EC市場は年々拡大し、企業がオンラインで複数のブランドを展開するケースも珍しくなくなりました。ただ、それぞれのブランドを個別に運営していると、在庫や顧客情報の管理が煩雑になり、マーケティング施策の一貫性を保つのも難しくなります。では、複数のブランドを持つ企業が、効率的にECを運営しつつ、ブランドの個性も守るにはどうすればいいのでしょうか?
そこで注目されているのが統合管理型ECモールという仕組みです。複数のブランドを一つのプラットフォーム上でまとめて管理し、ブランド間の相互送客を促しながら、顧客にとっても統一感のある買い物体験を提供する。そんな形を取ることで、運営の負担を減らしつつ、売上やリピーターの増加も期待できます。
とはいえ、「ブランドごとの個性はどう守るのか?」「導入のハードルは高くないのか?」「どんな成功事例があるのか?」といった疑問を持つ方も多いはずです。実際、統合管理型ECモールはメリットばかりではなく、慎重に設計しないと逆にブランド価値を損なってしまうリスクもあります。
ここでは、統合管理型ECモールの基本的な仕組みや導入の流れ、そして運営を成功させるためのポイントを掘り下げていきます。ブランドごとの特色を活かしながら、EC全体の売上を伸ばすために何ができるのか、一緒に考えてみましょう。
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統合管理型ECモールとは、一つのプラットフォーム上で複数のブランドを管理・運営する仕組みのことです。各ブランドが独自の店舗を持ちつつ、バックエンドでは統合されたデータを活用し、運営の効率化やブランド間のシナジーを生み出します。
たとえば、Aというブランドで商品を購入した顧客が、Bブランドの商品にも興味を持ちやすい仕組みを作ることで、クロスセルやアップセルの機会を増やせるのが特徴です。また、ブランドごとの世界観を保ちつつも、サイト全体のデザインや使い勝手を統一できるため、顧客にとってもストレスの少ない買い物体験につながります。
ECの運営形態にはいくつかの種類があります。それぞれの違いを理解することで、統合管理型ECモールの特長が見えてきます。
① 単一ブランドEC
ひとつのブランド専用のECサイトを運営する形です。ブランドの個性を前面に出しやすい反面、他ブランドとの連携は難しく、新規顧客の獲得が課題になりやすいです。
② 一般的なECモール(楽天・Amazonなど)
企業が出店する形で商品を販売できるプラットフォームです。集客力が高い一方で、モール側の規則に従う必要があり、ブランドの独自性を出しにくいのが難点です。また、顧客データを自社で管理できないことが多く、長期的なファン作りが難しくなります。
③ 統合管理型ECモール
企業が運営するECサイトの中で、複数のブランドを一括管理しつつ、それぞれの特徴を活かせる仕組みです。たとえば、ブランドごとのページデザインを変えながらも、共通のカートや決済システムを利用することで、ユーザーは一つのサイト内で複数ブランドの商品をスムーズに購入できます。
この仕組みによって、顧客がブランド間を回遊しやすくなり、結果的に売上の相乗効果を生みやすいのが特徴です。
① 複数ブランドの一元管理
個別にECサイトを運営すると、在庫・顧客情報・マーケティング施策などをそれぞれ別々に管理する必要があり、手間がかかります。一方で、統合管理型ECモールでは、すべてのデータを一つの管理画面で扱えるため、運営の負担を減らせます。
・在庫をブランド間で共有し、欠品リスクを抑えられます
・購買データを一括で分析し、効果的なマーケティング施策を打ち出せます
・各ブランドの売上や顧客の動きをリアルタイムで把握できます
この仕組みをうまく活用することで、業務の効率を上げながら、売上の最大化を狙うことができます。
② ブランド間の相互送客
統合管理型ECモールの大きなメリットの一つが、ブランド間で顧客を誘導しやすくなることです。たとえば、スキンケアブランドで商品を購入した顧客に、メイクアップブランドの商品をおすすめすることが可能です。
具体的な施策の例として以下になります。
・レコメンド機能の活用(「このブランドの商品を買った人は、こちらもチェックしています」)
・共通のポイントプログラム(ブランドをまたいでポイントを利用できる)
・まとめ買いキャンペーン(異なるブランドの商品を一緒に購入すると割引)
こうした仕掛けを作ることで、ブランド単体での販売にとどまらず、ECモール全体での売上向上を目指せます。
