AISAS(アイサス)
デジタルマーケティングの現場において、ユーザー行動を前提にした設計は必要となってきます。
スマホとSNSの普及により、消費者は情報を受け取るだけでなく、自ら検索し、評価し、体験を発信する「参加型」の行動へと変化しました。この変化に対応するには、企業も検索・共有されることを前提に情報設計や顧客体験を最適化する必要があります。
このような変化を体系的に捉えるモデルとして知られるのが、「AISAS(アイサス)」です。
本記事ではAISASの構造を再確認しながら、現代のマーケティング設計にどう活かすかを、仮説ベースの数値も交えて整理します。
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AISASモデルとは?
AISASは、以下の5つのプロセスで構成される購買行動モデルです。
Attention(注意):情報との初接触
Interest(興味):関心の喚起
Search(検索):自発的な情報収集
Action(行動):意思決定・購入
Share(共有):体験の発信
このモデルは2000年代以降、特に「検索エンジン」と「SNS」の利用が前提となる消費行動に対応するために生まれたと言われています。旧来のAIDMAとの違いは、「Desire(欲求)」「Memory(記憶)」が実際の検索・行動によって代替されている点にあります。
各ステップを実務視点で解説
Attention(注意)を「視覚的なノイズ突破」と捉える
このフェーズは、単に情報を届けるだけでは不十分です。
重要なのは、ユーザーの認知されることです。現代人は、1日に数千〜数万の情報にさらされており、意識に届く情報はそのうちごくわずかです。
そのため、Attentionで求められるのは「通り過ぎさせない」こと。
言い換えれば、SNSのタイムラインやYouTube広告のような情報の渦の中で、一瞬でも“手を止めさせる”強さを持つ必要があります。
施策例
SNS広告で動画の1秒目にインパクトのある絵を配置
視覚処理は0.03秒以内に起きるとも言われます。最初の1コマで「非日常」や「違和感」「感情の揺さぶり」を与えられれば、視聴維持率が飛躍的に上がります。
指標
インプレッション1万に対してCTR 1.5%以上
これはあくまで仮説ですが、BtoC商材(とくに生活用品やエンタメ系)で「新しいキャンペーン」や「初回露出」を目的とする場合、1.5〜2.0%のCTRを超えてくると「初速の認知獲得に成功している」と考えることができます。
・1.5%未満 ⇒ 訴求軸の再設計が必要
・2.0%超 ⇒ 次のフェーズ(Interest/検索)への橋渡しが成功している可能性
Interest(興味)を「自分ごと化」の設計と捉える
「気になった」からといって即行動に移るわけではありません。
Interestの段階では、ユーザーの頭の中で以下の問いが無意識に発生しています。
「これ、自分に関係ある?」「使うとどう良くなる?」「信用できそう?」
この「関心の深化」を促せるかどうかが、最初の分岐点です。つまり、興味喚起の本質は「他人事から自分ごとに変えること」にあります。
施策設計で重要な3つのポイント
① 機能ではなく「変化」を伝える(ベネフィット訴求)
「システムを導入する」ではなく →「今までの書類整理で2時間かかっていた物が、10分で完了させられる」
「高速Wi-Fi」ではなく →「Zoom中のフリーズがゼロになる暮らし」
ユーザーは商品そのものよりも、それによって自分にどんな良い変化が起きるかを知りたがっています。
② ストーリー設計で“共感”と“期待”を引き出す
Before/Afterの体験談形式
登場人物(=ペルソナ)に感情移入させる構成
数字や感情を交えた「あるある」から入る導入
興味を生む導線として、“誰かのリアル”を通して「自分にも効きそうだ」と思わせるのが非常に効果的です。
③ LP(ランディングページ)のファーストビュー設計
ファーストビュー(=表示直後の画面)で伝えるべきは、「誰向けで」「どう良くなるのか」の2点です。ここが曖昧だと、関心はすぐ離脱へと変わります。
ファーストビューで伝える内容として、以下の要素を盛り込んでください。
・解決する悩み
・得られる効果(できれば数値化)
・それが誰に向いているか
指標
「ファーストビュー」でInterestとみなす離脱率20%未満を理想値とする
この指標は、「一瞥で離脱されたか」「読む姿勢になったか」の初期判断として活用します。
