サブスクリプション型ビジネスやSaaSプロダクトにおいて、ユーザー獲得だけでは成長を持続させることは難しいです。
いかにユーザーを使い続けたいと感じさせ、定着させられることによって累積利用者から利用料金を支払ってもらうことが、事業成長のカギとなります。
ここでは、AARRRモデルにおける「Retention(継続率)」にフォーカスし、
その本質、可視化の手法、そして実際に改善に成功しているサービス事例を交えながら、
実践的な施策を掘り下げて解説します。
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Retention(継続率)とは、ある一定期間でユーザーがどのくらいサービスを使い続けているかを示す指標であり、
単なる「利用の有無」を超えて「どれだけ長く定着しているか」を捉えるもので、
SaaS/サブスク型ビジネスはもちろん、アプリ・EC・メディアなどあらゆるサービスにおいて、
初期の「獲得”から“定着」へ移行できているかを評価し、事業の持続可能性を支える重要な指標と位置付けられます。
従来、マーケティングや成長戦略の中心は「どうやって新しいユーザーを獲得するか」にありました。
しかし、獲得だけを追いかけるやり方には限界があります。なぜなら、ユーザーが継続して使わなければ、
獲得にかけたコストを回収できず、成長が長続きしないからです。
そこで重要になるのが、「一度使ってもらうだけ」で終わらせず、
何度も使ってもらうことで獲得コストを回収するだけでなく、継続利用による利益の拡大を実現する視点への転換です。
また、Retentionは「収益の安定化」や「獲得コスト(CAC)の回収」にとどまらず、以下のような非金銭的な効果をもたらします。
・ブランド信頼の強化:長期間使われることで、ユーザーにとって“なくてはならない存在”と認識される。
・製品改善の好循環:継続的なユーザーから得られるフィードバックが積み重なり、プロダクトの品質や使い勝手向上につながる。
・自然な紹介・口コミの誘発:愛着を抱いたユーザーは、他者にサービスを紹介するモチベーションを持ち、ブランド拡散に貢献する。
これらは収益や数値には表れにくいものの、長期的な成長と持続性を支える重要な要素です。
SaaSやサブスクモデルにおけるKPIとの関連
SaaSやサブスクリプション型サービスでは、毎月の安定的な収益がどれだけ積み上がるかがビジネスの成否を左右します。
その際に注目されるのが以下のKPIです。
MRR(Monthly Recurring Revenue:月次経常収益)
新規ユーザーの獲得だけでなく、既存ユーザーがどれだけ残り続けるかによってMRRは決まります。
Retentionが高ければ、MRRが安定的に積み上がり、事業の予測可能性が高まります。
チャーンレート(解約率)
Retentionの裏返しにあたる指標がチャーンレートです。解約率が高い=Retentionが低い、ということです。
新規獲得を積み上げても、チャーンが高ければ「バケツに穴が空いている状態」になり、成長は鈍化します。
つまり、Retentionは 「MRRを増やす鍵」かつ「チャーンを抑える防御策」であり、サブスク型事業の根幹を支える存在だといえます。
継続率改善がもたらす経済的インパクト
Retentionが1〜2割改善するだけで、事業の収益構造は大きく変わります。
既存顧客からの収益の増大
継続が伸びれば、その分ユーザーがもたらす総収益は積み上がります。
新規獲得にかかるCAC(顧客獲得コスト)を回収しやすくなり、1ユーザーあたりの投資効率が改善します。
成長の持続性
Retentionが低いと常に「新規獲得」に追われ、広告費や営業コストが膨らみます。
逆に高いRetentionが確保されれば、限られたマーケティング投資でも成長が持続しやすくなります。
資金調達や企業評価への影響
投資家やVCはSaaS企業を見る際、継続率を非常に重視します。
高いRetention=安定したキャッシュフローを意味し、企業価値の評価が高まりやすくなります。
Retentionの改善は単なる「売上維持」ではなく、収益性・成長性・企業価値を同時に押し上げるレバレッジポイントになるのです。
プロダクト価値の定着
Retentionは、サービスがどれだけユーザーの生活や仕事に溶け込み、「無くてはならない存在」になっているかを映し出す鏡とも言えます。
単なる一時的な利便性ではなく、ユーザーが繰り返し使う理由が明確であることが大切です。
ユーザーの課題を日々解決し続け、他の代替手段では得られない価値を提供することによって、
プロダクトはユーザーの行動・思考に根付いていきます。