③ サイトデザインやユーザー体験の統一
複数のブランドをまとめたECサイトでは、デザインや操作感がバラバラだと、顧客が混乱しやすくなります。統合管理型ECモールでは、以下のようなことに対して調整を行うことでサイト全体に一貫性を持たせることができます。
・ナビゲーションや検索機能の統一
・購入フローや決済方法の共通化
・各ブランドページのレイアウトやフォントの統一
これにより、ブランドの違いを活かしながらも、ユーザーにとってストレスのない買い物体験を提供できます。
統合管理型ECモールが特に活用しやすいのは、複数のブランドを展開している業界です。いくつかの代表的な例を紹介します。
① アパレル業界
異なるターゲット層に向けたブランドを展開している企業が多く、統合管理型ECモールとの相性が良い業界です。たとえば、カジュアルブランドと高級ラインを一つのプラットフォームで展開し、顧客のライフスタイルに合わせた提案を行うといった戦略が考えられます。
② 雑貨・アクセサリーメーカー
デザインやターゲット層ごとにブランドを分けている場合、一つのECモール内でブランドを横断して商品を提案できると、顧客の購買意欲が高まりやすくなります。特にギフト需要が高い商品は、ブランドごとの組み合わせ提案が効果的です。
③ 化粧品メーカー
スキンケア・メイクアップ・ヘアケアなど、カテゴリーごとにブランドを分けることが多い業界です。例えば、スキンケアブランドで保湿クリームを購入した顧客に、同じモール内のメイクブランドのファンデーションを勧めるなど、ブランド間で顧客を循環させやすいのが特徴です。
メリット
統合管理型ECモールは、複数のブランドを一括で運営し、相互に連携させることで売上やブランド価値を高める仕組みです。ここでは、統合管理型ECモールのメリットを紹介させていただきます。
1. 運営効率の向上
複数のブランドをそれぞれ別々に管理する場合、在庫の分散や顧客データの管理負担が大きくなります。一方で、統合管理型ECモールでは、在庫・顧客情報・注文処理を一つのシステム上で管理できるため、以下のようなメリットがあります。
・在庫を全ブランドで共有すれば、売れ残りや欠品のリスクを抑えられます
・一元化された顧客データを活用し、ブランドを横断したマーケティングができます
・カートや決済システムの統一により、管理コストを削減できます
店舗ごとに異なる管理システムを使う場合と比べると、運営側の負担が軽くなり、業務効率が大幅に向上する点が大きな強みです。
2. ブランド価値を高めるデザインとユーザー体験
統合管理型ECモールでは、ブランドごとの個性を維持しつつ、サイト全体のデザインや操作感を統一することができます。これにより、顧客がサイト内を移動しても違和感を感じにくく、ブランド間の相互送客を促進しやすくなります。
具体的には、以下のようなことに実施します。
・統一感のあるフォントや色使いを設定し、ブランドごとの世界観を崩さないようにします
・カートや会員登録を共通化し、スムーズな購買体験を提供します
・ナビゲーションを統一し、ブランドをまたいだ商品検索をしやすくなります
これらの施策によって、顧客が迷わず買い物を楽しめる環境を整えられます。統一感がありながら、それぞれのブランドらしさも活かせる点が、この仕組みの大きな魅力です。
3. ブランド間の相互送客で売上アップ
統合管理型ECモールのもう一つの特徴は、ブランド同士の連携を活かして、クロスセルやアップセルの機会を増やせることです。
異なるブランドの商品を組み合わせた購入がしやすくなり、結果的に客単価の向上やリピーター獲得につながる可能性があります。
例えば、以下のような仕掛けがあると、顧客はブランドを横断して買い物を楽しみやすくなり、サイト全体の回遊率が向上します。
・スキンケアブランドで購入した顧客に、メイクアップブランドの商品をおすすめする
・アパレルブランド同士で「コーディネート提案」を行い、まとめ買いを促す
・すべてのブランドで共通のポイントを使用できる仕組みを導入する
単独のブランドでは生み出しにくい、ブランド間のシナジーを活かした売上向上策がとれるのが大きな強みです。
デメリット
1. 初期投資やシステム構築コストがかかる
統合管理型ECモールは、通常の単一ブランドECサイトと比べると、開発や運用コストが高くなりがちです。
複数ブランドを一つのシステムで運営するためには、以下のような機能が求められます。
・ブランドごとのデザインカスタマイズを可能にするシステム