ファーストビューの離脱率が20%以上 ⇒ ファーストビューで“誰向けか”が伝わっていない可能性があります。
Search(検索)を「選ばれる前提の露出戦略」として設計する
Interest(興味)段階を通過したユーザーが次に行うのが、「自分で調べる」という能動的な行動です。
ここでは受動的に広告を見せられるのではなく、ユーザー自らがキーワードを打ち込んだり、SNSでタグを追ったり、広告をクリックしたりして「納得のいく情報」を探しに行きます。
このフェーズで接点を持てるかどうかが、最終的な選定候補に残れるかどうかを左右します。
ユーザーの心理と行動
Searchフェーズに入ったユーザーは、すでに「検討リスト」に載せる対象を探している段階です。
たとえば以下のような行動が見られます:
・「〇〇 効果」「〇〇 口コミ」「〇〇 評判」などの比較・体験系検索
・Instagramで「#〇〇レビュー」「#〇〇使ってみた」を検索
・YouTubeで使用感や開封レビューを見る
・比較サイトやまとめ記事を読む
ユーザー心理としては、「本当に効果があるのか?」「失敗しないか?」「他の選択肢とどう違うのか?」という不安や期待の確証を得ようとする状態にあります。
Search段階で有効な施策設計
① SEOコンテンツの戦略的配置
・商品名・ブランド名に加え、検索されやすい「課題ワード」(例:「乾燥肌 化粧水」「初心者 ノイズキャンセリング」)で上位表示を狙う
・FAQ形式・体験談形式のコンテンツはCVに繋がりやすい
・公式サイト以外に、信頼性の高いメディアサイトやQ&Aサイトにも露出を設計する
② SNSで検索される導線の確保
・ハッシュタグ戦略(「#リアルな使用感」「#1ヶ月試してみた」など、体験の言語化)
・ストーリーズ・TikTokなど、縦型短尺コンテンツの活用
・インフルエンサー投稿に検索誘導の文言を挿入(例:「詳しくは #商品名レビュー で」)
③ 比較・口コミ・UGCの活用
・自社ブログやレビューサイトに、比較・ランキング記事を掲載
・購入者の声をフィードバックループ化(例:購入後にレビュー依頼→次のユーザーの判断材料に)
指標
Searchフェーズにおける重要な目的は、「興味を持ったユーザーが、自発的に次のアクション=情報収集に踏み出すかどうか」です。これを定量的に把握するためには、関心層から能動的検索や再訪へ移行したユーザー数を一定の比率で見るのが効果的です。
具体的には、以下のような行動を「Searchに移ったサイン」として捉えます。
・ブランド名や商品名での検索発生(例:「○○ クチコミ」「○○ 効果」)
・LPやサービスページへの再訪問・滞在時間の増加
・SNSやYouTubeなどで関連投稿やレビューを閲覧している兆候(検索流入、リンク経由)
これらを継続的に観察し、Interest段階に比して、どれくらいのユーザーが“検討フェーズ”に入ったかを定性的・定量的に測ります。
観測ポイント例
検索数の推移(ブランド・商品関連ワード)
→ GoogleサーチコンソールやSNS検索件数など
LPの再訪率・セッション間隔の短縮
→ Googleアナリティクスなどのアクセス解析
指名検索比率の増加
→ オーガニック検索の中で、ブランド名が含まれる検索が増える傾向
SNS上の言及やハッシュタグ投稿の出現頻度
→ X(旧Twitter)やInstagramでの検索・タグ露出の変化
Action(行動)を「迷いを断ち切る設計」として捉える
Searchフェーズを通過し、商品やサービスをある程度「よさそうだ」と認識していても、実際に行動へ踏み切るまでには心理的な“壁”があります。
例えば、この壁には以下のような壁で決められなくなります。
・「もっといい選択肢があるのでは?」
・「失敗したくない」
・「手続きが面倒そう」
マーケティング担当者の役割は、この壁を小さくし、踏み越えやすくする導線設計です。
実務的な施策
① 初回特典・割引・体験キャンペーン
→ 行動コストに対して「得をするから、まず試してみよう」という心理をつくる。特にD2C商材などで効果的。
② カート離脱防止ポップアップ
→ 「このページを離れますか?」というタイミングで、送料無料や限定クーポンを提示して最後のひと押しを行う。特にECでCV率が上がりやすい。
③ 登録フォームの簡略化(ステップ3以内)
→ 申込フォームが長いだけでユーザーは離脱する。「Eメール+名前+電話番号」など、最低限の入力に抑えることで心理的負担を軽減。
指標
CVRを一つの指標として考えます。