さらに、サービスを使い続ける中でユーザーの期待やニーズは変化・深化していくため、価値提供も進化しなければなりません。
例えば、Notionが「メモツール」から「情報管理の基盤」へと役割を拡張してきたように、
ユーザーの使い方や業務に合わせて機能や価値が進化することで、Retentionはより強固になります。
Retentionは単なる「残っている率」ではなく、プロダクトの価値がユーザーに深く根付いた証拠なのです。
オンボーディング最適化
ユーザーがサービスに初めて触れる瞬間が、利用継続率を上げるために最も重要な時とんります。
最初に利用してみて、「何らかの成功体験を感じられるかどうか」が、
その後更に利用するかどうかを決定づけるための重要なファクターとなります。
そのため、以下のような施策を行うことが重要です。
初回体験のガイドやチュートリアル
何をすればいいか分からないと迷って離脱してしまいます。
インタラクティブな案内やチェックリスト型のステップで道筋を示すことで、スムーズに使い始められるようにします。
価値体験(aha moment)への誘導を早める
ユーザーが「このサービスは使える」と実感できる瞬間までの時間をできるだけ短くします。
例えば、最初の操作で成果が目に見えるような設計が有効です。
メールやプッシュ通知によるフォローアップ
初期段階では行動が定着しづらいため、リマインダーや使いこなしのコツを通知することで再訪を促します。
ただし通知が多すぎると逆効果なので、操作履歴やタイミングに応じてパーソナライズが必要です。
ユーザー体験の継続的向上
一度使ってもらうだけでなく、「また使いたい」と思わせる体験を維持・強化していくことが鍵です。
パーソナライズされた機能・レコメンド
ユーザーの属性や操作履歴に基づき、最適なコンテンツや機能を提案します。
例えば、spotifyはユーザーの嗜好を反映したプレイリストを提供し、再生時間を伸ばす戦略を採用しています。
プロダクト内での習慣化仕掛け
連続利用日数のカウント、リマインダー、デイリーボーナスなど、日常に入り込みやすい形で“続ける理由”をつくります。
UX改善(速度・使いやすさ・UI統一性)
読み込みの遅さ、複雑な操作、画面デザインのばらつきなどの小さなストレスが離脱のきっかけになり得ます。
根本的な使いやすさを磨くことは、Retention改善の基盤となります。
コミュニケーションによるユーザーとの関係構築
プロダクトそのものだけでなく、運営との信頼関係や相互関係も継続を支える強い要素です。
定期的な価値提供コンテンツ(ニュースレター、Tips)
機能紹介だけでなく、ユーザーがすぐに活用できる知見やコツを提供することで、
「このサービスは使い手を応援してくれる存在だ」という印象を与えられます。
コミュニティ形成(フォーラム、Slack/Discordグループ)
同じサービスを使う仲間がいることで、知見共有や相互支援が生まれ、心理的な“離れにくさ”が増します。
サポート体制の強化(チャットサポート、FAQ充実)
問題が放置されると離脱につながるため、迅速で親身な対応が信頼醸成につながります。
データドリブン改善
勘頼みではなく、実際の利用データをもとに継続性を高めるアプローチが有効です。
継続率の低いユーザー群を特定し原因分析
例えば「無料トライアルから有料に移行しない層」「3回目以降の利用が続かない層」などをセグメント化し、
それぞれに特有の課題を特定します。
A/Bテストによる施策効果の検証
オンボーディングの流れ、通知文言、価格プラン提示の方法などを
仮説を立ててテストを繰り返し、統計的に有効な改善を積み重ねます。
行動データから解約予兆を検知し、先手を打つ
ログイン頻度の低下、セッション時間の短縮、サポート接触回数の増加などを指標にアラートを出し
解約しそうなユーザーには特典提案や個別フォローを行います。
ARRRモデルにおける「Retention(継続率)」の本質から、測定方法、具体施策を一貫して掘り下げました。
Retentionは単にユーザーが残っているかどうかを示す数字ではなく、
サービスがユーザーの生活や仕事に根付き、価値を提供し続けている証ともなります。
そのためには、オンボーディングで初期成功体験を迅速に届け、プロダクトに習慣化設計を組み込み、
パーソナライズやUX改善を通じて使いやすさを高め、信頼関係を築くコミュニケーションを重視することが不可欠です。
さらに、継続率の低いセグメントを抽出して施策を検証・改善するデータドリブンなアプローチも重要です。
今回ここでご紹介した考え方や施策を、自社プロダクトに応用し、継続率改善を通じて収益の拡大と事業の持続可能性を高めていきましょう。