・在庫や顧客情報を統合しながら、各ブランドごとの管理もできる仕組み
・ブランド間でポイント共有やクーポン施策を行う機能
これらを組み込むには、一般的なECサイトよりもシステム設計が複雑になり、開発費や運用費が増える可能性が高いです。そのため、導入前にしっかりと予算を見積もり、長期的な運用を見越した計画を立てることが重要です。
2. サイト設計が複雑になりやすい
統合管理型ECモールでは、複数のブランドを一つのサイト内に収めるため、サイトの構造が複雑になりがちです。
以下のような点に注意が必要です。
・ブランドごとにデザインや雰囲気を変えつつも、統一感を損なわない設計
・ユーザーがブランド間をスムーズに行き来できる動線の工夫
・商品検索やカテゴリ分けをわかりやすく整理する
うまく設計しないと、サイト全体がごちゃごちゃして見えたり、逆に個々のブランドの個性が薄れてしまったりすることがあります。デザインの統一感と、ブランドごとの差別化をどう両立させるかが課題になるでしょう。
3. 運営には専門知識を持つチームが必要
複数のブランドを統合するということは、運営する側もより高度な管理が求められるということです。
統合管理型ECモールを運営するには、次のようなスキルを持った人材が必要になります。
・システム管理者:在庫管理やサイトのメンテナンスを担当
・マーケティング担当:ブランド間の送客施策やプロモーションを設計
・デザイナー:ブランドごとの世界観を維持しつつ、統一感のあるデザインを作る
小規模なECサイトなら一人で運営することも可能ですが、統合管理型ECモールではそれぞれの専門領域に詳しい担当者を配置する必要があるため、人件費や教育コストも考慮する必要があります。
統合管理型ECモールを成功させるには、慎重な計画と適切なシステムの選定が欠かせません。
「どのブランドを含めるのか?」「どんな機能が必要なのか?」「どの程度のカスタマイズが求められるのか?」といった点を事前に整理し、順を追って準備を進めることが重要です。
導入プロセスは大きく分けて 要件定義 → システム選定 → サイト設計・デザイン構築 → 在庫管理・決済・物流の連携 → テスト運用・ローンチ という流れになります。
それぞれのステップを詳しく見ていきましょう。
1. 要件定義
まず最初に、「どんな統合管理型ECモールを作るのか?」 を明確にすることが必要です。
具体的には、以下のような項目を整理していきます。
取り扱いブランド数・商品点数・在庫管理の方法
・どのブランドを統合し、それぞれの商品点数はどのくらいになるのか?
・在庫はブランドごとに分けるのか、それとも共通在庫にするのか?
・商品データの登録方法や更新頻度はどうするのか?
在庫管理の方法は、統合後の運営効率に大きく影響するため、慎重に検討する必要があります。
UI/UX・デザイン方針の明確化
ブランドごとに独自のデザインを適用するのか、それとも全体の統一感を重視するのか?
例えば、ファッション系ブランドならビジュアル重視のレイアウトにする一方で、化粧品ブランドなら使い方や成分の説明を強調するデザインが求められることもあります。
顧客がストレスなく買い物できるように、ブランドごとの世界観を尊重しつつ、ナビゲーションや決済フローなどの基本設計は統一することが理想的です。
2. システム選定
要件が整理できたら、どのシステムを使うかを決めます。統合管理型ECモールを構築する方法は大きく 「マルチストア対応のECプラットフォームを使う」 か、「独自開発をする」 の2択です。
マルチストア機能を持つECプラットフォーム
「Shopify Plus」や「Salesforce Commerce Cloud」などのマルチストア機能を備えたプラットフォームを利用すると、比較的スムーズに構築できます。
これらのシステムを活用すると、ブランドごとのカスタマイズがしやすい一方で、バックエンドでは一元管理が可能になります。
メリット:
・初期開発コストを抑えられる
・ブランドごとにデザインや販売戦略を柔軟に調整できる
・定期的なアップデートやセキュリティ対策が提供される
デメリット:
・機能のカスタマイズには限界がある
・ブランドごとに個別の要望を反映させるには追加開発が必要
独自開発 vs. パッケージソリューション
自社独自のECシステムを開発する選択肢もありますが、コストや開発期間がかかるため、運営リソースと照らし合わせて慎重に検討する必要があります。
独自開発が向いているケース
・各ブランドで大きく異なる販売戦略を採用している