CV(コンバージョン)率は、商品ジャンル・単価・購入ハードルによって大きく変動します。
商品カテゴリ | 想定CV率(目安) |
---|---|
日用品(定期) | 3〜5% |
SaaS無料トライアル | 5〜10% |
高単価BtoB資料請求 | 1〜2% |
化粧品サンプル請求 | 7〜10% |
低CV率だから悪いのではなく、「SearchからActionまでの落差」が大きい場合はUXや誘導設計に課題がある可能性を見直すべきです。
5. Share(共有)を「次の認知の火種」として捉える
商品やサービスを体験した人が、SNSや口コミサイトを通じてその感想や効果を発信するのが、AISASの最終ステップ「Share」です。
このフェーズの最大の特徴は、「自社が出した広告ではない情報」であるため、次の消費者への説得力が非常に高いことです。
Shareが重要な理由
・広告よりも“他人の評価”が信頼される時代
・Shareは次のAttentionを生む再循環の起点
・良い体験はブランドの“ストック資産”になる
例えば、X(旧Twitter)で「この美容液、3日で肌が変わった」と写真付きで投稿された場合、その商品名で検索され、他のユーザーが興味を持ち、さらに購入される――という流れが自然発生します。
実務施策
① 感想投稿にインセンティブを付ける
→ Amazonギフト券やクーポンなどを報酬にすることで、心理的ハードルを下げ、投稿数を増やす。
② 「○○で当選!」系キャンペーン
→ ハッシュタグ付きで投稿する条件をつければ、自然に拡散が生まれやすい。SNS上の視認性も向上。
③ ユーザー事例のピックアップ掲載
→ 投稿者を公式サイトやSNSで紹介することで、参加する楽しさを提供でき、二次拡散にもつながる。
また、「レビューが豊富な商品は買いやすい」という行動心理もあるため、投稿は“量”だけでなく“掲載箇所”や“文脈”も設計すべき要素です。
指標
Shareフェーズにおける主な目的は、商品やサービスの体験がユーザーによって自発的に発信・拡散される状態を生み出すことです。
この状態を評価する際には、**「どれだけのユーザーが発信行動に移っているか」**を定量的に観察することが重要です。
例えば、購入・体験したユーザーの中で、何%がSNS投稿、口コミサイトでのレビュー、友人への紹介などの行動を起こしているかがひとつの判断材料になります。
観測ポイントの例
・SNSでの投稿数(指定ハッシュタグやメンションを含む)
・ECサイトやアプリ内でのレビュー投稿率
・フォームやアンケートでの「人に勧めたか」回答比率
・UGC(ユーザー生成コンテンツ)の増加数や再利用件数
・口コミ起点でのトラフィック流入やコンバージョンの増加傾向
一般的にShare行動を促しやすい条件
以下のような条件が揃うと、発信率(シェア率)は高まりやすくなります:
体験に視覚的・感情的なインパクトがある
→ 変化が分かりやすい、嬉しい驚きがある、写真映えする等
投稿のハードルが低い
→ テンプレートの提供、撮影例の提示、ハッシュタグの明示などによって「どう書けばいいか」が明確になっている
投稿したくなる“きっかけ”がある
→ インセンティブ(プレゼント、ポイント)、企業アカウントからの反応(リツイート、紹介)、ランキングへの掲載など
AISASモデルの活用方法:分析と改善のフレームに使う
AISASは単なる理論ではなく、以下のように「施策検証のフレーム」として実務に活用可能です。
使い方①:ボトルネックの発見
各ステップに指標を置くことで、「どこで離脱しているのか?」を明確にできます。
例えば、以下になります。
・認知数は多いのに検索されていない → 興味喚起コンテンツが弱い
・検索からLPに来ているのに購入率が低い → LPの説得力不足 or UIの問題
使い方②:キャンペーン設計の指針に
例えば、新商品のローンチでは以下のような場合、以下のようにAISASを1本の導線として組み上げることが可能です。
A(広告)→ I(動画)→ S(オウンドメディア)→ A(購入特典)→ S(Instagram投稿キャンペーン)
まとめ
AISASは「今のユーザーがどうやって商品と出会い、調べて、買って、シェアするのか」という一連の流れを視覚化できるモデルです。単なるフレームワークではなく、各ステップに対応する「数値目標」や「具体施策」を置くことで、改善サイクルが回り始めます。
マーケティング施策に迷ったときは、まずAISASの5ステップをベースに、現状どの層に向けて何ができているかを点検することから始めてみてください。