企業がリード獲得の仕組みを整える際に、よく直面する課題の一つが「BDR(Business Development Representative)」と「SDR(Sales Development Representative)」の役割を分けて運営する難しさです。
名前だけは知っていても、実際にどの業務を誰が担うのか、チームをどう分けるのが良いのか——その判断に迷う企業が少なくありません。
例えば、インサイドセールスを新設した企業の担当者から、こんな声を聞くことがあります。
「チームを分けたものの、BDRとSDRが同じクライアントにアプローチしてしまい、クライアントからクレームが来た。」
「BDRとSDRの間で情報共有がうまくいかず、見込み顧客のフォローが漏れてしまうことがある。」
私自身、B2Bマーケティングや営業支援のプロジェクトに関わる中で感じるのは、「役割の明確化こそ、営業組織の生産性を左右する」という点です。
BDRがリードを獲得することが難しい企業群を選定してアプローチし、SDRは獲得したリードに対して温度感の高いリードに対して商談を設定していきます。
しかし、その線引きが曖昧になると、両者が同じ見込み客に連絡してしまったり、逆に誰もフォローしなかったりと、“もったいない”状況が起こりがちです。
いま、BDRとSDRの違いが注目されているのは、単に用語の整理が目的ではありません。
それぞれの「領域」を理解し、組織としてどのように補い合えるかを考えることが、営業成果を安定して伸ばす鍵になりつつあるからです。
この章では、その違いを整理するだけでなく、両者をどう活かし、どう連携させるかという視点から掘り下げていきます。
境界線を正しく引くことで、チームのパフォーマンスを最大化するヒントが見えてくるはずです。
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営業組織の中でも「BDR(Business Development Representative)」は、いわばまだ接触できていない顧客との最初の接点をつくる役割を担う存在です。
彼らが向き合うのは、問い合わせも資料請求もしていない「潜在層」で、こちらから働きかけなければ出会えない企業たちです。
BDRの活動領域は、既に自社を知っている顕在リードではなく、「まだ課題を自覚していない」
「競合のサービスしか検討していない」といった層です。
市場全体を俯瞰し、「どこに未開拓の可能性があるのか」を見極めながらリストを構築し、
企業情報を細かくリサーチしていきます。
ミッション:新規開拓とABMの実行役
BDRの本質的なミッションは、ターゲット企業に気づきを生み出すことにあります。
単にアポイントを取るだけでなく、「この課題を解決できる手段がある」と相手に気づかせる。
そのために、ABM(アカウント・ベースド・マーケティング)の考え方を取り入れ、重点ターゲットへのパーソナライズされたアプローチを行う必要があります。
例えば、同じ業界でも企業規模や組織構造によって関心テーマは異なります。
BDRはそれを理解した上で、メールの文面やトーク内容を変え、相手の課題解像度に合わせた内容で情報を発信していきます。
単発の架電やDMだけではなく、一社一社に合わせた一連の流れでコミュニケーションを設計することが重要と言えるでしょう。
主な活動内容:情報収集からアプローチ戦略まで
BDRの日々の業務は多岐にわたります。
リスト作成に始まり、企業データの分析、キーパーソンの特定、トークスクリプトの準備、
架電・メール送信、反応分析などを一連のプロセスとして回していきます。
中でも重要なのは、「誰に、どんな順序で接触するか」という戦略設計力です。
単に量をこなすだけではなく、ターゲット選定の質が最終的な成果を左右します。
最近では、CRMやセールスインテリジェンスツールを活用し、
企業情報や反応履歴をもとに次の一手を判断するケースも増えています。
このように、BDRは営業でありながらも、マーケティング思考を強く持つ職種だといえます。
成果指標(KPI):数字よりも「接触の質」を問う
BDRの成果は、単純な架電件数では評価できません。
重要なのは「どれだけターゲット企業と意味のある接点を築けたか」です。
代表的なKPIは、アポ獲得率・商談化率・ターゲット接触率です。
これらを追うことで、アプローチの精度やメッセージの的確さを測ることができます。
例えば、アプローチ件数が少なくても、ターゲット接触率が高ければ、それは「精度の高い活動」として評価されます。
逆に、量をこなしても反応が得られない場合は、リスト精度やアプローチ戦略の見直しが必要になるでしょう。
数字をただ積み上げるのではなく、「質を可視化して磨いていく姿勢」が、成果を安定させる鍵になります。
SDRは、すでに自社に関心を示しているリードに最初に向き合う担当者です。
マーケティングが生み出した見込み顧客を、営業部門に引き渡す前に“整える”役割を担います。
言い換えれば、BDRが“新しい出会い”をつくる人なら、SDRは“出会いを商談へ育てる人”です。
獲得したリードの最初の窓口
SDRが主に対応するのは、資料請求や問い合わせ、ウェビナー参加など、すでに何らかの形で接点を持った顧客層です。