・既存の在庫管理システムや物流システムと細かく連携したい
・長期的なスケールアップを前提に、自社の仕様に最適化したい
独自開発には自由度の高さという魅力がありますが、運用の負担やシステム改修のコストがかさむリスクもあるため、初期の段階で十分な検討が必要です。
3. サイト設計・デザイン構築
ECモールの構造を決めるうえで、どのようにブランドを整理し、ユーザーが快適に回遊できるか を意識することが重要です。
グローバルナビゲーションや検索機能の設計
統合管理型ECモールでは、ブランドを横断した検索ができるかどうかが大きなポイントになります。
例えば、「すべてのブランドの商品を対象に検索する」モードと、「特定のブランド内で検索する」モードを切り替えられる仕様にすると、ユーザーにとって使いやすくなります。
また、グローバルナビゲーションのメニュー構成も重要です。例えば、以下のような形で整理すると、顧客が目的の商品を見つけやすくなります。
・ブランド別メニュー(Aブランド、Bブランド、Cブランド など)
・カテゴリ別メニュー(トップス、シューズ、アクセサリー など)
・キャンペーンや新商品情報への導線
デザインガイドラインの策定
ブランドごとの特徴を保ちつつ、サイト全体に統一感を持たせるために、共通のデザインルールを決めておくことが大切です。
例えば、以下のようなルールを事前に決めておくことで、統一感を持たせながらも、ブランドごとの個性を活かすことができます。
・フォントやカラーリングの基本ルールを統一
・ボタンやバナーの配置を統一し、ユーザーの操作性を向上
・ブランドごとにカスタマイズできる範囲を設定
4. 在庫管理・決済・物流の連携
統合管理型ECモールでは、バックエンドの在庫管理・決済・物流システムをどう連携させるか も重要なポイントです。
WMS(倉庫管理システム)や決済システムとのAPI連携
複数ブランドの在庫をどのように管理するか?
ブランドごとに在庫を分けるのか、それとも共通在庫にするのかを明確にする
決済方法の統一・多様化
クレジットカード、電子マネー、後払い決済など、多様な支払い方法を用意する
海外販売(越境EC)への対応
多言語・多通貨対応の仕組みを整え、国ごとの送料計算や関税対応を考慮する
5. テスト運用・ローンチ
開発が完了したら、いきなり本格運用を始めるのではなく、テストを重ねることが大切です。
α版・β版でのテスト
一部の顧客や社内メンバーに試験運用をしてもらい、以下のような展をチェックします。
・カート機能が正しく動作するか
・在庫管理や注文処理に問題がないか
・ブランド間の回遊率を測定し、動線の改善が必要か
サイト速度や負荷試験、セキュリティチェック
ローンチ前には、サイトの表示速度や負荷テスト、セキュリティ対策 もしっかり行うことで、運用開始後のトラブルを防げます。
統合管理型ECモールの大きな強みの一つが、ブランド間で顧客をシームレスに行き来させる仕組みを作れることです。単独のブランドだけでは獲得しづらい新規顧客や、異なるカテゴリーの商品に興味を持ってもらう機会を増やせるため、売上や顧客単価の向上につながりやすくなります。
ただし、やみくもにブランド間の送客を促しても、顧客の興味に合わなければ効果は薄れます。それぞれのブランドが持つターゲット像をしっかり把握し、最適な方法でアプローチすることが重要です。
ここでは、相互送客を成功させるためのデータ活用、具体的な施策、SNS・広告戦略について解説します。
1. 顧客データの一元管理と分析
ブランド間の相互送客を効果的に進めるには、まず「どのブランドの顧客が、どのような購買行動をとっているのか?」を把握することが欠かせません。
各ブランドのターゲット層・購買行動を把握する
統合管理型ECモールでは、複数のブランドが共存するため、ブランドごとの顧客層や購入傾向を分析することが不可欠です。
例えば、以下のようなデータを統合すると、新たな販促施策を考えやすくなります。
・購入履歴(どのブランドで何を買ったか)
・閲覧傾向(興味を持っている商品カテゴリ)
・カート離脱のタイミング(どこで購入をやめたか)
例えば、スキンケアブランドでよく買い物をする顧客が、同じサイト内のメイクアップブランドの商品を一切見ていない場合、その顧客に向けて「スキンケアと相性の良いメイクアイテム」を紹介するメールを送るといったアプローチが考えられます。
レコメンド機能・ブランド横断の検索機能を活用
