SQLの定義や受け渡しの責任が曖昧で、SLAが形骸化しているケースも目立ちます。
解決の方向性
基準を「部門ごとの生産量」から「全社の収益と顧客価値」へ切り替えること。たとえば新規ARRやLTV/CACを北極星指標として統一し、そこから逆算して各部門のKPIをつなぎ直します。あわせて、MQL・SAL・SQLの定義や応答時間、再育成ルールをSLAに明文化して、誰もが迷わない状態をつくりましょう。
分業による顧客体験の断絶
分業は効率を上げますが、引き継ぎがうまく設計されていないと顧客は「たらい回し」に感じてしまいます。結果として、同じ質問を何度もされる、メッセージが食い違う、アプローチが重複するといった問題が起こり、失注や解約につながります。
よくある場面
・マーケティング → インサイドセールス:顧客の閲覧履歴が共有されず、再ヒアリングに時間がかかる
・インサイドセールス → フィールドセールス:課題仮説が浅く、初回商談で一から掘り直し
・フィールドセールス → カスタマーサクセス:提案内容や期待値が伝わらず、オンボーディングが迷走
原因
「情報を渡す」だけで「責任を引き継ぐ」仕組みになっていないことです。必要な項目や品質基準、SLA、例外時のルールが決まっていない。あるいはツール間でデータ項目が統一されていないことも背景にあります。
解決の方向性
引き継ぎはデータを引き継ぐだけではなく「責任の移譲」と捉え直すことです。
引き継ぎごとに「完了の定義」と「受け入れ条件」を明確にし、必須情報や品質基準、応答時間、再育成ルールなどをCRM上でチェックリスト化しましょう。
形式だけの導入で文化が変わらない
肩書きやツールを揃えただけでは成果は出ません。THE MODELが形骸化する最大の要因は、プロセス思考やデータドリブン、顧客中心といった行動規範が浸透していないことにあります。
よくある兆候
・会議で同じ言葉を使っていても、部門ごとに定義が違う
・ツールを導入したのに要件定義や現場の合意が不足し、形だけのログ入力に終わる
・数字が悪くなると、結局「属人営業」に逆戻りする
原因
「なぜ変えるのか」という理由が現場に伝わっていないこと。経営のコミットメントが弱く、役割やスキル基準、評価制度の設計も不十分なこと。さらに、レビューや監査といったガバナンスが欠けていることが影響しています。
解決の方向性
ツールは文化の代替にはなりません。まず行動、次に仕組み、の順序で変革を進めましょう。ロードマップは「パイロット → 標準化 → 自動化」と段階を踏み、それぞれのフェーズで定義(用語やSLA)、能力(教育・プレイブック)、評価(数値と行動評価の両立)をセットで導入します。
経営は継続的に目的と期待を発信し、改善提案を拾い上げる仕組みを整えることが不可欠です。
事例から学ぶ3つの成功パターン
同じTHE MODELでも、事業規模・商材価格・販売モーション(インバウンド/アウトバウンド/PLG/SLG)により勝ち筋は大きく変わります。
ここでは、SMB向けの内製、エンタープライズ向けのハイブリッド運用、D2Cやサブスクリプション型での応用という3タイプの事例から、KPI設計、SLA、施策設計、テックスタック、組織運用の学びを整理します。
| タイプ | 事業・商談の特徴 | 重視ファネル/モーション | 鍵となるKPI/運用 | 成功の勘所 |
|---|---|---|---|---|
| SMB向け内製 | 短〜中期サイクル、比較的標準化された提案、ボリューム重視のパイプライン | インバウンド中心(SEO・コンテンツ・ウェビナー)+軽量アウトバウンド | MQL→SALの定義と精度、リードスコアリング、ナーチャリング、商談転換率 | MAとSFA/CRMの連携、SLAの明文化、少人数・高頻度改善の内製運用 |
| エンタープライズ・ハイブリッド | 長期サイクル、意思決定者が多層、案件単価が高い | ABM+アウトバウンドにデジタル接点を統合、フィールドセールス主導 | SAL/SQL基準の厳密化、アカウントプラン、意思決定者カバレッジ | RevOpsによる全体管理、データ整備、複数関係者を巻き込む商談設計 |
| D2C/サブスク応用 | 継続収益(MRR/ARR)、購入体験とオンボーディングが成長ドライバー | PLG/インバウンド中心、フライホイールで継続・拡張を最大化 | CAC、LTV、回収期間、解約率、オンボーディング完了率、拡張率 | ユニットエコノミクスの常時監視、オンボーディングから拡張までの導線設計 |