マーケティングオートメーション(MA)やCRMに蓄積された情報をもとに、興味関心の度合いや行動履歴を分析し、「今、営業が話すべき相手」かどうかを見極めることが最初のステップになります。
リードの温度感を正確に測るためには、単にスコアを見るだけでは足りません。
「何をきっかけに資料をダウンロードしたのか」「どんな課題を抱えているのか」を把握するためのヒアリング力や、会話の引き出し方が問われます。
この初期対応の質が、商談化率を大きく左右します。
SDRのミッション
SDRのゴールは、営業チームへリードを渡すことではなく、「渡す価値のある状態」に育てることです。
まだ温度感が曖昧なリードに対しては、質問を重ねて課題を具体化させたり、自社ソリューションを利用するメリットを伝えたりします。
そして、そうした「整備作業」を通じて、
営業担当が次のステップに集中できる状態をつくるのがSDRの役割です。
営業経験者であっても、ここで求められるのは「売り込む力」ではなく「見極める力」。
相手の状況を丁寧に聞き取りながら、商談の質を高めるための情報を収集する姿勢が重要です。
成果は派手に見えないかもしれませんが、組織全体の営業効率を根本から変える重要なポジションです。
主な活動内容:リード対応から商談アサインまで
SDRの日常業務は、MAツールやCRM上のリード情報を確認するところから始まります。
スコアの高いリードを抽出し、メールや電話でコンタクトしていきます。
課題をヒアリングしたうえで、営業との初回商談を設定します。
中には、「今すぐではない」というリードも多く、そうした場合はナーチャリング(継続フォロー)リストへ回し、数週間〜数か月後に再度アプローチします。
このプロセスを地道に回すことで、リードの鮮度と質を維持する仕組みができます。
一見地味な作業ですが、ここを丁寧に積み上げるチームほど、後工程の商談転換率が安定しています。
成果指標(KPI):スピードと質のバランスが鍵
SDRのKPIは、商談化率・対応スピード・受注率への貢献度などが中心です。
特に、問い合わせからの初回コンタクトまでの時間は重要で、数時間の差が成果を左右することもあります。
例えば、ホワイトペーパーなどの資料請求に対する対応時間は、30分以内とそれ以降では
アポが取れる確率が倍以上変わることが多々あります。
また、電話で焦ってしまい、ヒアリングを浅くしてしまうと、商談後にミスマッチが発生するケースもあります。
「スピードと質の両立」をどう実現するかが、SDRチームの腕の見せどころです。
また、SDRが収集した情報は営業チームだけでなく、マーケティング側にとっても貴重なフィードバックになります。
リードの反応傾向や断られた理由を共有することで、コンテンツ企画や施策改善にもつながります。
つまりSDRは、「営業とマーケティングをつなぐ“情報のハブ」として機能しているのです。
ここまで見てきたように、BDRとSDRはどちらもリード創出に関わる重要な役割ですが、目的も接する顧客層も大きく異なります。
一見似たように見えても、担当するフェーズや評価指標、求められるスキルセットはまったく違うのです。
まずは全体像を整理してみましょう。
| 項目 | BDR(Business Development Representative) | SDR(Sales Development Representative) |
|---|---|---|
| 顧客層 | 潜在層(未接触リード・ターゲット企業) | 顕在層(問い合わせ・資料請求済み) |
| 主な目的 | 潜在層からの新規開拓 | 獲得したリードの精査や商談化 |
| リード入手経路 | 独自リスト・外部データベース | 広告・SEO・ウェビナーなど |
| 活動スタイル | 攻め型(アウトバウンド中心) | 受け型(インバウンド中心) |
| 代表的な活動 | リサーチ・架電・パーソナライズメールの送信 | ヒアリングによる課題特定と商談設定 |
| 主要ツール | CRM/SFA/セールスインテリジェンス | CRM/MA/CTI/チャットツール |
| 成果指標(KPI) | アポ獲得率/ターゲット接触率 | 商談化率/初回対応スピード |
| 必要なスキル | 情報収集力・分析思考・仮説構築力 | ヒアリング力・状況判断力・関係構築力 |
| 働き方の特徴 | 計画的・分析的・少数精鋭 | 即応型・会話重視・高頻度対応 |
このように、BDRとSDRはどちらが優れているという話ではなく、
リード創出を機能させるには、両者の役割を明確に分けつつも、密接に連携させる設計が欠かせません。
では実際に、どのような企業がどの役割を強化すべきなのでしょうか。
ここでは、業種・商材・組織フェーズの3つの観点から、最適な構成を整理していきます。
① SaaS・IT企業:ABMを軸に「BDR主導」で攻める
SaaSやクラウドサービスのように導入検討期間が長い商材では、BDRの存在が不可欠です。
市場の潜在ニーズを掘り起こし、ターゲット企業の「導入検討前段階」に接点をつくることで、競合より早く関係を築けます。
SDRはその後、資料請求やウェビナー経由で入ってきた顕在リードをフォローし、商談化を担う形が理想的です。
つまり、BDRがABM戦略を推進し、SDRが受注プロセスをつなぐ二段構えの体制です。
例:
- BDR:ABMリスト作成 → リサーチ → アプローチ設計
- SDR:問い合わせ対応 → ヒアリング → 商談アサイン
② 中小規模の企業:ハイブリッド型で機動力を重視
十分な人員を確保できない場合は、BDRとSDRを兼任するハイブリッド型が現実的です。
初期段階では、BDR的なアウトバウンド活動と、SDR的なインバウンド対応を一人の担当者が担うケースも多いでしょう。
この場合は、リードの優先度をスコアリングで明確化し、「誰にどの順番でアプローチするか」を仕組み化しておくことが重要です。
MAツールやCRMの設定を最適化するだけでも、業務効率が大きく変わります。
③ 既存顧客が多い企業:SDR+CS連携で商談の質を高める
既に顧客基盤を持つ企業では、SDRを中心に据えたフォロー体制が有効です。
問い合わせ対応だけでなく、既存顧客へのアップセルやクロスセルもSDRが主導することで、顧客接点の一貫性を保ちやすくなります。
この場合、BDRは「新規市場の探索」や「休眠顧客の再アプローチ」といった戦略的な活動に専念させるのが理想です。
特にサブスクリプション型ビジネスでは、SDRとカスタマーサクセス(CS)チームの情報共有が重要になります。
導入後の課題や成功事例を商談フェーズにフィードバックできると、提案の説得力が大きく高まります。
④ 高単価・長期検討型の商材:分業を明確にして関係構築に集中
製造業やエンタープライズ向けITのように、商談までのリードタイムが長い商材では、BDRの価値がさらに高まります。
数か月〜1年以上の時間をかけて関係を育てるため、BDRが長期的なタッチポイントを設計し、SDRがタイミングを見極めて商談に引き上げる構図です。
このフェーズでは、「短期成果を追わない体制設計」が成功の鍵になります。
営業KPIを共通化し、チーム全体で商談化率・受注率をモニタリングすることで、双方の連携意識を高めやすくなります。
以下は、BDR/SDRを分業・運用する現場で頻出する課題と、それぞれの原因・具体的な改善策を整理したものです。
以下、それぞれの課題と解決策について、なぜうまくいかないか、どこから手を着けるべきか、実践的視点で掘り下げます。
課題①:BDRが成果を出せない
リスト精度が低い
新規開拓対象の企業データがターゲット要件に合致していない、業種・規模・ニーズのミスマッチが多い状態。
闇雲にアプローチして反応率が極端に低い、という典型的なパターンです。
トークスクリプト・メッセージ設計が不十分
どの業界・どの役職にどのような切り口でアプローチするかが設計されておらず、トークやメール文が場当たり的になり、BDR各自の属人的なノウハウ頼みになっている状態の可能性があります。
解決策
ターゲット明確化(属性 × 行動データ掛け合わせ)
属人的なリストではなく、過去受注顧客プロファイルを分析し、共通属性(業種・売上規模・地域・導入構成など)を洗い出します。
さらに、アクセスログやインテントデータなど行動シグナルを組み合わせて、予備的な“反応期待度”に応じて優先順位を付けていきます。
こうすることで、“潜在性が高い企業”に絞ってアプローチでき、効率は大きく上がります。
トーク・メールテンプレートの統一と最適化
共通のテンプレートをベースに、業界別・企業規模別の変形パターンを用意しておきます。
初回アプローチ、追客フォロー、再アプローチなどで使い分け、実際の反応を元に A/B テストを繰り返し、テンプレート群を最適化していきます。
PDCA サイクルの可視化と振り返り体制
BDR メンバーが各アプローチ結果を記録(反応率、接触率、拒否理由など)し、定期的に振り返ります。
改善ポイントをチームで共有し、トークやリスト精度を順次修正していきます。
課題②:双方の連携が弱い
定期的な情報交換がない/部門間サイロ化
BDR・SDR・マーケティング・営業それぞれが独立して動いており、相互理解や改善サイクルが回っていない状態になります。
解決策
共通 KPI 設計とインセンティブ整合
BDR と SDR が協働して追う指標(例:商談化率、商談数)を設計し、チームとしての成果を重視できる仕組みにします
個人 KPI は細分化してもよいが、チーム KPI を必ず入れるように設計する必要があります。
定例会議・クロスレビューの場を設ける
週次/隔週で双方が集まる振り返り会議を設定します。
数字報告だけでなく、「良かったトーク」「反応傾向」「改善案」など現場の知見交換を行います。。
この場で、SLA などに対する課題をその都度議論・修正できるようにします。
情報基盤の共通化(CRM/共有ツール)
CRM を共通で使い、BDR/SDR の活動履歴や顧客情報が互いに閲覧できる体制を構築します。
属性データ、接触履歴、反応ログ、ステータスコメントなどをオープンにしておき、
それにより、「なぜ商談化しなかったのか」の情報が可視化され、次の修正に生きる。
BDR/SDR の適切な使い分けと設計は、営業組織の“血流”を整えることに似ています。
血流が滞れば、どれだけ良いツールを導入しても効率は上がりません。
逆に、血流(リード伝達・情報共有・連携)がスムーズなら、成果は自然に伸びていきます。
これから体制を設計しようとする方も、既に運用中で課題を感じている方も、本稿が「どこから手をつければいいか」の指針になれば幸いです。