ECモール全体で顧客データを一元管理しているからこそ、ブランドをまたいだレコメンド機能を活かせます。
購入履歴に基づいたブランド横断のレコメンド
例:「○○(ブランド名)のスニーカーを買った人は、△△(別ブランド)のスポーツウェアもチェックしています」
サイト内検索の最適化
例:「Aブランドのリップを検索したユーザーに、Bブランドのアイライナーを提案」
検索の段階で関連ブランドの商品を表示することで、顧客が興味を持つきっかけを作れます。
2. ブランド間送客を強化する施策
統合管理型ECモールでは、単なるおすすめ表示だけではなく、より積極的にブランド間を行き来してもらう仕掛けを作ることが大切です。
共通ポイントプログラムやまとめ買い割引
共通ポイント制度の導入
→ どのブランドの商品を購入してもポイントがたまり、他のブランドでも使える仕組みを用意すると、複数ブランドでの購買を促しやすくなります。
(例:「Aブランドで貯めたポイントを、Bブランドの商品購入時に使用できる」)
まとめ買い割引の実施
→ 異なるブランドの商品を一定額以上まとめて購入すると、割引が適用される仕組みを導入すると、自然に相互送客が発生しやすくなります。
(例:「Aブランドの商品とBブランドの商品を合わせて10,000円以上購入で5%OFF」)
キャンペーンやクーポンの活用
ブランド横断のキャンペーン
→ 期間限定で「複数ブランドで購入すると送料無料」「2ブランド以上の購入で特典」などの施策を行うと、ブランド間の回遊が生まれやすくなります。
クロスプロモーション用のクーポン配布
→ 例:「Aブランドで5,000円以上購入した方に、Bブランドで使える1,000円クーポンをプレゼント」
ブランド単体でのクーポン施策よりも、ECモール全体での利用を意識したものにすると、ブランド間の垣根を超えた購買行動が生まれやすくなります。
3. SNS・広告運用の最適化
ブランド間の相互送客を促すには、SNSや広告を連携させたマーケティング戦略も重要なポイントになります。
ブランド別SNSと公式モールSNSの連動
統合管理型ECモールの場合、各ブランドごとにSNSアカウントを運用しているケースが多いですが、それとは別に、モール全体の公式SNSを運営することも有効です。
・公式モールSNSでブランド横断の情報を発信
→ 「今週の人気商品ランキング」「ブランドA×ブランドBのおすすめコーディネート」など、ブランド間のつながりを意識した投稿をすることで、自然に相互送客が生まれやすくなります。
・ブランドごとのSNSで他ブランドの商品を紹介
→ 例:「Aブランドの公式Instagramで、Bブランドのアイテムとの相性を紹介する投稿をする」
各ブランドのフォロワーに対して、他のブランドの商品を知る機会を増やすことができます。
広告出稿の最適化やリターゲティングの仕組みづくり
広告運用においても、ブランド単体ではなく、ECモール全体での売上を意識した戦略が求められます。
ブランド横断でのリターゲティング広告
→ 例:「Aブランドの商品を閲覧したユーザーに、Bブランドの商品を含めた広告を配信する」
ブランドごとの広告出稿を最適化
→ 例:「Aブランドで一定額購入した顧客には、Bブランドの広告を優先的に表示する」
ブランドごとのターゲット層を意識しながら、広告配信の最適化を行うことで、相互送客の精度を高めることができます。
統合管理型ECモールの魅力を最大限に引き出すには、デザインとユーザー体験(UI/UX)の調整が欠かせません。
ブランドごとの個性を守りつつ、サイト全体に統一感を持たせることで、顧客が迷わず快適に買い物できる環境を整えることが重要です。
「ブランドごとに世界観を表現したい」「でも、使いにくいサイトになってしまうのは避けたい」と考える企業は多いでしょう。このバランスをどう取るかが、デザイン設計の最大の課題です。
ここでは、全体のデザイン方針、ブランド別の差別化、そしてユーザー体験を向上させるためのポイントを詳しく解説していきます。
1. 全体デザインコンセプト
ブランドの個性を活かしながら、サイト全体の統一感を保つ
統合管理型ECモールでは、一つのサイトの中で複数のブランドが共存するため、各ブランドの魅力を損なわずに統一感を出すことが求められます。
これを実現するためには、例えば、以下のようにデザインのルールを明確に決めることが重要です。
・共通のレイアウトガイドラインを作成する
・フォント・カラー・余白の基準を統一する
・ボタンやアイコンのデザインを揃えて、一貫性のある操作感を提供する