SMB向けの内製での成功パターン
SMB領域ではリードボリュームと運用の俊敏性が成果を左右します。内製での高速サイクル運用により、ファネル各段階の微差を継続改善することが、MQLから受注までの歩留まりを引き上げます。
背景と狙い
比較的標準化された提案が可能で、インバウンド(SEO、ウェビナー、コンテンツ)が主装置になりやすい領域です。SFA/CRMに接続されたMAを中核に、リード獲得からナーチャリング、インサイドセールスでのSAL化、フィールドセールスのSQL化までを一気通貫に設計します。
成功パターン(プロセス設計)
MQL、SAL、SQLの定義とSLAを明文化し、スコアリングで適合度と関心度を分離して判定します。MQL到達後は、初回接触のスピードとチャネル(電話、メール、Zoom)を標準化し、SAL不成立の再育成ルール(スno-show、予算未確定、時期未定など)をMAのセグメントへ即時還流します。
| KPI/指標 | 重視度 | 運用のポイント |
|---|---|---|
| リード→MQL転換率 | 高 | ペルソナ別のコンテンツ群、リードスコアリングの調整、フォーム最適化 |
| MQL→SAL転換率 | 高 | 初動SLA(初回接触の時間・回数・チャネル)、通電台本、反論処理 |
| SAL→SQL転換率 | 中 | 要件ヒアリングの標準化、案件化条件の統一、バイヤージャーニー整合 |
| SQL→受注率 | 中 | ユースケース別提案テンプレート、デジタルセールスルームでの資料一元化 |
| 回収期間/CAC | 中 | チャネル別CACの可視化、予算配分の見直し、ユニットエコノミクス管理 |
体制とテックスタック
MA(SATORI、HubSpot、Adobe Marketo Engageなど)とSFA/CRM(Salesforce、kintone、eセールスマネージャーRemix Cloudなど)を連携し、名刺・属性起点のデータ取り込みにSansanを併用します。
CDPは段階導入とし、まずはSFA/CRMを単一の真実の情報源として運用し、Cookie規制を踏まえUTMやサーバーサイド計測を設計します。
施策設計の勘所
SEOで常時流入を確保しつつ、ウェビナーでMQLを創出、メールと広告のナーチャリングで温度感を高めます。軽量アウトバウンド(インテント信号や過去接点ベース)を加えると、パイプラインが安定します。
提案・見積・導入手順はデジタルセールスルームに集約し、アセットの再利用とパーソナライズを両立します。
「小さく始めて毎週改善」する運用(配信→学習→チューニング)を習慣化すると、属人性が減り再現性が上がるのがSMB内製の最大の学びです。
よくある落とし穴と回避策
部門でKPIが分断され、MQL偏重になるケースが典型です。回避には、マーケ・インサイド・フィールドの合同レビューでファネル全体の相関を確認し、SLAの遵守状況をダッシュボードで可視化します。データクレンジングが滞るとスコア精度が劣化するため、名寄せ・重複排除・不達管理を定期運用に組み込みます。
エンタープライズ向けのハイブリッド運用
大型案件ではABMとデジタル接点を組み合わせ、アカウント単位での合意形成を進めます。マーケティング、インサイドセールス、フィールドセールス、カスタマーサクセスが一体となり、意思決定者・影響者・実務担当までをマルチスレッドでカバーすることが成功要件です。
背景と狙い
意思決定が複層で長期化しやすいため、ターゲットリスト構築(FORCAS等のデータ活用)とアカウントプランを中核に、SAL・SQLの基準を厳密化します。大手企業のセキュリティ・調達プロセスに準拠し、提案と検証(PoC)の段取りを早期に定義します。
成功パターン(ABM×デジタル)
アカウントごとの課題仮説・関係図・案件進捗を「1枚」で共有し、営業行動とコンテンツ配信を同期します。
広告・イベント・ウェビナー・ホワイトペーパー・営業訪問・役員同士の接点を統合し、意思決定者の関心テーマとタイミングに合わせて提案を進めます。Cookieレス対応として、ファーストパーティデータ軸の計測と、SFA/CRMの活動ログを中心としたパイプライン可視化が有効です。