統一感を持たせることで、ブランドごとのページを行き来する際に違和感が生まれにくくなり、顧客のストレスを減らせます。
フォント・配色・レイアウトのルール設定
デザインの方向性を決める際、フォントや配色の使い方をブランドごとに微調整しながら、統一感を持たせることが重要です。
・フォント:基本フォントは統一しつつ、ブランドごとにタイトルやキャッチコピーに異なるフォントを使用する
・配色:ブランドカラーを活かしながら、共通のUI要素(カートボタン・ナビゲーションバーなど)の色は統一する
・レイアウト:商品詳細ページやカート画面の配置は統一し、ユーザーが迷わないようにする
2. ブランド別ページの差別化
統一感を保ちながらも、ブランドごとに適度な個性を出す工夫が必要です。
ロゴやキービジュアルの活用
・ブランドごとのロゴを目立たせることで、それぞれの独自性を演出
・トップページやカテゴリーごとのキービジュアルを変更し、ブランドの世界観を表現する
・ブランドカラーを適度に取り入れ、視覚的に識別しやすくする
例えば、ファッションブランドならモデルのビジュアルをメインに配置し、化粧品ブランドなら商品使用後の肌の質感が伝わるデザインにするなど、ブランドごとに見せ方を調整できます。
シーズンごとやキャンペーンごとのデザイン更新
ECモール全体の統一感を損なわない範囲で、シーズンごとや特定のキャンペーン期間中にデザインを変えることも効果的です。
・バナーや特集ページのデザインをブランドごとにカスタマイズ
・クリスマスやセール時期にブランド横断の特別デザインを適用
・期間限定のビジュアルテーマを作成し、統一感のあるプロモーションを展開
ブランドごとの違いを尊重しながらも、ECモール全体としての一体感を演出できます。
3. モバイルファースト・アクセシビリティ対応
モバイルユーザーを最優先に
スマートフォン経由のEC利用が増えているため、モバイルファーストの設計が必須です。
PC向けのデザインをそのまま縮小するのではなく、スマホユーザーに最適なUIを考える必要があります。
・片手操作しやすいレイアウトを意識する(ボタンは親指が届く位置に配置)
・画像やフォントサイズを調整し、視認性を高める
・不要な装飾を減らし、シンプルなデザインにする
特に、ブランドごとにページの作り込みが異なる場合、モバイルでの閲覧性に差が出ないように注意が必要です。
誰でも使いやすいデザインを目指す
ECサイトでは、ユーザーの年齢や視覚の違いによって、使いやすさが変わることを考慮する必要があります。
・文字サイズの調整機能をつける
・カラーユニバーサルデザインを採用する(色弱のユーザーにも見やすい配色にする)
・読み上げ機能を活用できるよう、HTML構造を最適化する
こうした工夫を取り入れることで、より多くの顧客が快適に買い物を楽しめるようになります。
4. A/Bテストと改善サイクルの運用
デザインは、一度作ったら終わりではありません。
顧客の行動をデータで分析し、継続的に改善することが重要です。
A/Bテストで効果を検証
・「カートボタンの色は赤と青のどちらがクリックされやすいか?」
・「商品ページのレイアウトを変えると、購入率に差が出るか?」
・「ブランドごとのナビゲーションメニューの配置はどれが最適か?」
こうした疑問を、実際のユーザー行動をもとに検証することで、より使いやすいデザインにブラッシュアップできます。
定期的な改善サイクルを回す
デザインの最適化は、一度リリースして終わりではなく、定期的にアップデートしていくべきものです。
・定期的にアクセス解析を行い、課題を洗い出す
・ブランドごとのデータを比較し、改善点を見つける
・ユーザーアンケートを活用し、直接意見を集める
データに基づいた改善を繰り返すことで、より直感的で使いやすいECモールを構築できます。
統合管理型ECモールをスムーズに運営するためには、適切な組織体制を整え、日々の運用業務を効率的に回していくことが重要です。
ブランドごとの特色を守りながらも、全体として一貫性を持たせるには、どの業務を統一し、どこで差別化を図るかを明確にすることが鍵になります。
また、ECモールの運営にはシステム費や広告費、人件費など、さまざまなコストが発生します。事業の成長とともに経費が膨らみすぎないよう、コスト管理とリスク対策も並行して考えていく必要があります。
ここでは、運営組織の設計、日々の運用業務、コスト管理、そしてリスク対策のポイントを整理していきます。
各ブランド担当 + 共通の運営チーム
統合管理型ECモールでは、ブランドごとに独立した運営チームを設けるのか、それとも共通の運営本部を中心に管理するのかが、最初の検討ポイントになります。
【組織モデルの例】
① ブランドごとに運営チームを設置(個別最適型)
各ブランドの担当者がマーケティング・商品管理・顧客対応を担うスタイル。ブランドごとの個性を守りやすいが、リソースが分散しやすい。
② 共通の運営チームを設置(集中管理型)
全ブランドのEC運営を一つのチームが担当し、ブランドごとの差別化は主にマーケティング施策やデザインで調整。業務の効率化はしやすいが、各ブランドの柔軟性は下がる。
多くの企業では、**「基本的なシステム管理や物流・顧客対応は共通チーム」「ブランドごとの企画やマーケティング施策は個別チーム」**といったハイブリッド型の運営を採用するケースが多いです。
カスタマーサポートやマーケティング担当の役割分担
顧客との接点を持つ業務は、ブランドの世界観を維持しながらも、全体で統一感を持たせることが求められます。
カスタマーサポート(問い合わせ対応・返品交換)
→ ブランドごとに対応基準を統一しつつ、個別の問い合わせにはブランドごとの対応が必要。
マーケティング(集客・プロモーション施策)
→ ブランド独自のキャンペーンを展開しつつ、ECモール全体としての販促施策も企画する。
システム管理(ECサイトの運営・改善)
→ サイトのメンテナンスやセキュリティ対策は、共通の運営チームが担当するのが理想的。
業務ごとに分担を明確にすることで、無駄な作業の重複を防ぎ、効率的な運営が可能になります。
ECモールの運営は、一度構築したら終わりではありません。商品情報の更新、在庫の管理、キャンペーンの運営など、日々の業務をどのように回していくかを明確にしておくことが必要です。
商品登録・在庫更新・キャンペーン管理
新商品やセール情報の更新
→ 各ブランドの担当者が登録するのか、共通チームが一括管理するのかを決める。
在庫管理
→ 倉庫管理システム(WMS)と連携し、リアルタイムで在庫を把握できる仕組みを整える。
キャンペーンの運営
→ 各ブランドが個別に実施する施策と、ECモール全体で行う施策を明確に分ける。
メールマガジン配信やカスタマーサポートの対応
顧客に送る情報の整理
→ ブランドごとの独自メルマガと、ECモール全体のニュースレターを分けて運用する。
問い合わせ対応のフロー整備
→ チャットボットやFAQを充実させ、一次対応の負担を減らす。
日々の運用業務を仕組み化し、無駄な作業を減らして運営効率を上げることが重要です。
統合管理型ECモールの運営では、どの項目にどのくらいの費用がかかるのかを明確にし、無駄な出費を抑えることが重要です。
初期開発費、システム利用料、人件費、広告費の内訳
運営コストは大きく4つに分かれます。
初期開発費
・ECプラットフォームの導入費用
・サイトデザイン・システム構築費
システム利用料
・ECプラットフォームの月額費用
・決済手数料や倉庫管理システム(WMS)の利用料
人件費
・運営チーム(マーケティング・カスタマーサポート・システム管理)の人件費
・外部のデザイナーやエンジニアの委託費
広告費
・ブランドごとのプロモーション費用
・リスティング広告、SNS広告、インフルエンサーマーケティング
定期的な予算見直しと実績管理
ECモール全体の運営コストは、定期的に見直しが必要です。
特に広告費は、投資対効果(ROI)を測定しながら、無駄な支出を抑えることが大切です。
・月次での売上・コストのチェック
・効果の低い広告施策の見直し
・外部委託業務の最適化(内製化の検討)
継続的にコストパフォーマンスを改善することで、長期的に安定した運営が可能になります。
システム障害時の対応
ECサイトは、24時間稼働するため、システムトラブルが発生すると売上に直結します。
事前にトラブル時の対応フローを決めておくことが重要です。
・緊急連絡網の作成
・サーバー障害・決済エラーの対応マニュアルの整備
・バックアップ体制の確認
クレーム対応・返品交換のオペレーション
・クレーム対応の一貫性を確保
→ ブランドごとに対応が異なりすぎると、ECモール全体の信頼を損なうため、基本的なルールを統一する。
・返品・交換のスムーズな処理
→ 各ブランドごとのルールを明確にし、顧客が分かりやすい手続きフローを用意する。
統合管理型ECモールの導入を検討する際、事前に知っておくべきポイントをまとめました。
Q1. 導入にどのくらいの期間がかかりますか?