| 連携項目 | マーケティング | インサイドセールス | フィールドセールス | カスタマーサクセス |
|---|---|---|---|---|
| アカウントプラン | 課題仮説・コンテンツ設計 | キーパーソン探索・初期合意形成 | 検証計画・競合対策 | 将来拡張のロードマップ提示 |
| SLA/定義 | MQL基準とABM優先度 | SAL基準(面談条件) | SQL基準(案件条件) | 案件受け入れ条件とオンボーディング要件 |
| コンテンツ | 業種別ナレッジ、導入事例 | 要件整理テンプレート | 提案書・見積・ROI試算 | 運用手順、拡張提案 |
| 計測とレポート | アカウントエンゲージメント | 会話品質と次アクション | 案件健全性・ステージ進捗 | 活用度・拡張機会・リスク兆候 |
ガバナンスとデータ運用
RevOps(レベニューオペレーション)を設置し、KPI定義、SLA、データ品質、ツール権限、レポーティングを横断管理します。名寄せ・重複・部署移動などのデータクレンジングを定期運用に組み込み、CDPは段階的に拡張。
提案・見積・セキュリティ回答・検証計画などのセールスコンテンツはデジタルセールスルームで一元化し、幹部・現場の両者にアクセスしやすい導線を用意します。
「誰に・何を・いつ・どのチャネルで伝えたか」をアカウント単位で統合可視化し、SAL/SQLの客観基準を運用し続けることが大型案件の歩留まりを決めるという学びが抽出されます。
D2Cやサブスク型での応用
D2Cやサブスクリプションでは、フライホイールで獲得・活性化・継続・推奨が循環するよう設計します。PLGとSLGのハイブリッドで、プロダクト体験とコミュニケーションの一貫性を高め、LTV最大化と回収期間短縮を同時に追求します。
背景と狙い
継続利用が前提のため、オンボーディングと利用活性化がユニットエコノミクスの中心になります。問い合わせやカスタマーサクセスのシグナル(利用頻度、機能到達、課題チケット)をマーケティングと連携し、アップセル・クロスセルの適時提案につなげます。
成功パターン(フライホイール運用)
アクティベーション(初期価値体験)に到達させる導線を最短化し、継続と拡張のジャーニーを分岐管理します。
メールやアプリ内メッセージでの行動トリガー配信、ヘルプセンター・動画・ウェビナーのコンテンツ連携、CSによるハイタッチ/テックタッチの出し分けが要点です。解約兆候(利用低下、請求未達、NPS低下など)を早期検知し、再活性化プログラムでの復帰率を高めます。
| 段階 | 主な指標 | 運用のポイント |
|---|---|---|
| 獲得(Acquire) | CAC、トライアル申込、初回購入率 | インバウンド基盤(SEO/コンテンツ)、リファラル、広告最適化 |
| 活性化(Activate) | オンボーディング完了率、初期機能到達 | ガイド・動画・ツアー、アプリ内メッセージ、CSの支援設計 |
| 継続(Retain) | 継続率、解約率、サポート解決速度 | 課題チケットの可視化、活用セミナー、コミュニティ運営 |
| 拡張(Expand) | アップセル/クロスセル率、ARPUの向上 | 利用状況に基づく提案、価格プラン整理、営業連携 |
| 推奨(Advocate) | 紹介数、レビュー、ケーススタディ | 紹介プログラム、ユーザー会、共同ウェビナー |
KPI/ユニットエコノミクスの運用
CAC、LTV、回収期間をチャネル別・セグメント別に比較し、意図的に「勝ちパターン」へ投資配分を寄せます。SFA/CRMとMAを連携し、トライアルから有償化、オンボーディング完了、拡張提案までを連続計測。サーバーサイド計測やファーストパーティデータでCookie規制に対応します。
体験の一貫性(プロダクト、コンテンツ、支援)と、継続・拡張KPIへの全社コミットが、サブスクの成長を加速させるという学びが得られます。
まとめ
THE MODELは、マーケ、インサイド、フィールド、CSを共通KPIとSLAで接続し、受注と継続率を同時に高める設計思想である。成功の鍵は、リード定義の明確化とデータ統合、イン・アウトバウンドの併走、導入の段階的標準化にある。分断KPIと体験断絶を避け、RevOpsと生成AIを活用して生産性とLTVを最大化する。