導入期間は、モールの規模やシステムの選び方によって異なります。
一般的には、3〜6ヶ月程度を見ておくとよいでしょう。
【期間ごとの主な作業】
1ヶ月目〜2ヶ月目
→ 要件定義、ブランドごとの仕様整理、システム選定
3ヶ月目〜4ヶ月目
→ デザイン作成、システム開発、在庫・決済の連携テスト
5ヶ月目〜6ヶ月目
→ 本格的なテスト運用、セキュリティチェック、スタッフ向けのトレーニング
複数ブランドが関わる場合は、ブランドごとのデザイン調整やシステム連携に時間がかかることが多いです。
スムーズな導入を目指すなら、事前にスケジュールをしっかり立てておくことが大切です。
Q2. 単一ブランドのECサイトと比べて、どのくらい費用がかかりますか?
統合管理型ECモールは、システムの複雑さや運用規模が大きくなる分、単一ブランドECサイトよりも費用がかかる傾向があります。
【主なコスト要素】
システム費用
→ マルチストア対応のECプラットフォームを使用するか、独自開発を行うかで費用が変動
デザイン・開発費用
→ ブランドごとのデザイン調整や、カート・検索機能の最適化などにコストがかかる
運用コスト
→ 在庫管理やカスタマーサポートを統合する場合、共通システムの管理が必要
【ざっくりしたコスト感】
・単一ブランドECサイト:初期費用 100万〜500万円 / 月額運用費 10万〜50万円
・統合管理型ECモール:初期費用 500万〜2000万円 / 月額運用費 50万〜200万円
ブランドごとに異なる機能やデザイン調整を求める場合、追加のカスタマイズ費用がかかることを考慮する必要があります。
Q3. ブランドごとのイメージが似てしまうのを防ぐには?
「統一感のあるデザイン」と「ブランドごとの個性」をどう両立させるか? は、多くの企業が悩むポイントです。
これを解決するには、ブランドごとのコンセプトを明確にし、デザインのガイドラインをしっかり整備することが重要です。
【差別化のためのポイント】
・ブランドごとのキービジュアルを設定
→ トップページや主要なバナーに、ブランド独自のイメージを反映
・フォントや配色のルールを整理
→ 全体の統一感を保ちつつ、ブランドごとにカラーリングや装飾を変える
・ユーザー導線を整理する
→ ブランド専用ページを設けたり、ブランドごとの商品カテゴリを明確に分ける
ブランドごとの違いを明確にしながらも、操作性や使い勝手は統一することで、ECモール全体としての一体感を損なわないようにするのがポイントです。
Q4. 既存の在庫管理システムと連携できますか?
在庫管理は、ECサイト運営の中でも最も重要な要素の一つです。
統合管理型ECモールを導入する際、すでに社内で使用している在庫管理システムと連携できるかどうかは、慎重に検討する必要があります。
【連携するための主な方法】
API連携を活用する
→ 既存の在庫管理システムとECプラットフォームをAPIで接続し、リアルタイムでデータを同期
プラグインやミドルウェアを導入する
→ Shopify PlusやMagentoなど、一部のECプラットフォームでは、在庫管理システムとの連携用プラグインが用意されている
独自開発でシステムをカスタマイズする
→ 既存のシステムが特殊な仕様の場合、新たにカスタム連携を開発する必要がある
導入前に、「既存の在庫管理システムがどこまで拡張性を持っているか?」を確認し、スムーズに連携できる方法を検討することが大切です。
Q5. 越境ECも視野に入れているが、対応するには何が必要?
海外向けの販売(越境EC)を考えている場合、国内ECとは異なる点が多いため、準備すべきことが増えます。
決済・物流・多言語対応の3つが大きな課題になります。
【越境EC対応に必要な要素】
・多言語・多通貨対応のシステムを用意する
→ 自動翻訳機能だけでなく、各国の文化に合わせたローカライズが必要
・国際物流の仕組みを整備する
→ 輸出時の関税や配送方法(DHL・FedEx・EMSなど)を事前に検討
・海外向けの決済手段を用意する
→ PayPal・Alipay・WeChat Payなど、各国で利用率の高い決済方法を導入
また、各国の法律や商習慣にも違いがあるため、ターゲットとする国のEC市場の特徴を事前に調査し、それに合わせた対応が求められます。
統合管理型ECモールは、複数のブランドを一元管理しながら相互送客を促し、運営効率と売上向上を両立できる仕組みです。ただし、導入には明確な要件定義、適切なシステム選定、統一感と個性を両立させるデザイン設計が必要となります。
さらに、日々の運用フローやコスト管理、リスク対策を徹底することで、長期的な成長が期待できます。導入を成功させるには、データ分析を活用しながら継続的に改善し、ブランドごとの特色を活かしつつ、ECモール全体としての一貫性を保つことが重要です。